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Lv22 ナンバー0

「…ョウ。リョウ!」


目を覚ますと、こちらを覗き込むミツキが見えた。


意識が覚醒していくたびに、背中に明確な痛みが走る。どうやら、もたれかかった木に身体をぶつけたようだ。


「大丈夫? 心配したんだから…!」


急いで記憶をさかのぼる。


何があった。


今、どういう状況だ。


「会長がほとんど片付けてくれたよ」


飽田先輩が割り込んだ。


意識が完全に覚醒する。


「保護者ちゃんの強風作戦であのイカれた粉は全部取りされて、事なきを得た。沼使いのおデブちゃんも伸されて、自由に動ける。だから、今から急いで荷造りして帰還ってことかな」


「…ありがとうございます」


欲しかった情報が手に入る。


しかし、彼ら以外の功労者たちの姿が見えない。


「背中は痛いだろうが、時間が無いから急いで帰るぞ。報告もしないとだし」


「飽田先輩」


引っかかる。


どうして頑なに、彼らの話をしない。存在を確認させてくれない。


「…ん?」


露骨にしらを切るような態度。飄々としているのはいつものことだが、今回は違和感が拭い去れない。


「おい、そこには…」


先輩の制止を振り切り、木々の中から抜け出す。先ほどまで闘っていた高所にまで目線をあげると…。


…。


…。


見たくなかった。


せっかく、『蓋』をしていたのに。


その真っ黒な男は、1年前の出来事を悪びれることなく、1年前のあの日と同じように、無邪気に笑った。



△△△



覚醒した『Lv55』の男は、1年前までは俺と同じ『LV45』だった。


僅か1年で高レベルである45から55に上げるためには、強力な魔物を少なくとも1日に5体以上殺傷する必要がある。もしくは、1つの地区を飲み込むほどの力を持つ魔物を3体ほど討伐するか。


現実感のない事象は、しかし『この男』ならば実現できてしまう。


なぜなら…。


「懲りぬようだな、貴様は」


「久しぶりの再会っつーのに、起きて早々文句かよ。相変わらずつまんねえ奴だよナァおい!」


細い瞳孔がニヤニヤと、命を物色する。


間違いない。


間違えるはずがない。


「一年ぶりだナァ、偽物の月」


一年前。


学校に序列制度があった最後の年。


蛇塚(へびづか)ウロコ。


『ナンバー0』の称号を冠した男。抑えきれぬ凶暴により序列から排斥された、望まれぬ強者。


「それは貴様とて同じであろう。『龍』を夢見て老いるだけの軟弱な鱗よ」


あと数瞬、抜刀が遅れていたなら、全身の骨が砕け散っていたことだろう。


黒々とした鱗を纏った男の腕は、月光で強化した刃で傷一つつかない。


完全に受け止めた。


俺の命を脅かす相手の攻撃は、必ず把握する。攻撃の軌道、戦闘の型、力加減、重心、攻撃の目的、エナジーの偏り。あらゆる全てを思考し、感じ、解明する。


やつの体表の強度が上がっている。無傷。1年前ならば、刀身に触れたやつの鱗は切れ目がつき、出血していた。


「やっぱ、どうしてもムカつくツラだナァ! 一年生からも慕われてねえんじゃねえのカァ?」


間接的な衝撃のみで、仮面は粉々に割れた。


「そういう貴様は変わらず、余計なことに関しては慧眼のようだな」


次は俺の方から詰め寄る。胴体を黒鱗で埋め尽くした男は、腕を引き、迎え撃たんとする。


「『月光閃・九十九(つくも)』」


まずは刺突の連撃で命を剥がす。


「貴様はこの一年、何をしていた」


「おいおい! 命削ってる最中に質問とはずいぶん余裕じゃねえカァ!! 99回も刀振りながら口も利けて強いねえって褒めてほしいのカァ! おにいちゃま!」


「答えろ」


「ケケッ、いいぜえ! お前が立ってる間はお話に付き合ってやるよ!」


剣は心臓に達する直前に、強固な手足に阻まれる。もどかしい。


「オレ様はあのクソ滝本をぶっ殺した! それは知ってるよナァ?」


横に伸びる唇に刃を向けるが、やはり阻まれる。


滝本レイジ。


昨年の生徒会長にして、学内ナンバー1だった男。


純度の高い『氷のエレメント』を持ち、剣術、戦術、人員配置、スキル精度。あらゆる能力に秀でた、まさに逸材。


しかし、あの人の真価は、圧倒的強者でありながらも、その強さに自惚れぬ人徳。


望まない力を持った俺に生きる意味を見出し、素行不良の轟ヒビキや紺野ヨウコをも改心させた。生徒会を創設したのもあの男だった。


その人格者を、この男が何の躊躇いもなく殺した。


ただ、強さを証明したいという下らぬ理由一つで。


「あの野郎、オレ様に殺されかけてるってのに、笑ってやがったナァ…薄気味わりい」



喉元に向けた99回目の刺突は、容易く避けられる。


異常なまでの成長。やつの体表には傷一つ見当たらない。


レベル10の差。いや、『LV50』の上限を難なく突破した者の強度か。


「まあ、あいつをぶち殺してスカッとした話はもういいカァ。オレ様が一年間なにしてたカァ、だろ?」


「『月光閃・三日月(みかづき)』」


遠心力を活かした斬撃を、腕で受け止められる。月光で強化した刃は、鱗を超えるも、切り落とすことは叶わず、弾かれた。


「さっすがおにいちゃマァ! オレ様の鱗にかすり傷をつけるとはナァ」


「疾く答えよ。そして速やかに死にゆけ」


「へっ、ほざけよ。次はオレ様のターンダァ!」


漆黒の鱗を纏う蛇塚の頭部は、蛇の魔物のそれへと変形した。背後からは黒い尾が伸びる。


蛇塚ウロコのスキル『蛇化』。


蛇の魔物に変質できる。主な性能は身体強化、体表の硬化、熱感知。


「ここで寝そべってる雑魚どもの組織に誘われて、…って、いねえじゃん。転移したのかよ。逃げ足だけは早えやつらだナァ。…まあいい、とにかく、やっぱりオレ様だけは違ったって話ダァ。この一年、鍛え上げて、あのオッサンを利用して、オレ様は! なっタァ!! てめえらが鼻で笑ってくれタァ、『ドラゴン』に!!」


「相も変らぬ稚拙よ」


「そのムカつくツラも、もう見納めダァ。今のうちにもっとほざいといた方がいいぜ」


そう言い、項垂れる蛇塚。


黒鱗に纏われた男の頭が、現代ではあり得ぬ存在に変形し、背中には思いもよらぬものが顕現した。


「ぐっ、グギァオオオオオオォォォォォォ!!!!!!」


鼓膜を引きちぎらんと暴れる咆哮が、大気を、木々を、エナジーを、こちらの魂を揺らした。


「つくづく野性的だな。今の貴様に言葉は通じようか」


「なめんなよナァ!」


言葉に反応した男は、鱗同様に黒々とした『両翼』をはためかせる。蛇塚の背中に生えた『両翼』は2メートルの全長よりも少し長く、広い。


その両翼がはためく度に、足元の水たまりが勢いよく弾かれる。


そして―


「しねぇぇぇぇぇぇ!!!!」


凄まじい速度で詰め寄り、単なる『蛇化』では実現できない、鋭利で巨大な爪が喉元に迫りくる。


刹那。


垣間見えたのは、纏う鱗同様、漆黒に染まったエナジー。通常の青白いものとも違う。エレメント持ち特有の変色とも違う。


直感。


刀で受ければ、刀ごと肉体が四散する。


『月光閃・(おぼろ)


「アァ、そういやそんな姑息なマネ。あったっけカァ」


俺に与えられたスキル『月光』。『月のエレメント』とは程遠い微弱な光を、極限まで練磨した奥義。この奥義の精度は、肉体による技能で補うことのできないため、ある意味、習得には最も苦労した。


『月光』による光を極め、自らの鏡像を作り上げる。


そして、


「アァ!?」


この一年で、鏡像による分身を作るだけでなく、己本体の身を透明化するまでに昇華した。


わずか10秒。


不可視の存在となり、無防備な右翼を、


「『月光閃・三日月』」


刈り取る。


切り割いた右翼の端から、大量の血が流れ出し、蛇塚は痛みに悶えた。


不可視が終わる。


依然、やつは胴部への警戒をよそに、翼への激痛に悶え苦しむ。


好機。畳みかける。


肉体変化のスキル。人間離れした存在になれど、急所は常人と同じ。


心の臓。


それのみに、一点集中。


「『月光閃・名月(めいげつ)』」


刀身に月光を纏う。エレメントを持つ者たちが武器に纏うように、月光を纏う。


「『月光閃・明鏡新月(めいきょうしんげつ)』」


もう一つの奥義。


『名月』により纏った月光を刃先にのみ集中させ、その切れ味を何倍も跳ね上げる刺突攻撃。


「その痛みに終止符を打とう。ありがたく受けよ、貴様を安息へいざなう慈悲の刃を」


「へっ…バーカァ」


鍛錬の時でさえ実現できないほどの精度で放たれた突きは、邪悪な鉤爪に握られ、


「死ぬのはおめえだよ!」


刹那。もう片方の邪悪な鉤爪は、俺の腹を貫き、乱暴に穴を空けた。


口内から溢れだす血。


その綻びを目にし、地を強く踏み垂直に跳ねた龍人。


「てめえこそ、オレ様に踏まれて死ぬことを光栄に思うんだナァ!」


頭上に飛び上がった男は、天に挙げた右手を開き、そこにどす黒いエナジーを集約させると、その手の範囲は、大型車両をたやすく飲みこむほどに肥大し、


「潰れろ!!!」


俺の頭上に迫り、





△△△




「あいつだ…」


滝本君が、遠くの高台めがけて直進する。


「リョウ!」


嵐さんがそれを風で止めた。


「離せよ…、離せよ!!!」


足枷のようにまとわりつく風。疲弊した滝本君を縛るには十分だった。


「あいつなんだ! 見たんだよ…、あいつが兄さんを殺した!!」


「でも、待って! 飽田先輩も言ってたでしょ! 私たちは帰還。後は会長たちに任せるって」


嵐さんが諭すと、滝本君はようやく落ち着いた…いや、


「なにもできないのかよ…、クソっ!!」


地面を一度殴るだけで、その後は力を失うように項垂れた。


「ごめんなさい…」


「ルナちゃんが謝ることじゃないわ。それなら私だって、周りを信頼してれば、あの暴風を早い段階で出せた。あの粉が蔓延しきる前に狂乱を阻止できた」


「違います!!! 私の…私のせいで…!」


そうじゃない。


私だ。私のせいだ。


『月のエレメント』を全力で使えば、あの粉を完全に打ち消せた。地面のぬかるみも、無効にできた。


兄様の助けにだって…。


藤井君。


私は、あなたみたいになれない…。


「兄様っ!?」


視線の向こう。


黒々とした大きな『手』が、折れた刀を持つ兄様に襲い掛かり、呆気なく潰された。


「兄様!!」


私のせいだ。


私が生まれてきたから、兄様は『月のエレメント』を持てなかった。


兄様がこれを持っていたなら、死ななかった。


『浸食』に遭った母様だって、死ななかった。


私なんかが、持ってはいけなかった。


「おい! ヨウジ!」


声が割り込んだ。


その声は、刺々しく、荒々しく、最近知った者の声。駆けつけた声。


「ヒビキさん!」


「『強化(エンハンス)』、ぶりぶりにかけてくれや。あの蛇野郎には一発返してやりたくてよ」


「無茶しないで下さいよ」


「ついでに『アレ』も頼むぜ」


「…また勝手に()()()()()んですね。はあ。あんまりやりたくないですけど、事態が事態ですもんね」


イエロースパークのリーダー、轟ヒビキを始めとする援軍が、国家直属の『銃撃隊』とともに現れた。




△△△




「んだよ! しぶてえな。早く死ねよナァ!」


「ふん。こんな荒い手にやられる俺ではない」


「地面に伸された負け犬ガァ。遠吠えどころか虫の息しか吐けねえくせによぉ!」


『月のエレメント』の光を借りてるだけの『月光』が。


本物のドラゴンに成った俺が、偽物のままのてめえをこのままブチのめしてやる。


手を振り上げた。


顔面をぶん殴られたのはその時だった。


「アア!?」


「よお、蛇の先輩!」


短髪の男。身体に電気を纏っている。


すぐに分かった。


「大丈夫かぁオボロ~。おめえ今、めちゃくちゃかっこわりいぞ~」


死にかけの水無月のクソに電気で応急処置を施す。みてくれに反して器用なやつダァ。


オレ様がまあまあ気に入ってたやつ。でも、最終的には滝本のクソの側についたクソ雑魚。


「ヒビキ。てめえ、考え直す気になったカァ?」


「なに言ってんだ、あんた?」


クソ生意気なクソ雑魚が、オレ様を鼻で笑いやがった。


そして。


「俺は後にも先にも、滝本レイジ…あのキザなパイセンの言うことしか聞かねえっつの。あんたみてえな加減も知らねえ魔物以下のヘビ野郎に誰が従うかよ。つーか、俺があのパイセン気に入ってたの知ってたろ? そいつ殺しといてよくも呑気な提案できたよな。相変わらず間抜けなバカヘビ野郎。小学校からやり直したらどうでちゅか?」


「殺す」


躍動しタァ。


全ては、こいつの肉をぐちゃぐちゃにバラすために!


「てめえのスキルは割れてんだよ。電気だけのクソガキ! …っ!?」


このガキは電気を纏うスキルだ。それは間違いねえ。


けど、なんだ。この電気の出力は。こいつ程度の、『Lv45』の雑魚が纏っていい量じゃねえ。今オレ様ハァ、全力で殴っタァ。


なのに。


「こんな俺みたいなガキでも、慕ってくれる後輩ができたんでね。前よりは楽しめると思うぜ! ヘビカス」


オレ様のドラゴンのオーラを受け止めただと。


けど、オレ様の方が強い。その証拠に、こいつの手は纏う電気を貫通して表皮から血を流している。


「っつ…。へっ、見たかよオボロ! 今この瞬間、俺の方がお前よりつええことが証明されたぞ! 仮面が剥がれた顔面ヌードでしっかり見とけよ!」


「…貴様も蛇塚もくだらん。傷一つ付けてみせろ。俺はあの屑の翼に傷をつけた。貴様がやるよりもきっと深いだろうな」


「そりゃ不快な情報ありがとさん。じゃあ俺はもう片方を完全に引きちぎってやるよ」


ぐつぐつと、胃の奥が熱くなる。


ああ、クソムカついてきた。


「この感じ、例えじゃねえナァ…」


「あんだって? 腹から声出せよ、がんばって生まれ変わった『ドラゴン』ちゃん。ついでに火でも吐いてみろよ」


この野郎!!


クソ!


クソ!


クソガァ!!!


「お望み通り、火でもなんでも出してやるよ!!」


この世の大気をすべて吸い込むように息を吸った。


焼き尽くしてやるよ。


ドラゴンのオレ様ガァ!! 直々に!!


「轟、退くぞ」


「ああ!? 今いいとこなのにか!? …ったく、まあ、こればっかはおめえが正しいな。へへん。この俺が肩、貸してやろうか?」


「遺憾だが、傲慢で命を落とすのは愚か。借りよう、その愚者の肩を」


「ほんっと、昔っから素直じゃねえよなお前は」


「貴様には言われたくない。疾く、自陣へと連れてゆくがよい」


逃がすカァ!!!


オレ様自身も少し驚いた。


腹から、食道から、喉から、口から。


炎が出た!!!


黒い炎。


紛れもないオレ様が、出した!!!


どこまでも、地面を、大気を、木々を、焼き尽くす。


このまま。


…。


焼き尽くせ!!!


このクソみてえな世の中をよぉ!!!


「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」



オボロ兄様大健闘。

あとはちゃんと生還してほしい。

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