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LV.16 負けねえ

俺は、弱い。


魔物にも本能的に相手にされてなかっただろう。『Lv1』だった俺には一切の敵意を感じなかった。少し遠くを飛び回る羽虫のような扱いだった。


人間にも人外にも相手にされない屈辱に細めた視界。圧しに圧した双眸で見つけた光。


機械犬や、野生の爬虫類の殺気に紛れて、宙をさまよっていた蝶形の魔物『レディバタフライ』。薄暗い屋内にエナジーのように青い光の粉を振りまく。


危険を察知すると、身体を半透明に染め上げたり予想以上にスピードが速かったりと、殺気だった魔物達よりも、ある意味では強敵だったが、俺は一振りで仕留めることが出来た。


それも、同じチームにいる、どっかの魔物バカのおかげだ。あいつが魔物の話をすると止まらない。


『急成長』。『Lv30』。


そこから一気に、あいつらの階へと舞い戻り、最弱の一撃。



△△△



自転車が、ものすごい音を立てて激突した後、その中学生は気絶した。


かのように思われたが。


痛みを堪えながら、中学生がすぐさま立ち上がる。


自転車をぶつけられたのは気の毒に思いながらも、俺とクラスメートの多田は胸を撫で下ろし、ぶつけたカナト本人もホッとしていたのに。


そして、側から見ても怯むくらいの剣幕で、自転車の運転手を睨んでいた。


「てっ、てんめえ…、ブッ殺すぞ!!!」


身体はボロボロに見えるが、まだ殺意の炎をメラメラと灯しているといった様子だった。怒りの矛先は完全にカナトの方に向いている。一瞬、それを嬉しく思ってしまったが、カナトがやられれば間違いなく俺たちもさっき以上に酷い目に遭う。想像すると、震えが止まらなかった。


カナトが、怯えながらも虚勢を張った。


「やれるもんなら、やってみろやあ!!」


おい、それは無謀だ。早く逃げろ、バカ!


不意打ちで気絶出来れば良かったが、ついてない。逆に中学生を刺激してしまった。


彼が、今度は火を球状にし、右手を構えた。狙いを定めるように。


そして。


「死ね、クソガキ」


時速120キロは出ているだろう火球が、このバカを襲うが…。


その時、地面から氷でできた2メートルの棘が、火球を防いだ。


この氷の棘にも、見覚えがある。


だって。


「カナトは相変わらずやんちゃだな」


氷の持ち主が、カナトの後ろから、近づく。


カナトの後ろから現れた人物は、俺の兄、滝本レイジだった。


「おっ…、お前は…」


さすがの彼も俺の兄には強気な態度を取れない。なぜなら。


「学内ナンバー1、滝本レイジ…!」


恐怖と呆気にとられた男の前に立ち尽くす、実の兄。


「学内ナンバー1? みんなからそんな風に呼ばれてるのか? 俺なんて、まだまだだよ」


俺とは似ていない切れ長の目を細めて笑った。


「どうする? その目の前にいるナンバー1と立ち会ってみるかい? それとも、俺なんかよりもずっと強い『ナンバー0』でも呼んでこようか?」


「クソッ、調子に乗っていられるのも今のうちだからな!」


レベルの無い俺たちにも十分伝わるほどの殺気に、男はとうとう背中を向けて走り去ってしまった。


「ふふっ、それは楽しみ」


頑固な俺とは似つかない柔軟な笑みでそう言い放った。


藤井カナトは、俺より弱い。


しかし。


俺よりも謙虚で身の程を知っているからこそ、自分の知っている強い味方に頼り、リスクを最小限に抑える。その上で、迷いなく強敵に渾身の一撃を与えられる思い切りの良さ。何者にも屈しない精神力。


そして何よりも、自分の弱さを堂々と認めることができること。


俺のような目に見える才能を持ち合わせていないが、間違いなく、あいつは人の上に立つ男だ。



△△△



「リョウ…」


俺は、手負いの滝本リョウを見下ろしていた。今にも気絶しそうな朦朧とした目つきで俺を睨む。


俺は、言葉は何もかけずに、担任の風のベールに向かおうとした。


その時。


機械犬が、積み上げられた瓦礫の死角、それぞれ異なる方向から3匹飛び出してきた。


「やばいっ…」


このままでは、レベル1の俺は3匹の餌食にされる。


「リョウ! カナト! 逃げて!」


「藤井くん!」


ミツキと水無月の声が聞こえる。


俺は、巨大な魔物を叩き斬ってボロボロになった直剣を構える。


3匹が俺に向かうと同時だった。


背の高い滝本リョウが立ち上がり、3匹のうち、近くにいる1匹に踏み込む。


冷気の纏う剣を、凄まじいスピードで振った。


氷の刀身が、一振りで金属の身体を両断する。消滅。


俺は、目を奪われた。


普段の授業でも見せないような動き。素早い剣筋。集中力を研ぎ澄ませた氷属性の鋭い一撃。


2匹目、そして3匹目をことごとく蹂躙してしまった。


青い粒子がリョウの身体を巡り、あっという間に先ほどの平穏な背景に戻った。今しがた現れた3匹の機械犬の存在が、まるで最初からなかったかのような錯覚に陥った。


「だから…」


もはや気力だけで意識を保っているような幼馴染が、俺に背を向けて言い放った。


「遊びじゃねえんだよ、引っ込んでろ」


リョウは、そう言い切るなり、教師のところへふらふらと歩いて行った。肩貸すよ、と心配そうなミツキの声に、珍しくあいつは応じた。


一方の俺は、ただただその場に立ち尽くしていた。




『一瞬でもリョウを上回る瞬間があった。でも、俺はまだあいつには届かない』

『常に俺は、カナトの上であり続ける、あの日からそう決めた』



『まぐれで現れた蝶形の魔物で、急成長したレベル30の不意打ちなんかじゃ、全然満足できねえ』

『あれはまぐれなんかじゃない。あいつの立派な実力。だから、余計に腹が立つ』



『次やるときは、堂々と闘って、デカイ顔して勝ってやる』

『次やるときは、微塵の隙も見せずに、勝ってやる』



『『イージスになるのは、俺だ!!』』






第一章 強さを求める


—完―


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