Lv111 物は試し
『浄化作戦』決行の8時間前。
Z地区。
『祈祷』とやらを済ませた天王寺テリヒメのもとへ、数人で迎えに行った。
「ヘリを30台要請できるだとぉ!?」
「Z地区は私の『祈祷』と海崎先輩の『討伐』で、住む場所を守ってくれたからその恩返しがしたいって、代表の菱田さんが言ってたよ。脇山君」
「脇谷だ、こんチクショウ」
覚えられてねえのが恨めしい。
でもまあ。
「これなら行ける! …ヒビキさん、待っててくだせえよ!」
「うむ。しかし水臭いぞ、ヒビキさん。俺たちの実力を侮るか」
「ヒビキって変なところでカッコつけるのよね」
ゴウシの野郎も気合入ってるし、リサ姉も準備万端だ。
「では、さっそくみんなに『陽光凱歌』を掛けます」
ここでかよ。
本拠地に乗り込んでからでいいだろ、と思った直後、『レッドフレーム』のリーダーが口をはさんだ。
「空からの奇襲、といったところかの」
「はい! さすが妖狐さん! …だからみんな! 私たちに力を貸して!」
その一声で、楽器を携えた3人の女子が、学内3チームの群衆から抜け出すように『太陽』へと集まった。
だからそこにドラムが置かれていたのか。
「文化祭でお世話になったやつね。私もトミヒコも」
「リサ姉、過去の傷口を抉らないでくださいっすよ」
文化祭、ってワードだけで恥がこみあげてくるってのによ。
「ドンマイだ、トミヒコ」
「うるせえな! その反応が一番傷つく!」
「トミヒコ静かに。始まるよ」
マドカのやつが指を立てて、しー、とたしなめてくる。すっかり俺の女らしくなったのは嬉しいが、ちょっと露骨に彼女面してくるのがムッとくるぜ。
そんな俺の罪など誰も気にも留めやがることなく、
「じゃあ、始めます…はいはいみんなー!」
うわ、何だ急に。
国の重鎮らしく緊張感を纏っていた『太陽』が、急に元気ハツラツな女子に変貌しやがった。
「元気してっかー!」
「おおー!!」
「タマタマついてっかー!?」
「おおー!!」
「タマには親孝行してっかー!?」
「おおー!!」
なんだこれ。
レッドフレームのやつらが『黄』と『青』を置き去りに、テンポよく『太陽』へとレスポンスを返す。これやるなら俺らにも教えろや。
「太陽ー?」
「バンザーイ!!!」
だからなんなんだよこれ。
大規模の人の生き死にが始まっているだろうに、ここだけはまるで呑気なライブ会場のように、『太陽』が『演奏』を始めた。
△△△
こいつら…。
神藤ザンテツと水無月オボロは素の力で俺の攻撃をかわしてくるが。
「『彗星強打』《メテオストライク》、っちゃ!」
頭上。
『Lv18』。
身の程知らずの小柄な女から振り下ろされる落下攻撃を受け止めると、想定以上の圧力が腕を圧迫した。
なんだ、この力は…
「『月光閃・三日月』」
目前に迫る二刀の弧。
「考える暇など与えん」
『Lv50』の『変容』で輝度を増した『月光』を、寸前でいなす。まともに弾けば、『月光』に直撃するかもしれない。不出来な光は、危惧するほどの光へと昇華されている。
「仮面を取ってもあんたは能面だな」
手合わせした時よりも剣術が磨かれている。
『底薄氷』。
次に踏み込む足元に『氷』の床を生成するが、
「その技は及ばん。足元には」
足を引き、避けられた。
「光栄に思え、滝本。俺は高く評価している人間の技は、そう簡単には忘れん」
「なめるな!」
手をかざして『冷気の気配』を纏わせ…
「くそっ!」
阻む蒼雷。退路を塞ぐ黒風。
「僕のこと忘れないでくれる? こないだまで僕より弱虫だったくせに」
「この変幻自在で、君を絶対止めて見せる。きっと君も、間違ってるから」
邪魔だ。
こいつだって…。
雷と風の壁を突き破るように、斬りかかるのは…神藤ザンテツ。
「おいおい、この超強い剣豪を置き去りにしといてクライマックスに行く気か? そうはさせねえよ!」
速い。
単純に、振るった剣が、速すぎる。
「『俺の剣技・其の一』」
単純な水平切り。
なんで、『Lv83』で生成した渾身の氷壁を砕ける!?
「おあいにく様、『剣術』のスキルを磨きまくったからな。『変容』で破砕の性能もブッパしたわけだ。俺って天才だろ? なあ、オボロ」
「うるさいです」
「うるさいってなんだよコラぁ!! 先輩だぞ!? 俺の先祖は初代イージスだぞ!?」
鬱陶しい。
まずはこいつから、殺す。
近づいた。
また邪魔が入った。
「リョウ!」
ミツキのやつもだ。
『風』が、想定以上に強化されている。
…『太陽』か。
天王寺テリヒメの『陽光凱歌』!
見渡したところ、あの女の姿はいない。遠距離から強化しているのか。文化祭の時みたいに、音楽での広範囲な出力でもない。
無音なら効果が薄いはず。それを広範囲に? それも強化する人間を選定しながら?
「『俺の剣・その二』」
「くそっ!」
回転攻撃のせいで、纏わせた『冷気の気配』が、消えていく。
「考えるヒマなんて与えねえよ、ボケナスぅ!」
「頭冷やして、リョウ」
水無月オボロや鍵カケルにかけた分は、ミツキの強化された『風』で…。
効果が切れる前にとどめを刺す気か。
それなら。
『断罪氷牙・終局』。
刀身に氷を纏う俺の奥義を改良。
『必殺のグロース』で強化され、リーチは200立方メートルを超えるが、纏ったのは『冷気の気配』のみ。
振るって飛ばした『冷気の気配』を一気に凍らせ、この場にいるやつを一気に終わらせる。
「お前ら全員、目障りなんだよ」
俺は、何の小細工なんてしなくても、剣を横に振るうだけで、お前たちを…クク…。
「『月光閃・名鏡新月』」
水無月オボロが、二刀を天に高くつき上げた。
無駄だ。
あんたごときの紛い物の『月』に何ができる?
…。
強化されてなお、物足りなさを感じた『月光』は、小さく凝縮され、目を塞ぐほどの光と化す。
「所詮は妹の真似事だ。物は試し…」
まさか!!
使えるのか。
抗魔大祭で『月』が見せた、あの技を。
たった一瞬の光で、何もかもをさらけ出し、消し去ってしまう神業を。
「『月光閃・十六夜』」
まずい。
無効化される!
何を除去する? この『冷気の気配』か。必殺のグロースの効果までもを消し去るか。
いずれにせよ奥義が空振りになれば、エナジーの残量で押される…。
解除だ。
まずはこの男を、通常の『断罪氷牙』で殺し…
「使えるわけがなかろう。この『月光』に」
水無月オボロが、二刀に溜めた『月光』をそのまま大気に消した。
「お前もまた、俺を信じてくれていたのだな。その信頼に感謝する、滝本リョウ」
「なん…だと…」
急げ!
再発動だ。
『断罪氷牙・終局』を、50メートル内に絞り込んで、少なくとも水無月オボロと神藤ザンテツは仕留めなければ。
「ただ、滝本。お前の決定的な敗因は一つ」
『冷気の気配』を、剣に集中して…
「『解錠指定』。滝本リョウに投与された、不規則なエナジー!」
振り返った先。
鍵カケル。
銃口のように指を立て、律儀に発動対象を狙い、
「お前…ふざけるなぁぁぁぁ!」
「『解錠』!」
全身に、スキルによる硬直感が襲い掛かった。
エナジーが、はがれていく。
「鍵を…俺の親友を眼中に入れなかった。天才よ、それがお前の敗因だ」
水無月オボロが初めて、得意げに笑う顔を見せた。
「ああこれ…すっごい反動きた。一ヶ月は目覚めないやつ…」
反動で倒れ行く鍵カケルの身体。受け止めるのを見届けた直後。
襲い掛かったのは、エナジーの欠乏。
それによる立ちくらみ。
地面についた膝が、再起しない。
ああ…氷が…解けていく。
こんなにあっさりと負けるのかよ。
クソ。
カナト…。
お前にだって、真の意味で勝ったのに…!
文化祭編で登場したギターのアズキ、ベースのキナコ、ドラムのワタですが、あれ以来めちゃくちゃ練習して、メキメキ上達しました。
陽光凱歌の範囲も、効果も効果時間も、彼女らの音楽の質が上がったのもあり、今回のクソつよ能力上昇です。
ルナが昏倒した件で引きこもったテリヒメに何度も連絡をよこしたりと、普通に親友。
ミコト(テリヒメの8歳の弟)も彼女らのことは結構好いてます。
「いつか俺がボーカルやっから、あんたらで俺の存在を立てろよな」
「ミコト。あんまりなめた態度取ったらぶん殴るわよ」
「いいのよテリヒメ。ミコト君かわいいじゃん」
「お姉さんが頭なでなでしてあげる~」
「お、おい! 触んなババアども! くすぐってえ!」
「きゃはは、顔真っ赤! かわいい~」




