Lv39 しょうがねえから
イエロースパーク2年・脇谷トミヒコ。
彼の日常は多忙で…
「文化祭まであと2週間とありませんね! どのクラスがグランプリを取るのか、見ものです!」
文化祭実行委員長の貝塚ウミネが興奮を隠しきれぬように震える。
「そうだよね、シアンさん!」
「そうだな」
その興奮は隣に座る副委員長に降りかかり、急に話を振られた女は、熟練の武人のような落ち着きで軽く笑う。さすがだ。でも、なんでこの女がここに…。
いや、そんなことはどうでもいいか。
ああ、つまんね。
どうしたって俺は、こんなところにいるんだ。
俺には、やらなきゃいけねえことが沢山あるのに。
「ちょっと! 脇谷君!」
委員長様は次は怒りで興奮する。
「連絡事項は終わったんだろ? 俺はもう行くぜ。学内チームに所属してるから暇じゃねえんだ」
問答無用で教室を出てやると、ドアの外からでも聞こえるように声がした。
「なんだよあいつ。自分だけ忙しいアピールかよ」
「チームっつってもイエロースパークだろ? のらりくらりやってるような暇人チームが多忙なわけねえし」
「脇谷君だけなんかとっつきにくいよね?」
ケッ。
勝手に言ってろ。
俺は、お前たちとは違うんだ。
「あまり脇谷を責めるな。彼は裏切らないさ」
何を根拠に。
早く『塾』に行って勉強しなければ。
親父に嫌々通わされている塾。勉強したって地区の役員になれるわけでもない、国玉になれるわけでもない。
親父が経営する小さな建設会社。中学を卒業したらその会社の役員にさせられ、俺のスキルはそこで使われる。
望まないスキル。
俺がもし、ヒビキさんや飽田みてえに戦闘向きのスキルだったら。
せめて1000年以上前だったら。…当時は子供の半分くらいは高校に行き、大学に進学しながら、長く子供でいられるらしい。
今の時代は昔ほど子供が多くない。高校や大学に行くのは、昔よりも莫大な金銭が必要で、それこそ『太陽』や『月』の家系ほどの財力を持つか、圧倒的な実力で特待生になるしかない。
クソったれ。
俺の未来は、もう決まっている。
夢なんて見られない。
楽しい思い出なんてものはない。
「トミヒコ」
「ぬおあ!? 急に出てくんなよ!」
突如として目の前に現れた巨躯。
「お前が下を向いているからだろう? 俺はずっと立っていたぞ?」
岩城ゴウシ。俺と同じイエロースパークに所属する2年。
「今日も、レッドフレームの大剛と一緒に筋トレをするのだが、来るか?」
「いかねえ」
行くわけねえよ。力任せに斧だの盾だのをぶつけ合って闘うスタイルじゃねえんだ、俺は。
スキルを駆使して闘うのが俺だ。…一ヶ月後には銃の免許だって取って…。
「あと、そうだ」
「まだ何かあるのか」
俺は急いでるんだ。一分一秒を無駄にはしねえ。
「来週は飽田の誕生日だ。大剛との筋トレが終わったら、一緒に誕生日プレゼントを買いに行かないか? メンバーはカナトとユウト、レッドフレームの天王寺テリヒメ、合計5人だ」
「はあ? 行くわけねえだろ。勝手に俺を加えて5人にするな」
「そうか、行ってくれるのか!」
「だから行かねっつってんだろ!! バカ! デブ!」
「これは筋肉だ。それにこの間の中間テストは俺の方が上だったはずだ」
「うっせえ! とにかく俺は帰るからな!」
あんな奴の誕プレなんぞ、買ってやるもんか。
飽田ヨウジ。
普段から頭脳派を気取って上から見下すみたいにしやがって。たまたま上位者に選ばれて。たまたまスキルがよかっただけで。たまたま顔がよくて、それで運よく女ができて。ヒビキさんも、リサさんも、水無月会長も、他のやつらも、それを分かってねえ。
本当に頭のいい奴は、日陰みてえな地味な場所で苦渋をなめてるやつなんだよ。あんな明るくてヌルい道を歩んでるような野郎、いつかは地力で埋もれるのが関の山だ。その時は腹を抱えて笑ってやる。
踵を返して、今度こそ塾へと向かう。今日は経営の授業だ。俺の苦手な分野。赤点を取った時には親父に殴られた。
銃の試験だって近い。やることは山積みだ。
「おーい、トミヒコ!」
振り返ると巨躯は、まださっきと同じ位置にいる。
「まだ何か用かよ! お前の頼みでも行かねえからな!」
「終わったら、みんなでカラオケに行くんだってよ! 天王寺テリヒメがレッドフレームの女子たちを誘うってよ!」
「だからなんだよ」
…。
…。
…。
「おい」
目の前のデカい男が、まだ俺は何も言ってないのに、グータッチを準備してくる。
「『塾』は20時に終わるけど、それでもいいなら行ってやるよ。お前がどうしてもっていうから、しょうがねえからな!」
そうだ。
しょうがねえから行ってやる。
「そうこなくてはな、トミヒコ」
コミュニケーション能力も勉強しとかないとな。
しょうがなく、差し出されたデカいグーに、俺の骨ばったきれいなグーを合わせてやった。




