LV.3 最弱の一撃
3だった。
スライム1匹だけで、レベルは3に上がっていた。
数秒経つと、また1に戻ってしまった。
「これは…、まさか」
俺は、平凡な能力と恵まれないレベリング体質でありながらも、直感だけは数少ない長所だった。
だから、今の『Lv3』の事態を瞬時に察する。
「よし」
疲れきった身体をもう一度奮い立たせ、再び孤立するスライムに切りかかった。
今度は、がむしゃらではなく、「確かめる」ために。
青い粒子が身体の周りを飛び交う。
感じ取ったレベルは…。
△△△
試験の日は、あっという間に来た。
訓練室に、1年生とその担任たちが集まっている。
準備は万端だったが、やっぱり少し不安だ。
小学校の座学のテストの時と、同じような不安。
勝ちへの期待と負けへの恐怖が調和されたような、懐かしい感じ。
時間になり、学年主任が話し始める。
「諸君。今回は君たちにとって、この先の人生を左右する日になると言っても過言では無い。君たちには存分に闘って欲しい。今日は、学内に3つある『チーム』のリーダー達も戦闘を観戦する。今回、優秀な成績を残したものには、『チーム』からの推薦があるから、尽力してくれたまえ」
「チームリーダーが来てくれんのかよ!」
「よっしゃー!!」
生徒たちが躍起になる。
学内最強の組織である生徒会に続いて、外部での魔物討伐や重役の護衛などを任せられる、戦闘に特化した特殊部隊『チーム』。学内には3つあり、日頃の授業や試験で結果を残したものは、そのチームのリーダーから声が掛かれば、入隊することが出来る。
キングになるための登竜門とも言える。
この先の人生を左右する。説得力のある大人に言われると、今回の試験の重大さを改めて思い知らされる。
「ルールは簡単。訓練室のホログラムで作られたフィールドで、一対一で対決する。」
「待ってました!」
「よしっ、やってやる!」
生徒たちの大半は躍起になっている。
彼らと同様に意気込む表情のミツキ。遠くにいたリョウは相変わらずの澄まし顔。
学年主任がルールを補足した。
「ただし、フィールド内には魔物がいる。今の君たちのレベルなら、この空間の魔物は寄り付かないだろう。しかし、中にいる勇敢な個体を抑圧し、使役して共闘するのも良し、レベルを上げるのも良し、だ。戦略に使うのも大いに結構」
心なしか、俺の方に視線が集まったような気がした。
そして、はっきりと声が聞こえてくる。
「誰かさんには、とても親切なルールだな」
「授業の時みたいに、レベル上げられずにやられるんじゃね?」
殺意に震える拳を抑えながら、試験の準備に取り掛かった。
草原フィールドは、10箇所できあがった。
学年には生徒が200人いるため、10個の草原エリアで、10組のペアが闘う仕組みだ。
自分たちの番が始まる前は、エリアに備えられたカメラから流れるVTRを見ることが出来る。
組み合わせは完全なランダム。リョウやミツキみたいな圧倒的に優秀な人材と俺みたいな最弱(という扱いをされているだけ)を除いては、みんな同レベルくらいだから、考慮せずに無作為に選出された。
2人に当たったやつはアンラッキーで、俺と当たったやつはラッキー。そんな感じの空気。
「おお、やべえ!!」
「さすがは生徒会!」
映った画面には、1組目の戦闘が始まって1分も経たずに地面に寝転がる男子生徒の姿、そして、剣に冷気を纏わせ立ちはだかるリョウの姿。
10個あるホログラムうち1つが消え、審判員を務めた教師が、素人目から見ても一目瞭然の勝敗に判決を下す。
「勝者、1年3組、滝本リョウ!」
室内が歓声でどよめく。
これから試験を受ける生徒たちは興奮していた。
「あいつ、マジですげえ!」
「キャー、滝本くーん!!」
ていうか、お前ら観客みたいにはしゃぐなよ!
△△△
5組目の戦闘。
ミツキは、風を身体の周りに纏い、障壁を作った。
防御力が高く、広範囲で徐々に攻め込む戦闘スタイルは、対戦相手のスキル『炎のエレメント』を意に介さない。
「あの子もすげえな、リョウと同様、生徒会に選ばれたのが納得できるよ」
試験を終えた生徒たちが、肩の荷が完全に取れた清々しい表情で話す。
「あいつら幼馴染なんだろ? なんか運命的だな」
「幼馴染と言えば、あのレベル1君も…」
「おいおい、やめとけって」
クスクスと笑い声が聞こえる。
△△△
8組目の戦闘が始まる。
俺の出番だ。
緊張で、心臓がバクバクしている。
試験は過去の内容をあらかじめ把握していたから、レベル上げが出来る環境であることには気づいていた。
あとは、それを踏まえた戦略。
レベルが上がった数秒後には、1にリセットされる。その対策。
審判に握手を促され、俺と対戦相手は握手した。
対戦相手は、隣のクラス・4組の増田アキフミ。
無駄に愛想のいい俺は、笑顔で「よろしくな」と言ってやるが。
対して。
「ああ、よろしくぅ〜。当たり引いたわ〜。」
分かっていたけど、やっぱり複雑な気持ちだった。
「まあ、せいぜいその辺のスライムに殺されないようにな〜、ぎゃははは!」
「手加減してやれよ〜、増田ぁ〜」
「死ぬなよ、カナトくぅーん」
周りの野次が飛んでくるのは鬱陶しいが、無視する。
「始め!」
審判の合図で、草原エリアのホログラムが出来上がった。
戦闘開始時は、対戦相手と自分、そして魔物の配置はランダムになる。
これなら、増田に気付かれずにレベルを上げて、奇襲を仕掛けられる。
・・・ はずだったのに。
「マジかよ…」
約30メートル先に、レベル8の増田がいた。
「うひょお! もう見つけたよラッキー! 滝本みてえにお前を瞬殺して、チームリーダーたちの評価いただきぃー!」
盾と剣を構えたシンプルなスタイルで、俺に襲いかかる。
増田は、自らの腕の筋肉を隆起させる。一般的な『筋力増強』のスキル。
見た感じの威力は、リョウやミツキほどではなさそうだが、レベル1の俺なら完全に切り裂かれる程度に強そうだ。
剣で防いでも、間違いなく刀身ごと生身を切られる。
レベル1で、中学生の成長途中の肉体では片手に盾すら持てない。防御しようがない。
このまま背を向けて逃げてもキリがないし、何より、こんなやつには死んでも負けたくない。
増田との距離がどんどん近づいていく。
レベル1の身体は完全に耐えられない。
レベル1なら…。
やつの右横。数メートル先に、小さく青いゲルの塊が確認できた。
放課後に残って切り続けた、あの馴染みのある生き物。
スライムだ。
俺は、あの個体に希望を託した。
言い換えれば、あいつを倒せば、勝率がグンと上がる。
なぜなら。
「うおお、もらったぁぁ!」
増田が雄たけびを上げながら、 10メートルもない距離まで迫っていた。
俺は、直剣を水平に構えて右横のスライムに狙いを定めた。
あのスライムを一撃で倒せなければ、その間に増田に仕留められる。
急所を外した時点で、負けが決まる。
俺は、目の前にいる最弱の魔物に神経を研ぎ澄ませた。
増田のような普通の生徒なら、低レベルな魔物を簡単に倒せるだろう。
リョウのような天才なら、増田のような凡才をあっという間に伸せるだろう。
俺のような落ちこぼれは、この最弱の魔物を一撃で倒すには、急所に当てなければならない現実。
これが、力の差、才能の有無、格の違い。
『あいつ、マジですげえ!』
『キャー、滝本くーん!!』
『いや、大袈裟なんかじゃなくて、本当だよ。リョウは、すごい』
『お前、落ちこぼれじゃん』
『諦めろって。怪我するぞ』
『まあ、せいぜいその辺のスライムに殺されないようにな〜、ぎゃははは!』
『そんなの、無理だって。やっぱり、リョウだけは別格だよ。ああいうのを天才っていうんだね』
うるせえ。
もう、分かったから。
黙ってろ。
『お前の好きな道を、好きなだけ歩め』
俺を認めてくれたのは、俺のことをたった1人で育ててくれた、じいちゃんだけだった。
生涯討伐数推定500体目、本日1体目のスライムに渾身の水平切りを当てる。
攻撃は、急所をキレイに捉えたようだ。
1撃でスライムが消滅し、身体に粒子が舞う。
「レベルが1でも2でも変わんねえよ、雑魚がぁ!!」
至近距離まで近づいた増田が、剣を振り上げる。
しかし。
増田は、攻撃を中止して止まっていた。
そして、何が起こったかと言わんばかりに、身体を震わせ慄いていた。
「はあ!? 嘘だろ…なっ、なんだよ、お前!?」
獲物を狩るような目は一瞬にして、捕食を恐れる小動物のそれと化した。
薄っすらと、弱い圧力が全身にかかる。
それと共に感じ取った強さ。
『LV.18』。
「うるせえ」
俺は、両手に持った剣を、次は上段に構える。
「ひっ…、う、ウソだろ!? どうなって…」
「誰に、何を言われても…」
「お、おい! やめろよ! バカにしてたこと、謝るから!! 降参してやるから、見逃してくれよ、なっ??」
「俺の価値は…」
「ひっ!! ごっ、ごめんなさいぃぃ!!!」
「俺が決める!!!!」
剣を振り下ろした。
増田が咄嗟に構えた剣と盾に、地面が揺れるほど、凄まじく強い衝撃と爆音が走る。
10も離れたレベル差に、地面が強い衝撃に打たれ、広範囲に砂埃が舞った。
砂埃が無くなると、増田は、砕けた剣と盾を持ったまま地面に伸されていた。
「俺が、1番になる!!!」
マメだらけの手の平を握り締め、仮想空間の晴天へと掲げる。
戦闘開始から1分も経たずに、草原エリアのホログラムが消えた。




