Lv32 大丈夫だよね
「…やるやん、君」
本音を口にしてしまった。出さざるを得なかった。
嵐ミツキ。
先日、襲撃されたA地区の遠征メンバーを、咄嗟の豪風で助け出した期待の1年。
滝本レイジの弟とともに、F地区中学生徒会の例会でも嫌というほど聞き及ぶ名前。
クソたれ。
このメンバーで僕が一番使えんことは知っとる。本能的に弱いと敵さんにも思われとる。
正統派になりたかったんや。正面から立ち向かえる男になりたかったんや。
求めるんは『罠師』なんて中途半端なスキルやない。高火力、高防御、高軌道。求めるのはそれで、彼女を守りたかったんや。強そうに思われたかった、抑止力になりたかったんや。
あれだけ泣き虫やったヨウコ。レベリング式典の日を境に、やはり『妖狐』の魂が覚醒して、かわいのうなって。A地区に引き抜かれて、1人でも生きていけるようになって…
だからなんや。
もう、決めたやろ。
守りたかった女に追い抜かれる現実を受け入れる。
僕が弱いんも、力に変えるて。
強かに生きるってな。
「嵐ミツキ!」
「っ? はい!」
初めて呼んだ名前に反応する風の嬢ちゃん。
嚙みしめる唇。爪が食い込む手のひら。屈辱の感触。
「これをやる」
投げたのは、札。
僕のタイミングで発動する札。会敵してからずぅっと喋らんと、ただ黙々とエナジーを溜め続けた札。
時間をかけた割には低威力。才能なしを証明する札。
だからこそ、敵さんには警戒されん。
「僕のとっておきや、あんたに託すで」
「はい!」
あれだけいびったのに、清々しいほど素直な子や。強いから、自分の才能に余裕があるからああいう優しい態度がとれるんやな。
ああ、ホンマ。
僕、カッコ悪いわ。
△△△
「キシャシャシャシャ!!!」
風の小娘のエナジー出力が下がってきたのが目に見えてわかる。やはり『影檻』にこの小娘を入れたのは間違いではなかった。
もとより、化け物みたいに速いガキは、俺に傷一つつけることができない。
あの紫髪の男はあきらめたように笑っている。フェイクではないだろう。こんなに仲間を疲弊させてまで何かを勿体ぶることはない。
このままじわじわと、削って削って、なぶり殺してやる。そうだな、まずは速いガキの余裕めいた顔を泣き顔に染めてやる。いっそ殺してくださいと懇願させるほどに苦しめやる。
キシャシャシャシャ。
…シャ?
「キシャぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
腕に伝わる熱。
なんだこれは。
「ようやっと、喰らったみたいやな」
紫髪のガキが口を開いた。
「その札は高くつくで? なにせ、『最古の異生物』のエナジーが濃厚に入っとるんやからな」
「キシャ!? まさか、『妖狐』っ…!?」
「僕のこと眼中に無かったやろ? 敵認定もせんかった相手に、じわじわと燃やされえや。クスクス」
「このっ、クソガキぃぃぃぃ!!!」
藤の花のように咲き誇る紫の炎。
見惚れるほどに優美なそれは、見惚れる余裕をも焼き尽くす速さで、命に燃え広がる。
恐るべき殺傷力。媒介とした札が小さく爆ぜる。それが指先に付着しただけで、驚くべき速度で肘の高さまで燃え広がった。
このままだと、死ぬ!!!
「キ…キシャぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
影でできた身体といえど、自らの腕を断ち切るのは心身ともに激痛だが、これが脳や心臓に到達すれば、一瞬で灰になってしまう。
切り落とした腕を、『妖狐の炎』は綿のように一瞬で焼却した。
そこに…。
足の速いガキ。
殺意に歪む顔は、嬉々として、俺の命を…。
無駄だ、無駄だ!! お前では殺せな…。
札!?
まだ、仕込んでいるというのか!?
「ほら、おじさん。プレゼント」
放り投げられたその札は、俺のことを殺す武器ではなかった。
電車の切符。
「インターンシップがA地区の外でよかったよ。おかげで時間稼ぎができた」
「キシャ…!?」
ブラフ!!
「遅いよ、もう、撃てるみたいだ」
そう言い残し、音のごとく後ろに下がるガキ。
遠くに見えたのは。
「遠征のあれから、ちゃんと訓練した。大丈夫だよね、リョウ、カナト。…風の凝縮」
塵など簡単に吹き飛ばす風圧。それを刺剣の先に集約させ、大きな矢のような『風』を飛ばしてきた。
「出力最大、『旋風鋼貫き』!」
緻密、かつ鋭利な一撃が、心臓を貫いた。
キシャ…。
『カゲオ』
走馬灯。
聞き覚えのある女の声。もうこの世には居ないらしい女の顔。
『偽物』の肉体だが、『本物』の記憶は確かに埋め込まれていて、その映像が、死にゆく刹那、流れる。
思い出したくなかった。
記憶の底に埋め込んだままなら、俺は笑って死ねたのに。
『影檻』の解除された夏空の青が、徐々に霞んでいき…
△△△
「リョウ! カナト!」
閉じ込めた影から解放され、眩い光が視野の大半を支配する中、反射的に2人の存在を探した。
いつもは先走る2人を後ろから心配しているが、今回はそうじゃない。私が安心したかった。
死ぬのが、怖かった。
闘いに勝っても、思い出して、震えが止まらなかった。
だからこそ、会いたかった。
「よお、無茶しなかったか?」
喧嘩別れしたままだった『Lv1』。
「怪我は無いか?」
復讐で周りが見えなくなった優等生。
離れ離れだった3人が、またこうして会える奇跡。
「もう、心配してるのは私の方なんだから。…ただいま! それからおかえり!」
「はぁ…はぁ…。ああ! 強くなって戻ってきたぜ!」
がっくりと疲弊してるのに、相変わらず懲りないカナトが調子づき、それを見てリョウは鼻で笑った。
ミツキは『風』の拡散は得意だけど、収縮して威力を上げるのは苦手でした。
遠征の襲撃の悔しさから、リョウやカナトのように威力を追求し、苦手分野を幾分か克服しました。




