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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第三章 太陽とメスガキと夏休み
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Lv26 ご挨拶

「えい!!」


Z地区の浜辺で、俺とメスガキ、そしてテリヒメは、ボールとグローブを持参してキャッチボールをしている。なぜか。


「今日はオフだよ」と言ったメスガキに、無理やり連れて行かれた海浜公園。オレンジ髪の女が手と足を同じ方向に前へと突き出し、


「ちょっ…おい!!」


大暴投。


これで何回目だ。テリヒメのやつが投げたボールが、俺の遥か頭上を通過し、向こうの茂みへと飛んでいく。


「ああ! ごめん! カナト! マジでごめん!!」


「何回目だよ! 愚図!」


「あー! また愚図っていった! 謝るの取り消し! 早く取ってきなさい! ていうか私の方が年上なんだからね! あんま調子乗んな!」


「この野郎…」


どうやら『太陽』のお嬢さんはキャッチボールなんて庶民の遊びは嗜んでいないらしく、ボールを握ることさえも今日が初めてらしい。


「なるべく早くね、お兄さん。のろのろしてると日が暮れちゃうよ~」


「うるせえ!」


一刻も早くこんなところから抜け出して、スライムでもいいから魔物を討伐したいのに。


でもまあ、こういう時がちょっとはあっても…


ガシャガシャ。


茂みに落ちているボールの、さらに向こうの『フェンス』。


何かが、あるいは誰かが動いたように金属の音がする。


Z地区と、その隣のY地区を隔てる金属の『フェンス』。


レベルを低下させる装置と同じ原理の結界。レベルを持つY地区の住民の襲撃から身を守る術。Y地区とはV、W、X、Z地区と並んで『末端地区連盟』という同盟を結んでいるから、これは念入りな保険だと、メスガキは訳知り顔で説明していた。


蹴破るようなことがあれば地区間どうしで問題が発生するらしい。


で、目の前の男が、それを知ってか知らずか、フェンスを何度も乱暴に蹴っている。


やべえやつだ。


一応、メスガキに言っとくか。


「おーい!!」


俺じゃない。呼んでいるのは多分、Y地区のやつだよな。顔は俺の方を向いているが、きっと後ろにいるだろうやつらに言っているんだろうな。


「そこの、茶髪の癖毛!」


茶髪の癖毛なんて、結構いるし、俺じゃないよな。たまたま俺と同じ髪のやつがフェンスの奥にいる。そうだろ。


「お前だよお前! そこの『Lv1』のか弱い男」


「んだと!」


水棲の魔物に生えるトサカのように立つ黒髪。顔立ちは悪くないが、目つきが悪すぎる。その双眸に浮かぶ瞳孔は、爬虫類の魔物のように細長い。舌も長く、先端が2つに分かれている。


「やっと反応したナァ、『Lv1』!」


急に声を掛けて失礼な奴め。こういう声を荒げながら無自覚に他人を不快にさせる発言をしてくるやつ嫌いなんだよな。


「俺に何の用だよ」


くっそ。ただでさえ面倒な状況に、さらに面倒くさそうなやつが俺に絡んでくる。


「特に用はねえ」


「じゃあ話しかけんじゃねえよ。…つーか」


こいつの頭上を見る。


「そういうてめえも『Lv1』じゃねえか」


「なっ…!!」


男は反射的に頭を触った。


「アァ…やっぱそうかよ…、あのクソアマのせいダァ…」


すると急に落ち着きなく頭を両手でさすり始めた。こいつもテリヒメみたいに弱体化された口か。だが、Z地区以外はレベリングが許されてるわけだし、あのメスガキが何か手を加えたのか…、分からん。


ますます不気味だ。関わりたくねえ。


「何があったか知らねえけど、気の毒にな。俺は早く帰らねえと鬱陶しい奴らに怒りを向けられるからな」


「ちょっと待てヤァ!」


踵を返す俺に向け、再び小うるさいフェンスの衝撃音。


「なんだよ」


「お前、名前はァ?」


「…藤井カナト」


再会の予定も、それを実現する可能性も無いだろうが、不審な男が食い下がるので、しぶしぶ名前を言ってやった。俺がイージスになったら昔の知り合いだと訳知り顔で自慢すればいい。


「カナト、カナトカァ…。いい名前じゃねえカァ」


「別に普通だろ。じゃあな」


「おいおい! てめえどんだけ他人に興味ねえんダァ!?」


「俺は俺の夢で忙しいんだよ。てめえなんかに構ってられねえっつの」


「夢? どうでもいいけど、オレ様はナァ」


他人に興味が無いのはお前もだろ。そう心で愚痴りながら、こいつの自己紹介を聞くだけ聞いてやることにした。


「オレ様はナァ。聞きてえよナァ? 言うぜ、言っちゃうぜ」


「早く言えよ」


同じ文句で自分の価値を勿体着けてくる。うっぜえな。つーかテリヒメみたいに馴れ馴れしいし。


「オレ様はァ、ドラゴン、ダァ!!!」


「…はあ?」


「もう一回言うぜ! オレ様はァ、ドラゴン、ダァ!!!!」


「…」


聞いた俺がバカだった。


「じゃあなー。高尚なドラゴン様」


「おいおいおいおい! ちょっと待てー! ドラゴンであるオレ様がせっかくお前に…」


踵を返す。フェンスを何度も叩く音がするが、もう振り返らなくていいだろう。


ドラゴンって、『龍』のことだろ? 1000年前に現れた『最古の異生物』の一体。

…信じられっかよ。馬鹿にしてんのか。


まあ、あいつも『Lv1』なわけだし、俺と同じように地獄みてえな毎日を送ってる中で、頭がまいっちまったのかな。


「おーい!! おーい!!」


自認『ドラゴン』の、小さくなっていく人間らしい咆哮を聞き流し、俺はテリヒメたちのもとへと戻った。



△△△



「今日は私はオフだから」


メスガキが嬉しそうに言うと、武道場からそそくさと出て行こうとする。


「おい、待てよ。今日こそお前に一撃浴びせて帰るつもりだったのに」


「どうせ今日も無理だから」


「なんだと!?」


「はいはい、ごめんってば」


俺の言葉をコバエのように軽んじ、手で仰ぐ。


しかし、次の言葉で俺は希望を見出した。


「今日は特別に代わりの人が来るし、その人に当てたら返してあげる」


「言ったな」


正直、認めたくないがこいつは強い。強すぎる。


レベリング無しでも『Lv5』の成人くらいは簡単に倒せるだろうし、武器次第では『Lv10』程度も相手にできそうだと思わせる。


今日はそんなやつが退場し、強すぎるこいつの代わりの人間が俺の相手をする。


その相手はおそらく、こいつが俺を連れてきた理由。俺を求める人間。

『ばぁば』と言っていた。


老人。


年月をかけて研鑽した武術があっても、肉体が衰えているなら、機動力とスタミナはこいつよりも確実に…。


チャンスだ。


こんなレベリングの無い不気味な世界から、やっと出ていける!


「ばぁば〜! お願い!」


「ほーほほほほほほほほ!!!」


興奮に興奮を集めたような高笑いが扉から聞こえた。


と同時に。


木製の扉が、悲鳴を上げるようにミシミシと軋む音を立て、ブッ壊れた。


その『破壊』を遂行したのは、俺の背丈、そして俺より背の高いリョウの更に背の高い…老婆。


「おお! レイナ〜!」


武人のような目をしたそいつは、メスガキを一目見るや否や、孫娘を可愛がるおばあちゃんへと変貌した。


「ばぁば!」


「会いたかったぞ〜! ばぁばじゃぞ〜」


「見たらわかる~! 私も会いたかったよ~!」


筋肉の鎧のような胴体に縋り付くメスガキを、剣豪のようにマメの浮き上がった手の平で包み込む。


「おい」


干渉に浸る婆さんと孫に、恐る恐る割り込む。


「そっちのデカい婆さんって、お前の…うっ!!」


ババアと目が合った。


至近距離で。


さっきまで遠くにいたのに、一歩でここまでくんのかよ!


「ほほう、なかなかいい度胸じゃないか」


「ぐぁっ! お…おい…!」


しわがれた声の老婆。締め付けられた首。無重力にさらわれるように、そのまま軽々と俺のことを持ち上げた。


なんだよこのパワーは。このババアもレベリングしてないのに!


「ぐぅぅ…!!」


やべえ、このままだと。


死ぬ!!!


「っはぁ!!」


オモチャを丁重に扱うように、握られた命がそのまま床に降ろされた。


「初対面のご老人に『デカい婆さん』とは、ずいぶんなご挨拶じゃないか、小僧」


ニンマリと顔に刻まれた皺が、また一段と深く沈んでいく。


「やはり、あのバカが引き取って育てたというのは本当じゃったか」


一つだけかけた歯並びが、無邪気に笑う。


そして老婆は、まるで自分がこの世の全生物の頂点であるかのような面構えで俺に顔を寄せ、さらに突拍子もなく俺に言うのだった。


「儂の名前は菱田(ひしだ)トヨコ。お前さんを引き取り、育てた男、藤井ジュタロウの姉」


「おい…いま…なんて…」


「一度で聞き分けんか。やはり、あの男に引き取らせるのが間違いじゃったんだ。育ちの悪い土壌で育った哀れな蕾よ」


父親も母親もいない、そいつらの顔も知らない俺を、たった一人で育ててくれた爺ちゃん。


その、姉。


「まあよい。その蕾をこれから儂がきれいに開花させれば良きこと。その反抗的な目は気の強さとして評そう。今からでもかかってくるとよい」


「ああ、いいぜ!」


次は手加減しねえ。壁に掛かった武器から木剣を探し、取る。


「おにーさーん」


メスガキが去り際に一言。


「言っとくけど、ばぁば、レイナより強いから」


「ほほほ! レイナ、命知らずの男には良い忠告じゃ。判断力を磨いたのう。お前はずっと、Z地区と儂の自慢じゃ」


「えへへ。褒めても何にもでないよ」


このババアにしてこの孫あり。


「呑気に笑ってられるのも今のうちだぜババア! 俺だって、もうここに来て一週間は経つんだ。甘く見てると怪我するぜ…って、ちょ、おい!!!」


嘘だろ。


また一人。


俺より強い人間を、この世で見つけてしまった。


クソ!


「ほほほ! こりゃあ滑稽。レイナの言う通り、重心が丸見えじゃ。ジュタロウのバカは武道の一つも教えんかったか」


また俺は誰かよりも弱いことを、床に叩きつけられた背中の痛みと共に痛感するのだった。


「これならスライムを相手にする方がまだ手ごたえがあるわい! かっかっか!」


「クソババア…!」


「ほおらね、言ったでしょ?」


ドアの隙間から首だけひょっこりと出すメスガキ。


「そんなんじゃ、いつまで経ってもここから出られないよ~。ざぁこざぁこ♡」


ああ!! 


ムカつく!!!


今日もカナトはイラついてます。。。

頑張れ主人公。

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