準備
装備をスピーダーに戻してから内部冷却のために一時的にツクヨミ改をドックに入れて、スサノオをベースにしたブラックボックスをVRシステムに繋ぐ。
一応廉価版だがこいつにもスピーダーをのせてある。
というかアフターバーナーだな、直線移動だけに特化させるか迷ったが配置を弄るというおやっさんのアイデアから姿勢制御もこなせるように6機のブースターがくっついている。
見た目は不格好だが変形するとなかなかにかっこいい機体に仕上がるんだ。
ギア形態だと6個のブースターが横一列に並んでいるから主導で調整しないと曲がる事もできないけど、そこは持ち前の技術でどのブースターふかすかで移動できるようにしているし、スサノオに元々ついていた姿勢制御用を用いる事で直線から位置だけずらして回避という事も……まぁできなくはない。
ただ速度の問題と、スサノオの出力の問題で先読みして回避を置いておかないといけないんだがな。
「あら、ブラックボックスで出るの? 個人戦はこれで十分と言う事かしら」
「ちげーよ、ツクヨミ改がまだ冷却中なんだ。ついでに内部の配線とか焼けてないか見てもらってる。間に合うかわからないからこいつをセットしているんだ」
ジュースを飲みながら近づいてきたクリス。
もう片方の手にはケバブ……屋台を楽しんできたな。
まぁ今日は予選みたいなもんで午後から個人戦予選だ。
それに間に合うか微妙なところだからブラックボックスを繋いでおいた。
長くドック入りさせたままだと棄権かと言われかねないからポーズも兼ねている。
「なるほどねぇ。確かにあれだけ出力あるバックパックならそれも納得」
「お前は実験の時立会してただろ……」
「………………死んだ方がましってレベルの訓練の話、聞く?」
「……すまん」
つまりあれだ、他人の事なんか些事でしかない程の特訓をしてきたんだなクリスは。
俺が東雲たちをしごいている間に……多分家の伝手を使ってだろう。
表情が全てを物語っている……なんだそのチベットスナギツネに苦虫食わせたような表情。
「あ、そういえばなんだけど」
「ん?」
「良平から伝言、個人戦は別ブロックだといいねだってよ。私も同感だけどかち合ったら容赦しないからね」
「あぁ、そん時は俺も全力で行く」
「本調子じゃない機体を引っ張り出すか、予備機で?」
「あー、そこ微妙なんだよな……ぶっちゃけお前ら相手にこんな状態で勝てるとは思ってない。ワンチャン有るかなとは思っているけど、勝てる確率は結構低いんだよなぁ」
「あら、まだ勝てるつもり? 入学直後の試合からだいぶ強くなったのよ?」
「知ってる。けど、負け筋が残っているだろ」
クリスが表情をしかめる。
こいつ本当にわかりやすい奴だな。
ただまぁ、強いて言うなら俺も負け筋は残っている。
それこそ本気でぶん回し続けられる機体が無いというのが一つ、長期戦に弱いというのがもう一つ、そして特化しすぎた相手と同じ土俵に立ったら負けるというのがある。
他にも色々あるんだけど、少なくとも今のクリスとは近接戦をしたくない。
「問題は俺にとって勝ち筋となる所にどうやって辿りつけるかなんだがな」
「教えてくれないんだ、私の負け筋」
「良平と戦ったらどっちかが負ける。これだけ言えばわかるだろ」
「納得」
「あと不意打ちに弱い」
「うっ……」
「集中力があるのはいいが警戒がおろそかになりがちだからな。そういう意味じゃ搦め手にも弱いな」
「ぐぬっ」
「全マニュアルで目の前でブレイクダンスでもしたら勝手にぶちぎれて視野狭くして自滅するような動きも始めそうなほど短気だ」
「ぐぅ……」
「それらを基に俺の勝ち筋というラインを作るならわざと狙撃外して挑発するような動き繰り返して単調になったところで罠にはめるのが手っ取り早いか」
「………………」
あ、ついにぐうの音も出なくなった。
と言ってもそこまでやるならタイマンでなきゃ無理だし、下準備がしたい。
個人戦と言う名のバトロワの最中にどこまでできるかと言われたら……ねぇ?
少なくとも罠を仕掛けても他の連中が引っかかりそうだし、まともに考えるなら漁夫の利狙いの奴を利用してクリスだけ撃ち落とさせるとかか?
まだ詳しい内容知らないんだが、そろそろ発表の時間か?
「ん? 運営からのお知らせだって」
「お、どれどれ」
クリスの隣に立って端末を覗き込む。
俺今パイスーだから機体にセットしてあるの。
「ちょっと、近いわよ」
「悪いな、見ての通り機体の中にあるんでな」
「ったく、しょうがないわね。あぁ、個人戦予選の内容よ。バトルロワイアル、それに加えてトラップと……NPCによる攻撃? なにかしらこれ」
「……なんだろうな」
普通に予想するならシミュレーター用のNPCを配置してくるとかだろうけど……嫌な予感がするな。
やだなぁ、俺こういう予感外したことないんだよ。
虫の知らせって言うのか、ゲームの時も直感でやめておこうって依頼無視したら騙して悪いが案件だったってのも1回や2回じゃない。
ろくでもない事仕込んできそうという、軍に対する嫌な信頼もあるんだよ。
これが実戦なら死んでいるぞと言わんようなシミュレーター作ってくるからな、あそこ。
俺が作ったの上げたらお返しと言わんばかりに魔改造したもん送り付けてきた。
凜を含めたチームで挑んで、何回も全滅判定食らったよ。
しかも理不尽じゃなくて実際にありえそうなシチュエーションで。
良くも悪くも型通りの軍は型の数を増やせば増やすほど質も上がっていく。
たまーにおやっさんや真田准将みたいな型破りもいるけどな。
「クリス、これ普通に忠告として言っておくけど絶対面倒くさい事になるぞ。今のうちに機体のメンテしておいた方がいい」
「……そうするわ。あとこれあげる」
「ん?」
「ケバブ、食べかけで悪いけど好みの味じゃなかったのよ。だからと言って捨てるのもあれだからね」
「そうか、さんきゅー」
そう言って自分の機体の方に歩いて行ったクリスを見送りながらケバブに齧りつく。
……納豆と豆腐の入った……なにこれ?
いや、不味いわけじゃないから食うけどさ……うん、まぁクリスの口に合わないのはそうなんだろうなぁ。




