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LV.13 天才

この建物が4階建であることが、今は使われていないエレベーターの、入口の真上にあるランプが1から4までしか無いことで気付いた。


今、俺たちは2階にいる。


訓練の残り時間は、あと30分。

俺たちは、さっきの要領で魔物を倒していたが、俺のスキル『急成長』について、いくつか気付いたことがあった。


まずは、レベルが2以上にアップしている間に、いくら魔物を倒してもそれ以上レベルが上がらないこと。つまり、魔物を倒してレベルが20になったとして、その間に他の魔物をいくら倒してもレベルは20のままということだ。


そして、驚くことに、この『急成長』は、連続して発動できない。レベルが1に戻ってから5分ほどの間、俺はいくら魔物を倒して経験値を手に入れてもレベルが上がらない。

牧田と行った任務で、コウモリを倒した後に、謎の男と対峙していた時は気がつかなかった。


この2つは、弱点として扱われるが、もう一つ気付いたことは、弱点でも長所でもない。


それは、記憶。俺のものではない『誰か』の。


『急成長』が終わって、たまに頭の中に映像として流れる。多分、その『誰か』の視点で。


それも、レベルが1にリセットされてから5分ほど経ってからだ。いったいなんなんだ、この記憶は。幻覚の類か。


「藤井くん?」


はっ、と意識を現実に向ける。水無月が隣で不思議そうに俺を見る。


「どうした?」


「いや、何か考えてたみたいだから気になってしまって…」


心配してくれたみたいだ。「なんでもねえよ」と応える。


「そういえば、レベル」


「えっ?」


「8になったな」


迫りくる魔物を天然のベールのようなもので弾き返しまくった結果、彼女のレベルは建物に入る前と後でかなり上がった。当然だが、俺のように1にリセットされることもない。


「どんどん先越されていくな…くそったれ…」


俺は、レベルが8に達したチームメイトとの差に、肩を落とす。「そんなことないですよ」と僕に気休めを送る水無月。


「藤井くんも一度に上がるレベルが、少しずつ増えてるから。そろそろ30に達するんじゃないですか?」


「30か…。そこまで達したらいいんだけど」


俺たちのレベルの上限には、個人差がある。最低の20から最高の100と言われており、20で止まってしまう先輩達や役所の大人をよく見かけるが、どうやら29で止まってしまう人間が多いのが、国の統計で分かった。

上限はそれぞれ、生まれつき決まっており、この上限を超えることは『この時代』の科学では不可能とされている。


だから、俺も不安なのだ。とりあえず、20を超えたは良いものの、その先にレベルが上がるかと言われたら、そんな保証は無いし、第一、俺のレベルは常時『1』なのだ。これこそが一番の問題だと思うけど…。


不安になっていると、隣でクスッと笑う声が聞こえた。


「藤井くんって、意外と考える人なんですね」


俺こそ意外だと思った。彼女は、軽口を叩いたり茶化したりも出来るのか。仲が深まったようで、少し嬉しかった。


「あ、すみません。また私は生意気なことを…」


そんなことはなかった。



3階の大広間に到達すると目を見開くような光景を目の当たりにした。


「うおお! 頑張れ!」


「一掃できたらやべえだろこれ!」


視界に入ったのは、大広間の角を囲う生徒達(多分全員いる)、20匹はいるだろう機械犬の群れ。そして。


幼馴染の学年エリート2人。


20匹の大群がいても、生徒達の数の方が多いから、この場は俺たちが優勢だ。


頑張れ、一掃できたらやべえだろ。まさか、まさか…な。


いや、正気かよ、こいつら。



2人は俺に背を向けた形だ。そして、エレメントの光を身体に纏わせ、技を発動しようとする。


一気に片付けるみたいだ。そう直感する。


青い冷気を長い両手剣に溜める『Lv18』の滝本リョウ。


紫の強風をレイピアに集める『Lv16』の嵐ミツキ。



そして。


「フロストスパイク!!」


「レイジングストーム!!」


リョウが斜め下に向けた剣を地面に突くと、2メートルはあるだろう氷の槍が、突き刺した剣先のやや前方から同じ角度で突出する。


ミツキの周囲を取り囲むように生まれた強風の刃が、金属で出来た魔物の身体を容易く切り刻む。



一気に片付いた。文字通り、一掃。



お約束の拍手喝采。すげえだのなんだの、バカみたいだ。高みを目指さないやつらばかり。そんなやつらに、俺と水無月は見下されているのか。


大技を放ったふうに見えるリョウとミツキは平気な顔をして、どこかへ歩き出そうとする。


残り時間は、10分。


まさか。


「まだやれる?」


「当たり前だ」


「さっすがリョウ」


短い言葉を交わして2人が向かった先は、この建物の最上部である4階。担当の教師にも注意を受けた、致死量の毒を持つ、使役していない野生の魔物。


傲慢だろ。死んでも知らねえからな。


心配してしまう。負けて欲しいと思うけど、死んで欲しいとまではさすがに思えない。


「水無月」


俺も、2人について行った。


彼女は、名前を呼ばれただけで、俺がこれからどうするかを察したみたいだ。


「わ、私も、いきまひゅ!!」


「足ガクガクだぞ。大丈夫、俺がぶっ倒してくるから」


彼女は、不安そうに俺を見つめたが、着いては来なかった。さすがに、教師からも注意を受け、さらには死の危険性もあるのだから、当たり前か。


その時。


建物が倒壊しそうな勢いで、グラグラと揺れ始めた。


足元に意識を集中する。地震…、ではないみたいだ。


その逆、天井が崩れ、大きな生き物が落ちてきた。俺たちがいる3階は、その衝撃に耐えるほど丈夫だったから、少しホッとした。


しかし、その生き物は余りにも大きすぎる、厳密にいえば体長は10メートルを優に超える爬虫類型の魔物。毒々しい紫色の体表に水色の斑点、長い舌。


その爬虫類のレベルは、



「20…」



揺れに動揺していた生徒全員は、さらに動揺する。


俺は、この空間にいる誰よりも、動揺した。根拠は無いが、この魔物は、かなり気が立っているように見える。


その直感は当たっていた。見るからに重そうな身体で室内を暴れ回る。壁に激突しながらも怯まない。


そして、その直後、全身に浮かぶ水色の斑点から、ガスのようなものが噴射された。近くにいた生徒達を覆い被せるように舞う瘴気。


もしかして、これが…。


「ミツキ!!!」


「分かってる!!」


俺の叫びの理由を分かっていたみたいだ。彼女が、そのガスを、強風で屋外へと吹き飛ばす。


だが。


瘴気を少しでも体内に取り入れた生徒が、4人ほど地面で横たわる。苦しそうにうごめいていた。


「あぁぁ…、うぐぅ…」


他の連中は、それを見て、下の階段へ全力で逃げる。横たわる自分たちの仲間など気にもせずに。


「ああああ!! 殺される!!」


「きゃああああ!!!」


残ったのは、毒を受けた生徒達と、リュウとミツキ、そして俺と水無月。無事なメンバーは4人。


横たわる生徒達を守りながら、戦う。


水無月のスキルで治癒はできるけど、その間に、確実に狙われる。


致死量と呼ばれる程だから、せいぜい5分がタイムリミットか。


「下がってろ」


冷たい声を浴びた。それが、リョウのもので、俺たち2人に向けられたものだということに少し遅れて気付く。もちろん、俺は下がらない。当たり前だ。


「はあ、ふざけんな、俺も戦う−」


「下がってろって言ってんだよ。これは遊びじゃねえ」



極めて辛辣で一方的な言い方に、俺は怯んでしまった。確かに、今の俺が戦闘に出ても、何の役にも立たないことは分かる。でも、「遊び」なんて言葉を使われる筋合いはない。


俺は、ただ黙って、憤りに任せて拳を握りしめた。


「カナトと水無月ちゃんは、あの4人をお願い」


ミツキも、そう言って俺たちを突き放す。


「はあ? ふざけんな。俺だって—」


「下がれっつってんだよ。お前がいても意味がねえ」


リョウの剣幕が、先刻の氷のような鋭さを帯びて突き刺さる。


くそっ。


下がってしまった。


氷が解けるほどの屈辱に、全身の血という血が沸騰した。



△△△



昔を思い出す。


いつだって、俺は2人に見放されてきた。


小学5年の時。


リョウとミツキを交え、クラスメートの何人かと公園でボール遊びをしていた時のことだった。


そこそこ硬い、空気の入ったボールを遠くの茂みの裏へ蹴り飛ばしたクラスメート。その責任で、ボールを取りに行かされるが、そのクラスメートはすぐに帰ってこなかったから、少しだけ心配になった。


「おめえがやったんだな!! ああっ!?」


いきなり、茂みの方から怒鳴り声が聞こえてきたのは、その直後だった。


「俺、見てくるよ」


この時から優等生のリーダー気質だったリョウが、様子を見に向かう。「私も」と、ミツキがリョウに続く。他の奴らはみんな、今の怒声の持ち主を想像して縮み上がっている。


「俺も行く」


「お前はダメだ。俺たちで行く」


「なんでだよ! お前らも行くんだろ!?」


「お前が行っても、意味が無いからだ」


なんだよ、それ。足手まといってことか。


リョウの物言いにも、「リョウの言う通りだよ」と自分たちと俺を一緒くたに見るこの情け無いやつらにもムカついたけど、一番腹が立ったのは、何より、リョウの言葉で足を止めてしまった俺自身、俺が行っても「意味が無い」と認めてしまった自分が憎たらしかった。


公園の真ん中で、拳を握りしめて、悔しさに身を震わせていた。



△△△



俺と水無月は、毒に苦しむ生徒達の介抱へ向かう。「死なないで…」と全身と顔の筋肉を過剰に震わせ、涙をボロボロとこぼす水無月が、金色の光のベールのようなもので生徒達を包み、解毒を始めた。


このデカイ爬虫類も習性なのだろうか、圧倒的にレベルの低い俺たちには目もくれない。悔しいけど、それが救いでもあるのは事実だ。


優しい光が4人の身体を包むが、こいつらは依然として苦しそうだ。『月のエレメント』とは言えど、レベルが低いからか、回復力は想像以上に乏しい。でも今は、教師たちが来るまでその回復力を信じるほかない。


…本当に、俺には何もないのか。


行ったって、『意味が無い』のか。


その時。


光に混じって、少し遠くで、何かが飛んでいるのを、俺は見逃さなかった。


あれは…。あの魔物は…。


よし、やってやるよ。


見てろよ、お前ら。



「フロストエッジ」


「エアロコート」


長剣とレイピアが、それぞれの属性に染まる。


2人が、大きな爬虫類型の魔物を見据える。


「秒で片付けるぞ」


「うん!」


剣を振りかぶり、毒ガスの予備動作、ではなく下を伸ばそうとするのを確認し、2人同時に急加速した。


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