LV.4 上位者
「しょ、勝者、藤井カナト!」
審判員を務めていた教師は、予想外の出来事に驚きを隠せずにいた。
「かっ、勝った…」
俺もまた、自分の快勝に驚いていた。
「よっ…、しゃああああああ!!!!」
剣を握ったままの腕をそのまま折りたたんで、ガッツポーズをした。そして、今まで溜まっていたものを全て吐き出すように叫んだ。
周りがドン引きしそうだから、こういうのはなるべく控えたいのだが、勝ったことが、たまらなく嬉しかった。
地獄のような境遇で、周りにバカにされても、諦めずに努力した結果として、手に入れた勝利。
リョウとミツキのような天才には、絶対に味わえない。泥臭い努力の上で成り立つ、輝かしい奇跡。
結果が出た今だからこそ言える。
努力は報われる、と。
文字通り、俺は増田を秒殺した。
リョウが相手を瞬殺した時とは別の意味で、会場がどよめいた。
「はあ?」
「ウソだろ?」
戦闘開始前、俺に罵声を浴びせていた増田の連れ達も、思いもよらない光景に唖然としている。バツが悪そうな表情だった。
「いやいや、まぐれだって、あんなの…」
「でも、さっきの表示、見ただろ…」
気絶した増田が保健室に運ばれ、俺が戦闘スペースから離れてからも、俺たちの戦闘を見ていた生徒たちは、依然として動揺していた。
「ああ、見たよ。『Lv18』…」
スライムを1匹倒して、レベルが3に上がったあの日。
俺は、直感した。
『回避』と雑に診断されたスキル。しかし違った、このスキルの正体。
言うなれば、『急成長』。
言い換えるなら、『諸刃の剣』。
上がったレベルが1にリセットされる短所とは裏腹に、瞬間的にレベルを跳ね上げる長所が存在することに、俺は気づいた。
俺たちの身体に纏う経験値は魔物を倒すことによって、手に入る。そして、その経験値の量は、魔物の種類によって決められる。
スライムは、この世界に存在する魔物の中で最弱だから、得られる経験値も最小。レベルが1から2になる分には、ちょうど足りるが、1から3以上にジャンプアップすることはまずない。
でも、俺には可能だった。
どうやら俺は、魔物を倒して経験値を手に入れるほど、得られる経験値の『倍率』が上がる体質らしい。
スライム1匹あたりの経験値を3とするなら、今の俺の場合は、その数10倍の30は優に超える。
だからあの日、1体のみの撃破でレベルが3以上にジャンプアップし、試験の日には1匹のスライムを倒しただけでレベルが18にまで上がったのだ。
そして、その18に上がった一撃で、増田を蹂躙した。
しかし、いくら高いレベルに達しても、数秒後に1にリセットされるのは変わりないみたいだ。
一瞬の判断で生にも死にもなりえる、諸刃の剣。
『急成長』。
これが、俺のスキル。
△△△
「それでは、今回の中間試験、上位の成績を残した者5名を発表する」
訓練室の壇上に立つ学年主任、それを壇の下から見上げる生徒たち。
やりきった顔をしているやつもいたけど、大半はこの「結果」のために、戦闘の時と同じように緊張しているようだった。
10組の戦闘が終わり、俺たち受験者は、当日中に成績が言い渡される。そして、この成績の良し悪しが、学内の8つのチームからの推薦などの高待遇になるかどうか、直接繋がる。
「上位者は例年、学年のうち3名なのだが、今年は、試験前から生徒会に入会した者2名が高確率で上位者になるため、今回は5名とした。新たな可能性たちを見逃さないためにな」
教師、生徒たちが、リョウとミツキの方を見る。大勢からの注目を浴びた2人は、周りに視線を向けたり、動揺することなく、毅然な態度で前の壇上を見ていた。
俺は、2人の反応が嫌味のように思えた。
やっぱり、羨ましい。
「では、上位者5名を発表する!」
期待してしまう。
先ほどの戦闘で、対戦相手を秒殺した結果。それを観戦していた教師やチームリーダーたち。
あまりの手応えに、期待というよりも、もはやある種の確信のようなものを持った。
「第1位」
無意識のうちに溜まっていた唾を飲み込む。
「滝本リョウ」
悔しいけど、心のどこかでは分かっていた。
リョウは、表情を変えずにただ真っ直ぐ立っている。
「滝本」
学年主任が呼びかける。
「君は先日、生徒会に入会したわけだが、チームからも入隊を勧められている。どうだ、多少の苦労はあるかもしれんが、掛け持ちしてみる気はないか?」
えっ?
チームからも?
掛け持ち?
「あいつ、マジかよ」
生徒の誰かが放った言葉に強く同意する。この時期に生徒会に入会するのも異例なのに、その上でチームからも誘いがかかるなんて、許されて良いのだろうか。この場にいる生徒全員が間違いなくそう思っているはずだ。
リョウの答えは…。
「俺でよければ、力になります。よろしくお願いします」
長身を折りたたんで、深々と頭を下げた。
「よし。では、滝本の入隊先は、学内の3チームの中でも生徒会との繋がりが最も強く、学内屈指の実力者集団『ブルーローズ』だ。これから大変だろうが、精進してくれ」
「身に余る優遇に感謝します」
まあ、そうだろうな。
俺だって、リョウと同じ立場なら、間違いなく2つを掛け持ちする。
あいつはそれほどに、期待されているんだ。
ああ!みっともねえ!
力の抜けた自分の頰に、両手で喝を入れる。
まだ、1人目だ。
リョウに先を越されたくらいでへこむな。すぐに追い越してやる。
「では、第2位の優秀者を発表する」
「第2位」
身体に力が入る。
今回の査定の中心が戦闘終了時間なら、俺にも十分チャンスがある。あの瞬殺と一撃を彼らはどこまで評価してくれているだろうか。
「嵐ミツキ」
やっぱり。
そう思ってしまった。意識の範囲では、俺にはチャンスがあると、一縷でもそう思いたかったけど、無意識はやはり、考えていた。
リョウが他の生徒たちと平等に査定され、1位になるのなら次は、間違いなくミツキの番だと。
そして…。
ここまでは、なんとなく分かっていた。俺も、俺以外の連中も。
本当に、重要なのは、ここからだ。
現時点での、リョウとミツキの次に優秀な人材。
ある意味、次に呼ばれる『第3位』こそが、生徒たちの緊張を最も煽る順位。
「第3位を発表する」
身体中が、強張る。心拍数が、上がる。
「第3位」
言い渡される。
『結果を出したもの』として、名前を言われた人間のこれからが、大きく変わる。
「上杉ユウト」
その声を合図に、全員が上杉という生徒を探し、見つける。
喜ぶ者や、やっかむような表情で見る者。
小野屋という人物は、平然を装っていたけど、小刻みに震わせた身体に力強い握り拳。嬉しさを隠しきれていない。
一方、俺は愕然としていた。そして、悔しかった。
リョウとミツキを超えるどころか、近くに並ぶことすら出来ないのか。
上杉ユウトには罪はないだろうに、無差別に妬む気持ちがこみ上げてくる。
第4位も、俺じゃなかった。
そして…
第5位も。
「以上が、上位者5名だ。選ばれた5名は、生徒会やチームに貢献してくれ。選ばれなかった者たちも腐らず、次の機会で満足のいく結果を出すように尽力してほしい」
『選ばれなかった者』、『たち』。
俺は、選ばれなかったし、今回の上位者5名とは違って、選ばれなかった人間たちと一括りにされる。
容赦なく押し寄せる、圧倒的劣等感。今どうこうしても解決できないもどかしさ。
「では、以下、全生徒の成績をモニターに表示する。結果は各自で確認するように。では、解散」
学年主任や教師たちが訓練室の出口へ向かうのを合図に、周りが露骨にざわめく。
そんなことは、どうでもいい。
俺の順位は…。
目の前に大儀そうに掲げられた順位表。
俺は、上位の枠から、名前を探し始める。
見つからない。
数字が、どんどん大きくなっていく。
止まれ、数字。
見つかれ、名前。
ようやくして、俺は、自分の名前を見つけた。
学年全体の生徒数は200人。
俺の順位は、102位。




