Lv27 隙アリじゃ!
遠征襲撃事件から数日。
カナトとテリヒメがZ地区に幽閉された一方で…
E地区。
かつて、この国が『日本国』と呼ばれる時代から首都だったこの場所。
夏季インターンシップ。
A~F地区…住民平均レベルの高い『上位地帯』と呼ばれる地区。その中の中学生たちでも、特に実力を持つ者たちが選抜される恒例行事。
「ええと、そんな感じで、まあ、テキトーに、いやテキトーはまずいだろ」
そんな大規模な行事の司会を任された鍵カケル…僕なわけだが。
壇上の下にいる500人以上の聴衆たちの前で、心臓が胴体の中で暴れ回るような錯覚を覚える。
ああ、なんだって僕がこんな仕事を~!
本来ここで指揮を執るはずだった会長、オボロくんは怪我で欠席。副会長の大城さんは『銃撃隊』からまた依頼が来て欠席。
これも全部、滝本先輩をやったヘビ先輩がまた暴れ回ったせいだって言うし。
「なぁに緊張してんだよ鍵ぃー!」
「お前だって生徒会の3番手なんだから誇り持てよー、ぎゃはは」
ニヤニヤと、クラスのやつらが茶化し交じりの声援を送ってくる。『ぎゃはは』って汚い笑いが涙腺を刺激する。
もう限界だ。
そんな時、壇の下。紺野ヨウコの3列後ろの『彼女』と目が合う。
子犬のような可愛らしい目を向ける、どこまでも愛くるしいやつ。
僕がこの世で最も愛する、最愛の存在。
うおお、サイハぁぁぁぁ!!!
最近できた、愛しの彼女!!
「テキトーなんかじゃ終われねえよな! みんなでイージスになろうぜ!!」
拳を強く引き締めた、腹を揺らす声。
よし!
…。
「おいおい、なに言ってんだよ」
「イージスは1人しかなれねえぞ~」
「顔真っ赤だぞー」
「緊張しちゃって、鍵くんカワイイ~」
ああ、やってしまった。
△△△
インターンシップは、5人以上の班を作って行動することになっていて、あらかじめ振り分けも決まっている。
『A地区1年・嵐ミツキ』、私の名前は一番下に書いていて、あとの4人は上。みんな先輩だ。
出来ればリョウと同じ班が良かった。あれからリョウの様子が少しおかしい。
リョウのお兄さん、レイジさんを殺した相手が、まさか私たちと同じ学校のOBだったなんて…。
それにカナトだって行方不明で、当然ながらインターンシップの選考の名簿にも名前が無かった。…喧嘩別れしたままで終わらせないんだから。
「数日ぶりじゃの」
振り分け表の一番上。実質上の指揮役として名が載った『A地区3年・紺野ヨウコ』が、その妖狐らしい耳を立て、健在だと言わんばかりに笑みを作った。
「紺野先輩」
「鎖の外傷も消えて快調。オボロほどじゃないかの。…お前の方は大丈夫かの?」
「はい。特に怪我はしなかったので。エナジーの欠乏で丸一日寝ただけです」
「そうかの。数日前はお手柄じゃったかの。あの風が無ければ隊はそのまま壊滅していた」
「いえ…そんな」
私の気落ちを見抜いた彼女の気遣いが、逆に息苦しい。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
普段から広く戦っている私が、敵の初動に気を配っていれば。
撒かれたあの粉が、無策に撒かれたものだと思い込まなければ。
会長たちに風を付与していれば。
「隙アリじゃ」
「きゃっ!」
突如だった。
私より小さな先輩は後ろに回り込み、手を伸ばし…。
「ちょっ…紺野先輩!?」
小さな手に、胸を鷲掴みされた。
そのか弱い身体を慌てて振り払った。
「ああ…すまんの…」
奇行を謝る先輩は、ばつが悪そうに目を逸らす。
「こういう時はユミコ…大城がこうやってスキンシップをしたらいいって言ってたものじゃから、鵜呑みにしてたかの…」
「副会長が…、もう、そう言うことだったんですね」
ビックリした。
少しだけ不快にもなったけど。
「ありがとうございます」
可愛らしい耳を垂らして落ち込む先輩を見て、少し和んだ。
「私を元気づけてくれてのことですよね!? そういう意味なら、ありがとうございます!」
嬉しかった。気にかけてくれることが。
「嵐…」
「ミツキでいいです! 『嵐』って言う苗字、気に入ってますけど、気象と同じ読みで戦闘中は紛らわしくなるので」
「いい子じゃの、ミツキ。アタチもヨウコでいいかの」
「はい! ヨウコさん!」
やっぱり私、相手の気持ちに繊細な人は大好きだ。
あのおバカな幼馴染たちにも見習ってほしいわ。
「なんや、内輪が強すぎやて、入り込みにくい空気やのぉ」
「でた」
「ヨウコちゃんはホンマ冷たいのぉ。昔は、よお遊んだやん。あん時みたいにコンちゃんコンちゃんって、引っ付きなはれよ」
「どうやら骨身まで燃やされたいみたいじゃの、コンジ」
紫色の髪をした、いかにも軽薄そうな男。とにかくチャラそうな男は、耳たぶに付けたピアスを指で撫でる。『Lv26』
「おおきに。ヨウコちゃんに燃やされるんなら大歓迎やで。その身を『太陽』に焦がされるのと同義や」
「私のチームに『太陽』がいることを知った上での狼藉か?」
「もちろん知っとるで。誘拐されたんやろ? なんやようわからん『Lv1』さんと一緒に。F地区の生徒会でも大々的に取り上げられてたで?」
無駄に整っているが、やはり軽薄なイメージしか持てない男は、
「まあ、しっかし」
実に不快な目でせせら笑った。
「『太陽』は分かるで? あれのエナジーはオボロくんとこの妹さん同様、神聖そのものや。地区にエナジーを蓄積すれば、その土地の強力な魔物も一瞬で消し炭にできるほどの抑止力。…でも」
自分の『Lv.26』の数字を指したのも、歪む口も、その後、彼が何を言いたいのかも、容易く予想できてしまった。
「『Lv1』はないやろ! 敵さんらは何が目的やねん!」
腹を抱えて笑う男の、邪悪な笑み。
全身が震える。
怒りに震える、とは正にこの事なんだろう。
息のリズムが乱れる。
「聞いたところ、特に目立ったスキルもないようやし。…1年でもこの時期で『Lv1』はないて! 飛んだビビりもおったもんやわ。俺が逆の立場やったら、先輩にでも媚び売って…っ!?」
許せなかったのだろう。
だから私は、『風のエレメント』を出力最大まで手の平に溜め、発射の準備をしている。
こいつの…こんなやつの首くらいなら…
警戒する紫髪の男の発言は、殺意を加速させた。
「なんやキミ、その『Lv1』くんと友達かいな。それとも、それ以上の関係?」
三日月のように細まる目つき。
もう、限界だった。
「ふん、ほんまにやる気やないの。ほな、見せてみい。女の方の大型ルーキーはん」
インターンシップが台無しになってでも、この男を、今この場で…
「ミツキ」
「…でも!!」
「ミツキ」
2度、強く名前を呼ばれた。それだけが私を止めた要因ではないことに気付く。手から集めたエナジーが、何かに介入されて、静かに散る。この人の、『妖狐』の炎が私の手の平に入り込み、『風』を消し去ったのを確認すると、先輩が手を引っ込めて紫の炎を消す。
そして彼女は、男めがけて一瞬で距離を詰め、
「隙アリじゃ!」
蹴り上げた。
「いぃっ!!? …ヨウコちゃん、タマ狙うんはちゃうやろ…」
「貴様のような愚物にはちょうどいい罰かの」
その場にうずくまる紫髪を置き去りに、班員が全員そろったので、私たち紺野班はそのまま目的地へと向かった。
もし、あの場で。
紺野先輩が止めてくれなかったら。
私は、怒りに任せて…。
レベリングしても金的はちゃんと痛いと思います。




