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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
最終章 必殺のグロース
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113/128

Lv113 一つの生命として

よくやった、藤井カナト…いや、『タナト』よ。


これでタナトは、完全に限りなく近い形で再起した。


お前という『入れもの』無くして、完全なる自立を果たした。


「おいおい! エナジーがデカすぎて俺の刀が通んねえぞ!」


「詰みか…!」


無理もない。


『第二人類史』は退化を選んでしまった。


『第一人類史』と同じ、倫理。人類の一人一人が、超えてはならない境界線を引き、本能的に組織を維持しようとする。

その30〜40程度の平均レベルがその証拠だ。神藤須佐之男(しんどうすさのお)が存在した世界では『Lv70』が平均だったという。


それなのに人は、ある時は突出した『個』を貶め、またある時は突出した『個』に淘汰される。


急成長に畏怖した多数派が急激な進化を妨げる。


不完全。


中途半端。


だからこそ、また作り直す必要がある。


人間という生き物に感情が無くなるまで、何度でも。


あるいは感情を持たない、人間に似た何かを創り上げるために。


高度な知能を持った生物に感情さえなければ、『個』は生まれん。


今度こそ全ての人類を殺し、世界を新たな可能性へと導く。


言うなればこれは。


『世界の急成長』。


…。


「あなたも退化したか。塩生磊牙(しおうらいが)」


『人間殺しの獅子王』。


レベリングした日から、永遠に人間の姿に戻ることができなかった人間。『獅子化』のスキルが身体に適応しすぎた。それゆえの逸材。


人に恐れられ、人としての生き方を認められなかった哀れな生物。人間を憎む、元人間。


60年前の抗魔戦役にて、1000を超える人間を虐殺したが、今はそのような強さ、見る影もない。


抗魔大祭。覚醒した『月』の少女により、皮肉にも人間の姿を取り戻した。


「しかし、情けのない顔だ。ここは戦場であろう?」


「…黙れ」


『獅子化』の感覚は取り戻しているが。


「ぐっ…!」


私のスキルで、地面に押さえつけてしまえば、簡単に解除されてしまう粗品に変わってしまった。


「序列を改めないとな。人(・)間(・)の(・)あなたはもう、『序列・│肆《し》』にも及ばんだろう」


迷いの目。


スキルを使い、獣に戻ることを恐怖する目。


人間らしい精神性。


数えきれないほどの人の命を奪っておいて、人らしくあろうとする。まだ自分を集団の1人だと勘違いしている。


「退化したからどうした?」


地に伏した人間が首だけをこちらに向ける。至極、無様。


「我は人間だった」


「人間に戻れた途端、怖気づいたか?」


「それでいい。貴様に理解されなくとも、獣の我は獣らしく。人間の我は人間らしく。獣を、人を…生命を愛し、憎んでもいるのだ!!」


「…ほう」


目に勇ましさが宿る。


これが、大規模な戦争を経験した男の目。


人らしい言い訳を並べながら、身体は獣らしく、強さを取り戻していく。


ついには立ち上がり、低姿勢で前進した。


「生物として歩んできたこの道を、誰にも否定させはせん!!」


「そうか。やはりあなたは…」


美しい。


研ぎ澄まされた『個』。


長らく集団に抑圧されてきた『個』としての反発力。


だからこそ、私が終わらせる必要がある。


「グァっ!!!?」


携行していてよかった。


侮らなくてよかった。


この手に、矜持(きょうじ)などない。


矜持を持てるほど強い身体じゃない。


だからこそ、


「私はあなたを尊敬している。だからこそ、どうして私に矜持など持てる?」


持てるのは、せいぜいこの、一丁の拳銃。


弾丸は、易々と『獅子王』の肩を撃ち抜いた。


撃ち抜いた時点で、勝負は決した。


「その弾丸には、私のスキル『虚脱』が100倍凝縮されている。着弾した生物の細胞を破壊し、血液、臓器、骨、皮膚…あらゆるすべてを壊死させる」


眼前。


屈強な『獅子王』は立ち尽くし、天を仰ぐ。


「我…死す前に、問う」


「はい」


「あれが、貴様が求める『個』とやらか? 本当に、これが貴様の望んでいた結末か?」


視線が『真紅』へと向かう。暴れに暴れ、死者も多数出ているだろう。


「問う必要すらないでしょう? 私は、このために生きていたのだから」


「…ふっ、そうか」


「死ぬのが、怖くないのですか?」


「怖いさ。だが」


剣のように鋭い目が、本能を刺激するように畏怖を与えてくる。最後の灯が燃え上がるような気概。


「怖がる資格などない。何人もの生命を終わらせてしまったのだからな」



△△△



『獅子化』を解除できないまま、親に捨てられた。教室でも白い目で見られた。魔物に間違えられ殺されかける日もあった。


ナナミ。


彼女だけは、我を人間として扱ってくれた。


不器用な女だった。戦闘も料理も勉学も歌唱も裁縫も、お世辞にも一般的なレベルとは言い難い出来で、スキルも『跳躍』という平凡なものだった。


それでも、我の身体に入る服を作ってくれた。我の闘い方を分析してくれた。料理を作ってくれた。勉強を教えてくれた。歌を歌ってくれた。


ダンサーになるのが夢だった彼女。


我を人間として愛してくれた人間。


我を愛したがために、彼女は人間に忌避(きひ)された。


『魔物に組みする異常者』として陽月教に目を付けられ、処刑された。


それからは、死と隣り合わせの生活を送った。


陽月教の司祭を8人ほど殺した。最高司祭の司馬明人は、殺せない代わりに何度も頭蓋や臓器を破壊し続けた。それでもせせら笑うあの男をいつか殺すと決めた。


抗魔戦役には魔物として参戦した。最初は魔物たちにも受け入れられなかった。


人間には魔物として、魔物には人間として、心のない言葉と忘れもしない仕打ちを何度も受けた。


しかし、我の強さは他を認めさせるほどに昇華した。何人もの人間を殺し、生首を並べたことで、ついには『獅子王』として認められた。


このまま、人間を全て根絶やしにする。


同じ人間を殺せてしまう人間という醜い生き物を、一切合切、命のない肉塊にする。


自由だった。


『風神・雷神』と呼ばれる雷の矛と風の盾を操る兄弟を殺し、『伝説の山賊』と呼ばれた大男を殺し、『賢者』と呼ばれた策士の隊を皆殺しにし、我はまさしく、殺戮(さつりく)の自由を謳歌(おうか)した。


命のやり取りの中、彼らは死を恐れながらも、美しく散っていった。人間の中ではマシなやつらだった。


「俺の仲間たちが世話んなったな」


1人の青年を除いて。


「結構強そうなワンちゃんだな。ワンチャン負けちゃう? なんて」


立ちはだかるのは、ヘラヘラと、死への緊張感など微塵もない男。


「貴様のような人間がいるから、ナナミは…!!」


『Lv70』。


レベル差など関係ない。『Lv50』の『変容』によりさらに堅牢になったこの肉体で。


真っ先に殺してやる。


そう決めた矢先。


「悪いけど、サクッと終わらせる。早く終わらせて女の子達と遊びてえからからな」


「ほざけ!!」


初手の突進、そこから派生した連撃も、すべて避けられた。腰に下げた刀を抜くことすらもしない屈辱。


それは、突如。


青年の目の色が変わる。生命を奪うことを得意とする、『魔物殺し』の鋭い目つき。


「『剣閃・真一文字《まいちもんじ》』」


見えなかった。


我を相手に初めて抜かれた初撃が雌雄(しゆう)を決することになるとは、思いもしなかった。


「もうちょい遊んでやりかったけど、いま忙しいんだわ。じゃあな、犬っころ!」


胸部から大量の血が噴き出すころには、奴は背を向け、瀕死の仲間を背負い撤退した。


我は仲間に守られ、治療を受けた。


仲間の粘液で傷口を塞ぎながらも、未だ血が噴き出すような錯覚を覚える。あの斬撃が、我の闘志を粉々に砕いた。


我の生涯は、理不尽の連続だった。


人間にも、魔物にも苦しめられ、不釣り合いな愛憎の均衡に何度も正気を失いかける日々。


よりにもよって死に際に見る記憶が、かような惨劇とは。我の運も尽きるところまで尽きてしまったか。


思い出せ。


もう一度。


ナナミの笑顔を。


えくぼが特徴的で、ドンくさいあの女の笑顔を。


料理と裁縫で絆創膏(ばんそうこう)だらけだった痛々しい手指を。


「ライちゃん!」


抱きしめられたあのぬくもりを。あの髪の匂いと感触を。


あの声を。


…。


ああ。


最後に感じるのがお前でよかった。


現実の時系列など知らぬ。


我の中で最後に映し出されたのがお前だった、それが最も、大事なのだ。


我。


『獅子王』並びに塩生磊牙。


一つの生命として誇り高く、悔いなく、ここに落つ。

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