Lv120 反発
全部、思い出した。
俺のスキルも、全部。
「おい、クソバケモン!」
もう逃げねえ。
「今なら俺の身体に封印で許してやるよ。一生、俺に尽くせ」
周りを傷つけた…殺した責任を、背負ったまま生きていく。
俺がバケモンを背負ったせいで、何人も死んだ。
俺がバケモンを制御できなかったせいで、この手でウミちゃんを、同じ被検体の子供たちを、みんな殺した。
今だって、俺がバケモンを入れたまま死ねば、もっと被害は少なかったかもしれない。俺がバケモンを解放しなくたって、リョウはみんなが止めてくれたのに。
後悔したって、元には戻らない。
後悔をずるずる引きずったせいで、水無月さんも、レイナも、じいちゃんも…。
今は考えるな。
ここで負けたら、みんな、報われないだろ。
「ごめん…」
魔物に食い荒らされた、あるいはタナトに殺された大人の死体。名前も知らない、さっきまで生きていた人。俺のせいで死んだ人。腰にかかった短刀を引き抜く。
刃先にスキルで強化したエナジーを付与する。
「このまま力借りてくぜ、テリヒメ!」
待ってられねえ。
そのまま突っ走る。
「もう、カナトってば本当に自分勝手なんだから!」
『太陽』の炎の援護。
「ルナ!」
「カナトくん…ふふ、おかえりなさい」
『月』が余裕めいた表情を見せる。おどおどとした忙しい弱さが完全に消えている。まるで別人に生まれ変わったように、水無月ルナは急成長している。
「ああ。お前の文句、ちゃんと聞くまでは死ねねえよ」
「テリヒメちゃんと一生を添い遂げるんじゃないんですか? 都合のいいこと言わないでください」
俺を責めるルナも、新鮮で、怯えるこいつがいなくなったのは少し寂しい気もするが、今はそれがすごく、頼もしい。
「俺にとって都合のいい言動と行動をとるのが、俺だ。なんせ俺は、藤井カナトなんだからな!」
「本当、勝手な人」
またルナが、くすくすと笑う。
「…来るぞ、ルナ」
「分かっています。…『月の障壁』」
『太陽』の炎をかいくぐり、こちらへ突進する『真紅』。
『月』が阻むが、
「グォァァァァ!!」
突き出された右腕を中心に、次第にヒビが入る。
「カナトくん、いけますか?」
ルナはたぶん、理解している。
「ああ。頼れよ」
「はい。頼ります。カナトくん」
余裕の表情が崩れない。
手放しで、俺を完全に信頼しきっている。
おいおい。
そんな顔されたら、応えないわけにはいかないよな。
「『レイナ型成長!』」
速度と柔軟性、動体視力に全振り。
『Lv1』のままだけど、テリヒメの『陽光凱歌』で実質『Lv20』。
その体。
さらに。
『反発』。
俺の本当のスキル。
発動対象はエナジー。エナジーをその名の通り『反発』させる。触れたエナジーに働きかけるスキル。
俺の中のエナジーとエナジーが衝突し、『反発』。『反発』したエナジーの粒たちはさらにエナジーを巻き込む。そこから急激に反応し、体内のエナジーというエナジーが身体の中を暴れまわるように乱反射した結果、生まれるのは、
莫大なエナジー。
こんなことをすれば、膨張し暴走するエナジーで、俺の肉体は破裂する。
でも、肉体は壊れない。『陽光凱歌』を信じて正解だった。
『月の障壁』が瓦解する。
見極めろ。
見極めた。
今、あの全長5メートルのバケモンが無警戒の部位。
右手を前に突き出したために、後ろに引いた…右足!
思い切り地面を踏み込み、
「重心が…」
そこに急接近。
「丸見えなんだよ!!」
『真紅』のエナジーで出来た足首に思い切り、『反発』で超強化した短刀を一刺し。
「グ…グギァァァァァァァァァァ!!!」
耳を塞ぎたくなる咆哮。
倒れこむ身体。
次は、顔面。
『真紅』まみれの、不気味な顔面も倒れこんでくる。
そこに合わせて、
「まだまだ!」
垂直に跳ぶ。
「おいおい、抜け殻のカナトなんかに負けるのかよ、このクソ雑魚!」
その勢いのまま、柔軟になった足を真上に上げ、
「こちとらメスガキにさんざん蹴られたおかげで、身体が技を覚えたっつの!!」
踵落とし。
『反発』を付与した足で、バケモンの頭部を踏み、地面に叩きつける。自分でも驚くほどに炸裂する。
上がる砂煙。
見えたのは、完全に地に伏した『真紅』の頭部。
俺のエナジーをこのバケモンの身体に入れた。
『反発』を付与したエナジー。それを相手の肉体に侵入させれば、その相手の身体は、他人である俺のエナジーを上手く制御できずに、機能停止になる。
このバケモンだって例外じゃねえ。今の今まで俺がこいつを閉じ込めてたからな。効果は抜群だろ。
抗魔大祭の日、ルナの身体を狙った不死身の司祭玉を倒した時みたいに俺のエナジーを混入させて、たぶん動けなくはなる。傷の修復もできないはず。
「やったか…」
溜め攻撃でとどめの準備だ。
口から血が垂れてる。無茶しすぎた。
早く、『可変成長』の中から、最善を選びぬけ。
最善の急成長を。
「まだよ! カナト!!」
油断した。
倒れた体勢から凄まじい速度で伸びる大きな両手。
「しまっ…」
「ミ…ツ…キ! リョ…ウ…!!」
全身を包み込まれるように掴まれた。
「ナン…デ…、オレ…ダ…ケ…!!!」
やべえ、どうにかしねえと!
「オイ…テ…イカ…ナイデ!!!」
握った短刀が落ちそうに…
「マッ…テ…ヨ…ウミ…チャ…ン!! コワ…ガ…ラ…ナイデ…ヨ…!!!」
この野郎。ぺらぺらと、俺の嫌な過去を嘆くなよ!
「『月の憤慨』」
『月』が狙いすました先。
『真紅』の両腕が抉れ、握力が緩くなる。このバケモンのスキルの一つ『超再生』で瞬く間に再生するが、一瞬でも壊してくれたおかげで、拘束から逃れることができた。
「カナトくん。私も頼ってください。先走るのは、あなたの悪癖です。あとで死ぬほど嫌味を言ってあげますから」
「ああ、あとでな!」
「それから、溜め攻撃は私がします。タナトは『月』や『太陽』など、『光』が苦手ですから。昔、兄様が読んでくれた童話にもそう書かれていましたから」
「へへ、あのシスコン仮面のウンチク様様だな。じゃあ、俺が時間稼ぎと行くぜ! 一緒にバケモン退治と行こうじゃねえか!」
立ち上がり、何事もなかったかのように万全に戻る『真紅』。しかし、動きは若干鈍くなってるのを直感する。
「オレ…ヲ…ミトメ…ロ!! オレ…ガ…イチバ…ン…ダ!!」
でも、相変わらずの速度と圧力。
ここで使うのは…
『ムカつく仮面型成長!!』。
鼻につくあいつの、正確無比の動きを実現しろ。
「『疑似月光閃・朧』!」
身体は半透明…あんまり消えられないけど、
「グォァァァァァァァァ!!!」
『月』の光が眩しいおかげで、ルナの技に近づけば完全に姿を消せる。
「見せてやろうぜ! ルナ!」
後方からさらに大きな、聖なる炎。
「ちょっと! 私だっているんだからね! ルナにも手ぇ出そうとする気!?」
テリヒメの奥義『炎天焔』。1000年前の『太陽』は、それを使ってタナトの眷属たちを一層したらしい。テリヒメの『Lv25』の出力だが、伝説に違わない高威力で、タナトを後退させる。
「おい、なんでそうなるんだよ。女子っつーのはすぐ恋バナにしたがるよな」
「浮気ですよ、カナトくん。ていうか私、もうカナトくんに恋愛感情無いので、その手の誘いはやめてくださいね」
「そんでもって、なんで俺がフラれたみたいになってんだよ!?」
「だよね~ルナ。てか汚らわしいよね、カナトって」
「全くです! テリヒメちゃんの言う通りです。カナトくん、不潔ですっ! ふふ」
「お前らなあ…」
本当にムカつくぜ。
眩しすぎて、暗くなる暇も与えてくれない。
うるさすぎて、こいつらの気持ちに応えないといけない気持ちになる。
これが、『太陽』と『月』。
カナトは生まれつき、スキルの発動速度と、スキル自体の速度が超人的に速いです。
カナトの出自と関係があり、事情を知っている飽田洋一郎がカナトを捕らえたのですが、この話についてはまたいつか公開します。
常人離れしたスキル発動速度とスキル自体の速度。カナトがタナトを抑えつけられる最大の理由です。体内のタナトがスキル『増長』で膨らむ前に、凄まじい速度の『反発』で、膨らむ前に抑えつけてます。
しかし、『増長』による増加量が『反発』による消滅量よりもわずかに多いため、次第に『急成長』によるレベルアップの幅が大きくなり、カナトが意識を失ってもタナトが肉体を操れるようになりました。
文化祭でパニッシュの蒼雷に抉られた腹の傷も、タナトが『超再生』で治してます。




