LV.12 初めて
廃墟の中は、そう呼ぶに相応しいくらいに荒廃していた。四方に散らばる瓦礫に、穴の空いた壁、ひび割れたものがほとんどを占める足元のタイル。
こんな不気味なところをよく所有地にしたな。俺たちの学校は極めて訓練に臨場感を持たせたいらしい。
先刻、ミツキの言葉に励まされた水無月も、この不気味な感じに影響を受けているみたいだ。緊張感を表情に張り巡らせている。
すると突然。
魔物と思しき生き物が飛び出してきた。
犬や狼のような姿勢。身体は金属で出来た、機械型の魔物。体調は1メートル弱。
3匹のそいつらが、俺たちを見つけるなり、戦闘態勢に入る。俺は、背中からすぐさま直剣を抜いた。
水無月は、やはり立ち止まっていた。人間、すぐに変わるものでもないから仕方がない。ミツキも言ってたように、ゆっくり、出来ることからやってくれたらいい。
だから、俺は。
水無月が少しずつ闘えるようになるまで、守ってみせる!!
って、言いたいところなんだけど…。
カッコつけて直剣を構えたはいいものの、勝てる見込みがない。
レベル6の機械犬たち。
レベル1の俺が、あの見るからに固そうな身体に致命傷を与えることは至難の技だと、試さなくても分かる。だからここは…。
「水無月!」
「はっ、はい!」
「逃げよう!」
「えっ、ええっ!?」
水無月も、俺のカッコつけた構えに騙されたのだろう。闘うと思っていた彼女は肩透かしを食らったように動揺した。
俺は後ろに走り出した。しかし。
3匹のうちの1匹が、猛突進してきた。
予想以上のスピードが、手前で背中を向ける俺ではなく、水無月に襲いかかる。
自分より、力の弱そうな生き物に襲う習性は、機械なのにまるで動物的だ、と場違いにも感心してしまう。
いや、そんなことはどうでもいい! 水無月が危ない!
「水無月!」
機械犬は、あっという間にルナに距離を詰めて、飛びつく。水無月は、きゃっ、と頭部を腕で覆いながら、身体を後ろに反らせた。
「うそ…だろ」
俺は、愕然とした、のではなく、単純に驚いた。
だって、水無月を襲ったはずの魔物が、瀕死のように横たわっていたから。
「やっぱり…」
こいつは、こうなることが分かっていたようだ。
『 月のエレメント』は、『光のエレメント』以上に、魔物との接触を断絶する、抗魔の性質があるらしい。自分と同じ、もしくはそれ以下の魔物の接触を一切断つ。
もしそうなら、こいつは本当に恵まれている。
「サンキュー! 水無月!」
恵まれてない、むしろ呪われているようなスキルの俺は、再び直剣を構える。
「あとは、俺に任せろ!」
天から恵まれないのなら。呪われているのなら。
俺が、その呪いを、力に昇華してみせる!
瀕死の機械犬に縦斬りを与え、レベルアップ。『Lv25』。
レベルがリセットされる前に、残りの2匹に急加速する。
剣先を下に構え、1匹の懐から一気にすくい上げる! 消滅。
もう1匹を次は、得意の水平斬りで仕留める。
バギィッ!!
今までに聞いたことの無いような気持ちのいい破壊音が鳴り響いた。
レベルの差が開きすぎると、その分衝撃も強い。闘っている最中は気にしていなかったが、この廃ビルが倒壊するんじゃないかと、ヒヤヒヤする思いだった。
「藤井くん、今の…」
水無月は、俺の闘いを見て驚いていた。
「牧田先輩から聞いてたけど、本当だったんですね」
「えっ、ああ…うん」
やばい。
目の前の小さい女が震えている。怖いものを見ているように。
あまりの変貌ぶりに、水無月はドン引きしたのではないだろうか、これにもヒヤヒヤした。
次の言葉を待った。
「すごい…」
「えっ」
「すごいです! 藤井くん!」
完全に怖がられると思った俺は、面食らった。まさか、褒められるなんて思わなかった。
「守ってくれてありがとうございます! カッコよかったです!」
俺より頭一つ分小さい、童顔の女の子が、輝かしい眼差しで俺に感謝と賞賛の言葉を送る。
じいちゃん以外の誰かに、こんなに褒められたのは、初めてだ。
「藤井くんなら、この国のイージスになれますよ! 絶対!」
「あ、ああ…ありがと」
もちろん、褒められるのは嬉しいけど、照れるからその辺にしてくれ!!




