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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
第三章 太陽とメスガキと夏休み
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Lv25 テリヒメ

「あれあれ、もう終わり?」


夕陽の差し込む武道場。


5日目のチャンスが終わろうとする。


俺は今日も、Z地区から出られない。


「歯ごたえ無くなって来ちゃったな~」


またしても一撃すら入れられなかった俺は、その場に座り込み、やられるがままにメスガキに忍耐力のなさを卑下される。


「るっせえよ」


言葉を選べない。


脱力感。


違う。


無力感だ。


一昨日、弱弱しいと思っていた女がキレ散らかして、俺の頬を散々ぶちやがった。2発目を喰らわされた時から、このメスガキの約束を放棄してでも、俺の尊厳を守ろうと、やり返そうとしたが。


なんだよ、あの威力は。


俺と同じ『Lv1』になってるくせに。普通の強化系のスキルじゃそこまでの強さは得られない。


マジであいつは、『太陽のエレメント』だった。…1000年に一度の逸材。1000年前の、初代イージスの妃(きさき)と同じ、一度は滅んだ人類の再建に必要不可欠だったと云われる存在。そんな人間と同じスキルを、あいつが。


「…クソッ」


どうあがいても、俺は弱いままなのかよ。


リョウもミツキも、あの仮面野郎も、俺にない才能でこの俺のことを…。


モチベーションもクソもない俺に、空気の読めないメスガキの声が落ちる。


「おっ、あれは…ねえねえ、もう一回やらない?」


「…やんねえって言ってんだろ」


こいつだってそうだ。


俺のことを弱者扱いして、てめえは上から弄ぶように俺の尊厳を破壊する。


分かってんだよ。


俺が、弱いってことくらい…。


「やんねえと帰してくんねえんだろチクショウ!!」


もうやけくそだ。


壁に掛かった武器…木剣を選び取り、どうあがいても届かない身体に殺意を振るう。


避けられた。


ああ、そうだよ。当たらないんだよ。こんなに必死こいて剣を振っても、まるで俺の今までの努力を否定するみたいに、軽々と避けるんだ、こいつは。


「やっぱり、重心、丸見えだよ」


そして、俺の手首や胸倉を掴んで、真正面に引き落とすんだ。俺の立ち姿から重心を読み取る。後ろに身体を引けば、そのままこいつは両脚で俺の胸に踏み乗り、そのまま俺の背中を地面へと突き落とす。


そうやって、俺は何度も、何度も何度も、違う体勢から、同じ相手から、見下されて…


「もう一本やろうよ」


「…」


のろのろと立ち上がる俺を嘲笑うように直進してくるメスガキ。


もう無理だ。


胸倉に、その小さな手が届きそうになる。


ああ、次は掴まれて前に引っ張られる。この負け方も何度も経験した。


反応できているのに、こいつの手は俺の反応をたやすく超える。


「しゃがめーーーー!!!」


「っ!!」


突如。


急に、声が割り込んだ。


誰の声かと判別する間もなく、刹那、俺は右ひざを床に付けるほど、深々としゃがんだ。


掴まれ、強引に引かれた胸倉。しかし、低くしゃがんだ全身は引きずられない。体勢が崩れない。


「…おっ」


感嘆の息を漏らすメスガキに、一寸の隙なんか与えてやらない。


選べ。


早く、正確に。


こいつの頭部に突き刺さる、避けられない攻撃手段を!


しゃがんだ時に引かれた俺の右腕。そこから繰り出すのは、大きく空気を薙ぐ水平切り…ではなく、手早く仕留めるための、槍のように刀身を突き出す、刺突。


喰らえ!!


…。


向かう木剣の先は、軽々と避けられた。それも、首を少し傾けるだけで、軽々と。


大きく距離を捉えたメスガキは、「すごいすごい!」と手を数回叩いて必要のない賛辞を送ってきた。


「いい突きだったよ、お兄さん! でもまあ、予備動作が見え見えで何してくるか簡単に想像ついたけど」


相変わらずムカつく批評を聞き流す。俺の意識は、別の方向に向いている。


「おい」


「ひっ!」


半開きのドアから見えるオレンジ髪の毛先。


そこの持ち主が、気付かれたことを観念したように目を逸らしながら現れた。


「お、お疲れ」


一昨日の暴力女。


何しに来たんだ。もう一度、俺に何か不運をもたらそうとしたのか。


「また俺に暴行加えに来たのかよ、このアバズレ」


「そんな言い方ないじゃん」


無駄に綺麗な双眸で俺を睨みつける。


流石に今のは余計な言い草だったか…、いや、俺は被害者だ! 当然の態度と言葉遣いだ。…だよな。


「おい、メスガキ。お前が話広げろよ。得意だろ。余計なお喋りは」


「お断りだよん。レイナ、こう見えて空気読める、大人のオンナだから」


「こんな時にめんどくさがってんじゃねえ」


「あのっ!」


暴力女は、オレンジ髪を窓の黄昏でさらに輝かせながら、俺に言った。


「一昨日は、あなたのこと…たくさん叩いて、ごめんなさい!」


そう言うと、深々と、頭を下げた。


心臓が見えない両手で握り締められる感覚だった。


「だからその…、せめてもの償いって言うか。スキルで目を強化して、あなたが勝ちやすくしてあげようって」


「必要…」


ねえんだよ。


そう言いたかったのに、口がうまくひらかない。


クソったれ。


「他人の心配なんてしてる余裕ねえだろ」


こいつだって。


「お前だって、疲れて余裕ねえくせに。いっつも帰ってきたらいびき掻いて寝るくせによ」


「え、ちょっと! それ初耳なんだけど!」


「だからその…」


すらすらと出したい言葉が喉に引っかかる。


「…ありがと、な」


つっかえながら絞り出した言葉をどう捉えられるだろうか。足元から頭の先まで落ち着かなくなるような感覚。


相手の顔を見ると、その相手は、額に冷たい雫を当てられたように目を見開いていた。


「…うん」


こちらと同様、言葉を繋ぐのに必死な様子で、女は会話を紡ぐ。


そして、光り輝く双眸で、その顔は安心したように弱く笑った。


「ありがた迷惑って思われなくてよかった」


「別にそこまで思ってねぇ…」


蒼穹を思わせる瞳に、言葉を失った。


「テリヒメ」


続けて女は俺に伝えた。まるでそれが大切なことであるように、もう一度、「テリヒメ」と伝えた。


「私の名前」


「ああ」


「お前とか、女とかじゃなくて。天王寺テリヒメ。それが私の名前」


これが、俺と『太陽』が、初めて会話らしい会話をした日。


「藤井カナト」


仕方なく、俺も名乗ってやった。


「よろしくね! カナト!」


「いきなり呼び捨てかよ」


距離感掴めねえのかこいつ。


次は不自然な笑みを浮かべ、作ったような抑揚で強引に、ズカズカと物理的にも距離を詰めてきた。


「ああ、…よろしくな、天王寺」


「テリヒメって呼んで! 家名で呼ばれるの大嫌いだから」


その顔は、頬を膨らませて天王寺呼びを全力で拒否する。


「別にいいだろ、天王寺で」


「テリヒメ」


「どうでもいいだろ」


「テリヒメだってば!」


「…」


はあ。


うるせえな。


「…テリヒメ」


「うん! よろしくね! カナト!」


互いの気まずい状況に耐えかねたのか、天王寺テリヒメは、おとといの一件を強引に和解へと持って行った。


「ふぅん。なかなかお似合いだねぇ」


「んだよ」


「べっつにー。面白くなりそうだなって、いろいろと」


黙っていたメスガキは口を開いたかと思えば、ニヤニヤと、きっと余計な妄想を繰り広げていた。

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