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Lv.19 宣戦布告

カナトが去ってすぐの事だった。


「ほら、鼻水もちゃんと拭き取れ」


「うん、ありがと」


ようやく泣き止んだミツキ。この涙の意味を、あいつは何にも分かってねえ。それがまた、腹が立つ。


「あいつに代わって、あらためてお詫びします。すいません」


「マジでよくできた一年だよなぁ、君たちは。生徒会に入れたのも納得」


イエロースパークの頭脳・飽田ヨウジがおどけた顔をして感心する。


「滝本リョウ。貴様のせいではない。あの馬鹿者に気力を割くな。技が鈍る」


「相変わらずの辛口っすね、生徒会長さんは」


飽田先輩がフォローを入れるが、会長の言い分が妥当だ。


飽田先輩が寛容すぎる。この人は、俺とミツキに続き、カナト帰還の提案に反対した。


会議に参加しなかった人間も、あの場にいればカナトの帰還には水無月ルナ以外の全員が賛成していただろう。


「ようやくあの一年が消えたな」


「なんだよ、最後のあれ」


「勝手にヒーローごっこやってろよな」


「はは、マジでそれな」


カナト。


お前は確かに凄い奴だ。紺野先輩の炎にもすぐに反応して攻撃態勢に移れるほどの度胸がある。スキル以上に、性格が、闘うことに向いている。


だからこそ、気付けよバカ。


もう少し視野を広げて戦え。他人の望みとか、相手の必要も考えろ。


お前に、決定的に足りねえところの一つ。


もう一つは。


「兄様」


涙声の方。女子の中で小柄の妹が、男子の中でも小柄の男を見上げる。


泣いている妹に対し、兄の表情は仮面に隠れて判別できないが、直感で理解できる。


「どうして藤井君が…、テリヒメちゃんが…!」


強制送還の命令が下された2人に異を唱える。彼女の幼馴染である後者はともかく、自分が差し出した手を弾いたカナトのことまで考えている。


「簡単なことだ」


怒りも哀れみもない機械的な声が、淡々と事実を告げた。


「藤井カナト。あの男には元より遠征隊への派遣命令が下されていない。無許可の独断で随行した。チームリーダーの轟にも無断で来たのだろう。次に、天王寺テリヒメのことだが、あの娘はやはり使い物にならなくなった。スキルによるアシストは飽田ヨウジ、目的地での『抗魔祈願』には貴様のみで事足りるだろう」


「そんな…」


「決定事項。現に執行されている。ただでさえ狂った予定を私情で狂わすな、愚妹よ」


「ち、違います!」


去り行こうとする背中は止まった。「ほう」と、普段から口答えの出来なかった妹に意外性を感じるように言葉を待った。


「藤井君には瞬間的な攻撃力があって! エナジーの出力だって人並み以上で! …テリヒメちゃんだって…っ!?」


足元に違和感を感じたのはすぐの事だった。視界に映る兄妹も異変に目を落としている。


地面が大きく揺れている…のではない。湿地帯でただでさえぬかるんだ地面が、スキル、もしくは魔物の異能により、どろどろと軟化している。


その張本人はすぐに現れた。


「外れのようだな」


隆起した地面を見上げる。


同じような黒いローブを纏った人間が5人。痩身から恰幅のいい人間、肥満の巨体まで、さまざまな体格の人間。外見だけで特に目立つのは、象のように巨大で肥満な男もそうだが、味方のはずなのになぜか、腕ごと身体を鎖で巻き付けられてうずくまっている不気味なやつ。


「外れ」と発言したのは、やつらの最後方。スキンヘッドの男。例の鎖で味方と思しき存在を操り、まるで畜生のように前を歩かせている。「ほお、あの時のお兄ちゃんまで居あがるのか」と、飽田先輩の方を一瞥。報告にあった麻痺毒の鎖を操る男。『LV35』


「ねーえー、捕獲対象がいなのにここに5人分も戦力割いてどーすんのー。チェーンのバーカ。やーっぱり、あーたしが小隊長になるべきだったんだよー」


ピンク色のツインテールの女が、舌にのせた飴玉を舌ごと出してスキンヘッドに不平を漏らす。『Lv34』


「ふむ。外れを引いたようですね。しかしこれもまた運命の巡り合わせ。拙者らは、こちらの『月』をあの方への土産としましょう。あちらはパニッシュ殿とオクト殿で十分」


緑の短髪。糸目をした男が片目だけを細く開き、兄妹の方を見やる。『LV28』


「しかし冗談がすぎますぞ、コンフュ殿。貴殿のような小娘が小隊長など、ふっ、笑止」


「なーによこの芝生アタマー! あーたしより年上でもレベル低いくせにー!」


「愚かの極み。貴殿やチェーン殿のような愚者とは違い、拙者は片端から魔物を狩るような品のない行為はせず、スキルの練達を重視した賜物ですゆえ。侮辱されるべきは貴殿の経歴とお粗末なスキル精度ですよ」


「かっちーん。マヂ無理。アタマぐちゃぐちゃーにしてあげよー」


「仲間割れはよさんか。ただでさえ鎖の狂犬が暴れ出そうなんだからよ」


「うっさいハーゲ。死ね」


「はあ」と頭髪のない頭を掻く男。あいつが指揮を執っているようだ。


「ずいぶんと余裕だな、おっさんら」


飽田先輩が口火を切った。「あらー、例のイケメン眼鏡くんみーっけ」とピンク髪のヤジに対し「そりゃどうも」と適当に手を振り、リーダー格と思しきスキンヘッドに声を掛けた。


「大の大人が仲間をぞろぞろ連れて来ちゃって、俺とレベル1のへっぽこにボコられたのがそんなに悔しかったのか?」


「ほざけ、小僧。貴様のことはもう知り尽くした。丁重に可愛がってやろう」


反応するのはスキンヘッド。飽田先輩の言葉を軽々と受け流し、宣戦布告を始めた。


「我々は、『あの方』の命により」


銃声が鳴った。


「カナトだろ? お前らの狙いは」


「飽田先輩!」


突きつけた銃口から煙が立ち上る。それがそのまま、開戦の狼煙となった。


スキルを発動したのだろう。緑の短髪が手を前にしたことで、放たれた弾丸は、直角に軌道を変え、地面に突き刺さった。


「少々異なりますが、部分的には正解です。マッド、出番ですよ」


そして、


「うおおおおおおおおおおおお!!!!」


地鳴りのような号哭。


「いないじゃないか!! また僕を騙したんだね! テリヒメちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


声を掛けられた巨漢が、両腕をあげる。パンのように膨れ上がった顔に、豪雨のような涙がボロボロと滑っていく。


軟化していた地面はさらにぬかるみ、足が嵌りそうになるのを寸前で避ける。


避けられたのは、俺と、ミツキ、飽田先輩、水無月、水無月会長、紺野先輩。

ミツキの風を借りて滞空するが…。


先輩たちの大半が避けられなかった。


「コンフュ、次は貴殿です」


「あーのさー、わーかってることを先回りしていーわないでよー。やーる気無ーくなるんだーからそれー」


次はピンク髪の女が気だるげに動いた。畳んだ右腕が、何かを振りまくように振るわれた。


女の髪と同じ色をした粉末が、物理法則を無視し、ありえないほど広範囲にまき散らされた。高度は俺たちに達しないが、地面にはまった先輩たちは…。


「ワイドウィンド!」


ミツキがスキルを発動し、粉末を除去した、と思われたが。


「なんで散らないの!?」


「滞空しながらも、なんという質量の風。そして緻密。ふむ、素晴らしい」


また緑髪の男が手を差し出す。…スキルを使ったのか。


「それなら私の『月』で…、あっ…」


スキンヘッドの袖から伸びる鎖が、水無月ルナのもとへと弾丸の速さで襲い掛かる。それを兄は即座に反応。左腕で妹を横に飛ばし、


「『月光閃(げっこうせん)湖月(こげつ)』」


抜刀した刀で受け止める。


「お前ら、袖に口を当てろ!」


為すすべなく、紺野先輩が声たかだかに助言を下す。


「ミツキ」


「リョウ、ダメよ」


俺の思惑に先回りして否定するが、そうじゃない。


「大丈夫だ。俺はカナトじゃない。会長、紺野先輩」


頼れる仲間を最大限に活用する。こちらには『Lv45』の会長と、『Lv38』のチームリーダーがいる。


「貴様にしてはいい判断だ。滝本リョウ」


「アタチも同感。こやつらを燃やしたくてたまらん」


「地面の人らは任せな。俺の『強化(エンハンス)』と女子二人できっちりすくいだしてやるよ」


「…はい!」


ミツキに向き直る。「帰ったら一緒に、カナトにお説教しようね」と煮え切らない想いを顔に湛えながら、俺たち3人を敵の集う高台へと風で運んだ。


早く。


決着を付けなければならない。


鎖で縛られた、もう1人の敵。


『Lv55』のあいつが、何らかの理由で拘留されているうちに、カタを付ける。


それに、カナトたちが帰還する方向で、ほとばしる青い光。


カナト。


後で死ぬほど喧嘩してやるから、あんな下らないやつらに負けるなよ。


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