LV.5 荒くれ者
「ちょっと待てよ!!」
声が、勝手に出てきた。
その声に、一同が俺に視線を集める。
俺の視線は、学年主任。
彼も、こちらを見る。
「なんで俺が、102位なんだよ! リョウと同じくらい早く倒しただろ! 見てねえのかよ!」
思ったことが素直に声になった。それに対して、学年主任は、思った以上にきょとんとした顔でこちらを見る。
「君は…たしか、藤井カナト君、だっけ? ああ、観てたよ、もちろん。」
それならどうして、という疑問を持ったのと同時に、その答えが返ってくる。
「君は、滝本君と同じくらい早く対戦相手に勝利した。それは評価したよ。でも」
でも、なんだよ。
「君は、『Lv1』じゃないか。一瞬だけ、大きくジャンプアップしたのはいいが、ものの数秒でレベル1にリセットされる。その安定感のない点を考慮しての成績だ」
やっぱり、言われると思った。でも、勝ちは勝ちなんじゃないのか。
俺の努力は、報われないのか。
「クソッ」
言葉が出なかった。
その代わり、溜まった怒りが行動に現れる。
「ざけんなあああ!!!!」
鞘から剣を出してそのまま、学年主任の元に走り出した。
「カナト!」
ミツキの声が聞こえるが、無視してそのまま走る。
剣の届く範囲に近づいて、そのまま縦に振りかぶる。
その時だった。
腹の中が激震する轟音。凄まじい落雷…のような音が館内に降り注いだ。
俺の目の前の床が抜けている。
その音を鳴らした人物が、俺の前に立つ。
「何してんだ、お前?」
俺の前に現れたのは、学内でも荒くれ集団と言われる極悪チーム、『イエロースパーク』のリーダー、轟ヒビキ。
派手な金色のインナーが露出し、だらしなく開けられた制服姿。筋肉質の体躯に、悪い目付き、両サイドを刈り上げた短い金髪。両耳には、銀色のピアス。簡単に言うなら、ヤンキーと形容するに相応しい容貌。
あまりの圧力と、先ほどの轟音で、俺は固まってしまう。そのまま何も言えないでいると、轟は言葉を続けた。
「『Lv1』の雑魚が何言ってんだ。下位なのは当たりめえだろうが。あの場にスライムがいなかったらお前は間違いなくやられてた。本当の実践にはあんな雑魚は都合よく転がってねえんだからな」
この男の言う通りだ。
「つーか食い下がるな。俺は早く帰りてえんだよ、クソガキ」
『Lv1』でも倒せる魔物がいなかったら、俺は負けていた。立場が、増田と逆だった。
それでも。
「悔しいか? ああ? でも、それが現実なんだよ。『Lv1』のままなら、もう諦めた方がいい。どう足搔いたってお前はクソ雑魚だ」
ドクンッ、と胸のあたりが締め付けられた。
最弱。
そうか、俺は、最弱なのか。
目の前にいる男の頭上。『Lv45』。
今ここで、最弱な魔物を倒しても、上がるレベルはせいぜい20前後。
圧倒的実力差、そして文字通りの経験値の差。
俺は、ここで喧嘩を売っても、負けるんだろうなと、悟った。
それでも。
「うるせえ」
また無意識に、言葉が口をついて出た。目の前の轟を睨みつけながら続けた。
「うるせえんだよ。偉そうに言ってんじゃねえよ。学内最弱チームのクソリーダーが!」
対して、獣のような剣幕で俺を睨む轟。
「ああっ? バカさ加減はハイレベルなんだな、クソガキ。どうすんだよ、俺に挑むか」
「当たりめえだろ! 秒殺してやらあ!」
右手の剣を強く握り直して、切りかかる。
「俺は、レベル1でも、あんたに勝っ−」
一瞬だった。
身体が消えたと錯覚するくらいに速かった。縦に剣を振り下ろそうとする俺の懐に潜り込む。
轟の右腕が、俺の腹に付いている。どうやら、みぞおちに一突き、やられたみたいだ。
これが、リーダーの実力。
そのまま、床に背中をぶつける。
「クソリーダー、か…」
朦朧とした意識の中で、轟の声を聞いた。
「このガキ、いい度胸じゃねえか!」
やられる。
さっきのような恐怖はなく、ただ、このままやられるのかな、と半ば悟ったような感じだった。
「おもしれえ…その根性、買ってやる!」
トドメか。
悔しいけど、俺は最弱のまま、生きていくのか。こうして事あるごとに情けなく気絶するんだ。
リョウとミツキには、追いつけないまま。
俺は、生まれついてから、一度もチャンスなんて与えられなかったんだ。ふざけんな、くそったれ、そう思いながら、どれだけ苦渋を舐めて砂を噛み潰したって、報われることはなかった。
「努力」なんて言葉は残酷だ。「才能」のない人間に、中途半端に希望を与えて、そして突き放す。
絶対的な才能の前では、所詮は無力で無責任な存在。
努力は報われる。凡才たちは、疑いながらも、そう信じて、そう己に信じ込ませて、叶わない夢を追い続ける。
生まれ変わったら、ちゃんとレベルが上がる体質になりてえな。
走馬灯みたいなのが見える。
『・・・ト!』
目を開けるのが困難なくらい眩しい陽光。海辺を走り回る記憶。女の子を追いかけている。
そう言えば、レベルが上がった瞬間はいつも、走馬灯みたいなものが頭の中で流れてきた。
しかし今は、そんなことどうでもいい。
このまま、死ぬだろうから。
目が覚めると、背中に固い感触。どうやら俺は、体育館の入り口わきの壁にもたれかかって寝ていたらしい。
傍らに立つ男。 轟の笑う声が上から落ちてくる。
「お前は俺のところでシメてやるから、せいぜい暴れろや」
俺は、ハッと目を開けた。腹部にはまだ違和感があるが、意識はハッキリとしている。
轟が言い放った。
「8人目のメンバー、最低最弱のクソガキ!」
一瞬、何を言われているか分からなかった。
その後、俺、藤井カナトは学内でも堅気とはかけ離れた荒くれ集団、『イエロースパーク』に入隊した。




