↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
最終章 必殺のグロース
PR
112/128

Lv112 完成

鍵くん。やっぱり君は天才側だった。もう卑屈になんてなっていられないくらい、君を求める人が増えるだろう。


彼らが反抗期の『氷』を落としてくれたおかげで、高レベルの魔物たちに高出力の水を流し込めるようになった。


研究室を出る。


平均レベル70以上に急成長した…あるいは、さっきまでは低レベルにまで押さえつけられていた魔物たち。


私は『海神の魔槍(トリアイナ)』のスキルの一つ『激流』を駆使し、菱田トヨコと上杉ユウトに迫りくる彼らを後方へと押し流した。


またお主に助けられるとはな。面目が潰れるわい。


彼女に意識があるならそう言われていただろう。単純な氷漬けと、先刻闘っていた忍の疲労で、まだ目覚めそうにはない。


次に向かってくる魔物たち。


彼らのレベルが突如、下がった。


「置き去りとか、レイナのことナメすぎだから。海神のお姉さん」


『狂人殺し(レベルダウナー)』を展開し、魔物のレベルが下がる。


しかし、『Lv45』前後。レベリングのない人間が勝てる相手じゃない。


私たちに装置の影響しない範囲を瞬時に選び取る。そのセンスは認めるが。


「インファイトなら負けないし」


まだまだ、心は未熟だな。いや、元は達観しているが、状況が状況のため焦っているようにも見える。その証拠にチラリと、目が祖母を向く。


「ちょっと、どういうつもり?」


襟首をつかんだ菱田レイナから繰り出される良い蹴りを受け止め、


「君はお婆様の傍にいてあげるといい」


何とかなだめてあげる。


「前線は私が切り開くよ」


「…もたついたら、レイナ、一生あんたを許さないから」


物分かりが良くて助かる。中学生でも我が強すぎてコントロールできない子が多いからね。


例えばあの、タナトと『氷』のように。


ふふ。轟や水無月も、前はそうだったかしら。


「こんな状況で何笑ってんだか。ムカつく」


「というわけで、護衛よろしく。…それから上杉ユウト君」


「はい」


「更なる研鑽(けんさん)を経た私でも、渾身の一撃じゃないと彼らを倒せないから」


「囮《おとり》、ですね」


「話が早くて助かるよ」


指示を受ける側も賢くなければ務まらない。


指示を送る側の意図を先回りして理解するくらいの理解力を持ち、指示を送る側に近い思考を持てる人間が適役だが。


彼は私の要求を、満足の満足まで満たしてくれる。


「では、さっそく参ります。タメが終わったら合図を」


実力も十二分。


『Lv18』なんて数字が嘘みたいに速い。まさに、『神速』。


何体もの屈強な魔物たちが、肉薄一つで砕けるだろう人間一人に困難を極める。


さあ出番だ。


私。


それから『相棒《トリアイナ》』。


唯一の有効打としての責任を持とうか。


『魔刺し《スティンガー》』。


『海神の魔槍《トリアイナ》』のスキルの一つ。


これを披露するのは久しぶりかな。


溜める時間も長い上にエナジー消費の激しい技。大海のような『青』を、三叉槍の先に付与。


しかしながら、そのコストに見合った効力を、魔物にのみ発揮する。魔物特攻のスキル。


ふふ。


そういえば、一学期の魔物討伐は、水無月オボロを差し置いて学年1位だったっけか。


「よくやった、上杉ユウト君」


本当に、よくやってくれたわ。


私に近いレベルの魔物なら。


『激流』。


「うそでしょ…」


私の大好きな反応だ。菱田レイナ。


予想を裏切られた時のその顔に、体内じゅうを愉悦が駆け巡る。…ぞくっと来る。


槍を横に振るっただけで、魔物たちが大海原に流された。



△△△



「おお! 海崎の水がこっちまで来てんぞ!」


足首くらいの水位の海流が流れてくる。神藤さんが子供のようにはしゃぐ。


「ふん」


派手にやってくれたものだな、海崎。


お前も大概、負けず嫌いだ。


対人で俺を転ばせた時の悪魔のような笑顔を、一生涯、忘れんだろう。


「どうだ、紺野」


「…ふむ」


『赤』のリーダーが、意識を失った滝本リョウを観察する。


「命には別状は無さそうかの。鍵と同様、時間が経てば目が覚める」


「そうか」


一年の頭上に乗った『Lv50』。


これは、投薬によるものではなさそうだ。


恐るべき執着だ。


以前、抗魔大祭で会った時に『Lv35』だったこの男は、短期間で『Lv50』になった。


世界への恨みだけで、短期間に魔物を何万体も殺した。


世界を正すために、己を歪めた。


司馬明人に感じた狂気に似ている。


目覚めてしまえば、再び俺たちを殺そうとする。その危険性は高い。


「リョウは…」


嵐ミツキが今後を案じるような目をする。


「リョウは…どうなるんでしょうか」


「分からん」


このような答えしか持ち合わせていないことを恥じるが、こう答えるほかない。


「拘束はするだろう。藤井カナトも、凍り付いたままだがわずかにエナジーを感じる。死んではいない。互いを日常に戻してやる。その努力をせねばな」


「…分かりました。私も尽力します。うちのバカな男どもがお世話になりました」


思った以上に強いな。


嵐ミツキ。


藤井カナトや滝本リョウとは異なる方向で精神が強い。


事実を事実のまま受け入れる。悲観や怒りを交えない冷静さがうかがえる。


「そうと決まれば撤退かの」


紺野が『妖狐』の耳についた埃を払いながら、ため息を小さく吐いた。


「ああ、そうだな」


イエロースパークのやつらや海崎、軍玉様の無事を確認し、今度こそ帰還…


するはずだった。


目の前に現れたのは、


「見事な闘いだった」


黒いローブ。命からがらの痩身。


『序列・壱』。


「未完成だがタナトを封じ込めた滝本リョウ。そしてその彼を封じ込めた君たち」


文明玉。


「実験は成功ともいえるな」


飽田洋一郎。


「いつまで眠っているつもりだ。タナト」


『氷』の解けた小さな水たまりに倒れ伏す藤井カナト。


「器の蓋は剥がれた。早く完成するがいい。そして、お前の欲望を叶えるがいい。破壊だけを原動力とする傲慢(ごうまん)の権化(ごんげ)よ」


その体の内側から、『真紅』だけが抜き出されていく。


あの夜とは少し違うが、…直感。


「『月光閃』…」


「遅い」


全身に『虚脱』を撃ち込まれた。


やはりこの男、スキルの発動が早すぎる。


「おいおい、なんでか知らねえけど、全身がだりいぞ!? 噂の迷惑系やせぎすおじさんか!?」


「ほう…君は動けるのか。さすがは初代イージスの子孫」


「てめっ、距離とんなよ! チャンバラごっこもできねえのか、ボケナスぅ!」


「ああ。この身体ゆえ少年時分から満足に遊べなかったものでな。娯楽というものを知らん」


目の前の凶悪に夢中で、背後の巨悪にまるで気が付かなかった。


「カナトっ!!」


嵐ミツキの声を遮るように、


「グォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


全長5メートルの『真紅』が雄たけびを上げた。


倒れ伏したままの主人・藤井カナトの肉体から解き放たれた災厄は、その自由を悦(よろこ)ぶように叫んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。