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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第三章 太陽とメスガキと夏休み
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32/128

Lv32 大丈夫だよね

「…やるやん、君」


本音を口にしてしまった。出さざるを得なかった。


嵐ミツキ。


先日、襲撃されたA地区の遠征メンバーを、咄嗟の豪風で助け出した期待の1年。


滝本レイジの弟とともに、F地区中学生徒会の例会でも嫌というほど聞き及ぶ名前。


クソたれ。


このメンバーで僕が一番使えんことは知っとる。本能的に弱いと敵さんにも思われとる。


正統派になりたかったんや。正面から立ち向かえる男になりたかったんや。


求めるんは『罠師(トラッパー)』なんて中途半端なスキルやない。高火力、高防御、高軌道。求めるのはそれで、彼女を守りたかったんや。強そうに思われたかった、抑止力になりたかったんや。


あれだけ泣き虫やったヨウコ。レベリング式典の日を境に、やはり『妖狐』の魂が覚醒して、かわいのうなって。A地区に引き抜かれて、1人でも生きていけるようになって…


だからなんや。


もう、決めたやろ。


守りたかった女に追い抜かれる現実を受け入れる。


僕が弱いんも、力に変えるて。


強(したた)かに生きるってな。


「嵐ミツキ!」


「っ? はい!」


初めて呼んだ名前に反応する風の嬢ちゃん。


嚙みしめる唇。爪が食い込む手のひら。屈辱の感触。


「これをやる」


投げたのは、札。


僕のタイミングで発動する札。会敵してからずぅっと喋らんと、ただ黙々とエナジーを溜め続けた札。


時間をかけた割には低威力。才能なしを証明する札。


だからこそ、敵さんには警戒されん。


「僕のとっておきや、あんたに託すで」


「はい!」


あれだけいびったのに、清々しいほど素直な子や。強いから、自分の才能に余裕があるからああいう優しい態度がとれるんやな。


ああ、ホンマ。


僕、カッコ悪いわ。



△△△



「キシャシャシャシャ!!!」


風の小娘のエナジー出力が下がってきたのが目に見えてわかる。やはり『影檻』にこの小娘を入れたのは間違いではなかった。


もとより、化け物みたいに速いガキは、俺に傷一つつけることができない。


あの紫髪の男はあきらめたように笑っている。フェイクではないだろう。こんなに仲間を疲弊させてまで何かを勿体ぶることはない。


このままじわじわと、削って削って、なぶり殺してやる。そうだな、まずは速いガキの余裕めいた顔を泣き顔に染めてやる。いっそ殺してくださいと懇願させるほどに苦しめやる。


キシャシャシャシャ。


…シャ?


「キシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


腕に伝わる熱。


なんだこれは。


「ようやっと、喰らったみたいやな」


紫髪のガキが口を開いた。


「その札は高くつくで? なにせ、『最古の異生物』のエナジーが濃厚に入っとるんやからな」


「キシャ!? まさか、『妖狐』っ…!?」


「僕のこと眼中に無かったやろ? 敵認定もせんかった相手に、じわじわと燃やされえや。クスクス」


「このっ、クソガキぃぃぃぃ!!!」


藤の花のように咲き誇る紫の炎。


見惚れるほどに優美なそれは、見惚れる余裕をも焼き尽くす速さで、命に燃え広がる。


恐るべき殺傷力。媒介とした札が小さく爆ぜる。それが指先に付着しただけで、驚くべき速度で肘の高さまで燃え広がった。


このままだと、死ぬ!!!


「キ…キシャぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


影でできた身体といえど、自らの腕を断ち切るのは心身ともに激痛だが、これが脳や心臓に到達すれば、一瞬で灰になってしまう。


切り落とした腕を、『妖狐の炎』は綿のように一瞬で焼却した。


そこに…。


足の速いガキ。


殺意に歪む顔は、嬉々として、俺の命を…。


無駄だ、無駄だ!! お前では殺せな…。


札!?


まだ、仕込んでいるというのか!?


「ほら、おじさん。プレゼント」


放り投げられたその札は、俺のことを殺す武器ではなかった。


電車の切符。


「インターンシップがA地区の外でよかったよ。おかげで時間稼ぎができた」


「キシャ…!?」


ブラフ!!


「遅いよ、もう、撃てるみたいだ」


そう言い残し、音のごとく後ろに下がるガキ。


遠くに見えたのは。


「遠征のあれから、ちゃんと訓練した。大丈夫だよね、リョウ、カナト。…風の凝縮」


塵など簡単に吹き飛ばす風圧。それを刺剣の先に集約させ、大きな矢のような『風』を飛ばしてきた。


「出力最大、『旋風鋼貫き(スティングストーム)』!」


緻密、かつ鋭利な一撃が、心臓を貫いた。


キシャ…。


『カゲオ』


走馬灯。


聞き覚えのある女の声。もうこの世には居ないらしい女の顔。


『偽物』の肉体だが、『本物』の記憶は確かに埋め込まれていて、その映像が、死にゆく刹那、流れる。



思い出したくなかった。


記憶の底に埋め込んだままなら、俺は笑って死ねたのに。


『影檻』の解除された夏空の青が、徐々に霞んでいき…



△△△



「リョウ! カナト!」


閉じ込めた影から解放され、眩い光が視野の大半を支配する中、反射的に2人の存在を探した。


いつもは先走る2人を後ろから心配しているが、今回はそうじゃない。私が安心したかった。


死ぬのが、怖かった。


闘いに勝っても、思い出して、震えが止まらなかった。


だからこそ、会いたかった。


「よお、無茶しなかったか?」


喧嘩別れしたままだった『Lv1』。


「怪我は無いか?」


復讐で周りが見えなくなった優等生。


離れ離れだった3人が、またこうして会える奇跡。


「もう、心配してるのは私の方なんだから。…ただいま! それからおかえり!」


「はぁ…はぁ…。ああ! 強くなって戻ってきたぜ!」


がっくりと疲弊してるのに、相変わらず懲りないカナトが調子づき、それを見てリョウは鼻で笑った。







ミツキは『風』の拡散は得意だけど、収縮して威力を上げるのは苦手でした。

遠征の襲撃の悔しさから、リョウやカナトのように威力を追求し、苦手分野を幾分か克服しました。

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