Lv42 文化祭1日目
「はぁあ…」
文化祭が始まっちまった。
なんで空っつーのは青いんだろうな。
「なんで空っつーのは青いんだろうな?」
秋の風に流される雲を見ながら、青の部分を嘆いてみる。
「なんで空っつーのは青いんだろうな。…おいオボロ、聞いてんのか?」
「聞いてはいるが、貴様のその愚問に応えているほど俺は暇ではない。他を当たれ」
「おい、鍵。なんで空っつーのは…」
「僕に振らないでよ」
「ああん?」
「ひっ! ぼ、僕だって忙しいんだからな!! ああ、なんだって僕がこんな轟ヒビキと一緒に見回りなんだよ!」
本当は強えくせして雑魚みてえにキョドリながら俺から距離を取る鍵。
ちっ。
「どいつもこいつもつまんねーの」
どこまでも冷めてやがる生徒会長。おどおどと会話にならねえ生徒会監査。
見回りのシフトが寄りにもよってこいつらと一緒だなんて、俺もつくづくツイてねえ。
最近は、ツイてねえことだらけだ。うちの1年どもが成長してることくらいしかいいことねえ。
「ひどく取り乱しているようだな。その証拠に、こぼれているぞ」
「ああん? 取り乱してなんか…」
俺の手元についた、タコ焼きのソースを一瞥し、仮面をこちらに向けてくる水無月オボロ。
「うげっ、きったねえな。お前にやるよ」
「要らん」
俺がそう発言する前から距離を取りやがった。信用ねえなおい。
「脇谷トミヒコ、か」
ムカつくやつに図星を刺されたのは癪だが、その名前を呼ばれて、改めてあいつのことを思い出す。
「…ああそーだよ。あのバカ野郎…」
俺も俺で、やりすぎた。
殴ることはなかったな。あいつの言い分をもう少し深く聞いてからでも遅くなかっただろうし、そのあとヨウジにあんな発言をさせたのも俺が不器用だったからだ。
「貴様も、他人のことで落ち込むことがあるのだな」
「へん! お前にだけは言われたくないね。こぼれてんぞ」
お面野郎の手にこぼれたラスクの砂糖。
「拭うか…、いや、貴様に施す」
「いらねえよ」
「離れるのが早いな」
お前もそう来ると思ったからな。
「おめえこそ、昨日のお偉いさんたちの会議でなんかあったみてえだな! 愛しの妹が貶されたか? スキル『シスコン』のおにいちゃまだもんな、お前は。妹への愛情エナジーがビンビンッ。ああん、ルナぁ、お兄様の『月光』で包みこんであげるよぉ~♡」
「どうやら貴様は死にたいらしいな、轟ヒビキ」
「はぁ? てめえが先に煽ってきたんだろ? いいぜ、いい加減どっちが強えかはっきりさせようじゃねえか」
「せっかくの文化祭なんだからやめてくれよ二人ともぉ!!」
△△△
文化祭1日目。
10時。
俺の見回りのシフトは、12時までだ。
「おい」
同じシフトの同級生に声をかけるも、彼女は杭で打たれたように一歩も動かなかった。ただ、秋のカラッとした薫風がその月光色の髪を揺らす。
うっとりと、緩む口元から垂れそうになるよだれをすするように息を吸い、翡翠の瞳は露店に釘付けだった。
「食べたいのか?」
「ひえっ! あっ、えっと、あの…」
弾かれたように俺へ振り向く『月』。両手をそわそわと、忙しく上下左右に移動させる。
そういえばこいつ。
「甘いの好きだったよな?」
K地区の焼肉屋で、こいつがデザートにパフェとバニラアイスと抹茶餅と、チョコレートクッキーを即座に腹に収めたのを思い出す。
「ああああ、すみません! 見回り中にこんな…!」
いつもみたく、申し訳なさそうな顔をして下を向く。この前の訓練で見せた、規格外のエナジーを放ち、副会長の弾幕をことごとく無に帰した『月』と同一人物だとは思えない。
だからこそ俺は、こいつと一緒にいるのが…。
「楽しいな」
「え…」
「ああ、いや、つい」
口に出てしまった。こいつのオドオドが移ってしまいそうだ。
他人から望まれる力があるくせに、ビビりで、弱いと思ってしまえる。
だから俺は、お前のことを守りたくて…。
ごほん!
強くせき込む。これ以上は何も思わんぞ!
「今日は俺のおごりだ!」
「ええっ!? …い、いや、どうして…」
「お前には日ごろからお世話になりっぱなしだからな」
「大丈夫です…本当に…」
「いらなかったら捨てればいいよ」
小さな手に控えめに摘ままれた袖に構わず、『3年2組』のクッキー屋に顔を出す。
「そのクッキー、2袋…いや、足りねえな。5袋ください!」
「まいどー!」
俺は先輩からクッキー5袋をもらい、そのうちの4袋をルナに渡した。
「そ、そんなに…!」
「ごめん、食べきれなかったか?」
「余裕で入るけど…い、いえっ! そんなに悪いですよ!!」
「まあまあ、ほら、投げるぞ」
言葉通り、中空に放り投げると、ルナがおたおたと袋を取った。
「リサ姉、すみません。足を止めてしまいました」
「ふふっ、いいのよ」
俺たちと同じシフトの3年、イエロースパークの長井リサが、含みのある笑い後で俺たち二人を見つめた。
「カナト、なんか柔らかくなったわね」
「えっ、ああ。ありがとうございます?」
「私にも一口くれるかしら」
「もちろんですよ! どうぞ…って、ううっ!?」
先輩は、俺からクッキーを受け取った直後、「はい、あ~んっ」と俺の口へとクッキーを放り込んできた。
その瞬間、なぜだか俺の視線は月光色の髪の彼女へと引き寄せられ、よくわからない、危機感に近い動揺が、たった一つの俺の心臓を締め付けた。
「ふぅええぇっ!?」
翡翠の瞳がそんな俺たちを捉え、突如、叫んだ。
「本当に、かわいい子たち。トミヒコが帰ってきたら、みんなでご飯行きましょうね♡」
本当に、イエロースパークのメンバーはお騒がせな奴らが多いな。
俺が言えた口ではないが。
△△△
「おーい、カナトー」
相手は振り向かない。
珍しい。
カナトの耳とは相性がいいのか、私の声はあいつには昔からよく通るはずなのに。
見回りのシフトが終わったら、久々にリョウと3人でご飯を食べようと思ったけど、…どうやら忙しそうだ。
カナトが、ルナちゃんにクッキーを放り投げた。
なんて乱暴なんだろう。相変わらずああいうところはカナトらしいな、なんて思いながら口元が緩む。
リョウはリョウで、見回りのあとは用事があるとか言って消えていったし。
E地区でのインターンでの生存から、またどこか距離が離れていったみたいだな。
「隙アリじゃっ!」
「きゃっ!」
急に後ろから声を掛けられ、太腿の内側に冷たさが伝わる。見えない脅威に向かって反射的に後ろ蹴りを振るうと…
「あっ! ヨウコさん! ごめんなさい!! …つい」
3年生で、レッドフレームのチームリーダーが頭をさすりながら立ち上がる。
「いや、アタチが悪かったかの。ユミコのやつが太腿なら大丈夫だと言ってたから、つい…」
「また副会長…」
ため息がこぼれてしまう。硬派な容姿で、まるで幼児のいたずらめいた企み。
「こういった戯れは嫌いだったかな? ミツキ」
悪の張本人が、悪びれることなく堂々と登場した。
「ヨウコさんに悪知恵を吹き込むのやめてください。教育によろしくないです」
「そーじゃそーじゃ」
小さなチームリーダーを抱きかかえ、2人で頬を膨らまして拒絶して見せるも、「仲良しで何よりだ」と意見を軽視される。
まったく、この人は。
「ミツキの抱っこ、気持ちがいいかの。このまま眠ってしまいそうかの、スヤァ…」
「ちょっとヨウコさんまで! 困りますってば!」
「ふはははは!!!」
「笑わないでください! 副会長はもっと、水無月会長や鍵先輩を見習ってはどうですか?」
「組織にはこういうだらしのない人間だって必要よ? お固いことは彼らがきちんとやってくれるから気が楽よね」
「もう、生徒会のナンバー2がそんなマインドだったら色々と心配なんですが。もっと後輩たちのお手本になるように…」
思わず耳を塞いだ。
何か大きなものが破壊される音。大気を揺らし、それは私の内側をも揺らした。
「体育館の方じゃ」
抱きかかえられたヨウコさんが地に降り、『妖狐』特有の両耳で、爆音の発信源を敏感に言い当てた。
第四章 嵐の前の
—完―
ルナはかなりの甘党です。近所の夏祭りではすべての露店から甘いものを一つずつ買って食べてました。
なので、従者たちからの差し入れは、必ず甘いものになります。
オボロも甘党です。
同級生も生徒会室には必ず甘いものを差し入れします。
「好みまで妹と一緒にしてんのかよ。やっぱシスコンじゃねえか、お前」
「殺す」
「だからやめようよ!!」




