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必殺のグロース—最弱からの急成長―  作者: ヒラメキカガヤ
最終章 必殺のグロース
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107/128

Lv107 忍術

この子、かわいらしい顔つきがちょっと変わったな。


これくらいの年頃は顔立ちが急に変わったり背丈がぐんと伸びたりするのよね。私も、お胸やお尻がプリンプリンと大きくなった時があったかしら。色仕掛けで殺せる男が増えて喜んだっけ。


なんて横道はさておき、


「でもさでもさ、チミさ結局さ、ワンパターンじゃん!」


直進する『神速』を、真横に飛んで避ける。


次の動きがすぐに読めてしまう直角的な動き。さっきとまるで変わらない。『神速』を見失うのはまずいから『煙幕』は張って闘えないけど、余裕のよっちゃん。


手に取るようにわかっちゃう。敵の強すぎるゲームを何度も周回してるみたいな感覚。


やっぱ、万全のババアを相手にしてる方が興奮したな。


「どうやって殺されたいか考えててねっ。口に含んだ毒液をチミの胃袋に流し込んでもいいし、お股に挟んで首を捻じ曲げてもいいし、お胸に挟みながら脳天にクナイを突き刺してあげてもいい」


「…どれも悪趣味ですね」


口元がまた、引きつるように作り笑いを浮かべる。その強がりな美顔、このクナイで全部そぎ落としてあげたい。


「僕の急成長を、お見せします」


双剣を再び構えた。


急成長。


…なんてものは存在しない。


人が急に結果を出したり、急に誰かの実力を上回ったりするのは、当人が急激に成長したからではない。彼らの積み上げた研鑽に周囲の人間がふと気づいただけ。本人たちは虫けらの歩みような小さな変化に気付きもしないだろう。


そんな小さな積み重ねが他者に気付かれるのが急成長の正体。


よって、真の意味で急成長なんてものは存在しない。


「漫画じゃあるまいし、急に強くなるなんてできっこないよ。無謀な愚策は諦めて、どうやってお姉さんのご機嫌を取るか考えてみたら? 言葉次第で楽に死なせてあ・げ・る♡」


「しませんよ、そんなの」


彼の足元。


「自分の存在を懸けて闘う彼に、申し訳が立たないから」


地面を深く、抉り取り、


「だから今、ここであなたよりも強くなります」


『神速』が再び、分かりやすい軌道で、私へと向かった。


しつこい。


もっと工夫とかないのかしらね。


ほら、目の前から直進してきて私の首を狙いに行くんでしょ?


この子は、急所ばっかり狙ってくる。防御とか長期戦が苦手だから急所を突いて早く戦闘を終わらせたい、ってのが丸わかりなんだよね。


やっぱり恋も殺しも、相手の気持ちが分かっちゃうとつまんないな。


迎え撃つ。


もういいよ。


目が完全に、このスピードに慣れてきた。


ごちそうさま。


首元に迫る双剣を屈んで避け、踏ん張った足を跳ねるように伸ばし、


「ばいばい、イケメンくん」


指に挟んだ3本の毒針を、胴体に差し込んだ。


「ほええ?」


…消えた。


「まさか…ちょっと、マジ!?」


冗談ですやん!


これって、


「私の先祖の!」


分身の術。


地形による目の錯覚やすさまじい速さを持つスキルで分身を作り出す忍術。


私の背後。


「あなたを見た時から、やってみたいと思ってたんです」


実態を持った本人が私の急所…否、背中を蹴り飛ばした。


「トドメは、僕じゃなくていい」


蹴り飛ばされた先。


見えたのは、


「ちょっ、チミ!? …チョベリバなんだけど!!」


拳を構えているのは、


「チョベリグじゃ、小僧!」


Z地区の怪老、菱田トヨコ。


「僕よりも強い人なんて、いくらでもいるから」


やばい。


煙幕を展開し…。


「│煙《けむ》には巻かせん」


間に合わなかった。


せめて、頭部と心臓を…


「ごぅぇっ!!」


腹!?


吹き飛びながら、噴き出てくる血。


内臓どっかイカれちったなこれ。


凍り付いた魔物にぶつかるし。


「胸部を貫こうと思ったが、さすがの精神力じゃ、忍よ」


拳を鳴らした菱田トヨコが近づいてくる。


「へし折った腕を平気で防御に使えてしまうんじゃから。咄嗟に腹に狙いを変えたおかげで殺せんかったわい」


「死にかけのくせに…なんちゅーパワーだよクソババア」


あー。息すんのしんど。


喉から血がどくどく出てくる。気持ちわり。


「ほほ、お主も忍びとして立派に育ってるもんじゃ」


「あんたの胸板とは違ってちゃんと柔らかくもあるのよ? この胸は」


軽口をたたきながら、警戒。


そろそろ、来るよね。


「ぐっ!」


向かってくる未熟な天才くん。腹を蹴り飛ばす。


「反撃、できるんですね」


ヘラヘラと笑ってるけど、ドン引きしてるのがよくわかる。


「お姉さん、チミとは違って大人だから。こんなの全然、痛くないもんだ!」


実はすっごい痛いけど、あのクソ家族に叩き込まれたおかげで意識は保てる。


全部が全部、あいつらのせいでもないかもね。なんて思いかけたけど、私を忍なんかに仕立て上げた時点でやっぱあいつらは死ぬべきだったな。


そんで、私は。


「っ、待て」


ほーらやっぱり、作り笑いじゃん。


文字通り、スキルで煙に巻く。普通の女の子なら昏倒してる最大出力で、タナトに届きそうなくらいの広範囲をモクモクにしてやる。


「ユウトくーん! 強くなったらまた相手してあげる! クルクル天パ君にもよろしく言っといてー。ま、生きてるか分かんないけど」


音を消す。乱れた呼吸を止め、気配を消す。│足袋《たび》を脱ぎすて…。


「取った」


ユウト君。


残念。


それはね…。


「服を…全部脱いだ…?」


いやん♡


『変わり身の術』って言ってよ、エッチ。興奮で身体が反応しちゃうじゃない。


煙を抜け、調教しておいた鳥型の魔物を呼び出す。


「さあ、鳥さん。│人気《ひとけ》のないところに連れてってよね? 人殺し以前にわいせつで捕まっちゃうわ」


素肌に沁みこむ12月の寒波。こりゃあしばらく風邪ひいちゃうな、ぴえん。


一足先に、逢魔岳を下山した。


遠く離れても、『真紅』と『氷河』の軋轢がはっきりと分かる。


…。


タナト教団とか、世界がどうなるとか、私は知ったこっちゃないね。


おいしいご飯といいおうちとオシャレなお洋服とイイ男がいたら、その他なんて知ったこっちゃないもーん。


司馬っちが死んでから、そのへんマジで全部どうでもよくなっちゃった。

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