ハニトラ
「すごいですね! 今の試合! かっこよかったです!」
「え? あぁ……どうも、んでどちら様?」
試合が終わってなんか飲むかなとハッチを開ければ見知らぬ人物。
女性で……まぁそれなりにスタイルのいい美人さんといった風情だが……誰だ?
「あ、すみません自己紹介もせずに。私京都中央山高校の篠原です。さっきの試合見て感動しちゃって。敵の一番多い所を突破したと思ったら隠れている敵もどんどん落としちゃうし、近づいて来ようとしたら落として、狙撃まで切り払うとか……感動しちゃいました!」
「そりゃどうも」
「あの、この後お時間ありますか? 良ければお茶でも……」
あからさまに罠だなぁ……ハニートラップにしてもお粗末に過ぎる。
しかしどんな仕掛けをするつもりなのかは、少し気になる。
面白くなるなら大歓迎なんだけど、つまらない仕掛けされたら容赦なく叩き潰すしウィルスとかならどうにでもなるからな。
いっちょ乗ってみるか。
「そうだな、珈琲くらいなら」
「じゃあ御馳走しますよ!」
「いんや、ここは男を立ててくれ。俺が奢るからさ。そっちの、京都の方の話も聞かせてくれよ。あんまり西側の情報は行ってこないから」
国際的なレベルでの交流と言うのは結構あるのだが、日本の東西南北という単位だと意外と交流が少ないのだ。
結果的に情報が入ってこない。
たぶん交換するほど特筆するようなことがないんだろうけど、それでも面白い話が聞ければ十分だ。
「いいんですか? 私が話聞きたいって言っているのに」
「いいんだよ。むしろ俺に話せるような内容なら京都の情報だけで十分お釣りがくる。支払の過多は少ない方がいい」
「ならお言葉に甘えますね」
よしセーフ、機体がどうのこうのはまだ何とでもなるけどパイロットを狙われたらね。
睡眠薬なんか盛られたとしてもある程度耐える訓練はしてきたけど、それでも本調子とはいかない。
その隙が命取りになりかねないから個人で鍛えられる範疇は頑張っているけど、それ以上に警戒は怠らないようにしている。
「好きなの選んでくれ」
千円札を自販機に入れて促す。
俺は……コーヒーでいいか、エナドリは膀胱に響く。
いやカフェインが入ってることに変わりはないんだけど、なんとなくコーヒーの方が尿意が来るまで時間かかる気がするんだよな。
「じゃあミルクティーで!」
「はいよ」
ボタンを押してミルクティーとコーヒーを買って片方を手渡す。
……さっきからこっちを見てる奴がいるが、この女の仲間か?
篠原と言ったっけ、聞き覚えの無い名前だが……どうなんだろう。
これで肩透かしでしたってのが一番ダサいが、その心配はいらなそうだ。
「それで、お話聞きたいんですけど……」
「あぁ、何から聞きたい?」
「じゃあさっきの戦闘、何で一番数が多い所を狙ったんですか?」
割と普通の質問だな。
悪く言うなら芸がない。
大抵のパイロットなら他の試合見て自分ならどうするかを考えるものだ。
良平の試合は正直俺にとって利益がないから流し見しているが、クリスの試合は結構真剣に見るぞ。
今のところ予想通りローリングゲロビと突撃お前が昼ご飯ってな具合でばっさばっさ切り捨てられてるけど。
東雲と右京?
俺と同じように囲まれて叩かれて即効敗退した。
同じような状況でも乗り手と機体の得手不得手でここまではっきり決まるもんなんだな。
「わぁ、あっちの人達も凄い……」
「あの細身の機体、クリスってやつが乗っているんだがアレも同じだ。敵の多い所に突撃して包囲網を崩す。数が多い分連携が難しく、直前で突発的にチームを組んだのなら打ち合わせも最低限だろう。で、弱い奴を集めて蓋をするのが基本だから数が多い所が一番脆い。だから俺もクリスもそこを狙った。もちろん裏を読んで強い奴らでまとまるパターンもある。その時はすぐに逃げるなり、あるいは無理やり突破するなり方法はあるけどな」
「なるほどぉ。ちなみに雨傘さんはどうします?」
おいおい、ハニートラップなら名乗ってない俺の名前知らないふりしておけよ。
そりゃ掲示板に名前出るけどさ、あからさますぎるんだよな。
片腕にしがみつくように乗り出して胸を押し付けてくるあたり露骨だ。
だが高校生の若い肉体とはいえ最近はこの程度ではドキドキしなくなった。
根っこが外国のコミュ力しているクリスのせいで慣れたからな。
あいつ必要なら俺達の目が合っても着替えるし、一口頂戴とか言って食いかけの物を普通に奪ってくる。
さっきみたいに食いかけを渡してくることも珍しくないし、俺がプログラミングしている時頭に胸乗せて覗き込んだりしてくる。
日々パイスーとかいうピチピチに肌を締め付ける装備で反応してはいけない状況が続いているからか、悟りの境地に辿り着いた俺にそんなハニトラは効かない。
まったく柔らかいな……。
「あ、すごい。今3人同時に斬り捨てましたね。どうやったんでしょう……」
「1人目は手持ちのサーベルだな。2人目は肘に取り付けられた隠し武器、3人目は最初のサーベルの返しで切った」
「良く見えましたね……」
「あいつの動きは普段から見ているからな。流石に専用機だから見せてない武装も多いだろうけど、本人の気質考えるとあのくらいはやる」
「なるほど、じゃああっちのビームの人は何をしているんでしょう」
「初撃で避けた奴らを追い込むために森を切り開いている」
良平の映っている画面を指さしてたずねてきたので答える。
フィールドの一部になっている森林をエネルギーの暴力で焼き払いながら、自分の周りは切り開いて延焼に巻き込まれないようにしているのがいやらしい。
というかあの射撃機、ビームサーベル持ってたんだな。
まぁ出力が高いなら持ってて無駄になるものでもないし……と言うかもしかしてあの図体だと隠し腕とかもあるのかな。
ツクヨミ改にも付けたいけど、まずブラックボックスで実験してからだな。
隠し腕あるだけで対人戦の戦績が跳ね上がる。
インベーダー相手だとあまり意味ないけどさ。
「あ、敵の全滅判定……」
「クリスもだな」
それにしても噴煙とか見る限りあいつら出力絞ってるな?
本気を見せないというのもあるんだろうけど、まずは慣らし運転ってところか?
団体戦だと俺が美味しい所持って行ったし……うん、まぁまぁうまく動けてたんじゃないかな。
どっちも俺があいつらの機体に乗ったら切り抜けられないだろうなって場面があったのに上手くさばいていた。
やはり慣れが必要なんだろうけど……こりゃ素質の問題もデカいだろうな。
「あの二人の対処法って何でしょう……狙撃……あるいは罠……?」
「簡単に思いつくのはその辺だろうな。ただそれができる状況に追い込む必要はありそうだが」
「ですよね……あなたみたいに」
「馬脚を現したなぁ。まぁ最初から気付いていたけど」
「やっぱり、わかってたんですね。いやぁ、自分でも下手なやり口だった名とは思うんですけど……それでも、十分時間は稼げました」
「お仲間の仕込みは終わったかい?」
「おかげで十全どころか万全です」
さっきまでの作り笑いと打って変わって獲物を前にしたような、そんな獰猛な笑みを見せる。
「一つアドバイスだ。気付かれているとわかっていても演技は最後まで続けた方がいい」
「意味なくないですか? バレてるのに」
手にしたまま口も付けようとしていなかったミルクティーのふたを開け、そのまま地面に飲ませていく。
おいおい、そういうのは悪役のお約束だろ。
食べ物を粗末にするとヴィラン認定されるぞ。
「長時間の演技とかめんどいじゃん? それにあたし、人から貰った物は口にしないの。だからさ、次の試合はさっさと終わらせてゆっくり休みたいわけ。おわかり?」
「よくわかるよ。俺も一人でゆっくりしたかったのに邪魔されたところだったからな。休憩させないってのは悪い手段じゃないぞ。もうちょっと長引かせるのもありだ。なんならハニトラ繋がりで遅刻させるのも悪い手段じゃない」
ゲームでよく使われた手法だ。
ハニトラで機体を奪うのは可愛い方、機体やコックピット内部に爆弾仕掛けるのはよくある事で、ボス討伐戦の指定時間があったんだがその時間に遅刻させてアイテムを手に入れさせないとかの嫌がらせや妨害はしょっちゅうあった。
結果的に初期装備に警報装置をつけるのが第一歩と言うプレイヤーが多かったがね。
ブラックボックスはその辺いろんな奴が触れるから警報は付いていないんだ。
ただ自己診断プログラムは優秀だからウィルスくらいなら勝手に除去してくれるし、問題があればエラーとしてちゃんと表記してくれる。
「なら次の試合、さっさと死んでね」
「安心しろ、速攻で殺してやるよ」
篠原、少しまぬけだが……油断していい相手じゃないな。
全力で臨むとしよう。
去っていく背中を見送ってから蓋を開けてない缶コーヒーをどうするか迷った挙句、コックピットに持ち込むことにした。
まぁルール違反じゃないんだけどね、揺れるしGもかかるから飲食物の持ち込みは推奨しないってだけで。
……しかし露骨にやったな、ルール違反どころか違法レベルの事。
左半分、機体の機能が死んでるわ。
どっかしらにドライバーでも突っ込んで断線させたのかもしれんな。
まったく……ブラックボックスじゃなければ直すのに時間かかってたぞ。
換装すればすぐに直るけどさ、あいにくその時間も残っていない。
さてさて、半身でどうやって戦うべきか……いや、むしろこの状態だからこそできる戦法もあるか。
おやっさんに怒られるからやってこなかった物があるけど、試してみよう。




