Lv123 じゃあ、いいじゃねえか
「もう、前のような真似はするな」
兄様は、やっぱり過保護だ。
気持ち悪いくらいシスコンだ。
でも。
「私も、もうあんな無茶しませんよ。すっごく気分悪いんですよ、あれ」
厚意に甘える。
私一人が犠牲になれば、今のタナトだって倒せるかもしれない。
それでも私は、生きていたい。
闘いが終わった後に、ちゃんといたい。
今度こそ、カナトくんに文句を言うんだ。
わがままだし、わがままを許してくれることに甘えている。
それでいい。
『月』を溜める。
奇跡。
目の前の『破壊の巨獣』・タナトの頭上。
『Lv100』。
そのエナジーで、『Lv100』。
覚醒した時とほとんど変わらないエナジー総量。
出力も、スキルの効力も、目に見えた変化がない。変化したのは頭上の数値だけ。
飽田洋一郎の計画の不備か。カナト君や私たちの技による影響か。
いずれにせよ、好機。
疾く、片を付ける。
未来が私に言っている。
ここを確実に勝て、と。
確実に。
溜めを中断する。
狙いを定める。
抗魔大祭の日、私を乗っ取った橘さんが、カナトくんの心臓を捉えたように。
「『月の審判』」
帰らせてもらう。
天高く光り輝く満月の下。
月明かりに照らされた『真紅』に、狙いを定め、スキルを放った。
…
…
…
外れた。
「そんな…」
違う。外れたんじゃない。
避けた。
いや、これも違う。
こちらに向かって投げつけられた岩に、照準を阻まれた。
意識的に狙いを察され、意図的に狙いを阻害された。
眼前に迫りくる岩。『真紅』を纏う、殺人の存在意義を持つ岩。
『月の障壁』が間に合わない。
「ルナ!」
直感する。
兄様が私を突き飛ばしてなければ、首が消し飛んでいた。
逸る鼓動。ドラムのようにドカドカと忙しく鳴り響く。
直感した。
戦慄した。
タナトは確かに、成長している。
しかも、最悪な急成長を遂げた。
「知能が…」
「…ああ、最悪だ」
兄様も、
「あーあ、俺らよりも賢くなっちまったな」
轟先輩も、事の重みに気付かざるを得なかった。
そして、知性を手に入れた巨獣が、
「やっべえ!」
疲弊するカナトくんを捕まえ、
「ツヨイ…ヤツラ…ノ…ジャマ…ノ…ハイラナイ…トコロ…へ」
タナトは、地面を強く蹴り、飛翔した。
自分が有利に闘える場所へと、移行した。
地の利を得るために。
確実に勝つために、破壊の仕方を考えた。
「おい、ヨウジ!!」
「父さんからは…」
飽田先輩が、拳を握りしめ、戦慄した。
「父さんからは、単なる暴力と聞かされていました。最後の最後まで、俺にも秘匿した。…いや、これは私情なので割愛します」
正気を取り戻すように首を横に振り、ずれた眼鏡の位置を戻した。
「強いやつらの邪魔の入らないところ…Z地区と考えがちですが」
「違うのか?」
兄様が問う。私もZ地区が最有力だと思っていた。
「やつは飼い主だったカナトの見聞に基づいた知識と記憶しかない。Z地区は『Lv0』の集まりでも、藤井ジュタロウや菱田トヨコのような怪物がいることも知っています」
「それなら」
△△△
「E地区」
思いもよらない答えだという顔で、みんなが俺を見る。E地区は、この国の首都で、剣士隊や騎士隊、銃撃隊の中心地でもあり、陽月教の本殿もあるから、当然の反応だろう。
「壊滅状態だから…ですか?」
「うん」
さすがは水無月オボロの妹。察しがいい。
「もっともこれは、俺の推測なので」
嘘をついた。
本当はタナトが連れて行った先がどこか、自信がある。いや、確信の域だ。あいつは間違いなく、壊滅状態のE地区に行く。
不死身を可能にした司馬明人がいなくなっている。E地区で勝てない可能性のある人間は、連れ去っているカナトの他に誰もいない。剣士隊や騎士隊の主戦力の大半は、S地区とその周辺に出向いた。
「正しいかどうかは分かりませんが、あくまで俺の意見を言わせていただきました」
判断を間違えれば、カナトはおろか、多くの人間が死ぬ。
怖い。
俺の判断一つで、また、俺は人を殺そうとしている。
ヒビキさんたちを裏切り、父さんを裏切り、俺は好き勝手に持論を展開する。
その結果が悲惨なものになれば、俺の居場所はもう…。
「じゃあ、決まりだな!」
それなのに。
「なんで…」
「ああ?」
「なんであんたは、裏切り者の意見を鵜吞みに出来るんですか?」
「じゃあ、嘘なのか?」
間抜けな顔をして、相手を小ばかにするように問う。
「いや…本当です」
「じゃあ、いいじゃねえか」
ふん、と鼻を鳴らし、
「動けるやつらはさっそく向かうぜ! 俺らの大事な後輩を拉致っといてタダで済むと思うなよ! おら、大人のお偉いさん方! ヘリコプター出してくれや!」
「ケケ、ヒビキさんらしいや!」
「うむ。疑う余地なしだ」
…本当に、馬鹿ども。
「今なら分かる」
水無月オボロもまた、普段の威厳を放り捨てたように笑う。
「飽田ヨウジ、お前があの阿呆のチームに入った理由がよく分かった。…まことに、悔しい話だがな」




