Lv44 光
「きゃっ!」
「今のなに? 爆発?」
第二音楽室でのリハーサルは、ギターやドラムなんかよりも圧倒的に大きな爆音により中断せざるを得なかった。
その後、生徒や来客、大勢の悲鳴が聞こえた。
「慌てず、グラウンドに避難して下さい!」
教師の声。『Lv38』の説得力。
しかし、そんなものは逃げる人々の気休めにしかならなかった。
私と、それから軽音楽部のみんなは、目の当たりにしてしまう。
黒いローブを纏った3人。
その1人が、下半身を大きなタコのような姿に変えた。
「あいつは…」
遠征の時に、私たちを襲った男。身体の下半分がタコのような魔物になるスキルを持つ。『Lv39』。前より4つレベルが上がっている。
そのタコのような8本の足は、ロープのようにしなりながら成人の体躯よりも長く伸びた。
その長いロープのような8本の足を器用に操り、レベルの低い相手から順に捕えていき…。
「『ツリー』」
「お前が指示すんなし、タコ!」
タコ男が、中性的な顔の少年(あるいは少女)『Lv22』に指示すると、うんざりと顔を顰め、地面から目を疑うほど大きな樹木を何本も顕現した。
「ほらみろ、出来上がり。何でボクが『序列・拾壱』なのか分かんないね。パニッシュのクソガキに『肆』を与えるのも意味わかんないし」
「お前もガキだろ? あのビリビリくんと7個しか歳変わんねえし」
『Lv24』の男が、手入れの届いたあごひげを触りながら軽口をたたく。
「うるさい、お前はオッサンのくせに『序列・拾』の雑魚」
「30代前半はオッサンじゃないぞ?」
「よしなさい、2人とも。要は済んだのですから。あとはコンフュのスピーチを待ちましょう。ぐふふふふ…」
タコの男が2人をたしなめながら、残りの人間をそのまま樹木の檻に収容する。
「ふん。あのアホの『玖』に脅しが務まるのかよ」
「かわいい女の子にアホは酷いと思うぞ~?」
「うっせ、エロおやじ」
そう言いながら男の軽く頭を叩く樹木使い。
「だからよしなさいと言っているのです。…そしてあなたも、逃がしませんよ?」
「ぐっ…」
体育教師の岩見の身体に巻き付く触手。
「こちら岩見。至急、援護を、ぐぅっ…!?」
もう一本の触手を喉に入れらえれる。
スキルと拳で必死の抵抗を見せるも、次第にその抵抗力は落ちていき…。
「なかなかに剛腕でした。さすがは教師」
完全に気絶した岩見を、木の檻に閉じ込めた。
『ぴーんぽーんぱーんぽーん』
軽薄な女のスピーチが聞こえた。
放送室までもを占拠された。
ひとまず、殺されないことには安心した私がバカだった。
『1つは、そっちのふじーかなとー、だっけー? れべる1の男の子の身柄をあーたしたちに明け渡すことー』
受け取った言葉に、理解が追い付かない。
『そっちのお月様ー、それかお日様の女の子のうちのどっちかをこっちに寄越すことー』
追い付いた理解に、感慨が追い付かない。
そしてその木の檻は、地面をこするように、独りでに進む。
その行進が、嫌でも私の身体を動かす。
「ダメだよ!」
ギターのアズキ、ベースのキナコ、ドラムのワタ、3人がかりで止められた。
「…放して」
「放さない」
「放してよ!」
ルナ。
カナト。
もう誰にも渡さない。
「3人とも…、ごめん」
私がみんなを守って見せる。
「『日照』」
「眩し…、テリヒメちゃん!」
目を少しくらませた隙に、3人から抜け出し、5階の窓から飛び出す。
「『陽光凱歌』」
落下の衝撃を身体強化で無効にする。
その強化を掛けたまま、後ろを振り返った『タナト教団』を見据える。
「ん? なにこいつ?」
「…へえ…」
「なんたる僥倖…、『太陽』が再び、ワタクシの目の前に…!」
私の存在に三者三様の反応を見せる。
そんなことは、今はどうでもいい。
「襲撃の甲斐がありました。ああ…『太陽』よ」
あんな木っ端の檻。すぐに燃やしてやる。
「私の『太陽』目当てのあんたなんかに負けないんだから」
私だけが持つことを許された錫杖・『陽光宿し』を顕現し、すぐに構える。
「ええ、この一生涯、ワタクシはただただ『太陽』を追い求めてきた。紹介が遅れたことをお許しいただきたい…この愚物、『タナト教団、序列・捌』、オクト。その身を『太陽』に焼き焦がされるために今日までを生きてきました…ああ、素晴らしい…麗しき女神よ」
「いいわよ! お望み通り、タコ焼きにしてあげるんだから!」
出力最大。
効果範囲、徹底調整。
「『炎天焔』」
広範囲、高威力の技。
周りへの被害が怖くて使えなかった技。その攻撃範囲を的確に調整する。
Z地区での『祈祷』。
ずっとやってきた『祈祷』だけど、初めて誰かの役に立ちたいと思えた『祈祷』。エナジーのコントロールに磨きがかかる。
人間、生きていれば何回だって、どんな方向にでも成長できる。
カナトの言葉。弱いくせに意地っ張りの、変わりゆく身の程。
嫌でも背中を押された。
沈んだ太陽を強引に引っ張り上げてくれた。
この『炎天焔』で、みんなを助ける。
「…え?」
「せっかくの運命的な会合ですが、あなた様には抗魔大祭という神聖な場で燃やされることを望みましょう。…すべてが終わる日まで」
「ボク、ああいう粗雑な女嫌いなんだよね。まるで品がない」
3人とも、無傷。
私の渾身、全身全霊が、まるでなかったことのように…。
「見事な反応でしたよ、『オーファン』」
「へえへえ、…マジで洒落になってねえって、オクトの旦那」
傷一つ付いていないが、やや息を切らす髭の男。あの男の『スキル』。防御系か。
「説明して差し上げなさい、『オーファン』」
「マジで言ってんの? こっちの手の内ばらすのかよ? 旦那」
「この若き女神が神聖な肌から雫を垂らすほどに魅せてくれたのです。我々はそれに経緯を示すべきだ!! できなければあなたたちを今この場で絞め殺しますよ?」
「逆ギレこっわ。タコおやじ、この女のことになるとこれだもんな。あのツチデブとまるで一緒。…エロおやじ、説明してあげたら?」
「やれやれ、どいつもこいつも」
頭を掻きながら心身ともに疲れた様子で、自分のスキル…正確には『エレメント』を開示した。
耳を疑った。
あり得ない。
その希少性、性能は、『太陽』と『月』には及ばない。
だけど、『炎』、『水』、『氷』、『雷』、『風』、『土』なんて平凡な『エレメント』とは比べ物にならない。
対等なのは、『闇』。
『オーファン』と呼ばれた男の口が開く。
「俺のスキルは、…はあ、俺あんまり才能ねえから言いたくねえんだけどな。…『光のエレメント』。それだけで伝わったみてえだ。だから嫌いなんだよな…」
光。
この場に最もいてほしくない属性。
私の聖なる炎は、その聖なる盾に吸い込まれ、防がれる。
1対1なら出力の燃費による持久戦で勝てたかもしれない。
しかし、3対1のこの状況。
詰みだ。
「っ!?」
弾かれた『陽光宿し』が消え、私の中に還る。
「さあ、大事に…大事に…」
こちらの首と手足に絡まる足は、力強く、身体を傷つけない程度に締め上げ、樹木の檻へと運んだ。
ルナ…カナト…。
みんな…。
私が、絶対…。
テ、テリヒメぇぇぇぇぇぇ!!!!




