表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/23

Lv21 覚醒

この世界の中学生は怖いなぁ…。

「さあて、どうするよ。ぶっちゃけノープランだ」


飽田先輩が折り曲げた両肘で『お手上げ』だと肩をすくめてアピールする。


無責任な言葉と軽薄な仕草だが、目は、勝利の道筋を見極めている。


「保護者ちゃん」


「…私、ですか?」


呼ばれたことのない呼称で私を呼ぶ先輩。「誰が保護者だ。しかも誰の保護者だ」と文句をつけたいところだけど、状況が状況なので仕方なく黙って許容する。


「君の風、さっきのより出力上げられる?」


「ええ、はい。でも…」


出力を最大にすれば、制御が利かなくなり、自分は愚か味方全体にも危害を与えかねない。だから普段から制御には気を配っている。今回の場合だと、出力を上げ過ぎれば、粉を吹き飛ばす以上に、先輩たちのハマったままの足を引きちぎることになる。


それを丁寧に、眼鏡の奥の鋭い目に説明すると、「そうか」と小さく相槌を打ち、先輩は再び思案に首を傾ける。


思いついた可能性を潰すようで申し訳ない。


飽田先輩を中心に、再び可能性を熟慮しているが…早くしないと、発狂し始めた他の先輩たちの声が増える。何とか耐えている人たちも、周りの狂乱に息を乱し、やがて全員が、あの粉の餌食になる。


それに、遠くに見えるローブの頭上。『Lv55』の覚醒だけは防がなければ、みんなあいつらに…。


「よし! 最大出力で撃ってくれ!」


「「ええっ!!?」」


隣にいるルナちゃんと同時に、驚愕した。


この人、今なんていったの?


「でも、飽田先輩。さっき私は、先輩たちの足まで…」


「そん時はそん時。足がもげたらそいつらの才能はそこまでだったってことで」


「そんな! 無責任な!」


ある日の生徒会の会議室を思い出す。


水無月会長と、3年の海原先輩が出した名前。


イエロースパークの頭脳・飽田ヨウジ。


スキルは2年で最高精度。銃のライセンスにおいても、拳銃のみならず、散弾銃や自動小銃、さらには取得の難度の高い狙撃銃の資格を持つ。学内なら、副会長の大城先輩の次に射撃力が高い。


そんな逸材は、生徒会の勧誘を4度も断ったらしい。


言ってしまうが、イエロースパークは、彼とチームリーダーの轟ヒビキ以外は、並のレベルの生徒、それもごく少人数で編成された最弱チーム。


そんな弱小にこだわる心理が分からない。敢えて違う道を歩むことで、周囲から特別な存在だと思われたいのだろうか。でも、そんな幼稚な人間にも見えない。


「大丈夫。目的はもっと広く。状況は俯瞰して見ねえとな」


冷静そのものの、落ち着き払った目からは、微塵の冗談も狂気も感じない。真っすぐな目が、自分の策は、ごく当たり前の正しい道理だと訴える。


その目に、嫌でも信じさせられる。


「足はもげないから、大丈夫だよ」



△△△



『第三勢力の介入により、藤井カナトを取り逃しました。パニッシュの意識不明。おそらく、あいつらの仕業でしょうが、任を果たせなかったことを詫びましょう…』


「構いませんよオクト。どうやら貴殿の報告だと…」


彼らが動き始めたか。至極、厄介。


ただでさえ、こちらが命懸けだというのに。


「偽物の分際で…」


無線を切断し、乗り込んできた三人に着目する。


拙者のスキルは正しく機能しているはずだ。やつらの出力する氷・炎・光に干渉…飛んでくる技を重量化で届かなくする。


拙者の前には、チェーンによる鎖、コンフュの粉、マッドの泥が、一方的に相手に向かう。向かっている。はずだが。


「ほう、貴様のスキルは発動対象の『加重』といったところか。その逆の『軽量化』も使えるかもしれんな」


スキルを看破された。それは、さしたる問題ではない。


問題は、純然たる…


「俺の太刀筋も奪えようか」


技量。稀代の剣豪と恐れられる『ヤツ』ほどではないが、悠長に闘いを長引かせれば、我々は確実に距離を詰められ三枚に卸される。


最も警戒すべきは、このLv45の仮面の男だが。


「刺し込め」


頭上に氷柱が顕現する。剣や手を通じた顕現だけでなく、中空にも氷を発動できるのか。才能め。


「いいのう、一年。…アタチも、一肌脱ぐかの」


小柄の女が赤いローブを脱ぎ捨てる。


花柄の和装。しかし、今はそれに一切の奇異を感じない。


頭上についた耳の方に、視線が吸い寄せられる。


「まさか、『妖狐』の…」


「ご名答じゃ」


遥か昔、この世に魔物が存在し始めて間もなき時代。


『最古の異生物』の1匹『妖狐』の魂を継承し続けた一族。


この娘は、その末裔か。


狐娘が操る紫の炎。直撃すれば肉体への損傷はもちろん、その紫の灼熱が体内のエナジーを深く焼き尽くす。


「ねーえー、この状況ヤバくなーい? そろそろこのネボスケ起こした方が良くなーい」


「まだそんな時間じゃねえよ、コンフュ」


チェーンが眠れる『Lv55』を拘束する鎖を動かし、ついに『吸い上げた』。


「起こしはしねえ。だが、ちっと借り物をするだけだ」


「出し惜しみは無しですよ、チェーン」


「わーってるよ。しっかし、気持ち悪いんだよなこの鎖」


『あの方』が改良した鎖が、真価を発揮する。


吸い上げた黒々しいエナジーが、使い手の腕にまで浸食し、チェーンは数秒間、発狂した。


「自我は、ありますか?」


「ああ、何とかな。これがこの男の力かよ。気分が良い」


力を吸い上げた男を、2本の鎖で縛り、チェーンは両腕で残りの鎖を操作した。


…さて。


仮面の男のレベルと剣技。優れた氷使い。妖狐の炎。


この劣勢を、どう覆してくれるか。


そんなことを考える暇すらも、なかった。


長い鎖が、今までにないくらいの速度と衝撃で、固い地面をえぐり取った。


「やっべえっ!」


大型の装甲車が衝突するように、氷剣で受けた少年が後方へと吹き飛んだ。


「滝本! …くっ、スキルも使えぬ」


叫ぶ妖狐の娘は、両足を鎖に奪われ、宙に浮いた。


「不覚」


仮面の男は、見事なまでに反応し無傷だったが、我々は人質を得た。


「アタチに構うな、水無月」


「…言葉に甘えるぞ、紺野」


「ふん、それでいいかの」


中学生にしては達観し過ぎている。高いレベルからして、死に近づく機会が多かったのだろうか。


だが、それは我々も同じこと。


あの方は、今さら妖狐の器など求めてはいないだろう。


第一優先は藤井カナト。その次に、あの月と、太陽。


「こっちも言葉に甘えてぶん回すとしようか。じゃあな、稀少なだけで大して強くない、狐の嬢ちゃん」


チェーンが腕の筋肉を収縮した。


その瞬間だった。


「何事!?」


「はあ!? きーてないんだけどー!?」


突如として、嵐が起こった。


その風は、戦場の全てを飲み込んだ。


見たところ、半径50メートル程か。


それらすべてを、大きな風が吞み込んだ。


風使いの娘か!


これほどまでの力を抑えていたのか。もしくは、能力上昇のスキルを付与したものか。下に蔓延するコンフュの粉たちは、あらゆる方向へと消え去っていく。


…およそ30秒。


立っていられるだけでやっとの風が、広範囲を独占する。我が物顔で鎮座する大旋風、湿地帯の芝や土をも巻き込み、視野も狭窄する中。仮面の男だけが走る。


…まずい!


「チェーンっ! ぐっ…!?」


一歩、土を蹴った瞬間に、その仮面は、拙者に触れられる距離にまで現れ、


「1人」


鈍く輝く刃が拙者の胴体から一気に引き抜かれる。倒れ込む身体に伴い、視野が下に突き落される。


スキルが間に合っていなければ、刀身は重力に落とされることなく、この心臓を確実に貫いていた。


恐怖と出血が、急激に体温を下げていく。


「ちょっーと、ウェイト、なーに刺されて…え」


横たわる視界で、コンフュの首元に打たれた峰が見える。後で、下のやつらに掛けたスキルの解き方を尋問する気だろう。


それ以外は、問答無用で殺される。月光のような薄い金色を纏った刀身が、麺を嚙みちぎるように堅牢な鎖を断ち切っていく。着地した妖狐の娘を見向きもせず、次はチェーンの本体へと殺戮の刃を向ける。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


強化されたチェーンの片腕が瞬く間に切り落とされた。出血の量から、もう絶命したものと判断したのか、仮面の悪魔はすかさず次の標的、マッドへと向かう。


マッドの体格、土属性のスキルから風の影響を受けにくい。最後の頼み綱だった。あの仮面を倒して、やつの泥で傷口を固めてもらい、積み荷にある転移石で帰還すればいい。


ゆえに、今は後方支援に心血を注ぐのみ。


手を伸ばす。


仮面が切りかかる瞬間に、手を握り、残り少ないエナジーで『加重』を発動。


彼奴の全身に100キロの加重。


崩した。


「畳みかけなさい…!」


最大出力の泥で、あの男を生き埋めにするのです!


顕現した高密度の泥。マッドの圧縮した泥は、戦闘機も戦艦も容易く呑み込む。


この男さえ抑えつければ、あとは妖狐の娘と氷の少年に追いつかれる前に転移して…。


「『月光閃・八つ裂き』」


覆いかぶさらんとする泥の塊に左手を差し出すと、戦闘機も戦艦も容易く吞み込む泥は、淡い閃光に細切れにされ、使用者の皮膚にまで切り傷が到達した。


致命傷は避けた巨漢は、しかしその場に倒れ込む。


真上に待ち受けるのは、突き立てた刃。


死など、今さら恐れるはずもないと思っていた。


それなのに。


「チェーンっ!!!」


拙者の身体は、貫かれたあの刃に震えている。仮面を被った悪魔に、怯えている。


「やつを…、やつを解放するのです!!!」


決死の叫び。


死にかけたチェーンに届かなければ、本当にこのまま…。


鎖が外れる。


悪夢の発端となった嵐は、ようやく止んでくれた。


と、同時に。


真っ黒なエナジーを纏った『ヤツ』が頭を上げ、長い眠りから覚醒した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ