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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第三章 太陽とメスガキと夏休み
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Lv30 身の程知らず

エナジーが欠乏し、立ち上がることすらもできない中。


現れたのは。


「総攻撃だ」


頭上の『Lv1』。


恥の冠を被り、空気の読めないそいつは図太く笑った。


「ってことで、テリヒメ!」


「分かってるってば!」


カナトに呼ばれた『Lv14』の女は、錫杖(しゃくじょう)を構える。


蒼穹の瞳。黄昏色の髪。


彼女の持つ『太陽』に呼応し、先端には聖なる炎が揺らめき、


「『陽炎(かげろう)』」


錫杖から揺らめきながら直射する炎。一般的な『炎のエレメント』の技と大差ない。


が。


「キシャ!?」


その輝く炎は、ミツキを閉じ込めた『影檻』を、蒸発させるようにかき消した。


「ミツキ!」


回復したエナジーで、最高効率の氷の路線を作り、滑走。


中空から落ちる幼馴染を受け止める。「ありがと」、と掛けるべき相手の違う言葉を聞き流す。


心臓を搔きむしられるような悔しさに蝕まれる。俺が、こんなやつらに手こずらなければ。『太陽』なんて無くても。蛇塚ウロコを殺す。魔物も殺す。魔物のいない世界を。娯楽感覚のクズに消されない命を。兄さん。


「リョウ!」


本当に身勝手な声がずかずかと、我が物顔で俺の思考に割り込んでくる。


「お前には絶対、負けねえからな!!」


そして、敵前で堂々と目を逸らすバカ。


「今まで何してたんだよ」


「へっ!」


まだ笑う。笑っていられる身の程知らず。


「どこの誰とは言えねえ約束だが、遥か彼方にいるメスガキに稽古を付けられ…いや違う、あのメスガキを色んな手法でボコって遊んでたってとこかな」


「あの子じゃなくて、カナトがボコボコにされたんじゃん」


「うっせ」


そう言って『太陽』の女の頭を軽く叩く。


「そういうお前は泣きべそ搔いてたくせに」


「はあ!? それ、いま言う!?」


なんだ、こいつの表情から出てくる余裕は。それに…。


こいつ。


この数日で何があった?


「テリヒメ」


紺野ヨウコが『太陽』の女に呼びかける。


「よく帰ってきた。アタチの大事なチームメイト」


「…ヨウコさん。いままで迷惑かけて、ごめんなさい。でも、もう大丈夫。このテリヒメ、完全復活です!」


遠征のときは項垂れていた『太陽』の女も、どうやら本調子を取り戻していた。


「ってことで、行くわよカナト!」


「ああ! この俺が、部隊に大貢献してやるよ!」


意気込む援軍に、さっきまで影の外にいた奴らの士気も高まる。「なんか面白そうなガキどもだな!」と棍棒に火を纏う火野エンジ。「威勢のいい子たちも大好きよ」と弓に矢をあてがう風見フウカ。「オボロくんに楯突いたのも納得の図太さだ…」と指にエナジーを纏う鍵カケル。


「キシャぁぁぁぁぁ!!! イラつくぜ!!」


それと共に、敵のギアも上がった。


戦況を大きく変えられたのは、その時だった。


「テリヒメちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!! また会えたねぇぇぇ!!!!! 今度は、抱きしめて! 絶対に離さないよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


高揚する巨漢からみなぎる、信じられないほどのエナジー。


地面が軟化し始める。と同時に、コンクリートは海のように激しく波打つ。変わる、俺たちの配置。やつはまるで意図していたかのように、加わったばかりの天王寺テリヒメを引き入れるように波を誘導した。


そして、


「『泥椀(マッドフィールド)!」


天王寺テリヒメとカナト、火野エンジ、そして鍵カケルを覆いながら、他の人間と隔離するように泥のドームを作り上げた。


「キシャシャシャシャ。むらっけのある奴が本調子になったな。俺もギア上げてくぜ! 出力最大!『影檻(シャドウケージ)』!」


泥の外側、影の男は広大な影の檻を作り出し、ミツキと紫髪の男、上杉ユウトを閉じ込めた。


「アタチらは外に弾かれたか。あの巨漢、見た目の割に器用なやつかの。結果的に影男に対してぶつけたかった『太陽のエレメント』が…、テリヒメ…」


「くっ…!!」


なんで俺は、弾かれた。


俺なんか眼中にもねえってことかよ。


ミツキ。


カナト。


お前らは、俺が守らないと。


「どけろよ…その炎」


「退かさんかの、滝本リョウ。お前もなかなか生意気な後輩かの」


「くそ!」


囲い込む紫の炎。俺の介入を完全にシャットアウトする。


「お前たち。役員を呼ぶまで、この現状と迷走する一年はアタチが見張る。…頼めるかの?」


「私も闘いたかったけどなぁ。まあ、いいですよ。リョウ君、大人しくしててね?」


風見フウカが返事をすると、他のやつらも大通りへと消えていく。


「頭を冷やせ滝本リョウ。滝本レイジの…、あの人の弟なら分かるはずじゃ」


淡々と、小さく華奢な『妖狐』は、卑怯にも兄さんの名前を出した。



△△△



「テリヒメちゃぁぁぁぁぁん!!!」


忘れることのできない、いや、忘れてはいけない。


半年前の、あの日の出来事。


私を特別扱いする家が嫌いで、『太陽』という立場から離れたかった日々。



△△△



「みんなありがと~!!!」


息切れぎれに、拍手喝采をくれるファンたちへ感謝の言葉を贈る。


清々しかった。


アイドルとしてステージで歌を歌っている時だけが、私が私らしくいられる時間だった。


レベリング式典から3カ月。


やはり、確約された『太陽のエレメント』を会得した途端、パパもママも、お爺様もお婆様も、使用人の方たちも、私を貴重な割れ物のように扱った。


普通の子になれなかった。


普通の子になりたかった。


国の宿命なんて、背負いたくなんかなかった。


『そうそう、お前、なかなかやるなっ!』


そんな私を特別扱いしないでくれた、調子のいい世辞を並べて笑うクラスメート。


飽田ヨウジ。


最初の試験では5名の上位者に選ばれ、生徒会からも声が掛かったにもかかわらず、拒否し、平凡であろうとする変わり者。


『強化(エンハンス)』の使い手。卓越したスキル操作。雑なんて言葉がまるで似合わない超絶技巧。


『その『陽光凱歌(ようこうがいか)』、磨けば俺なんて目じゃないな』


『いいすぎよ』


心地よかった。


彼には、特別扱いしてほしかった。


でも、彼にとっての私は普通だった。


『ヨウちゃん、ね、いいでしょ?』


眼鏡をかけたおさげの女の子。眼鏡をかけて一重瞼の地味な女の子。『殻使い(シールド)』という平凡なスキルを持った、普通の女の子。


『だから学校でそう呼ぶなって、貝塚(かいづか)』


『誰もいないからいいじゃん、ね?』


『はあ、ったく…』


頭を掻き、それでもその普通のスキルの女の子に向かい、顔を少し傾けて、


『ふふっ』


特(・)別(・)扱(・)い(・)した。


嚙み合わない希望と現状。


歯噛みする思いで焼き付いた光景と、あの瞬間の天気、匂い、胸の内側の心拍。


私は…


『また来てねー!!』


アイドルになった。


誰かに特別扱いして欲しかった。宿命づけられた『太陽』じゃなくて、ありのままの私である『テリヒメ』を見てほしかった。


『私(たいよう)』を『ルナ(つき)』と比べて『愚図』呼ばわりした司祭玉も、『私(テリヒメ)』を特別扱いしてくれなかった飽田も、家族もみんな、『テリヒメ』を見てくれなかった。彼らにとっての私は、いつからもいつまでも『太陽』だった。


天高く遠い空に浮かぶ、太陽みたいに、『太陽(わたし)』を見上げた。


望んでないのに、勝手に持ち上げられて突き放される。


1年の12月。


B地区の街の一角。


少し前まで観客が1人や2人だった私だけど、冬のイベントに参加すると観客も増えた。その時も、家名を隠して『テリヒメ』とだけ名乗って歌った。


『来てよかったよ!』


『また来るわ!!』


『次はどこでやるのー!?』


『アンコール!』


ライブは大成功だった。とんとん拍子でファンが増えていった。


弾む心。


やっと見つけた『私(テリヒメ)』の居場所。


なのに…


『ごめんなさい、他の人たちを裏切れない』


私のファン一号・土浦(つちうら)ミドロさん。


成人の彼は、心血注いで働いたお金を、私のためにたくさん使ってくれた。埋まらない席を、人を雇ってでも埋めてくれた。


そんな彼の愛情を、裏切った。


怖くなった。


やってて楽しいアイドル活動は、いつの間にか大きく膨らんでいて。


『ミドロさんのことは凄く大切だよ? でも、他の人たちの愛情を蔑ろにはしたくないっていうか…』


責任を持ってしまい、ありのままに動けなくなった。


あれだけ『テリヒメ』を特別扱いしてほしいからって、望んだくせに。


『なんだよそれ…なんだよ…なんだよぉぉぉぉぉ!!!!』


暴れ始めたミドロさん。


『君! やめなさい!』


激しく揺れる地面。取り押さえる警備員。警備員の発動するスキルをもろともしない巨躯。


『君が始めたんだよね!? 責任も取れないくせに! 人の想いを踏みにじって!!!』


『…ごめん、なさ…』


『謝って済ませるなよ!? 僕がどれだけ君に愛を注いできたか!! それを分かろうともしなかったくせに!!!!』


『ごめんなさい…』


『お前のせいだ』


10人がかりのスキルで取り押さえられた巨体。厚い脂肪で落ちくぼんだ目と放つ言葉(のろい)が、私の精神の核に差し込む。


『お前のせいで、みんな不幸になるんだ。この売女。お前なんか、もう外に出るな。表現するな。みんな不幸になるんだよ! お前のせいで!!』


身体を拘束されてなお、その目は、私の存在から離れてくれなかった。


アイドル活動を辞めた。


2年になった私は、『レッドフレーム』の紺野ヨウコに勧誘された。最初は断ったけど、私の家族が「『妖狐』になら任せられる」と、『太陽《わたし》』を託した。


もういい。


大人しく『太陽』になるのが私の仕事なんだ。


遠征のメンバーに入れられて、拉致られて、Z地区に運ばれて、祈祷でZ地区に抗魔のエナジーを分け与えて。


沈んでいく。


『私《テリヒメ》』としての個が、完全に…


『愚図』


司祭玉と同じ言葉を、身の程知らずの男は言った。


『『太陽』ともあろうお方が、俗物のように振舞うとは。もう少し自覚を持ってはいかがですか?』


あの冷徹な目が、目に焼き付いて、離れない。生ごみの臭いを嗅いだときのような険しい目つきを向けられた。


藤井カナト。


弱いくせに偉そうな男の子。


何にも知らないくせに、あいつは偉そうに、私のすべてを見てきたかのように、ずかずかと私のテリトリーに踏み込んできた。


私はその男の頬を何度も叩いた。

それを謝りたくて『陽光凱歌』で強化した目で、レイナちゃんとの特訓に助言した。


そして…。


祈祷で疲弊しながらも、突如としてよみがえったミドロさんの顔。


連鎖するように、司祭玉、飽田、家族の顔が思い浮かび、…気付けば旅館の外に飛び出していて、真っ暗闇の浜辺、さざ波の音が聞こえて、目から水がぽたぽたと落ちていて、鼻の奥が薄っすらと痛くなって、息が苦しくて、誰かに見られたくなかった。


それなのに、


『おい』


藤井カナトはことごとく空気が読めなかった。


『放して…放してよ!!!』


掴まれた腕を振り払う。…顔を背けて、事情を話すことにした。


アイドルで失敗したことに関して、全てを話した。


どうして、こんなデリカシーのない奴に打ち明けたのだろうか分からない。それくらいに、余裕というものが無かったのか。


『誰も、求めてなんかなかった』


私が自由に、私の好きなように振舞うことを、『太陽』を知る人たちは、誰もよく思わなかった。


そう、私は。


『身の程知らずだったのよ』


身の丈に合わないことをした。ありのままでいられなかった。私が『太陽』であることの役割を放棄した。その結果が、この様。


あなただって分かるでしょ?


遠征であれだけのことがあった。私みたいに無力で無様だった。私以上に打ちのめされた、あなたなら。


『知らねえよ』


藤井カナトは、一笑に付した。


『身の程知らず? ふん』


再び鼻を鳴らした。息ができないくらいに乗せられたこの重みを、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに軽んじた。


『笑わないでよ! どうせあんたには私のことなんか…!』


『分かるわけねえ。当たり前のこと言ってんじゃねえよ』


暴論だ。


そうだよ。こいつだって、『私(テリヒメ)』のことなんか一寸の興味なんてなくて…。


『変えればいいんだよ』


藤井カナトの弱い両手が、両肩に乗ってくる。その目は、誰にも見せたくない私の顔を、無遠慮に直視する。


『何を…よ』


『決まってんだろ』


その醜くも美しくもない普通の顔は、小学生の男子がいたずらを企むように、


『そんな身の程なんて、変えちまえばいいんだよ』


あるいは、金品をくすねる小悪党のように意地悪く歪んだ。


『だから私は、それで失敗して…』


『んなもん知らねえよ。つーか俺がお前なら、いろんなことを好き勝手にやってやるね。気に入らねえ奴を燃やしたり、家の札束を風呂に投げ入れて入ったり』


『最低』


『俺はイージスになる。そのゴールは変わらねえけどな』


肩をつかんでくる両手に力が入る。


『身の程なんて、いくらでも変えればいい。人間、生きてりゃ何回だって、どんな方向にでも成長できるんだからな』


『Lv1』の生意気な熱量が『私(たいよう)』を貫き、『私(テリヒメ)』に突き刺さった。


せっかく戻った心拍のペースが、再び忙しなく、迷惑千万に乱れていく。


まずい。


心が、心の臓が…、何の興味もないはずだったこの男に振り回される。


『って、おい!!!』


刹那。


『おいおいおいおいおいおいおい!!!!』


いつも通りの煩わしい大音量。


『今ので思いついた…思いついたんだよ!!』


『急に何なのよ! …てか、手を放して! か、顔も近いから!!』


どうしてか、急に顔が暑くなる。汗が噴き出そうになる。声が震える。相手を直視できない。力づくでこの最弱男から離れる。


『俺の新しい道。そうだよ、身の程なんていくらでも変えればいいじゃねえか!』


『そ、そう…。よかったわね』


『ありがとな、テリヒメ。お前が自分と闘ってくれたおかげで、俺は強くなれそうだ』


『はあ!? なんで私なんかに感謝…』


そう言い切るなり、茶髪の癖毛の背中はあっという間に小さくなっていき、施設の扉を乱暴に開け、閉めることなくそのまま中へと消えていった。


独りにしてほしかった私を追いかけて、無理やり捕まえて、強引に本音を引き出して、それに対し傲慢な態度で講釈を垂れたかと思いきや、突然自分で勝手に何かを閃いて、すたすたと道を切り開いて、そのまま自分の都合で消えていく。


『どこまでも勝手なやつ』


でも。


あいつを見ていると、胸の内にあった塊のようなつっかえが、蒸発していくようだった。



△△△



「僕は君のことを許すから!! 僕も言い過ぎたから!! 僕と永遠に一緒になろう!! テリヒメちぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


そして今。


無責任な私が作った憎しみと向き合う。


向き合って、闘って。


私は、『テリヒメ』を取り戻す!


「『陽光凱歌』!」


「っ…僕と闘うんだね!! そうやって自分は無責任に僕の愛情を台無しにして…許さない許さない許さない許さない!!!!」


私は、一人じゃない。


だからあんたも。


「頼んだわよ、カナト!」


「言われなくても分かってるっての! いくぜ! 俺の新技ぁ!」


敵に向かいながら懐に入れたスライムの核を潰し、スキルで強化された『Lv1』は、『Lv20』に『急成長』した。


テリヒメは、作者の推しキャラです。

明るい性格の女子で、太陽のように溌溂とした女子。暗い人にも優しい人間をイメージして書きました。


テリヒメの家…天王寺家は、先代の『太陽』(1000年前に『太陽』を授かった)を生み出した千陽(せんよう)家の遠い、かなり遠い親戚なので、家は一般的な一軒家です。

テリヒメが『太陽』を授かることが確定してから、司祭玉や使用人が来たり、イージスと会食に行ったりと、天王寺家は忙しくなりました。ルナやオボロとはその過程で仲良くなりました。


歌がめっちゃうまい。カラオケで99点取ったことがあります。

生意気な8歳の弟が1人います。


作者の推しキャラです。

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