Lv45 獅子王
「キシャ!? おい、どこへ行く!?」
「待機など、つまらん」
「キシャ! 勝手な行動は慎めとボスが…」
「2度も言わせるな、浅き闇よ」
こいつ。
俺の『影檻』が通用しない。
スキルか、エナジーの総量か。
「この身こそ、真の鎧にして剣だ」
思案を見透かされた。
「キシャ、その勘の良さもそのミテクレだからってか? 魔物風情の野生ってとこだな」
「その侮蔑は我が同胞にも該当する。2度は言わんぞ」
「キシャ…、勝手にしろ」
ボスにも牙を剝く猛獣は、もちろん格下の俺になど目もくれず、『影檻』に身体を押し付けるだけで突き破り、白昼へと消えていった。
△△△
第一校舎前。
「あんだ? あの間の抜けた女の声は? リサのやつみたいにバカだったな」
「ヒビキさん、それはなかなか失礼っすよ」
「あいつは俺にラブだからな。許してくれんだろ? …ヤキモチ妬いたか?」
「…いえ、別に」
轟と飽田の身内話を横目に、先ほどのスピーチを思い返す。
タナト教団。要求する身柄。
ルナか、テリヒメ。どちらか一人。
それに加えて、藤井カナト。
やつらも、考えたものだな。
「飽田」
「ですよね、オボロさん」
やはりこの男、話が早くて助かる。「そうだね」と鍵も理解する。
「ああ? なんだお前ら? 黙ってねえで俺にもわかるように言ってくれよ。自分らにだけ分かる話で盛り上がんなよ、側から見てて気持ちわりいぞ?」
「少し黙っていろ、馬鹿者が」
「ああん!? てめえ」
「痛い! なんで僕を叩くんだよ!?」
「おめえが一番気持ちわりいからだよ、クソ監査」
「理不尽っ!」
今回のケース。
対人戦闘。人質。
対策は、敵対勢力を速やかに消し去ること。余力があるのならば先のE地区での巨漢同様、身柄を拘束し、更なる情報を得る。
「轟」
「ああん?」
「貴様が頼りだ」
「…急にほめんな、死亡フラグだぞ」
目の前に立ちはだかる、ただならぬ気配。
警戒。
膨大なエナジーの量はもちろんだが、それ以上に、生物としての強さを本能に突きつけられる。
「通さぬ」
その容姿を見たのは、『月光』を授かる前の座学。近代史にて、60年前の人間と魔物の戦争・『抗魔戦役』を学んだとき。
『師匠』のものと共に教えられた異名。
「『人間殺しの獅子王』」
呼んだ名に、相手の顔が微かに動き、「ほう」と無表情が崩れた。
「お、オボロ君、いくら君でもこいつに挑発はまずいって…!」
「人間としての己を捨て、魔物の軍勢に組し、2000に及ぶ人間を殺した。この国の災厄の一体」
「…勉強熱心なのだな、人間の学生とやらは」
魔物の姿を解かないまま、余裕を持った笑みでこちらを一瞥する男。蛇塚ウロコとはまた違う方向で不気味な男が、
「仮面の小童」
目つきを鋭く変えた。
「刀を握りしめるその行為は、我への殺意と判断してもよいか?」
「人を人とも思わぬ畜生。貴様は俺が瞬殺し、その仲間も即座に地獄に叩き落して見せよう」
万全ではない身体。
さて、どこまで振るえようか。
「『月光閃・湖月』」
地面を強く踏み込み、詰めた間合い。首へと狙いを定める。
まずは、挨拶代わりの抜刀術。御託を並べる間に溜めた『月光』。
腕で防がれた。
簡単に倒れられても困るが、なかなかに堅牢。
「やるではないか。…そうか、貴様は『月』の血筋。さしづめ、この光の強度…『月光』といったところか。出力はこの上なく微弱ではあるが、なかなかに鋭利。研鑽を重ねていると見た」
「俺の一族も『戦役』で何人か殺されたと聞く。貴様の場合は捕縛はしない。この場で誅殺する」
「それで我が恐れ慄くとでも? 至極、短絡」
攻撃の予備動作。距離を取った。
しかし。
「ぐおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
先の爆音のごとき咆哮が、頭蓋骨を揺らした。獣化系のスキルによる『咆哮』だろうが、常人や魔物のそれを遥かに凌駕する空気の揺れと威圧感。
「ぐぅっ…!」
鍵と飽田が、その音に怯む。かくいう俺も、重心が乱れる。
「誅殺の願い、かなわずだ」
反応できない速度でこちらに詰め寄り、放たれた拳。
何の小細工もない、単なる腕力。感じ取れるからに、目の前のそれが顔面に到達すれば、頭が吹き飛ぶほどの威力であるだろう。
飽田の『エンハンス』も、鍵の『ロック』も間に合わない。
『月光閃・朧』も間に合わないだろう。
蛇塚といい、俺は、近接戦闘に特化した格上とは相性が悪い。『月光』か剣か、いずれにせよ鍛錬不足。
遺憾だが、死するのは今か。
…ルナ。
「ごrrrrrるぁぁぁぁぁぁ!!!!」
乱雑に振るわれた飛び蹴り。
獣人は頭を蹴り飛ばされ、激突した壁を破壊した。
蹴った男は、両手で俺の胸倉を掴み、その粗野で品を感じさせない顔を近づけた。
「諦めよすぎんだろ。バカかてめえは」
投げ捨てるように両手を放し、すぐさま敵に向き直った。
「そんなにだせえ兄貴だと、おめえの大好きな妹がわんわん泣くぜ?」
「ほざけ」
身体は微かに悲鳴を上げているが、どうしたことか、内側は活力で溢れている。
「貴様の出る幕ではない。消えよ」
「俺かお前、それかあのワンちゃん。どっちが先に消えるか楽しみだな」
この男、やはり気に食わん。
オボロとヒビキは腐れ縁です。
1年生最初の模擬戦闘の試験(カナトが3話でやったやつ)。ホログラム内でヒビキの両腕を切り落とし、勝ちを確信したオボロでしたが、ヒビキに勢いよく喉を噛みちぎられ、危うく負けるところでした。
オボロは、両腕を簡単に捨てられるヒビキの狂気を、ヒビキは、純粋なオボロの技量を認めていますが、お互いに認めざるを得なくてイラついてます。
(例の戦闘後)
ヒビキ「運が良かったなクソエリート野郎。リアルファイトなら負けねえぜ?」
オボロ「ほざけ、愚物が。次はその見苦しい首も切り落として見せよう」
教師「君たち! やめなさい!!」




