裏事情
試合を終えてぶっ壊されたスサノオの手足の換装を行う。
見た限り……うん、ちょっとした断線だな。
ただし的確に壊れたら困る所潰している辺りプロの犯行……証拠として運営に提出しておくことにしよう。
こういう時便利なんだよな、手足の付け替え可能って。
ただ予備パーツはそんなに持ってきていないのと、せっかくなので両手足を換装する事にした。
クリスを見ていて俺も最前線で暴れたくなったというのもあるが、それ以上に軽装での戦闘は俺好みだ。
要するに速度が出る手足をくっつけたわけだ。
「まったく、どこであんな戦術覚えてきたのよ……手も足も出なかったじゃない」
「京都の篠原……であってるか?」
さっきまでとは別人としか言えないメイクをした女子が立っていた。
声でどうにか分かったくらいだな。
「あってる。普段はこういうメイクしているけど男受け悪いんだよね」
まぁ、いかにもギャルですってなると距離取る男子もいるだろう。
俺は嫌いじゃないけどな。
「たかがメイクで逃げるならその程度って事だろ」
「あら、嬉しい事言ってくれるわね。それを分かってない奴が多すぎるのよ。パイロットなら爪を見ろって話なのに」
そう、様々なボタンだのレバーだのがついているギアの操縦で長い爪はご法度。
向き不向きの問題じゃなくて、免許取る時ですら爪を伸ばすなと言われている。
おかげでこの世界じゃつけ爪が一般的で、伸ばしている女性は少ない。
それこそギアに一切かかわらないような人じゃないかな……自家用車の代わりになっているから絶滅危惧種だろうけど。
「で、なにしに来た」
「いやぁ、そろそろ洗礼受けたからあんな戦法だったんじゃないかなって」
「洗礼?」
「そ、機体の一部が壊されるの。運営によってね」
「は? なんでそんな事を運営がするんだ?」
「正しくは運営と利害が一致した裏組織ってところかな。こんな大規模な大会で賭けない奴はいないでしょ、裏では」
「そりゃまあそうだが、利害の一致ってのは?」
「運営側からしたら番狂わせも欲しいし、それ以上に軍は機体が壊れた時の対処法を見たいというのがあるの。だから毎年その手の不運が起こるのよ」
「不運ね……あの下手くそなハニートラップは不運に見舞われる可能性を上げるためか」
「そういう事。だから慣れてきた奴や、先輩から色々聞いている奴らは機体の側を離れないのよ。徹底している奴はトイレにもいかない」
まぁパイロットスーツにおむつに似た機能あるからな……。
正確には吸水して、そのままナプキンみたいに張り替えてもいい、あるいはその余裕がない時は機械に繋いで吸い出して捨てるという事もある。
意外と細かいギミックがあるんだよな、パイスー。
「裏の利害ってのは賭けの中で大穴が余計なことをしないようにか」
「最悪ギアの性能のおかげでしたっていうのも見抜けるからね」
よくできた……というか出来過ぎた仕掛けだなぁ。
軍と裏組織が繋がってますよって言わんばかりの内容だ。
「で、篠原倒した後に出てきたのはお知り合い?」
「あれは大阪の奴。猪突猛進の馬鹿。だけどここぞという時は本当に手ごわい相手……のはずだったんだけどねぇ」
「無線封鎖もしないで不意打ち噛まそうとか言う馬鹿だろ? そりゃ直にやり合えば面倒くさいとは思うが……如何せん本人があほすぎる」
「ほんとそれ。私を囮にしたんだから一矢報いるくらいしてほしかったんだけどね……ちなみに今は会場の砂を瓶詰にしてる」
「甲子園じゃねえんだから……そもそもまだ本戦じゃねえよ……?」
「いやいや、妨害が入り始めたってことは事実上の本戦よ。この先全員が妨害されること前提の戦いを仕掛けてくる。されても関係ないくらいのしかいない。わかる?」
「納得はした。ただ……なぜそこまで親切にする? 仮にもハニートラップを仕掛けてきたくせに」
「裏の賭けは匿名だからだれでも参加できるの。それこそ学生でも軍人でもね」
はいはい、こいつ俺に賭けたな?
「いくらだ?」
「とりあえず口座にあった残高全部と手持ちの10万円、合わせて200万くらい?」
「違う、オッズだ」
「あんたの場合1年生で初出場で、今まで名前が売れてなかったのもあって最初は50倍くらい。特務隊ってのがバレてからも30倍くらいだったわよ」
「意外と……」
「配当だけ見れば高いんだけど全体通してみたらそこそこよ。下は数千倍とかあるから。ここだけの話、好事家がその場のノリでオッズを変えるくらいの金額投げ込むことも珍しくないのよ。更にここだけの話、軍が目をかけてる人間に賭けて費用を賄う事もそれなりにあるの」
「……最悪の裏事情を知った気分だ」
「だからここだけの話よ。私もお父さんが軍にいなきゃ知らなかった事だし」
「へぇ、篠原の親父さんは軍人か。そんな事情知ってるってことはそれなりの階級か?」
「正確には元軍人の、今は防衛相で大臣の秘書やってるわ。だからそういう情報も流れてくる。だからアレを運営に渡すだけ無駄、というかオッズが下がるからやめてお願いだから」
指差したのはスサノオの手足。
まぁ……うん、大体納得できたから俺としてはどうでもいいんだがおやっさんがブチギレててな……こんなに丁寧に壊せるのにそのためにしか技術を使っていないのかと騒いでいる。
まぁ聞く限り運営側と裏に縁のある軍人なんだろうなとは予想しているけどさ。
少なくとも俺には無理だ、こんな観衆の中でスニークミッションで機体の一部破壊とか。
「ちなみに今のオッズが30倍くらいって言ったよな」
「えぇ、さっきのでちょっと上がって25倍くらいになってるけど」
「俺の分も賭けておいてくれるか? そうだな……三連単で俺1位、2位クリス、3位良平で」
「言っておくけど一口100万からよ?」
「その程度は出せる」
「ならいいわ。これ私の連絡先、ここに振り込んでおいて」
「あいよ、持ち逃げしたら溶鉱炉に沈んでもらうからな」
「流石にそんな事しないわよ……まったく、少しは人を信用してもいいと思わない?」
「ハニートラップ仕掛けた奴の台詞じゃねえよ……何より今だって化粧で擬態してるじゃねえか」
「変装って言ってくれる? 見た目で侮る相手に賭けるわけないんだし」
なるほど、その化粧の時点で審査は始まってたか。
強かな女だねぇ、利用できるものは何でも使う。
うちの狂犬みたいな女とは別方向で厄介だな、こりゃ。




