Lv108 気付かなかっただろ?
「魔物がいるから。レベルなんてものがあるから。兄さんは死んだんだ。カナト、お前のように闘いを娯楽のように楽しむやつらが増えたから、この世界はおかしくなったんだ」
リョウ!
「グォォォォ!!!」
冷やすのはてめえの頭だけにしやがれ!
バケモンが、赤いエナジーでできたデカい拳を振りかざす。
氷剣と衝突した瞬間、爆発が起こる。
そして、リョウが素早く懐に潜り、
「氷閃撃」
冷気に光る刀身を、達人の域に達した速度と精度で横に薙ぐ。
バケモンの腹を抉るが、俺の肉には届かず、すさまじい速度で再生する『真紅』に弾かれ、リョウが距離を取る。
この繰り返し。
そう思われていたが。
「グゥ…」
均衡を破ったのは、バケモンの方からだった。
この世から大気を全て奪い去る勢いで、息を吸い込む。
「グォァァァァ!!!!」
その大気とともに吐き出したのは、口元で溜めた超高密度のエナジー。
極大な『真紅』の光線が、音と光を消し去るように前方へと撃ちだされた。
避けろ…リョウ!
「いいぜ…」
『氷のエレメント』が、身体の周囲を渦巻く。逆巻く冷気だけで、地面と大気を傷つける。
なんでお前は、立ちはだかってんだ。
お前らしく、堅実に逃げてくれ!
馬鹿野郎!!
△△△
カナト。
お前は違うと思ってた。
お前だけは、俺に勝手なイメージを持たないと思っていた。
お利口さんの優等生。
周囲の期待に応える。
真面目で忠誠心も高い。
…くだらない。
どうして素行がいいだけで、成績が優秀なだけで、俺は集団のために生きていると思われているんだ。
堅実派だと勝手に決めつけるな。
俺だって、自由になりたいさ。
誰かを自由に憎みたいさ。
兄さんが殺されたのは、外野の凡人どもの無責任な期待に応えたせいでもある。
兄さんなら、蛇塚ウロコを止められる。
とか思ってたんだろ?
兄さんを盾にしてしか、あいつを非難できなかったくせに。
てめえらの力で解決しようともしなかったくせに。
兄さんのスキル『氷結』。
空気中の指定した範囲を『氷結』させる。俺が持つ『氷のエレメント』とは違い、自由度は極めて低い。
死んでもなお、兄さんにずっといてほしかった。
だから俺も、『氷のエレメント』を『氷結』で運用した。
俺のエナジー量なら『冷気』で大抵のやつを殺せるのに、今まで無理にエナジーを消費して『氷結』にこだわった。
兄さんの技と闘い方を失えば、兄さんが死んだのを認めたような気がして、嫌だったから。
でも、認めるしかない。
兄さんは死んだんだ。
今、ここに生きているのは俺だ。
だからこそ、自由に、奔放に。
「俺は、この世の頂点に立つ」
統率する。
人任せの弱者。自分は弱いから、足手まといだからと、もっともらしい言い訳を並べて前線にすら立てない卑怯者。俺が上に立ち、強者と同じように危機を強制する。
自分の強さに自信のある強者。強いから、理屈を無視して我が物顔で自我を押し通す動物以下。俺が上に立ち、粛清してやる。
これこそが、真の平等だ。
剣を突きつけ、飛んでくる『真紅』の砲撃を迎え撃つ。
剣先に集中する。
砲撃の溜め時間。『冷気の気配』を全速力でタナトに流し込む。
やつの全身に膨大な『│冷気の気配』を纏わせた。
エレメント使いは発想次第で戦闘力が大きく変動する。
教科書にも書かれていた基礎中の基礎。
…闘い方は決まった。
もう、凝り固まった闘い方はしねえ。
兄さんと一緒に、俺は。
「『抹消氷河』」
この世界を、平らにする。
タナトの全身に漂わせた膨大な『冷気の気配』を、瞬間冷凍する。
どうだ、タナト。…カナト。
気付かなかっただろ?
『冷気の気配』。
地味で、緻密で、誰にも期待されない存在感のなさ。
タナトを凍らせ、膨らみ続ける氷は、やがて止まる。
その間、タナトは無様にも、全身が氷漬けのまま微動だにしなかった。
中にいるカナトもきっと、死んでいる。
…。
…。
「勝った…」
俺はカナトに、勝った。
いつだって、俺は勝っているが、こいつはいつも、ここぞという場面では、俺よりもずっと強かった。
その、『ここぞ』で勝ったこと。それにこそ意味がある。
「カナト、お前は俺の目標でもあったんだ」
お前の死も、無駄にはしないさ。
きっと、俺が統治する『第三人類史』でお前の死を役立てて見せるさ。
イージスになるのは、この俺だ。
「カナト! リョウ!」
…。
合流したか、ミツキ。
ああ、お前もそうだったな。
いつだって俺を期待した。
俺なら大丈夫だって、俺のことを強いことだけが取り柄の強者だと決めつけた。俺の本質を見抜こうともせず、周りの馬鹿どものように俺を愚直に信じ続けた。
勝手に期待しといて、少し自分の理想と離れると、そうやって勝手にがっかりするんだ。
なあ、カナト、ミツキ。
どうして俺の弱さも、見てくれなかったんだ?
どうして俺ばかり、勝手な理想を押し付けられなきゃいけないんだ?




