Lv47 心配
どうしてだよ。
どうして僕の邪魔ばっかり。
大好きな人と遊びたいだけなのに。
パパ。
ママ。
逃げないでよ。
怖がらないでよ。
△△△
こいつ。
さっきから凄まじい圧力と速度の雷撃。
蒼く光る雷光が掠った場所から、簡単に血が出る。『氷のエレメント』で剣を強化しなければ、確実に刃を貫通し、俺の胴体まで穴を開けるほどの威力。
「へえ、氷のお兄さんも、なかなか面白いじゃん」
1発でも当たれば、俺は負ける。
「でも、つまんないや」
考えたくない可能性を、目の前の子供は実現した。
大型の魔物のごとき『蒼雷』は、枯渇するところを知らず、
「早く死んでよ」
さらにその衰えない雷光を、その小さな掌に凝縮する。
見るだけでわかる、肉体を容易くバラバラにできる圧力。それが、伸びてくる。
剣を構える。
構えたと同時に、
ゼロ距離。
…。
新技を使う。
失敗すれば、死。
冷気を纏う。
…床に。
「うわぁっ!?」
命中した。
「やってみるもんだな」
このガキが一歩を踏み込む直前、その一歩の着地点。そこへ瞬時に極薄の氷の床を生成する。
『底薄氷』。
さっき、鎖の男の足を地面に固定させたものとは違う、一瞬で生成する、存在感のない薄氷の罠。近接戦闘の視野の狭さを利用した半不可視のカウンター。
地味だと笑えばいい、カナト。
この地味こそが、俺の盾となり、剣となる。
「終わりだ」
前傾で床に倒れかけるガキを、この縦斬りで処刑する。
しかし、
「マジか、こいつ」
地面についた右手を軸に、両足を駒のように回し、雷撃の旋風で俺の攻撃を間一髪、弾きやがった。
身のこなしも天才ってわけか。
「うざいし。やってること寒いから、それ」
相手を切り裂くような視線。
次の攻撃に備える。
ガキが再び、俺に詰め寄る。
「学習しろ」
「してるさ!」
『底薄氷』を避けられた。
新技を一度見ただけで、このガキは、適応した。
「ははっ! もらった!!」
剣が間に合わない。
「っ!?」
横から、投げナイフが飛んだ。
「あと5秒!!」
キャンキャンとこのガキのように落ち着きのない男が、背中に掛けた剣を抜いた。
今まで持っていた直剣よりも細く、薄い。西洋の軍刀か。『Lv1』の状態でも携帯できそうなほどに軽く見える。
左手には、スライムの核。飽田先輩お手製ではないことがわかるほどの不格好。
「そういえばお前、小学校の時から図工も苦手だったな」
「うっせえ! お前だってヘタクソだったろ!」
「ふん」
お互い様だ。
藤井カナト。
「いくぜお前ら、俺の新スタイル…『剣士型成長』だ!!」
サーベルにエナジーを纏い、意気揚々と自らの手の内をさらけ出すように己を鼓舞した。
『Lv30』。最大値より少し低いが高レベル。継戦能力はやや低めの短期決戦型か。
カナト。お前はどこまで成長する。
「リョウ! お前の見どころもうねえから、帰っていいぜ」
「ふん、それはお前だろ」
俺もカナトと同様、それ以上の出力で剣に『氷のエレメント』を付与した。
もう一つの新技。
「『断罪氷牙』」
耐久値、防御、完全無視。
切れ味全振り。
斬り捨てることに特化した、諸刃の剣。
明言したくないが、こいつの『急成長』から着想を得た、一瞬の最大出力。
△△△
くっ…
「おらおらクソガキ、どうしたよー!」
『ライゲキ』を連射する。剣で受け流される。
「『剣士型成長は攻撃をいなすこともできるんだぜ! 対ヘンテコ仮面野郎、そしてこのムカつく氷野郎をぶった斬るとっておきだ!」
どうして…。
「油断するなよ、カナト」
ありえない。
僕の『ライゲキ』を、氷の刃が切り裂く。こいつも、『急成長』のお兄さんもギアが上がってる。
こんなはずじゃ…。
だって、僕らは互角で、ずっと遊べて…。お兄さんだって闘うのが好きそうで…、僕がずっと相手してあげて…、相手にしてくれて…
「隙あり!」
「ぐっ…!」
まっすぐ伸びた蹴りに反応できなかった。
背中が壁にぶつかる。目の前に来る氷剣を間一髪で避ける。
「あんまりなめないでよね…え」
足が、手が、
…動かない。
氷のお兄さんが、左手をかざしていた。
「俺は、お前やこのバカとは違うからな。漢気とか、真っ向勝負なんてものには興味がない」
動かない。
動かない。
動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない動かない。
「ああ、ああ…」
「だあっ! くっそ…、レベルが1に戻っちまった! 次は負けねえからな、リョウ! 早くトドメさせよ」
「ふん…。終わりだ。かわいそうなガキ。気絶させて、警察にでも送り届けてやるよ」
かわいそう?
かわいそう?
僕が、かわいそう?
『かわいそう』
頭の中に、お家だった場所が見える。周りはきれいなのに、うちだけ怪獣が踏んじゃったみたいにボロボロで、メラメラで、まっくろで。
『この子だろ?』
『師範でも止められなかったなんて』
『早期レベリングなんてしなきゃよかったのに』
『英才教育の罠ね』
『かわいそうな子』
「ちがう…」
『ご両親、お兄ちゃん、お姉ちゃんもみんな、バラバラだったって』
「ちがうもん…」
ちがう。
ちがう!!!
「かわいそうなんかじゃないもん!!!!!」
△△△
エナジーを最大限に費やした氷が、蒼雷によって軽々と破壊された。
こいつ、まだこんな力を…。
「僕はなにも…」
全身に纏う蒼い雷が、先刻、俺を殺しかけた雷撃以上の圧力を纏う。
「なにも悪くないもん!!!!」
触れることはおろか、近づくことすら許されない。
涙も鼻汁も垂れ流しにしたガキが、バチバチと、周囲の空気を洗いざらい玉砕する。
「パパもママも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも、みんなみんな弱いのが悪いもん!!!」
危険だ。
「水無月! カナトを守れ!」
だめだ。
この出力だと、学校ごと持っていかれる!!
…ミツキ。
どうすればいい。
兄さん。
突如、ガキの背後から伸びる鎖。
「っ…! 何すんだよ!!! 放せよ!!!!」
「落ち着けパニッシュ!」
スキンヘッドの男が鎖で拘束した。水無月会長が言っていた通り、あの鎖でガキの雷を吸い取っている。
「うるさい!!!! 死ね! 死ねよ!!!!!」
しかし、まだ足りない。そんなものではこの『小さな怪物』は鎮まらない。
「クソ…痛覚麻痺らせてんのに、クソいてえ!! コンフュのやつに2本も貸すんじゃなかったぜ」
痛みに悶えるチェーン。
「『ぐっ…こちらチェーン。隣の暴れ馬が案の定なもんだから、先に帰るぞ』」
「待てよ! ハゲ野郎! 今度こそ俺がぶっ飛ばしてやる!」
掲げた転移石を目にし、呼び止めるカナト。
無駄だ、呼び止めたって。
「いいのかよ、学校ごと吹き飛んでも?」
「なっ…!」
「俺たちはお前たちの身柄が目的だ。少なくとも俺は、無意味な殺しなんかしたくねえ」
「そ、そんなの! 信じられっかよ…!」
カナトの足が止まる。ようやく事の重大さが分かったみたいだ。
そして言葉通り、敵2人は転移石を使って消えていった。
撃退、と言えば聞こえはいいが、勝利と呼ぶには程遠い。
あいつが最初から全力の殺意を向けていたなら、俺たちはすでに負けていた。
俺たちはずっと、あの小さなガキに命を握られていたというわけか。
助かった。
あいつは多分、『タナト教団』の中でも最強格。
その上、レベリングして間もない、子供。
幼い肉体と精神が成長し、怪物じみたあのスキルと組み合わされば…考えたくもない。
ようやく、張り詰めた力を解くことができる。
…。
…。
そう思った。
思ってしまったからこそ。
視界の隅。
刹那。
大気中の蒼雷の残滓に、誰もが気づかなかった。
「ぐあっ!」
「カナト君!!!」
その邪悪な稲光は、間一髪で受け止めたサーベルを貫通し、持ち主の腹を命中し、全身を突き飛ばす。
仰向けに倒れる藤井カナトの腹から、大量の血が飛び跳ねた。
「ルナは、無傷みたいだな…リョウ、お前は心配いらねえか、むかつくぜ…」
「カナト君…カナト君!!」
余計な一言を残したバカの瞼が、少しずつ、やがて完全にふさがった。
パニッシュの雷は、蒼いです。
普通の黄色い雷…『雷のエレメント』は、全属性中トップクラスの機動力と破壊力ですが、彼の『蒼雷』はその倍以上です。
彼が大人で『Lv40』以上なら、水無月オボロを一撃で殺せます。




