Lv23 悪夢
「すまない。アタチの不覚で、やつらを、…そしてヤツを起こしてしまった」
「ヨウコが謝ることじゃないわ」
私の親友に励ましの言葉をかけるも、がっくりと項垂れている。場違いな考えだから口にはしないけど、その凹んだ狐の耳もキュートなのよね。うふっ。今こっそり口ではみはみしちゃおうかしら。
「大城副会長?」
うっとりした顔を後輩どもに見られてしまった。
咳払いして切り替える。そして、
「あんたたち!! 今すぐ『スナイパー一式』、持ってきな!」
「「「へい! 姉貴!!」」」
三つ子の弟どもに指示を送り、私は所定のスポットに移った。
「持って来やした!」
「ご苦労。一重郎と三重郎、あんたたちは帰還の手伝い。二重郎はスキルで弾薬強化」
「「「へい! 姉貴!!」」」
弟どもが用意してくれた『スナイパー一式』の愛銃のスコープを覗き、標的をあの黒々としたおバカさんに向ける。
「レイジをやっちゃったこと…きちんと猛省してから、さっさとねんねしな。力に囚われた哀れな黒蛇ちゃん」
外す、なんてのは考えてない。
どうやってヘルに送ってやろうか。それだけ考える。
やっぱり心臓をぶち抜く。シンプル。これでいい。
「姉貴! スキル出力、最大に込めましたぜ!」
「ご苦労。もう撃つわ。今夜は蛇肉のステーキよ」
「さすがは姉貴! 早打ちと精密において学内屈指の敏腕銃士! 俺たちの誇り!」
二重郎の調子のいい声援をも力に変えよう。
さあて、蛇塚のバカ。
本当に周りのことなどお構いなしに強さだけを求めて。
ちゃんと覚えてるかしら、私らのことも。
覗き込んだスコープ。円の中心に捉えた、かつての『ナンバー0』。
「ふふ…」
処刑。
魂でそう呟き、弾丸は、龍の真似事をした愚かな蛇の胸元に突き刺さった。
「自己を尊重し、他者を蔑ろにした罪への報いよ。研究所からもらった特殊弾を、とくと味わいなさい」
△△△
なんだこれハァ!?
翼に力が…
入らねえ!!
「ずいぶん調子が悪そうみてえじゃねえか、先輩。肩でも揉んでやろうか?」
「黙れ…」
胸に突き刺さった銃弾。
今、オレ様に起こった事態。
たぶん、体内のエナジー操作を乱すタイプの毒!
あの銃の女か。興味がねえからあんまり覚えてねえが、遠距離から卑怯なマネしやがるから、それがクソうざってえのだけは覚えてる。
「チっ、しゃーねえナァ…」
「逃がさねえぜ」
手に持った転移石めがけて放られた石ころ。ヒビキの野郎の電気を纏ったそれに、転移石は粉々になった。
「終わりだよ蛇野郎。帰ったらたっぷりと電流流して尋問してやるから覚悟しとけや。小便垂らして許しを乞うても無駄だぜ」
「なめるなよ…クソガキガァ!!!!」
動け! 翼!
動かねえなら、オレ様が動かしてやるだけダァ!!!
「おいおい、無理すんなって妖精さん。その弱っちい羽から血がいっぱい出てるぞ~」
「うるせえナァ…てめえら相変わらずクソみてえに群れやがってナァ!」
殺す! 殺す!!
今度会ったらバラバラにしてやるから、それまでせいぜいちまちまとレベル上げてろヤァ!!!
「逃がすかよ、クソヘビ」
間一髪…こんなクソ野郎どもに対して使いたくなかった言葉ダァ!
クソみたいな雷を避け、飛んでくるクソみたいな弾丸を浴びながら、俺はなるべく距離を取り続けた。
△△△
「兄様!」
血。
血がついている。
傷口が血で覆われるほどに、出血している。
いや、いや…
死んでほしくない。
「おい、傷が全然塞がらねえぞ」
「『月のエレメント』でも無理なのかよ」
「レベルがもっと高かったら」
「おい、聞こえるぞ」
レベルが低いからだ。
藤井君と一緒に行った廃墟の授業から、私のレベルは上がっていない。『Lv6』のまま。
闘えなかった。
怖くて。人が、大きな生き物が、死んでいくのを見ると、気が遠のいていく。覚悟も勇気も責任も、全部が飛んでいく。
ダメ…。
嫌だ…。
死なないで!
『月』なんて、もらいたくなかった。
闘いたくない。殺したくない。死にたくない。死んでほしくない。
「ルナちゃん!」
消えゆく意識の中、嵐さんの手が、倒れ行く私なんか…今の今まで何もできなかった、いや、何もしなかった私なんかの身体を支えるのを最後に、残った意識も…。
△△△
『お願い』
動く口元。
『あなただけでも逃げて』
あの夢だ。
逃げるように促した『彼女』の顔は、その口元しか見えない。
ただ、
『あなたと一緒にいられて、楽しかったよ』
その見えないところから、涙が滑り落ちた。
・・・。
いつもの急成長後に見る『夢』。目覚めた先には悪夢が待ち受けていた。
「んん! んんんんんんん!!!」
なんだよこれ!
口が…!
トラックの後ろみてえなところに入れられて、さらに手足も縛られて、口も綿か何かを積めてテープで締めがった。
隣の、さっきまで何の援護もしてくれなかった女がそうなっているから、俺も多分こんな感じになっている。目を合わせると、あからさまに視線を逸らす。少し様子が違うような気がしたが、関係ねえ。お前がビビったせいで負けたんだぞ、オレンジ頭。後でぶん殴ってやるから覚悟しろ。
てか誰だよ、こんなことしたやつ。
「目覚めたんだね、お二人さん」
足が見える。黒い靴、白い肌、黒くて短いスカート。腰に一本のナイフ、そして針を数本装着したベルト。機能性を重視したような下半身。
上から声が落ちてくるとともに、そいつは俺らの目線を気遣ってか、屈んだ。
悪魔の使いような女の顔が、ニヒルに笑った。
上半身も身軽。黒のタンクトップに、黒の手袋。指先部分を覆わないのは腰の針を操るためか。
こいつか。こいつが、俺を…。
「あ! お兄さんの方、いま絶対レイナのスカートの中見たでしょ! んもう、えっち」
こいつだ。
ふざけやがって…。
「ん!ん!んん!!」
は、が、せ。
動かない口で発音するしかねえ。せめて喋れねえと文字通り話にならねえ。
「なになに? ぱ・ん・つ、って? 残念。これはおパンツじゃなくてスパッツだよ。それとも、こっちの方が興奮する? ほらほら~、ミニスカから見える景色は眼福かな?」
「んんんん!!!」
マジでふざけやがって…。
「んもう、お兄さんってば発情しすぎ。ウケる」
ああぶっ殺してえ。
「じゃあ、そうだな。こっちのお姉さんから…えい!!」
「っ! ごほっ!」
黒服の女は、俺を差し置いて隣の女のテープから剥がしやがった。
「いい子ちゃんから剥がしてあげるのが筋でしょ。だってお兄さん、人の話最後まで聞けなさそうだもん」
「んんんん!!!」
「剥がしてほしい?」
「ん!ん!ん!」
「剥がせ、じゃなくて、剥がしてください、でしょ?」
「…」
こんのやろう…
…。
…。
…。
「ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん(剥がしてください)」
クソ!
「チューしてください? さすがにお兄さん、出会ったばかりの女の子にそれはちょっと、ねえどう思う、お姉さん?」
「んんんんんんんんんんんん!!!!!! …っごほっ! てめえ!!! 殺す! ぜってえ殺す!!!」
「やっぱり聞いてくれないじゃん。じゃあ、どうやって殺してくれるの? レイナのこと」
「レベルのないお前みたいなクソガキ、一撃で伸してやる! こんな縄、俺が簡単に…!」
「無理だよ。未成年で『Lv5』までは、レベルのない成人と身体能力変わんないから。飛ばせるエナジーもそよ風並に微弱。例外もいるけど大体がそう。…てかお兄さん、レベリング式典から3カ月は経ってるはずなのに、まだ『Lv1』なの? 強がってるけど本当はビビってスライム1匹も倒せない感じか。雑魚じゃん。ざぁこざぁこ♡」
「ぐぅぅぅぅぅ!!!」
「もう口開けられるんだから会話しようよ。威嚇だけなら魔物でもできるよ?」
このメスガキ。手足が千切れてでも縄を破壊して、そのムカつく言葉を発するきたねえ喉を噛みちぎって、ぶっ殺してやる。
「あ、あの」
隣の女が割り込んだ。てめえのことも許さねえからな。
「おい! つーかお前! お前ならレベルが…」
「はい割り込まなーい。せっかくお姉さんが喋ろうとしたのに自分の都合ばっかり。さてはお兄さん、女の子にモテないってよく言われるでしょ?」
メスガキの戯言を聞き流しながら、ありえない事実に出くわす。
先回りするように答え合わせをされた。
「狂人殺し。私たちZ地区のご先祖が創った、対レベリング人類討伐用弱体化装置」
「はあ? 意味わかんねえよ。てめえこそ会話しやがれ…そしてこの縄解きやがれっつんだよクソ!!!」
「命の恩人になんてこと言うのかしら…、まあいいわ」
「私たち、殺されるの?」
「質問ありがとん、お姉さん。てかすっごく顔も声もカワイイね。…死ぬの、怖い?」
「ううん、別に。死んでもいいかなって思ってる。もういろいろと、うんざりだから」
「てめえ! 勝手に決めてんじゃ…ぐぇっ!」
「だから、うるさいってば。強引に割り込まないでよ」
腹を蹴られた。3発も。屈辱だ。
「こほん。まあ、残念だけど討伐はしないのよね、レイナたちは。…ちょっと地区長さんに『太陽』か『月』を連れてくるよう頼まれちゃって」
「ごほっ…じゃあ俺は、なんだよ?」
「うーん、レイナのばぁばが個人的に用があってね。レイナはお兄さんみたいなバカな人、全然タイプじゃないんだけど」
「じゃあ、私たちは、…その」
「察しがいいね、『太陽』のお姉さん。そう、私たちは今、A地区から車で丸一日のZ地区へ向かってますっ。で、もう隣のY地区の国道。ほら、綺麗な海でしょ?」
嘘だろ。
「おい」
「嘘じゃないよん。窓の外見てごらん」
「この体勢じゃ見えねえよ、クソ」
「お兄さんたちはこれから、Z地区の人質ってことだから、くれぐれもぉ~…」
「ぐあっ!!!」
背中に走った衝撃が、身体中の骨と臓器を強く揺らし、直撃した背中は悲鳴を上げた。
頭皮に痛みを感じる。髪を掴まれた。
それをしやがった女の顔が近づく。ニヒルに歪む顔を引きちぎりてえのに、それが出来ねえのが死ぬほどムカつく。
「勝手なマネはしないようにね。特にお兄さんの方。悪い子はレイナがお仕置きしちゃうぞっ♡」
「くそっ…」
「ああ、そうそう。Z地区には魔物いないから、変な期待しないでね? クソ雑魚お兄さん」
…ああチクショウ。
詰んだ!!
第二章 求めてない
—完―




