Lv115 最凶の『個』
「さっきからこいつ」
あそこにいる女の子しか狙ってねえ!
「おいおい、周りから好きなのバレバレだっつの!」
ミツキちゃん、だっけか。
「ミ…ツ…キ!!」
タナトなんかに好意持たれて大変だな。
つーかあれって、『急成長』のガキンチョの中にいたときの記憶を参照してんのか?
まあ、どっちでもいい。
「おい、ミツキちゃん!」
「は、はい!」
迫るタナトの手を空中で避けながら律儀に返事をくれる。顔もスタイルも性格も合格だ。
「この戦いが終わったら俺の彼女になってくれ!」
「えっ…」
ただでさえ命がけだし、ここは恐怖心を愛情に変えてやろう。
「ごめんなさい。私、他に好きな人がいるので」
「な、なにぃ!!??」
運命ってやつはみんな、そうやって俺のことを…。
これも全部。
「お前のせいだぞ! タナト!」
こんな状況じゃなかったらこの俺の告白を断るはずがなかった。こんな状況を作ったお前を、俺は許さねえぜ!
ああ、クソ。
せっかくいいパートナーが見つかると思ったのになぁ!
「『俺の剣技・其の七』」
神藤家の剣術を俺なりに改良した超絶最強の連撃だこの野郎。
「惚れんなよ、俺の生き様に」
△△△
すごい、としか言い様がない。
ただでさえ速く鋭い神藤先輩の剣が、別人のように研ぎ澄まされていく。
剣筋一つ一つを目で追えない。追えたころには、もう次の次くらいの剣を振るっている。
これが、初代イージスの子孫。1000年前にタナトを封印した、神藤須佐之男の血。
タナトの『真紅』が剥がれていく。
「剣術だけは、見惚れるやつかの」
ヨウコ先輩が溜め終えた。
「神藤! 焼かれたくなければ離れるかの!」
「紺野! やっぱりお前も化け物じみてんなぁ!」
「女の子に化け物呼ばわりとは、やはりお前はモテぬ男かの」
掌から顕現した、極大の紫炎。
今まで見たことのない大きさの、紫炎。
「アタチも、曲がりなりにも『最古の異生物』の一体だからの。その威厳、損ねるには少し寂しいかの」
放たれた紫の炎。
まるで魔物のように大気を這うそれは、『破壊の巨獣』の真紅を包み込むように広がり。
「グォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
内部に入り込み、タナトの命を焼き尽くすように暴れまわった。
忘れていた。
この人は、『最古の異生物』、『妖狐』の魂を身体に入れていることに。ただの年上で強い先輩じゃない。
「中に藤井カナトがいない今、一抹の容赦もせん。そのまま焼き尽くすかの、単なる化け物よ」
「ヨウコさん…」
胸が締まる。
カナトのことを思ってくれたこと。ただそれだけが、嬉しかった。
怖かった。みんな、カナトのことを殺すんじゃないかって。そうじゃないにしても、世界を脅かした罪だと隔絶して、裁くのではないかと。
でも、違った。
「そうだな、私の『海神の魔槍』も試したかったところだ。カナト君がいないから遠慮なく行ける」
「海崎先輩…ありがとうございます」
「おいおい! 親友の幼馴染ちゃん! 俺らも忘れんじゃねえぞ! 本当だったら俺の『超絶満塁弾を叩き込みてえところだぜ!」
「火野くんは私たちと一緒に死にかけのリョウ君を守るんだよ。A地区のエリートさんたちに任せて、私たちは安全に出世しましょ」
火野さんに風見さん。
「こいつ、カナトお兄ちゃんが抑えつけられたんでしょ? ライバルの僕に出来ないわけないよね? ビリンビリンにしてあげるんだから」
「カナト君にも借りがあるから。今が、この『箱』の正しい使いどころ」
タナト教団だった人たち。
「ありがとう…みんな…」
カナトを守るために、闘っていいんだ。
テリヒメさんの『陽光凱歌』がまだ残っている。
私も、
「ありったけの風を…纏え!!」
みんなと繰り出す最大出力の一つになる。
カナト。
ずっと、闘ってたんだね。
気付けなくてごめん。
私が絶対、止めて見せるから。
△△△
「なんじゃ? 急に固まりおって。思春期か?」
藤井寿太郎!
「なぜお前が…的な感じか? 答えてやろう」
貫かれたはずの胸に手を当てる。
「そりゃあもう…気合じゃ」
「…ふざけているのですか?」
「ふざけてはおらん。こうして生きているんじゃから、真面目も真面目。昔はよく周りから真面目で親切な子と言われておったもんじゃ! ガハハハハハ!!」
あの時もそうだった。
成功作『タナト』に宿したタナトの暴走。それを軽々と抑止し、『タナト』を連れ去った。
だが。
「口元から垂れる血で、万全だと誤魔化せるとでも?」
勝てる。
まだ傷は残っている。あの人間にも魔物にもなれなかった半端な『獅子王』は、曲がりなりにも『獅子王』だったのだ。
「あのワンちゃん、いい一撃だったのう。危うく天国に行くとこじゃった」
「ご安心を」
『虚脱』。出力最大!
「私がもう一度、次はきちんと送って差し上げましょう。藤井寿太郎!」
スキルが彼奴を捉えた。
はずなのに…。
「どう…して…」
スキルを放った両腕が、切り取られているだと!?
「『剣閃・回転輪切り』」
見えなかった。
おそらくは私の懐に潜り込んで回転攻撃を繰り出した。傷跡でしか軌道を推測できなかった。
なんなんだこの男は!
この男に対する疑問と畏怖が、いつまで経っても払拭されない。
…受け入れなければならない。
想定よりも早い死。
平らになる世界を見届けられないまま死する結末を。
このまま殺されるくらいなら。
「なんだ、このエナジーは…師範!」
「オボロ。レイナとカナトを連れて離れろ」
「しかし…!」
「離れろ」
「…はい」
良いものが見れた。
藤井寿太郎が初めて、私を見て警戒している。
内なる『真紅のエナジー』に掛けた『虚脱』を解き、箍を外しただけでこの反応。眼福の極み。
暴れる『真紅』。再び『虚脱』で出力をコントロール。
「不器用なガリ勉かと思ったが、案外やるおるな。楽しみで震えるわい」
「くく…それは恐怖で震えているのでは?」
「武者震いじゃよ。お前には分からん気持ちの高揚だぜい?」
今度こそ私の邪魔はさせない。
藤井寿太郎。
私の最後の『個』で、あなたという最凶の『個』を砕いてみせよう。
補足。
飽田洋一郎が神藤ザンテツに掛けた『虚脱』は、数分経って解除されてます。
「あの痩せぎすおじさんの攻撃喰らって、オボロは膝ついてたけど、俺は立ってたんだぜ! やっぱ俺ってすげえ! なぁ、ミツキちゃんもそう思わない?」
「あぁ、ええと…はい、すごいです」
「闘いに集中するかの、アホ剣豪」




