Lv28 こんなやつに
E地区。
かつての首都と呼ばれた地域の、森の木々のように乱立するビル群の中。
「眼福…、やっぱりすごいね。一年生ナンバーワン」
「その言い方、やめろ」
性格もスキルもクールな同期が、僕…上杉ユウトの余計な賛辞に嫌悪する。
始まったインターンシップ。
2日がかりの大型イベント。一年間で見ても最大のアピールの場。これに参加し、役所の人間たちに実力をアピールし、輝かしい進路を確約するチャンス。
イエロースパークでは、僕と轟先輩、そして飽田先輩が代表として選出されたが、先輩方は辞退したので、チーム内では僕だけが参加している。
同期のカナト君や水無月さんが代表として選ばれなかったのは気の毒だし、心細いけど、彼らと親しい人間と同じ班になれてよかった。
滝本リョウ。
あの滝本レイジの弟で、彼と同じ『氷のエレメント』を使いこなし、剣の才能にも恵まれた、まさに傑物。
直前まで20体以上いた平均レベル15の魔物たちが、一瞬にして凍結し、青白いエナジーの粒子と化して消滅した。
「攻撃範囲、精度、威力。どんどん強くなっていくね、君は」
その証拠に、彼の頭上は、一年では最高の『Lv30』。
それに、前に見かけた時よりも、目つきが別人のようだ。まるで、因縁の相手にでも遭遇したかのように。
「リョウくーーーーーん!!! しゅきぃぃ!!!」
不意打ちのように冷徹な彼に飛びつくのは、B地区中学の2年・風見フウカ。意中の男子にあっさり避けられた彼女は、そのままコンクリートに身体を強打する。
「そういう冷たいところがハートに来ちゃうのよ。あなたのハートも、お姉さんに打ち抜かせて?」
「興味ないです」
「んもう、イジワル」
なかなかに癖の強い人だけど、知名度は十分にある。B地区中学の風見と言えば、弓矢に『風のエレメント』を付与する技術に長けた遠距離のエキスパート。
『Lv27』の彼女は、2か月前、Ⅽ地区でも特に凶暴な『Lv39』の魔物を単独で撃破したらしい。それだけ、レベル差を無視した威力を実現できる実力者。
「くそ、調子に乗りやがって、1年」
僕の隣に立ち、愚痴をこぼすのは、D地区中学の2年・火野エンジ。『Lv24』。『火のエレメント』を棍棒に付与し、低身長からは想像できないほどの火力で、D地区ではそれなりに有名。短気でプライドが高いところがある。カナトくんみたいだな、なんて言ったら彼は怒るだろうな。
「オラオラ!! すかしたクソ一年! この俺にも魔物を狩らせよやあ!! てめえばっかり目立つんじゃねえ!!」
「ちょっと待てってお前ら…。何だって僕がこんなエリート班にぃ…。オボロくぅん、怪我しててもこの場所には君がいるべきだったんだよぉ…」
スピーチの時から泣き言を漏らすのは、うちの中学の生徒会監査・鍵カケル。『Lv25』。
そして…。
「カケル、大丈夫だよ。よしよし」
火野先輩よりも背の低い2年生が、項垂れる彼の背中を優しく叩く。
こちらも同じ中学の先輩・箱守サイハ。『Lv19』。交際中の彼とは真逆で、恐ろしく落ち着いている。元々が寡黙な気質に見える。
「後方は僕が守ります」
実力者が際立つけど、全体的にバラバラな班。僕は、鍵先輩たちの温厚と、滝本君たちの積極の間に立つのがベストと判断。
「君は、…一年の、上杉ユウトくん」
「覚えて頂いて光栄です。鍵先輩と箱守先輩の広い視野と冷静な判断、参考にさせていただきます。近接戦闘にはそれなりに自信がありますので、障害となる魔物は僕が倒します」
「イエロースパークにこんな優しい人がいたんだ…、なんか涙が出てきた」
言葉通り、落涙する先輩。
「チームリーダーの轟と言えば、あいつ、あのクズ男、生徒会に提出する書類をいつも期日通りに提出しないし、チームのフロア内で平気でタバコ吸うし、…それで注意したら大声で逆切れするし。長井さんや飽田君たちも、僕の言い方に問題があるんじゃないかって…、うう…マジ無理。轟たちも、今いるあいつらも」
「それは…お気の毒です」
しくしくと泣く先輩の心労を察し、僕の手もまた、先輩の背中に伸びた。
「良かったら今度、お茶でもしましょう」
「ううううう!! 君はなんていい人なんだぁ!!!」
「あっはは…」
いい人なんかじゃないけど、僕は。
△△△
「おい! 生徒会さんよぉ! 次はどのあたりに出る?」
「僕に聞かないでくれよ」
火を使う2年とうちの生徒会の3年が揉めている。
興味ねえ。
眼中にすら入れる時間がもったいねえ。
集中しろ。己で見つけ出せ、標的を。
他人に肩入れして技を鈍らせるな。
蛇塚ウロコ。
あいつを殺すためだけに心血を注げ。
レベルだけじゃない。戦闘力を鍛え上げろ。あいつより低いレベルでも、あいつを確実に殺すための鍛え方を。
遊びじゃねえんだよ、カナト。
俺がイージスになるのは、魔物なんていない、レベルなんて上がらない世界を生み出すためだ。ゲーム感覚で殺戮の起こらない世界を実現するために、俺がこの国を統治する。
もう誰も、理不尽に死なせない。
危険因子は、漏れなく殺す。
『氷のエレメント』を周囲に流動させる。
流れが止まった方向。範囲内の氷が魔物に触れたことを意味する。
「そこだな」
足に溜めたエナジーを地面に弾き、すぐさま、土でできた巨人型の魔物・『メガゴーレム・Lv32』の首に急接近。
流動させていた『氷』を、刀身に集める。
緻密に圧迫し、研磨した氷の刃。
殺傷の切れ味。
このノロマの首元を叩き斬…
「ちっ」
弾かれた。
切れ味が足りない。俺とのレベル差は2。
…違う。
レベルのせいにするな。
練り上げろ、氷を…、氷を…、俺のエナジーを…あんな土塊を簡単に切り落とせなければ、『あいつ』の首なんか斬れない。
「なんだよ…」
脳が痺れる。
視界が狭くなる。
息が、苦しい…
エナジーを放出し過ぎた。
重苦しい酩酊。目の前の世界がイカれるような錯覚。
全長10メートルの拳が、大岩のように降り注ぐ。
「ロック範囲指定! ロック!」
ぶつかる直前、生徒会ナンバー3の鍵カケルが、人差し指と中指を銃口のように向け、何かを止めた。
「はっ早く退かしてくれ!! ご…5秒しか持たないからぁぁぁ!!」
スキルを使った時とは真逆の焦燥で、俺への衝突を危惧する忙しない男。
「はーい。私の未来のダーリンに傷なんて付けちゃダメよ。ゴーレムちゃん」
横から放たれた風の矢が、その巨岩めいた拳に突き刺さり、内部から凄まじい勢いで爆発する。俺の身体を包む風が飛散する石礫を防いだ。恐ろしい精度。攻撃範囲はミツキが上だが、圧倒的に、密度が違う。土属性の相性なんて、まるで相手にしていない。
そして…。
「火野先輩、溜めててください」
「ああん?」
「僕が撹乱します。そこに、この班随一の攻撃力をお見舞いしてください」
そう言い切るなり、俺の横を音のような速さで過ぎ去り、目標へ向かう上杉ユウト。『Lv13』。
その化け物じみた速度はそのままに、巨体の身体中を駆け巡りながら、手に持った二刀の短剣で小刻みに傷をつけていく。
やがて、俺の隣に戻り、俺の肩を持ったまま距離を取る。
「へへ」
火の2年が準備を終えた。
「そーだよ! こういうのだよ!! かわいい後輩っつーのは!!」
踏み込み、飛んだ地面が、強火の火力で破裂する。
「この俺の、真・超必殺究極奥義!! 『炎上覚悟の大爆砕』!!」
火を纏った棍棒が頭部から直撃すると、『Lv24』とは思えないほどの威力で、炎が爆発。そのまま『Lv32』の巨体をバラバラにし、消滅させてしまった。
「よっしゃあ!! レベルアップ! …ジャンプアップはやっぱり全身に堪えるぜ…、いってて」
手柄を奪われた。
幼児のようにはしゃいだ2年の全身を、消滅した魔物の莫大なエナジーが包み、『Lv24』の頭上が、『Lv27』へと変化した。
「『生徒の皆さん』」
ビル群に設置されたスピーカーから職員の声が流れる。
「『本日のインターンシップは終了となります。魔物と戦闘中の生徒は戦闘離脱・または近くの役員に速やかな連絡をお願いします』」
あと一体。
いないのか。
「おい、1年」
薄っすらと熱い肩に手を置かれる。
「手柄奪っちまったのは悪いけどよ。明日は俺がアシスト中心で立ち回ってやるから、キレんなよ?」
その馴れ馴れしい手を弾くと、「おい」と、てめえの用が済んで余裕めいた目は怒りに染まっていく。
「あんたはいいよな。気負わなくていいんだから」
「だから俺が悪かったっつってんだろ! 第一、あのゴーレム相手なら爆発系の攻撃を加えた方がチーム全体で見てもいい判断だろ! 無理に斬撃でどうこうするのは非効率だ!」
「無理だと…?」
「ああそうだよ。…つかさっきからなんだよ? やんのか一年」
お前ごときが俺に怒るのか?
誰でも経験できそうな、平凡な痛みしか知らないようなやつに、俺の何が分かる?
大した期待も、希望も持たれたことのない、軽い人間が。
「はいストップ」
今度こそバラバラに切り刻んでやりたかったが、風による邪魔が入った。
「リョウ君も火野も喧嘩しないの。リョウ君はせっかくの顔が台無しだぞー。火野はあんまり変わんないから構わないけど」
「どういう意味だよコラー!」
「どういうって、…ぷっ、ふふふ」
「風見! やっぱりてめえは嫌いだ!」
風使いの女がヘイトを分散させる。余計なお世話だ。せっかく、あの夢見野郎に現実を叩きつける好機だったのに。
「僕は火野先輩はモテる人だと思いますけど。かなりの手練れだとお見受けしました」
「おお! 分かるか! ええと、上杉ユウト! お前いい奴だな! 連絡先交換しようぜ!」
「ユウト君って器用なコね。火野の顔面の酷さからさらっと論点変えちゃうなんてさすが」
「み、みんな早く帰還しようよ!! 早く帰還しないと僕がオボロくんたちに睨まれるんだからぁ!!」
1日目。
俺は雑魚しか倒せず、手柄をまんまとこんなやつに奪われてしまった。
何をやってんだ、俺は。




