エクステンデッド
「オーライオーライ、ストップ。よし、接続開始、各部ジョイント異常無し、全システムオールグリーン、換装完了だ」
一度ツクヨミ改をVRマシーンから外してバックパックを切り替える。
実の所みんな大好きなあれを事前に用意していたのだが、北南西との戦闘で使う必要性が無かったのだ。
ついでに言えば中央と言うよくわからないけど雑に強い連中と戦うとなるとそれなりの装備が欲しかった。
だがタスクは連携前提で、個人で使ってもあまり意味がなく、更に言うなら対大型のインベーダーとか戦艦ならまだしもギアを相手取るには大きすぎる。
端的に言えば狙撃手やドローン使いにとっては的になりかねないサイズをしているのだ。
そのためこうして装備を変えているのだが、これはルールでも許可されている行為だ。
現在主流となっている第七世代機の売りは汎用性の高さだが、言いかえるならカスタマイズの幅が広くどんな盤面でも活躍できる装備を持てるという事でもある。
そのため相手によって武装を変えるのは当然の権利として運営側が認めているのだ。
まぁ、この交流祭に挑むにあたって自前の専用機を持ってくる輩も少なくないので半ば形骸化しているルールだけどな。
事実上スピーダーと同等に近い速度を出せるクリスの機体なんかがいい例だ。
特化させて、とにかく長所をとがらせまくった事で極まったパワーで全てをなぎ倒すというのはある種理にかなっている。
問題はそれを徹底的にメタってきた敵がいた時何もできなくなることだが、それを考えてかクリスも良平もスサノオを持ってきているのだ。
多分個人戦や、今回みたいに得体のしれない相手と戦う時を想定している。
ただ俺が本気を出すと言った以上あいつらは信頼してくれているのか、専用機から切り替えることは無かった。
ギアそのものの交換も許されてるからね、VR導入前の予備機の使用という項目で。
『なんかすごいゴテゴテしてるわね……』
マシーンの中からこちらの機体をスキャンしたクリスが渋い顔をしている。
まぁ言いたい事はわかる。
なにせこのバックパック、通称エクステンデッドは全乗せなのだ。
言いかえるならバックパックサイズに落とし込んだタスク。
遠近中全対応で、スピーダーより速度が出て、ドローンも大量に放出できる。
ついでに大体の既存武装は乗っかってて、ギア用のリアクターも3機積んでいる馬鹿の発想から生まれたとしか言えない物体だ。
男の子の浪漫、全乗せを力業で解決させた代物で、そこまでやってなおパワーが足りていないので使い捨てのバッテリーも積んでいる。
電力を使いきったら排出して機体を軽くしていくのだが、全乗せだけあって熱がこもるのも弱点だ。
だからこそ、これまた男の子の浪漫の排熱機構もがっつり乗せているので1分に1回は近場の人間が焼け死ぬレベルの排熱を行う。
浪漫以外の価値無しとまでおやっさんい言わせた代物だが、実際に使ってるところを見せて黙らせた実績があるんだ。
使えるなら使うさ。
『それで、僕達は本当に敵戦艦だけを狙えばいいのかな?』
「あぁ、方法は任せる。各々好きに敵戦艦を攻撃してくれ」
良平の言葉を全体に向けての返事で返す。
今回ばかりは本気を出すぞという意気込みで動いているからね。
それに、たまには本気を出さないと自分の上限がわからなくなる。
そうなるとどこまでできるかわからず、中途半端な死に方をするかもしれないんだ。
だからこそ、最大最強のバックパックを出すにふさわしい。
……まぁ、実践してみせたといっても俺でもこいつを使いこなせているかは甚だ不明なんだが。
実の所ツクヨミ改の方が持たなくて全力戦闘すると10分くらいでコックピットの中が熱帯林もかくやという暑さになり、そこから5分程度で人間一人蒸し焼きにするには十分な温度に達する。
つまり実質15分でパイロットが死ぬ機体なのだ。
なお計測してみたらそこから3分で肉が焼け落ち、更に10分でツクヨミ改の配線もコックピット内のあれこれもすべてまとめて火葬したような状態になってしまうのだ。
おやっさんの言葉を借りるならギアの形をした棺桶in火葬場ってところだな。
だから短期決戦にするか、ちょくちょく排熱の頻度を上げてコックピットを守らなきゃならない。
それは今後の改善に期待するしかないんだが……メカニック科の連中や軍の方々からは「もう水とドライアイスでコックピット周り固めとけよ馬鹿」と言われた。
酷い話である。
『始まるわよ』
クリスの、久しく聞いていなかった真剣な声が響いた。
東雲も右京も今回ばかりは緊張しているのか一言も発することなく唾を飲み込む音が響く。
それを皮切りにビーと開始の合図が鳴った。
「全機、吶喊!」
掛け声に合わせて最初からフルスロットルで飛ばせば宇宙空間を再現したフィールド、これはなかなかに厄介だ。
今までは地上フィールドだったから、どう頑張ったところで移動は二次元的だった。
だが上下の概念が出てきた事で敵の位置がわかりにくくなったうえに、散会されてしまえば居場所がわからない。
ならば……。
「東雲、ドローン射出する。合わせろ!」
『りょ、了解!』
ドローンを散布し、レーダー代わりに使う。
凜がよく使う探査用と違い戦闘用だが、それでもこちらの索敵範囲を広げることはできる。
『見つけた! 5時の方向上方30度に敵戦艦!』
「こっちも見つけた! 4時の方角、下方50度から……5機全機投入されている。ここからは予定通りいくぞ!」
応、と全員が答えて矛先を向ける。
まさか最初からほぼ真後ろにいたとは……。
まぁこういうのも宇宙フィールドならではか。
「いくぜぇ……エントリー!」
『なっ、速い!』
『臆するな! 直線的な動きだ! それにあの速度ならば回避は……』
「できるんだなぁ! これが!」
移動先に打ち出されたビーム、いわゆる置きビームを急旋回で回避。
胃袋どころか腸全部出るんじゃねえかと言うGに襲われながらも敵をロックしていく。
くけけけけ、西との勝負で煽りがいい感じに刺さるとわかったら全力で使うさ。
ちょーっといじれば相手が使ってる周波数程度すぐにわかるからな。
『くっ、散会!』
「おせえよ」
咄嗟の判断で全機別々の方角へ散会する、その様は見事としか言えないが……そこは俺のキルゾーンだ。
射出したままのドローンを移動先に置いて射撃の準備をしてやれば敵さんは慌てて進路を変えようとする。
そこに大型ビームランチャーをぶっ放せば……。
「まず一つ」
そのままドローンからの射撃を継続、逃がさないためにも敵を囲むように動かす。
レーダーを見れば東雲が捕らえた戦艦にも攻撃を加えているが、クリスと右京はその弾幕に阻まれているらしい。
更に良平の砲撃も回避され、東雲のドローンに至ってはがっつり撃墜されている。
なるほど、がちがちに固めた戦艦で時間稼ぎしているうちに本体が真正面から攻め落とす戦法か。
悪くないが、チームワークを重視するのが仇となったな。
ここは個々人で好き勝手に攻める方が面倒くさい。
足止めするにしても排除するにしても、最初から散会されてた方が面倒だった。
練度、実力、機体性能、どれをとっても一級品のそれはともすれば作戦次第では負けの目が大きくなっていたかもしれない選択肢。
それを読み違えたのは向こうだ。
いや、マジでこいつら個々人で見れば最低でもクリスや良平レベルなんだよ。
最低でもSクラスの売り文句は伊達や酔狂じゃないし、その中でも頭いくつかとびぬけてるトップのあいつらに匹敵する小隊とかなにそれ怖い以外の何物でもない。
だって端的に言えばそれだけで軍人として成立するくらいの実力者が、それに見合った機体に乗って飛んできてるわけだから。
とはいえだ。
「二つ」
避けきれずにドローンの射撃に当たった奴を大型ビームサーベルで切り捨てる。
残り三つ、そのうち一つは位置が悪いな。
俺にとってではなく相手にとって。
なにせ落とした二つの近くにいたドローンを集めやすい場所だ。
「さーて……」
カタカタとキーボードを叩き、レーダーに映っている三機をロックオンする。
排熱しながら、せめて反撃しようとしていた奴のライフルを逆に撃ち抜き、バックパックに詰め込んでいた武装を全て展開する。
相手が回避しようと関係ない。
ドローンで包囲が完成し、こちらも準備が終わった。
「三つ四つ飛ばして五つ!」
一斉射撃、レールガンから大型ビームランチャー、手に持ったライフルにドローン、更には追加で射出した追尾型ブレードドローンで全ての敵機を穿った。
「うぁっち!」
じゅっ、と手のひらに熱が伝わる。
パイロットスーツ越しでも感じ取れるくらいに操縦桿が熱を持ち始めていた。
……理論上10分は戦えると言ったが、無理だなこれ。
一斉射撃とかやると一瞬でコックピットの中がサウナになるわ。
どころか各配線を通じてコックピット内の機材にダメージ与えてる。
あぁ、レーダー死んでるわ……。
なんだろう、勝ったのにこっちの切り札が薄っぺらいものって見せつけられた気分になった。
解せぬ。




