Lv122 信頼
「ルナ、やっぱりこれって」
「うん、テリヒメちゃん」
タナトのスキルは2つ。
1つは、『超再生』。その『真紅』のエナジーが、ついた傷を一瞬で治す。
そしてもう1つは。
「このバカみたいに我儘なんだから!」
『膨張』。
生きているだけでエナジーの総量が上がっていく。
傷は一瞬で0になり、膨らみ続けるエナジー。
だからこそ。
「ほんっとに、しつこいんだから! そっくりそのまま、カナトみたい」
「おい、なんかお前すげえ失礼なこと言ったか!?」
遠くで半透明になりながら、タナトを引き付けるカナトは、エナジーが確実に枯渇している。
長期戦は考えられないのに、相手は長期戦をするために生まれたような延命の化け物。
ルナの技も効きにくくなってる。
『陽光凱歌』で強化したルナや私の魔物特攻の性質も、まるで無かったことのように。
「グォァァァァ!」
それでも。
「諦めない!」
そう、諦めない。
私がここに来た意味を果たす。
文化祭の時も、抗魔大祭の時も。
行動することで何かを生み出してきた。
アイドルの時や、遠征の時みたいに失敗することだってあった。そのせいで、みんなに迷惑をかけた。
それでも、だとしても。
「ゼッタイ、負けない」
言い訳して沈んでる暇があるなら、私はみんなの『太陽』で居続ける。ウザいくらいに、『太陽』で居続ける。
家族から執拗に大事にされてるのも、バカみたいに無謀に挑戦するのも、全部ひっくるめて、
「私は、天王寺テリヒメなんだから」
力が湧いてくる。
それなのに、胸の奥まで大人しい。波紋一つない、鏡のような湖みたいに。
今なら、使えるかもしれない。
突如。
「やっべえ!」
カナトに襲いかかるのは、『Lv69』の魔物。
鬼型の魔物が振りかぶる棍棒。
今のカナトなら余裕で倒せるよね。『陽光凱歌』の強化もある。
そう思っていた。
「いってえ!!」
『破壊の巨獣』に対し、優勢を取っていたカナトは、
「カナトくん!!」
短剣で受けた棍棒に、身体を吹き飛ばされ、岩に衝突した。
右腕が折れ曲がっているのが、少し遠くからでも分かる。それほどに、傷の程度が大きい。
一つの結論…いや、そんな大それたものではない。これは単なる気づきだ。
カナトは、ずっと体内に封じ込めていたタナトに対しては強い。
ちょっと考えたら分かることだったのに。
「私のバカ…」
先回りして、不安要素を倒しておくべきだった。
私も2人みたいに、タナトに立ち向かいたい。
そんな身勝手が招いた。
私がこの闘いの…敗因…。
「やっぱり、私が…」
「うおおおおおおおおおおお!!」
曇りを断ち切るような騒音。
見苦しい自己主張。
『破壊の巨獣』さえも我が物にして、私の情緒にまで侵入してくる不躾なやつ。
「なんっにも怖くねえな!! ほら、お月様が治してくれた!」
修復した右腕を子供のようにブンブンと振り回し、万全をアピールする『Lv1』。
「おめえもめそめそ泣いてんじゃねえよ! バカ『太陽』!」
「なっ、泣いてなんかないわよ! この役立たず!」
ああ、そうだ。
心配。
これは私が一番されたくないことだった。家族にさんざんされてきた心配を、カナトにもしてしまった。
信頼。
これだ。
私があいつにすべきなのは、これだ。
『陽光宿し』を天へ突きあげ、唱える。
「『抗魔の白日』」
真っ暗な夜に浮かぶ、太陽みたいな真っ白な球体。
その球体から出る幾筋の『陽光』。範囲内で、魔物だけのエナジーを剥奪する。
どうにか加減する。殺すことはしない。
消滅させてこれだけ高レベルのエナジーをたくさん身体に取り入れるのは避けたい。
カナトじゃあるまいし、あんな高レベルの経験値、身体が持たなくて死んでしまう。
だから…。
「みんな、後はお願いします!!」
数人の気配。
先陣を切るのは、
「テリヒメよ。司馬の愚物が何と言おうと、やはりお前は『太陽』だ」
『月光』。
「『月光閃・滅裂五月雨切り』」
強化された『月光』による、まさに閃光とも呼ぶべき二刀の乱舞。
「おめえの手柄にはさせねえよ。今日も勝ち星ゼロのオボロくん!」
そこに割り込むのは、荒くれ集団を束ねる悪童の頂点。
「おめえみたいに中二くせえ技名はだせえし、いちいち言うのダリいだろ。どらぁ!!」
『Lv50』による単純な拳が、鉱物系の魔物の頭部を破砕する。
「どーだ見たか、ヘタレなシスコン仮面が」
「この期に及んで貴様は、まだ戯言を吐くか。どうやらタナトの前に貴様が死にたいらしいな」
「やれるもんならやってみろや、おい。今なら足の骨一本で済ませてやるよ」
相変わらず敵そっちのけで喧嘩するほどに憎み合う腐れ縁。
「そんな意地は後にしてください、兄様」
「っ!! ルナ…」
「やっぱシスコンじゃねえか。今はそれが素直になっちゃって…ぎゃはは!! …いってえ!!?」
「そんなことしてる場合じゃないですよ、みっともない」
後ろからチームリーダーの頭を叩いた3人の後輩たち。
脇谷トミヒコ。
岩城ゴウシ。
そして。
「よし、てめえらぶっ殺す」
「気絶する前、リサ先輩がそうしろって言ってたので、追及ならリサ先輩にお願いします」
黒縁の眼鏡。
「テリヒメ、今の状況は」
「ちょ、急に話しかけんなし」
咄嗟に目を逸らしてしまう。目線が唇に行きそうになってしまった。
でも今は…。
「あんたが親離れできてるんなら、話してやってもいいけど?」
「ああ。俺は、俺のやりたいように生きるよ。父さんに憎まれてもいい。ここが、俺の帰る場所だ」
「飽田…」
「だって俺がいないと。このバカたち、組織で動けないだろ?」
眼鏡の奥の瞳が、光を取り戻した。
人を小ばかにして、飄々と、他人を嘲笑う男。
「よーし、ヨウジ、おめえからぶち殺す。おめえら、この礼儀のなってねえガキを塞げ」
「えっ、ちょ…冗談ですって…ヒビキさん!?」
「ケケっ、お安い御用です! 前からぶっ飛ばしたいと思ってたんすよねぇ!」
「うむ、リンチの時間ですな。決戦前の景気づけに臓物を全て潰しましょう!」
仲間に締め上げられて嗚咽を漏らす姿は、紛れもなく、
「お前らも止めろって、マジ…おい…」
文明玉の息子…ではなく、イエロースパークの頭脳・飽田ヨウジだ。




