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LV.20 矜持

一瞬の出来事だった。


帰還命令の出た俺たちを取り囲む6人の先輩たち。平均して『LV30』前後の先輩たちが、一瞬にして『Lv18』による青白い雷撃に飲まれた。


「ねえねえ! 6人がかりなのに呆気なくない!?」


キンキンと甲高い声を鳴らす小さな男が、触手と化した8本の脚の男に話しかける。


「つまんないんだけど! オクト! 僕やっぱり、あっち行ってくる! ぜっぜんビリンビリンしなかった!」


「なりませんよ、パニッシュ。君はコンフュやウェイトとは相性が悪い。そして何より『あの男』とは。適材適所。拮抗した闘いも楽しいですが、弱い者イジメもなかなか悪くありませんよ、ぐふふふ…」


下半身がタコのような男が笑う。

『Lv35』による伸びる触手は、倒れる先輩たちを置き去りに、俺…ではなく、隣でまだ無気力に立ち尽くす女へと伸びた。


「っ!?」


やつらの顔が固まる。


懐のスライムの核を潰し、『Lv.35』に引き上げ、伸びる触手を切り刻んでやった。痛みは感じてないらしい。それどころか「ほほう!」と笑いながら触手を再生させる。


このまま、戦意喪失の女を抱えて逃げる。


それが最善の選択だった。


…逃げて、どうする。


牧田に、リョウに、…あの仮面野郎に泣いて縋るか。


そんなの出来るかよ!


もう誰にも、弱い者扱いなんてされたくない。


俺だって必要な人間だってことを、あいつらに分からせてやる。


「歯ぁ食いしばりやがれ、チビ野郎!!!」


金髪のチビが手に雷を宿して身構える。


しかし、俺の狙いはタコ野郎だ。実質1対2の状況。嘘をついて、僅かな隙を作り出す。


レベルの高い方を先に沈める。後は、あの『Lv14』の女をどうにか説得して、2人で『Lv18』のチビをどうにかする。


反応に遅れた両者。目論見は上手くいった。


タコの間合いに入りこみ、頭部にこの一撃をお見舞いしてや—


「あっははは!! いいねお兄さん!! 最高だよ!」


「な、んで…」


手足に蒼い雷を蓄えたチビが、真横に近づいている。


虚を突いたのに。


いや違う。


そこじゃない。


ちょっと待てよ。


俺は今、『Lv35』だぞ。


おかしいだろ、なんで『Lv18』のお前がこの距離まで急激に近づいて、俺に追いつくんだよ。


「っははは! だよねだよね! ちゃんと反応してくれないと困るよね!! ビリンビリンしてきたあぁぁぁ!!」


なんで、剣で防いだ俺の身体は飛ばされているんだ!


「だから言ったでしょうに。君の適所は、ここで間違いないのですよ。ぐふふふ」


「ねえ、お兄さん、名前教えてよ」


歩み寄ってくる『Lv18』。俺の頭上の文字に興奮を示すように子供のように跳びはねながら問う。


「うるせえクソガキ。今度こそは本当にお前からぶっ飛ばす」


身体の力を抜いて、一気に地面を蹴る。弾丸のような速度を体感しながらも、身体にそれを馴染ませ、今度こそ、相手にこの一撃をぶつける。


はずだった。


「…嘘だろ…」


攻撃を外した。相手はその小柄をしゃがませ、右ひじを後ろに引く。


これは、瞬く間の出来事。


「まるで素人さんの動きだね」


「ぐっ…」


腹に、小さな掌底が入り込んだ。


と、ほぼ同時に。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


全身全霊を震わせる雷撃が、俺の外から内側を、縦横無尽に駆け巡った。『Lv1』に落ちていない。レベル差が17も開いているのに…、全身がされるがままに痺れる。


「でも楽しかったよ。レベリングのお兄さん」


狭窄する視界。ニヤリと横に伸びる幼い唇を最後に、意識は真っ暗闇へと沈んだ。



△△△



「では、回収と行きましょうか」


案外、楽な仕事だった。


我々に与えられた仕事。藤井カナトと呼ばれるLv1の少年の身柄を確保すること。

余裕があれば、月と太陽を獲得すること。


来た道を振り返ると、蔓延したコンフュの粉末の中で十数人ほどの泣き叫ぶ声が聞こえる。上手くやっているようだ。あとは、あの空に浮かんでいる少数の戦力をチェーンを中心に捌き、撤退するだけ。


円滑な任務の遂行。計画通りはワタクシのポリシー。矜持といってもいいだろう。円滑な流動こそ最大の美徳。


「では、そちらを頼みましたよ、パニッシュ」


「ああ! もちろんだよ!! 僕はすんごくビリンビリンしたんだから! このお兄さんに! 安静になったら施設で毎日手合わせするんだ!! バッチバチにやり合う永遠が僕らを待ってるんだ!!」


子供のようにはしゃぐ少年。まあ仕方がない。実際に子供なのだから。早期レベリング。その英才教育による犠牲者。不運な11歳。


その幼い狂人は、倒れ伏す『Lv1』の少年の襟首を鷲掴みにし、用意した輸送車へと歩き始める。


藤井カナト。


あの方の言う通りならば、本当にこの少年が、大昔、あの『破壊の巨獣』と呼ばれ、人類を脅かした存在の…


「ダメ…」


か細い声に振り向く。


「ダメなんだから…」


直感が、確信に変わった。


黄昏色の髪。


蒼穹の眼。


それら全てに起因する存在を、錫杖の先端に顕現する。


『炎のエレメント』のような偽物ではない。


構えた錫杖に纏うのは、聖なる灼熱の揺らぎ。


「…すばらしい!!」


やはり…やはりそうだった!!


「もう、私のせいで誰かが傷つくのは、嫌だ…」


雲一つない青空の眼に、流れる雫。その一滴すら、煎じれば霊薬に匹敵するような神々しさ。


これが、『月』と同等の力を持つ者。


『太陽のエレメント』。


1000年に1度の異能。


「ぐっふふふふふふ!! 会えた! やはり運命だったのです! ワタクシと、あなたは!! ああ、今すぐに焦がれたい! その太陽に!!! …ぐっ!?」


突如だった。


興奮して絶好調だった身体中の筋肉が、どろどろに溶けていくほどの倦怠感に襲われたのは。


身体を巡るエナジーすらも上手くコントロールできない。


『太陽』の力に、こんなものはないはず。


「なんですかこれは!? パニッシュ!」


咄嗟に呼んだ仲間は、新たに乱入した小娘に、顎を蹴り飛ばされていた。


「ごめんねっ。説明する余裕なんてないから」


気付くと、我々のものとは違う護送車が数台駆けつけていた。


役所の人間たちでもない。


『太陽』の娘も膝を地面に突いて疲弊している。レベルが半分に下がっている。


まさか…。


「逃がすわけがないでしょうが!!」


太陽の娘に使うはずだった8本すべての触手を、そのまま第三勢力の小娘に伸ばす。


そう思い立った矢先。


全身に、全方向から豪雨のごとき量の弾丸を浴びた。


レベルを持つ者特有のエナジーを纏っていないただの弾丸は、弱体化したワタクシの身体を貫きこそしないが、痛みを与えるのには十分な威力で押さえ込んだ。


そのせいで…。


「きゃっ!」


藤井カナトは愚か、『太陽』の娘も奪われた。


黒髪の小娘はそのまま車に乗り込み、窓から顔を出した。


「ついでにこの子ももらってくよ。ごめんね」


「この…小娘がぁぁぁぁぁ!!!!」


妙に整った顔立ちの女は、ニヒルな笑いで舌を出し、ワタクシの矜持をズタズタに引き裂いた。

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