Lv31 新技
どうしてだよテリヒメちゃん。
僕は君のことを許してあげたのに。
僕が向けた愛情を蔑ろにした君を許してあげたのに、君はまたそうやって、僕のことをそんな目で見て…。
それに、なんだよその男は。君のことを『テリヒメ』だなんて偉そうに呼んで。
君はみんなのテリヒメちゃんだろ?
それにこいつ…
「へっ、どうしたどうした?」
僕よりも低い、『LV20』のくせに僕の攻撃を防ぎ…。
「なんだよ! 邪魔をするなよ!!」
土の一部を隆起させる攻撃も、地面の欠片を操作して前に飛ばす攻撃も、防ぎ、かわし、防ぎ、かわし、
無傷。
「なっ、舐めるなよなぁ!!!!」
小さな盾と短剣しか持ってないこの男がちょこまかと、テリヒメちゃんのそばに居させてくれない!
△△△
「へえ、広くなったじゃん、視野」
ババアと稽古の最中、部屋に入ってきたメスガキ。
「ババアと同じこと言ってんじゃねえ」
「少しは成長したね」
いつもより短い木剣と木の小盾を手にした俺を上から目線で賛辞した。
「うるせえ! これが終わったらお前とだ! 今度こそ一撃加えてやる」
「今の敵はワシじゃ」
「ぐべぇっ!?」
腹を蹴り飛ばされた。
「ババアこの…」
「ふほほ、どこまでも甘いガキよのう。まあ、その小さな盾と短い木剣でここまでやれたのは、そこそこ見事じゃ」
「見事、の前になんか余計な言葉が混じってたな」
「気のせいじゃ」
「ざぁこざぁこ♡」
「お前はシンプルに罵倒してくんな」
このババアにしてこのクソ孫あり、ってか。
…まあいい。
20日にしてようやく手に入れた新しい戦闘スタイル。
そしてその翌日、俺はメスガキに攻撃を命中させた。
『約束』通り、Z地区からA地区に返してもらうことになった。
「もう帰っちゃうの? お兄さんのこともっと痛ぶりたかったのに」
「うるせ。最終的に俺に一本取られたくせに」
「1勝1055敗だけどね」
「うるせえ!」
このメスガキはどこまでも俺をイラつかせやがる。
でもまあ…
「世話んなったな、お前にも、婆さんにも」
一応、強くなれたのはこいつらのおかげだから、礼を言ってやることにした。
「へえ、大人になったじゃん」
と、余計な一言で返し、次はテリヒメの方に笑いかける。
「じゃあね、レイナちゃん。お手紙書くから」
「うん! お姉さんも元気になって良かった。『祈祷』、ありがとう。おかげで魔物撃退兵器の調子もばっちりだよ」
テリヒメのその『祈祷』とやらは1週間前に終わっていたのだが、先にA地区に帰ることなく、なぜか俺が帰れるまで待っていた。また襲われでもした時の囮に使うつもりだったのだろうか。
「それにしてもお兄さん」
突然、メスガキが不敵に笑う。嫌な予感がした。
「レイナに入れた一撃がまさかの『床に押し倒す』だったなんて」
「あれはお前が俺の武器を弾き飛ばしたから仕方なく…」
「稽古中もずーっとレイナで、いやらしいこと考えてたんでしょ?」
「ふざけんな。お前みたいなクソガキ、1ミリも興味ねえ。つーか、この俺がそんな下らねえこと企むわけねえだろ。なあテリヒメ」
「サイッ、テー!」
「俺の方を信じろよ!」
それから丸一日かけてA地区の学校に帰りつき、
「よおカナト。久しぶりだな。ヨウジから聞いたぜ」
「うっす」
ヒビキさんへの挨拶もそこそこに、俺はフロアを後にする。
訓練室で、やりたくてたまらなかった『新技』を試した。
△△△
名付けて、『可変急成長』。
木の枝のように、成長の可能性を広げて深める。
魔物を倒し、『急成長』が発動されるタイミングで、身体を集中させ、レベルの上り幅を調整する。
レベルを上げすぎなければ『急成長』の効果時間が伸びる。今までの超短期間の超強化ではなく、継戦能力を高くするための微調整。体内に入ってくるエナジーを節約するイメージ。
そして、自分の身体の部位。『急成長』でレベルが上がってから『Lv1』にリセットされるまで、自分の特徴を変えることができる。
腕や太腿をはじめ、指先や足先にまでに『急成長』で得たエナジーを振り分ける。昔、リョウの家でやってたゲームみたいに、『パラメーター』なるものを好きな方向へ振り分ける。パワー、スピード、器用さ。好きな方向に、好きな配分で振り分けられる。
力づくの一撃必殺だった今までのスタイルを、防御特化や遠距離特化にすることもできる。
今回は、防御7割とスピード3割でエナジーを注いだ『軽快防御成長』
範囲攻撃を得意とし、防御力の高い敵なら、俺が囮になって厄介を跳ねのけた後に、テリヒメや他二人の仲間が一気にトドメを刺す。
これでいい。
仮面野郎の意見に屈したわけじゃない。
次こそは勝ちたい。
だからこその、
「俺の輝かしい未来のための、今の全力防御だ!」
△△△
僕らを閉じ込めた岩盤のドーム。
「あんたらも手伝ってくれ!」
彼はうちの学校で噂になってる『LV1』。
身の程知らずで、あのオボロくんにも無謀に突撃する、無計画で短絡的な落ちこぼれ。
彼の戦闘スタイルは、スキル『急成長』で真正面から強大な一撃を放つ。
しかし、今の彼は、噂とは全く異なる様相で…
「もう少しで『Lv1』に戻りそうなんだ! その間に攻撃の準備頼む!」
自分から囮の役を買って出た。
するとすぐさま、
「おうおうおう! お前、面白えな! ノッた!」
火野エンジは棍棒に『炎のエレメント』を集中させる。…迷うことなく。
信じてもいいのか。
僕はまだ、彼のことを信用できない。聞けば、この敵たちの最たる目的は彼だと言うし…
『カケル』
目を閉じると、僕の最愛の彼女の声が聞こえた。
「ああ、もうっ!」
仕方ない。
僕だって、ここから出るために、君たちを利用させてもらう。
あんまり大きな物体はエナジーにくるからやりたくないんだけど…
「『アンロック』指定中!」
これでいいんだよね。
オボロくん。
△△△
身体が軽い。
レベルを元に戻してくれたからじゃない。
もっとずっと、エナジーなんか関係ない生まれつきの肉体が、恐ろしく軽快。
「『日照』」
「うぐっ、眩しい!! 君はそうやって、自分の輝きをひけらかして、僕をもてあそぶんだ!」
「違う!」
心だって、軽快だった。
今からかける言葉は躊躇わない。響かなくても、怒られても、愚図でも、何回だってやり直す。
成長しなおせばいい。
今の、カナトみたいに。
「あなたが応援してくれたこと、掛けてくれた言葉、私はすごく嬉しかった。私が、『私』でいていいんだって心から思えた」
「だったらどうして! 僕のことを!」
「ごめんなさい。でも、それが『私』だから。嫌いになってくれてもいい。好きでいてくれるなら、またあなたのためにも頑張る」
「そんな屁理屈が許されるとでも思っているのか! やっぱりあの男なんだな! あいつが、僕の、僕の、たった一人のお姫様を奪ったんだ!!」
彼の怒りは鎮まらない。
もう、決着をつけるしかない。
家柄もあってか、私は、無駄に顔が広い。『太陽』を求める役所の人たちが煩わしかった。今の司祭玉の先祖が開祖した『陽月教』の勧誘だって何度もされた。
そんな煩わしい交友が、今になって役立つなんて。
火野エンジ。
他校の生徒の情報もちゃんと頭に入っている。
「カナト、強化解くわよ! 死なないで!」
「ああ、任せろ!」
相棒の威勢のいい言葉にうなずき、力を溜めて構える火野エンジの炎に、私の『陽光凱歌』を注ぐ。
「うおお!? 俺の炎が闘いの中で進化してやがる!! さすが俺! 主人公!」
違うけど、訂正はしない。彼はムラッ気のある人物。それも把握しているからこそ、高まったモチベーションに水を差すような真似はしない。
「やっべ、そろそろ『Lv1』になる。…テリヒメ!」
「『陽炎』」
背を向けて撤退するカナト。そこに飛んでくる土塊を聖炎の放射で消し飛ばす。
「あっぶね、助かったぜ。やっぱ俺にはお前が必要だな」
「はあっ!? ちょ、ちょっと、今ふざけたこと言わないでよ!」
「真面目に言ってやってんのに。てか、なんで顔赤くなってんだよ?」
「うっさい」
バカ。
「…なんか知らねえけど、まあいいや。あとは頼んだぜ! 髪の毛赤いの!」
「おう! 任せろや! お前らの労力も努力も、俺がきっちり生還させてやる!」
『陽炎』で通り道を作ると、足裏にためた火のエナジーを爆発させて、一気にミドロさんの巨体へと直進。
「くらえや! 俺の超必殺究極アルティメットハイパー奥義!!」
そして、最近見た『やきゅう』の『すいんぐ』の構えを取り、棍棒を振るった。
「『超火力熱血満塁弾』!!!!!!!」
咄嗟の土の防御が、棍棒の炎に触れた瞬間、すさまじい勢いで爆発した。
世辞なく、高火力。
私の強化があるとはいえ、『Lv27』が出していい威力じゃない。
鍵先輩の『アンロック』が間に合っていなければ、ドームに閉じ込められていた私たちまで巻き込まれていたのでは…。
「ぼ、僕のスキルが間に合ってなかったら、お椀の中で僕たちもバラバラだったじゃないか!! ちょっとは手加減してくれよ!」
口に出していったのは、半泣きの鍵先輩。
「ドームのほうがいいだろ。雰囲気出るし、観客も盛り上がる」
ひぃひぃ、と肩で息をする火野。約5分ぶりの夏空を見上げ、瓦礫と土塊の山と化したコンクリートに、仰向けに倒れこんだ。
それを見届けて、弾かれたように探し始めた。
カナト。
『Lv1』に戻った彼。『太陽』を持つ私とは違って、火に耐性なんてない。
「カナト…」
いない。
闘ったメンバーで、彼だけが。
「返事してよ…ねえ…ねえってば!!!」
嫌だ。
呼吸が苦しい。
嫌だ。
嫌。
「んだようっせえな」
「っ!?」
振り返ると、『Lv37』の藤井カナトが、眉根を寄せて私をにらんだ。
「間一髪の原点回帰。でも、今までとは真逆。『防御全振り成長』で難なく乗り切ってやったぜ」
「…もう!」
「頭をグーで殴るな。…でもまあ、こっちは一件落着だな」
図々しくて鬱陶しい、私にとっての『特別』が、意気揚々とグータッチを求めてきたので、仕方なく、でも喜んでこちらの拳を合わせてやった。
って…。
「カナト!」
「…わりい、ちょっと気分悪い」
『急成長』後のインターバルを無視して、無理やり再度の『急成長』をしたカナト。その反動で壁に手をつきながら、全身が地面になだれ落ちる。
頭上の『Lv37』は、あっという間に『Lv1』にリセットされた。




