Lv35 奇跡に等しい確率
「うわっ!!」
身体が硬直した。
真っ暗闇の中、突然にして魔物が襲いかかる。
骨だけで動く人体。屍霊系の魔物『ワイト・Lv8』が、刃こぼれした刀剣で、『Lv1』の無防備な俺に襲いかかる。
スライムの核。牧田のやつがスライムから切り抜くのを見よう見まねで再現できたけど、拳で握り潰せるほど丁寧にはできない。急いで核に短剣を刺して…
やばい、間に合わない!
「えい!」
まばゆい光の球が割り込む。
水無月ルナが『月のエレメント』を球体にしてぶつけてくれた。
俺たちのような無属性のエナジーとは違い、リョウやミツキのようなエレメント持ちによるエナジーは『技』に昇華させなくてもそれなりに威力が高い。
特に『月のエレメント』は『太陽』と同様、魔物特攻。加えて、光を苦手とする屍霊系の魔物には効果覿面である。
『えい!』などと、か弱い掛け声で飛んだ光の球が、『ワイト』の体を一瞬にして経験値にした。
「『月光』!」
真っ暗な洞窟を再び照らすと、5体の『ワイト』がまとめて襲いかかって来た。
「よし、次こそは…」
満を持して『新スタイル』を披露、したかったのに。
「『彗星強打』、っちゃ!」
ウサギ型の魔物ように跳躍し、小柄な背丈に似合わない大槌を振りかぶり…
「ちょっ! 待て! おい!」
一つ前の戦闘と同じ技ということは。
地面に到達した大槌から、凄まじい衝撃波が爆発する。
ルナの『月光壁』が無ければ『Lv1』の俺は、この『ワイト』ども同様、粉々に消し飛んでいたからだろう。
「おい! 加減しろってさっきから言ってんだろ!」
叱責するが、
「ふう。さっきと同じでつまらないやつらだっちゃ。もっと骨のあるやつはいないかっちゃ」
望月ウサミは気にせず、大槌を下ろし、ゆっくりと、本当にゆっくりと伸びをした。
そして、振り返り「ごめん!」と謝る。
「そうだよ。お前、もっと周りをよく見て…」
俺を素通りし、月光色の髪に近づき、
「ルナ! 怪我はなかったっちゃ?」
とまるで家宝のようにルナの身を案じた。
「おい、てめえいい加減にしろよ」
「ああ、藤井カナト。まだ生きてたっちゃか。…大技に巻き込み作戦失敗っちゃ」
「おい、今とんでもねえこと言ったぞこいつ」
久々にクソムカつくな。
あのメスガキといい勝負だぜ。
「ええと、2人とも、早く進みましょう!」
ルナがいなかったら今ごろこいつをぶん殴ってただろう。
△△△
「K地区?」
「そうっちゃ」
面倒なことに巻き込まれた。
来月、10月上旬に行われる文化祭。この態度の大きい女・望月ウサミのクラスは、クラス展示をすることになったらしい。
そして、これからもルナと一緒にいたいなら、そのクラス展示の装飾を一緒に集めろ、と。
やるわけねえだろ、と思った。そんなのお前のクラスが勝手に準備して勝手に盛り上がれよ、と。
俺は直接そう言ってやった。
すると、まんまるチビは「ふうん」と余裕めいた態度を崩さなかった。
「そんなこと言っていいっちゃか?」
「なんでそんなに強気なんだよおめえは」
「それはね」
望月は、襟元に付けたバッチを強調するように短い首を突き出した。
「これは1000年前からの伝統の証。初代イージス様のお妃様の代からのもの。これが何を意味するか分かるっちゃ?」
「知るかよ」
「そうちゃねそうっちゃね〜。これを持つ者はみんな、推薦権を持つっちゃ」
「推薦権だぁ? 誰を何に推薦すんだよ?」
「察しの悪いやつっちゃね。さすがはオボロにいに喧嘩を売る身の程知らず」
「うっせ。だからそれが何だよ」
「アタイがあんたをイージスに推薦できる」
思考がフリーズしかけた。
ふざけた語尾のない望月ウサミ。ふざけるつもりのない真顔。
「まあ、正確にはあんたをイージスの候補者にしてやることくらいはアタイでもできるっちゃ。今回の出来高次第では司祭玉様に掛け合ってもいいっちゃ」
千載一遇。いや、万載一隅とでも言い換えてもいい。…いいや、それすらも釣り合わないほどの、奇跡に等しい確率。
「呆けた顔してどうしたっちゃか? 大きなチャンスを前に怖気づいたっちゃ?」
「んなわけねえだろ」
暴れる心臓。抑える理性。
見えた道筋。
「約束だからな。ウサギ野郎」
このチャンス、絶対にモノにする!
△△△
「これが俺の新スタイル・『盗賊成長だ!』
『急成長』で増えるエナジーを敏捷性5割、腕力1割、手先の器用さに4割注ぎ、短剣と投擲具を操る、トリッキーなスタイル。
今回、盾は持ってきてないからこそ実現できるスタイル。守りはルナを信じる。
目の前のワイト3人に突っ込み、誘導。斬りかかる骨の刀剣たちを軽快なステップで躱す。
「今だ! 次は巻き込むなよ、チビ」
「その呼称は実に不愉快っちゃ!」
放たれた『彗星強打』。さっきから『Lv15』のくせに広範囲で高威力の技を叩き込む。その割にエナジー切れも起こしていない。どうなってんだこいつは。
「アタイのスキルは『星降り』。縦方向に移動時、速度と重量を倍以上にするっちゃ」
俺の表情を鋭く察し、大槌を持った望月が自慢げに鼻を鳴らした。
「どや顔うぜえな」
「態度がでかいっちゃね。これ以上の無礼は推薦に響くっちゃよ?」
「はいすみませんでした」
そんな下らないやり取りをしながら洞窟を進む。こいつはこの洞窟の奥にいる『ワイト』どもの親玉・『ワイトチーフ』の頭蓋骨に用があるらしい。生命を失っても、頭蓋骨だけは粒子にならずに残り、紫色に発光する噂があることから、望月ウサミは、クラス展示の『幽霊屋敷』にうってつけだと判断。魔物駆除の任を受けるついでに、資材調達をすることにしたらしい。
ルナを同行させないつもりだったらしいが、ルナがどうしてもと聞かなかったと、望月はため息をついた。
そして、目的の場所にたどり着く。生命を宿しているときから、紫色に発光する骸骨。取り巻きのやつらより背丈が高く、2メートル半はある。
「何事もなくついたな」
「あんたは何度か死にかけてるっちゃ」
「半分くらいはお前のせいでな」
まあいいや。
このまま、この『ワイトチーフ・Lv20』とやらを3人がかりで倒して任務達成。俺はイージスの道へ一歩前進。
親玉の骸骨がこちらに気づき…
洞窟の上から、大穴が開いたのはその時だった。
その大穴から、ぬるりと現れる異形の影。
骸骨たちを丸呑みしていくそれは、大きな、本当に大きな生き物だった。
大型のバスのような大きさ。幼虫のような体系で、特に目立ったのは、口の大きさ。何もかもを丸呑みするために発達したように広がる口。目はついていない。
「う、嘘っちゃ…」
その魔物の頭上、表記された数字が背筋を凍り付かせた。
「おい、あいつ、なんだよ?」
「『サンドワーム』。別名『大王砂虫』。海外の砂漠地帯に生息する、各国の『狂暴指定生物』の一匹。K地区に砂丘があるとはいえ、そんな魔物がどうしてこの国に? 耐久力は『妖狐』の炎をもってしても絶命するのに2時間はかかる。そして…」
「そして、なんだよ…?」
「空腹時には気が済むまで、魔物でも人間でも、空気の振動を頼りに全て丸呑みにする」
「あ…、あ…」
ルナが、足を痙攣させ、ついに腰を地面におろしてしまった。
「お、おい! ルナ! しっかりしろ!」
「だめっちゃ! そんなに大きな声を出したら空気が揺れ…」
『ワイトチーフ』を貪り食った大きな虫が、後方…つまり俺たちの方を振り返る。
「死にたくなかったら逃げるっちゃ!!」
奇跡に等しい確率で現れた『Lv45』の『狂暴指定生物』。腹を空かしたデカいそいつが猛スピードで食料に前進した。
RPGに出てくるサンドワームと同じイメージでおっけーです。




