Lv119 一生
出撃前の作戦会議。
口火を切るのは…
「あの!」
Z地区。
勇気を振り絞った一声で、学内3チームと生徒会の全員の目線が私に注ぐ。
「おい、余計なこと言うなよ」
耳元に刺さる小声。
隣のトミヒコが自分ごとのように目を泳がせる。
こいつ、私のためを思って…意外と彼氏らしいとこあるじゃん。
「あとでヒビキさんにド突かれんの俺なんだからな? あんま下手なこと言うんじゃねえぞ。お前、意外とバカだし、それだけが心配だ」
うわ、こいつキッショ。死ねよ。別れようかな。
…。
的外れな提案をしたらどうしよう。
私ごときが、一刻を争うこの状況下でみんなからその貴重な一刻を奪っている。
震える手足、喉。
もう、後戻りはできない。
「私の『擬態』で、虚を突けないでしょうか?」
ついに、言った。
顔色を伺う。
人を茶化すのが好きだけど、いざという時には頼れる先輩。私のチームリーダー・ヨウコ先輩。
見るからに不良で、目を合わせるのもやっと。『イエロースパーク』の轟先輩。
落ち着きがありながらも内側に秘めた嗜虐性。ある意味では誰よりも怖い。『ブルーローズ』の海崎先輩。
今は仮面を取り素顔をさらけ出しながらも、能面のように冷ややかな無表情。生徒会長、水無月オボロ先輩。
そして、
「面白そうね。言ってごらん」
副会長、大城ユミコ先輩。
砕けた脚は未だ完治しておらず、用意された椅子に座しながら、松葉杖を差し棒のようにこちらへ向け、軍玉の娘は余裕めいた笑みを浮かべ、私に続きを促した。
△△△
「うぁぁぁぁん!!! テリヒメぇぇぇぇ! まぢで怖かったよぉぉぉ!!!!」
「マドカ、まぢでナイスすぎ!!」
抱きしめるマドカの身体は、オモチャのように震えが止まらなかった。
直接的な戦闘力のない彼女による勇気の奇策。
そのおかげで戦況は好転。飽田洋一郎を本物のルナが1発で仕留めた。
「このチャンス…」
絶対に無駄にはしない。
だからこそ。
『陽光凱歌』。
私の得意を、今度は手の平に集中させる。
「カナト、シャキッとしなさい!」
私の一生を変えてくれた男の背を叩き、喝を入れた。
こいつらしくもない、世界の全部に怯えるような弱弱しい目つきだった。
「テリヒメ…ダメなんだ、僕はもう、帰れない。それにもう、僕は勇敢に立ち向かえる『藤井カナト』なんかじゃない。ただの無力な臆病者なんだ」
「ああ、もう!」
こんなめんどくさい男を選んだつもりは無いんですけど!!
もう一回、『陽光凱歌』。
次は両手に纏い、このおバカの両頬を挟んだ。
「じゃあ、私が作ってあげる」
「な、何を?」
「あんたの帰る場所」
言われたかったセリフだけど、もう言っちゃえ。
こいつを失うくらいなら。
「私が、あんたの帰る場所になってあげる」
どんよりとしていたカナトの目が、わずかに輝きを取り戻した。
「あんたがめんどくさいオッサンになっても、めんどくさいじいさんになっても、私があんたを絶対に離さないオバサンになって、面倒見のいいばあさんになってあげる」
「テリヒメ…」
「だから!」
もう、覚悟は決まっている。
このバカのために命を賭けられるから、ここに来た。
「あんたは私の一生を、一生明るく照らしなさい!!」
自分で言ってて気持ち悪いけど、今はそんなことどうでもいい。
「藤井カナト。私は、あんたを一生、愛してる。『太陽』を守れるのはあんただけなんだから!」
この説得が、響いたのか分からない。
カナトの目の輝きは『陽光凱歌』による身体の活性でしかないのかもしれない。
ルナを遠くへ弾いた『真紅』が、こちらに狙いを定めた。
私たち2人を巻き込むように、タナトが口元にエナジーを溜める。
死ぬかもしれない。
何もできないまま。あるいは、抗ったとしても何の効果も消し去られて。
いくら事前に覚悟していても、いざその現実に直面すると、足が竦む、手が震える、思考が固まる、感覚が鈍る。
怖い。
「こんなとこで、死にたくないよ…」
せっかくカッコつけたのに。
全部台無しだ。
迫る『真紅』の奔流。
馬鹿げた質量。
このまま、怖いなんて感慨も、今までの思い出も、これからの一生も全部、この『破壊の巨獣』に容赦なく消し去られて…
「『偽善全振り成長』!!!」
気配。
地に尻をつけたまま、その『彼』を見上げる。
「ああ、もう! これでいいんだろ!」
『Lv1』。
相変わらず『Lv1』…なのに、タナトの攻撃を無傷で凌いだ。私の『陽光凱歌』があっても、せいぜい『Lv20』相当なのに。
しかも、素手で。
「僕は…、いや、俺は…俺は俺は俺は俺は! 藤井カナト!」
そのバカは傲慢に、恐れ知らずに、『真紅』を防いだ自分の手を高らかに上げ、天へと宣誓した。
「ここにいるめんどくさいバカ『太陽』の、これからのめんどくさい一生を背負っていく大馬鹿野郎だ!!」




