Lv124 特権
救護テント。
「まさか、娘に見下ろされる日が来るとはね」
「ふふ、絶景でしょ? お母さん」
ふざけたように海外の単語を混ぜた口調は、この場には似合わない上、少し腹立たしいものがある。
「一重郎たちはいるのかしら? ユミコ」
「ええ、もちろん。私とは違って漢字登録された3人の弟たちは、漢字登録のされていない落ちこぼれの私と狙撃の準備に取り掛かっているわ」
「ふふ、一言余計なものが混じっているわ。早く私に認められたいのかしら?」
「いえ、ただ…」
大胆な娘の顔が不気味に歪んだ。
「お母さんを一日でも早く、軍玉の座から引きずり落としたかったもので。とても喜ばしいのです」
相変わらず豪胆な娘。平凡なスキルはともかく、精神面は評価するわ。
「今、私を殺すとでも?」
「いいえ。あなたには生きてもらいます」
娘はそう言い切るなり、北東…E地区方面に指をさす。
「毎日、漢字登録すら与えられない娘が、あのタナトにトドメを刺した英雄になり、脚光を浴びるのを、敵の策にまんまと陥れられたその愚かな目で見ていてください。片時も、目線を逸らしてはいけませんよ?」
「…言うじゃないか」
笑えて来る。ここは戦慄するところだろうに。
娘は私を、本気で食いにかかろうとする。
「漢字登録なんかいらない。私が欲しいのはいつだって、あなたが座っている軍玉ですわよ? 親愛なるお母様」
私に似て美しい唇を舌で撫でつけながら、私に似て色っぽく笑った。
「ふふ、手柄を横取りにするのが目的なのね。さすがは私の娘。最後は自分の名誉を最優先にする悪いコ」
「お母さん譲りの醜悪な思考よ。ふふふ」
「ふふふ」
お互いに真っ黒な腹を探り合い始めたのは、いつからかしらね。
我ながらに歪んだ親子愛が、敗戦の匂いを丸ごとかき消してしまった。
△△△
「くそっ、放しやがれ!」
息が苦しい。
全身が軋むようにいてえ。
体内の『反発』の強化を少しでも緩めたら、俺の身体はこいつのエナジーで、ミキサーの果物みてえに潰れちまう。
「モット…タカク…」
「お前、なんか賢くなってねえか!?」
「カクジツニ…コロス…」
バケモンが、学習してやがる。
「これがお前の『可変成長』かよ」
俺でも、この状況はやべえと思ってる。
知能を持たせちゃいけないやつが、持っちまった。
一部が崩壊した都市。今はミニチュアサイズのようなビル群が見える。
「ココダ…シネ…!」
さらに力が加わる。
視点が、無理やり真上に向かい…。
「グァァァァァァァァ!!!!!」
雄たけびとともに地面へと放たれたのは、俺の身体。
速すぎる。
空気抵抗で、首が…。
「もう…無理か…」
まだ、死にたくねえ。
俺は、生きたい。
『猿でもまともにできるエナジー操作。それが出来ないとなると、イージスになるなど夢のまた夢だな、藤井カナト』
記憶が、とてつもない速度で脳味噌を駆け巡る。
うっせえ、仮面野郎。
エナジーを集中させろ!
吹っ飛んっじゃいけねえところを守れ!!
次の問題は…。
「クダケロ」
落下の衝撃…。
どうする?
今の空気だけの圧力とは比べもんになんねえぞ。
ああ、くそ。
死にたくねえ。
『遊びじゃねえんだよ』
リョウ。
うっせえ。
ああクソ。
次は負けねえ。生きて再戦してやる。
「次はバケモンなんか使わなくても、お前とまともに張り合ってやる!! …うおおおおおおおおおおお!!!!」
技を作れ!
エナジーを作れ!
大地を穿つ、エナジーの大槌。
「『急成長』は、俺の特権だ馬鹿野郎!! 『望月ウサミ型成長』!」
『月』を守るあのチビの、縦の着地をイメージ。
「これが俺の、『急成長強打』っだあ!!」
大槌を思い切り地面に叩きつけたと同時に、目も耳も塞ぎたくなるほどの爆風が、俺の身体を更に吹き飛ばした。




