Lv114 なんで
『獅子王』の死を確認し、男の向かう先は…
「すべて、思い出したか?」
全部思い出した。
小さなころの記憶。
僕が何者だったのか。僕が何をしていたのか。
「まあよい。…もはや、タナトに帰る場所など不要だ」
歩み寄る男。
「イレギュラー回避のため処分する。悪く思うな、息子よ」
この人は僕の父親でもあった。
スキルすら使ってくれない。そのことにも言及してくれない。
当然だ。
僕相手にスキルを使う必要なんてないのだから。
タナトを失い、『Lv1』で『急成長』も使えない、自分の本当のスキルが何なのかも分からない僕なんかに。
向けられた銃口。
死ぬ。
…死にたくない。
僕はあの子たちを執拗に追い回して殺したくせに。
死んだ方がいいんだ。
怖いけど、そうするしかないんだ。
迷惑はかけられない。タナトと闘っている水無月さんたちの足を引っ張りたくない。ただでさえ僕が『藤井カナト』の時に好き放題やっていたのだから。
もう、わがままは言えない。
僕はすぐにでも死ぬべきだったんだ。
あの時。
タナトを入れられる前に研究所を抜け出して、山頂の崖から飛び降り、勇気を出して死んでいたら、こんなことにはならなかった。
僕一人が生き延びたせいで、みんなが迷惑している。
銃声が鳴る。
「『月光閃・湖月』」
と、同時に弾かれた弾丸。
…なんで。
「逃げろ、藤井カナト」
なんで僕を守ろうとする。
「水無月さん、僕は」
「レベルを上げられないのだろう? ならば、無駄に命を散らすことはない。お前の帰りを待つ者がいる。俺が時間を稼ぐ。だから貴様はテリヒメとルナのもとへ…」
「ダメなんだよ!!」
洋一郎さんのスキルで膝を落とす水無月さん。また、僕のせいで人が傷つく。
「帰る場所なんてないんだ」
思い出す。
海辺で、走って追いかけた女の子。
僕と同じで名前がなかった孤児の女の子。被検体No.563。僕より一つ後のナンバー。海が好きだからウミちゃんと呼んでいた明るい女の子。
タナトに適応してしまった僕は、後のナンバーの子たちを全員処分することになった。
もちろんその中には、ウミちゃんも入っていた。
涙を流し、殺さないでと言われても、殺してしまった女の子。
「施設の子供たちを、いっぱい殺した。タナトを内包した力の実験だからって。でも、僕は止められなかった。きっと僕のスキルなら止められたんだ。それなのに、それなのに…」
殺したのはタナトのエナジーだ。それでも、制御できなかった僕が殺したようなものだった。
「はぁ…はぁ…お前に罪はない」
刀を地面に突き刺し、僕を見る。真っすぐな目をしている。正しい行いをしてきた人の目を、僕は真っすぐ見れない。
「諸悪の根源はすべて、この男だ。お前が気に病むことなど一つもない」
「擁護するか、水無月の子よ」
頬が歪んだ。この顔がずっと、怖かった。
「この子供さえ生まれなければ、タナトに居場所さえ与えなければ、今こうして世界が崩れようとしなかったのでは?」
「ほざけ…!」
刀を杖のように地面につき、前進する。
「言葉と行動が噛み合っていないな。その程度か、『月光』」
無理だ。
「やめてよ、水無月さん!」
僕のせいで、また…。
銃声が鳴り響いた。
正面からではない。
「あーあ、やっぱり『Lv0』の銃弾じゃ無理か。『Lv50』の狂人さんにはまるで効いてないね」
声がした。
「でもまあ、おじさんのスキル、私たちには効かないんでしょ?」
「…ご名答。菱田の孫。藤井家の血筋」
「レイナはそこの異能頼りの『月光』さんとは違うから」
君こそ、来ちゃだめだ。
「レイナ…! 早く逃げてくれ!」
「あらあらお兄さん、急にお行儀良くなってどうしちゃったの? 頭でも打った? …って言っても、レイナ、あらかた知ってるんだけどね」
腰のワイヤーを準備し、ナイフを手に持つ。
「だからこそ、退けない」
「なんでだよ…!」
「お兄さんだって、私の大事な家族だから。一応ね。一応だよ? あんまり重く好きにならないでね?」
「逃げろよ…逃げてくれよ!!!」
もう僕のせいで、死なないでよ!
△△△
あーあ。
『狂人殺し』を展開しても、スキルの影響だろうな。
「『狂人殺し』…か。私のスキル『虚脱』と同様。エナジーを持つ生物から膨大な量のエナジーを削り取り、身体とエナジーの均衡を崩す」
『Lv45』。5しか下がっていない。
「所詮、その兵器も、私が開発しZ地区に提供した物。私のスキルを応用して開発した物。エナジーを燃料とする機械ならば、私のスキルはその兵器をほとんど完封できてしまう」
薄々気づいていることをわざわざ言葉にしてくるあたり、性格が悪いな、このおじさん。
それでも、レイナは退かない。
このおじさんの『虚脱』が効かないのはこの場ではレイナだけ。瀕死のばぁばを再び闘わせるなんて考えない。
タナト教団。
私の母親を殺したらしいやつらを前に、退くわけにはいかない。
赤子だった私を守ってくれたらしい『お母さん』のために、世界を平らになんかさせてはいけない。
私が死んででも、勝って命を繋ぐ。
「本気で行くから」
「面白い。見せてごらん。才女の娘よ」
痩せぎすのおじさんであることだけが救いだ。格闘なら、レイナに分がある。
腰のワイヤーを射出し、拳銃を持った手に巻き付け、引っ張る。
「ほう」
「丸見えどころか、ガバガバだから、その重心」
そこから一気に引っ張り、回し蹴りで拳銃を落とし、
「まだだから」
回転してねじった腰に力を籠め、思い切りワイヤーを引っ張りなおし、薄い腹を肘で突く。
「ぐっ!」
この薄い肉体。やっぱりこいつ、武人と呼ぶには程遠い。あの忍の方が強かった。
これで決める。
しゃがんで、そこからハイキック。顎をかちあげる。
次は跳躍。
毎日、柔軟頑張ってよかった。
高く上げたレイナの美足を自慢の遠心力で、
「トドメ!!」
顔面に振り落とした。
「本当…に…」
倒れ伏した黒幕に、お兄さんが固まる。
「お兄さん、その人格でもレイナのことなめすぎだってば。クソ雑魚なのはそっちだっての、ざぁこざぁこ♡ ついでにそこの水無月様も見下してあげる~♡」
「ああ、その通り。僕は何も守れない雑魚だ。…ありがとう、レイナ」
「ちょっ、いくら何でもキャラ変わりすぎじゃない? 素直すぎてキモいんだけど」
調子が狂うな。
なんか顔が熱くなってきそうなのは、運動したからかな。
本当は素直な人だったってことか、この人。
いじり甲斐がなくなったのはちょっと寂しいけど。
「水無月さんもありがとうございます。…でも僕は、もう」
「避けろ!!!」
水無月のお兄さんがレイナに向かって怒鳴りつける。
…頃にはもう、遅かった。
痩せぎすの腕が、背後からレイナの胸を貫通した。
「油断」
伸してやったはずのおじさんの声が、私の背後、頭上から聞こえる。
「そう。菱田アヤ…お前の母親も、油断した。守りたい者の無事が分かった途端に、研ぎ澄まされた注意力が、酷く鈍る」
「な…んで…」
口から血が垂れる。腕を抜かれた胸から、やばい量の血が出てる。多分これ、レイナ、死ぬやつだ。
「私に武術の心得がないと思ったか? …無理もない。この痩身なのだからな」
「へぇ…おぢさん、ギャップ萌え…狙ってたんだ…? かわいいとこ…あんじゃん」
視野が狭窄する。意識がもう、持たない。やられちゃいけないところ…多分、心臓を射貫かれた。
「この痩身だからこそ、生き延びるために必要だった。この身を鍛えねば、制御できなかったスキルに蝕まれ、枯れるのだから。このスキルさえなければ私はそこの水無月以上に、強固であったろう」
「なに…? 認めてほしいんだ…。いい年こいて…かまってちゃんなんだ…ね…」
寒い。
血が、かなり抜けてしまったんだろう。
あーあ。
こんなとこで死ぬんだ。
ばぁば達に怒られるかな。
母親にも怒られる。
せっかく命を懸けて守ったのに、って。
お兄さんにもカッコ悪いとこ見せちゃったな。
ジュタ爺にも守るように頼まれてたのに。
「…死にぞこないめ!!」
真っ暗な意識の外側がやけにうるさくなってきた。
三途の川でちょっくら水浴びしてきたわい。
聞き覚えのある声がして…




