Lv109 世話んなった
「リョウ!」
ミツキ。
もう遅い。
カナトは、俺が殺し…
「施錠!」
これは…っ!
背後を振り向けない。身体が、文字通り施錠されたように固い。
3年の鍵カケルのスキル。
この程度の出力。俺のエナジーを注いで外してしまえばいい。
「サイハ!」
聞きたくない名前だった。
そこにいるのか。『序列・惨』が。
「僕も忘れないでよ! 鍵のあんちゃん!」
聞きたくない声と雷鳴。
『序列・肆』。
「『獄炎→炸裂球』」
「『するどいライゲキ!』」
こんなところで、無様に背を向けたまま死ねるかよ!
この鬱陶しい雑魚の施錠に注げ。今すぐ破壊しろ。
破壊し、後ろを振り返る。
目前に迫りくる有効打。
さっきのタナトみたいに悠長に『冷気の気配』を纏わせる余裕がない。
剣で弾ける姿勢を作れない。
この一瞬で出した結論は…。
『抹消氷河』。
カナト。
急成長するのは、お前だけじゃない。
獄炎と蒼雷の周りに『冷気の気配』を一瞬で作り上げ、氷漬けにした。獄炎は爆発せずに終わり、蒼雷は氷の中で暴れることすらできない。
「後悔するといい。俺を殺そうとしたことを」
斬り捨てる。
所詮は他人の善意に惑わされ、初志を捻じ曲げた弱者ども。
粛清してやる。
「まずは厄介なあんたからだ。鍵カケル」
「っ!?」
一瞬で詰め寄ってやると、やはりこの男は反応できない。近接戦闘が弱いのが丸見えだ。水無月オボロの陰に隠れてスキルを振りかざすだけの弱者。
「遺言は待たない」
「サイ…ハ…」
首に刃を振るった直前。
3本の刀が、剣先に割り込んだ。
「おいおいおいおい! なんか楽しいことやってんじゃねえか! 反抗期の後輩くん!」
硬派な顔のくせに、幼い子供のようにはしゃぐ男。
「滝本リョウ。お前のことは高く評価していたが、案外、愚物だったか」
仮面を付けない状態で現れた、気品のある男。
神藤ザンテツ。
水無月オボロ。
両者共に、『Lv50』。
「滝本。お前の悲しみとか苦しみは知らねえ。この戦場では、勝った方が正義だ。…なあ、オボロ! 今の俺、カッコよかった!? どうだった!?」
「神藤さん、少し黙っていただけますか?」
「なんだよそれ! 生徒会でまともなやつは鍵くらいしかいねえのかよ! …なあ、鍵、お前は俺のこと尊敬してるよな!? なっ!?」
「え…ああ、はい」
「ほら見ろ! やっぱお前だけだよ鍵ぃ~! ユミコのやつも俺に意地悪してくるしよ! お前みたいな性格のいいやつがこの世にいっぱいいたらこんなことにはならなかったのになあ!」
「あの、抱き着かれるのはちょっと…」
緊張感のないやつら。
俺に勝てると思っているから、そんな態度ができるのか。
思い上がるなよ。
皆殺しにしてやる。
死にてえやつからかかってこい。
薬の影響で『Lv83』まで上がった剣。これでお前らを三枚に卸してやる。
△△△
「一人で乗り込んできたんですね」
頭がいいくせに、マジでバカなことをしやがる後輩。
屋上に上がると、そのバカは山頂へと続く道に立ちふさがる。
「偉そうに見下ろしてくんな。つーかお前、俺のことずっとバカにしてたもんな」
「よくわかりましたね」
「目ぇみりゃ分かる。大目に見てやるから、投降しろや。お前はまだ、誰も殺してねえんだろ? 父親の教唆でやらされたことにして、さっさと帰ってこい」
「教唆…なんて言葉、知ってたんですね」
両隣に魔物が2対。一歩、前に出る。
鳥型の魔物。…神鳥の血統・『フレアード・Lv62』
ヒョウ型の魔物。…雷獣の血統・『トールパンサー・Lv58』
今年の3月。イエロースパーク全員で捕獲して、あいつに調教させた魔物たち。I地区の縄張りを争った2頭の主のレベルが、前に見た時よりも30ほど上がっている。
「彼らには、滝本リョウと同じ『施し』を与えました。時間が経てば、さらにレベルが上がり、轟さん、あなたでも勝てないでしょう」
そうかよ。そりゃあダリいけど。
つーかよ。
「んなもんどうでもいい。ヒビキさんって言えよ、バカが」
「…御託は終わりです」
相変わらずスカした眼鏡野郎が手を前に出すと、天と地の2方向に散り、俺に攻撃を仕掛けてきやがった。
「『Lv50』に到達し、スキルの『変容』を果たしたあなたでも、この単純な火力の前には無謀です。海崎先輩たちを連れてくるべきでしたね」
「はあ? きめえこと言ってんなよ、クソ眼鏡。俺一人で十分だっつの。それに、こいつらにも、さんざん世話になったんだ。痛えなんて今更思うかよ」
蛇塚とやり合った時は雷獣の雷を、抗魔大祭ん時は神鳥の炎を。
それぞれ纏ったんだ。俺の超強えスキル『スキル耐性』でな。命が削られる感覚はあったが、別段そんなに痛くはねえ。タンスの角に足ぶつけたほうが痛えくらいだ。
そんでもって人間が『Lv50』で可能な、スキルの『変容』。選べる成長の進路。スキル出力でもいいし、スキルのコストでもいい、スキルの範囲でもいい。
俺はこのスキルを、シンプルに。
「出力に全振りしてやったからな。体感でダメージ6割カットだった性能は、ざっと9割カットに成長したっつーわけ! …ぐっ!!?」
爪を立て、電流を流し込んでくるヒョウ。これが、レベルを格段に上げた主の電撃!?
「俺のスキルをお忘れですか? 強化の対象は、なにも人間だけじゃない」
ああ、そうだったな。おめえのクソ丁寧なスキルだ。
こりゃあ、死ぬな。
…俺以外の常人だったら。
前よりも痛えっちゃ痛えが。
「…ふん」
「…?」
あーあ。
ちょっと心配しかけた俺がバカみてえじゃねえか。
「あれだけ脅しといてこれかよ。クッソつまんねえな、ヨウジ」
「耐えただと…!」
別に耐えられねえ痛みじゃねえよなぁ!?
つーか、命的にはノーダメだ。
爪も歯も立て、電撃を流してくる獣の頭。健気なその体毛をさすってやる。
「おいおい女豹ちゃん、こんなことしていいのかー? 俺も、ご主人様だぜ?」
首根っこを掴み、
「お手の一つもマトモにできねえのかぁ!? あぁん!?」
思い切りぶん投げてやった。
「…轟ヒビキ…相変わらずのイカレ野郎め」
ヨウジの野郎がビビってら。
「言ってくれるじゃねえか、クソ野郎。つーかしれっと呼び捨てすんなし」
おめえのことだから、まだあるんだろ? 奥の手が。
「おめえとはいっぺん、ガチでやり合ってみたかったんだ。ちょうどいい機会だ。…出し惜しみすんじゃねえぞ!!」
「気絶で済ませてあげようとしたんですが…殺意を煽ったこと、後悔しないでくださいよ」
今まで死ぬほど世話んなった『エンハンス』のギアが、俺への殺意でぶち上がった。




