127 コミックニンジャ量産モブ
今日も妹たちにセクシー大根を狩らせるつもりでいたが、魔物の補充がまだだった。
当施設は研究チームが置かれるほどに太い地脈があるとはいえ、流れには日によって強弱がある。
むしろサリアータほど地脈が豊かすぎるのは問題しかないので、これは仕方ない。
受付にUターンして再手続きだ。
「すいません、大根はまだでした。少し上のランクで良さそうなのありますか?」
「ああ。微妙かなって思ってましたが、残念でしたね。
ええと、隠れんぼ水瓜とかどうでしょう。前回の攻略から間が空いていますし、ついでに食堂から納品依頼が出ていますよ。
3日以内に最低5箱欲しいそうです」
水瓜か。
それなら『体内倉庫』に突っ込んであるトロ箱の使い回しが出来て手間要らずだ。
「では、それを。いってきます」
「はい。では改めまして、ご安全に」
食堂からの依頼は、暇を持て余した人のお小遣い稼ぎだ。
食堂費からの依頼はほぼボランティア価格だが、これで一品増えるならと皆進んで受けている。
食材はともかくとして就業中以外に稼いだ魔石は、正価で買い取られることも依頼が嫌がられない理由だ。
ここの人たちはエンゲル係数が洒落にならない。魔石での補填があるのは助かっているんじゃないかな。
そんなわけで、やって来ました隠れんぼ水瓜のダンジョンだ。
開幕『サンダー』を咬ましたらオーバーキルをしてしまった。
「爽快だね。おにい、カラ箱くださいな」
「瓜以外の片付けはかさ張るから、お願いしちゃってもいい?」
「おう。生きているかもだから、注意しろよー?」
妹たちが『採取』した残りを土を叩いて回収していく。
反省だ。慣れていない魔物はHP管理が難しい。
適度に痺れさせて、妹たちをけしかけながら『ヒール』を撒こうとしたんだけど失敗した。
レベルはセクシー大根より上なのに、HPは低いんだなこの水瓜。
紙装甲の割に高火力で『隠密』持ちとか、まんまコミックのニンジャだ。
こいつは森の中だと周囲に溶け込んで厄介だが、隠れる場所のない広場だと『隠密』効果は激減する。そんな悲しみを背負った魔物でもある。
悪魔系ダンジョンマスターは、よくこいつを併用して連続トラップを仕掛けたりするらしい。
落とし穴とか、矢衾とか、その前後に隠れている。トラップを避けた瞬間襲撃を掛けられるとか、単純な癖にやられるとイラってするやつだ。
ただ水瓜自体は甘くないがエグ味もなくて爽やかなので、サラダや漬け物やスープなど幅広い料理で親しまれている。
キュウリと同じように扱えば、まず失敗しないレシピになるそうだ。
婆さまはこれで糠漬けを作って差し入れてくれた。
千枝は生のまま噛って味を確かめている。
「キュウリより癖がないぐらいだね。手早く量を作るなら浅漬けか水キムチかな。
歯ごたえが素敵だから、火は通さなくていいかも」
調理するのに作業場はどうするんだろと気を回したら、昨晩の女子会で寮の調理室を使わせてもらう許可を千枝はちゃっかりとってきていた。
上の妹のコミュ力は、かーさん譲りだ。
「おねえ。水瓜は15箱まで、厨房で引き取ってくれるってー」
5箱どころじゃなく採れてしまったので責任者と相談だ。
千枝に指示されて万里は、職場に連絡を取っていた。
「了解。余りは残りが2箱ね。これくらいなら、自由時間で漬けちゃおうか」
「調理用のポリバケツ、持ってくれば良かったね。明日にでも、おばあに連絡して持ってきて貰う?」
「んん、仕込みの配合を確かめたいから、今日はポリ袋で何種類か試そうかな。
いつも使う調味料と売店のラインナップが違うからそっちも興味あるし」
「千枝、水瓜を二つ割にして種抜きまでやっておくか?
こいつなら『体内倉庫』と『解体』のコンボでイケる」
「うん。お願い、おにい。
『体内倉庫』ってやっぱり便利だね。皮は柔らかいから剥かなくてもいいよ」
言われなくても、『皮剥き』は出ていない。そっちは自力でよろしくだ。
ダンジョンで蠢く瓜をあるだけ総ざらいした後は、アイアンツリーにちょっかいを掛けた。妹らがレベル10になるまでの調整だ。
バイトに送り出したところで、キリよく10時。次はオレの位階上げだ。
次なるお相手は水麗人の因縁の宿敵。家亀だ。
ロケットには特に有用とされている魔物のダンジョンが封入されているので、件の家亀もいる。
陸地、しかも固い床。砂浜みたいに足を取られない環境だと、家亀の難度が下がっていい。
ゲームで家亀の狩り方を確立したので、しばらくメインでお相手してもらうつもりだ。
サリーがまずお手本とばかりに槍を刺したところで、『サンダー』を撃つ。
「よし、痺れた!」
「殴れ、殴れ!」
上手くいくと『サンダー』だけで倒せることもあるが、仕留められなくてもスタンが入るので攻撃しやすい。
この家亀は産卵後というわけでもないので、ヤル気満々だ。イニシアチブを渡すと戦線崩壊するリスクがある。
海の中だと攻防一体の『水流操作』で暴れられるから、まだマシだ。
「おっ。倒せたか?」
「こいつを完封出来ると達成感があるなあ」
「倒し方が確立すると、仕留めてからが一苦労だな」
家亀部屋は個室に入るまで魔物は沸かないし、倒してから一度外に出ないと再出現しない安全設計だ。
「手伝いますかー?」
「篠宮くんは『加工』していて。力仕事は適材適所で佐里江さんや森山さんに任せるから!」
「なんです、いい年した男どもが情けない。やらないとは言いませんけど」
手伝いは遠慮されてしまったので狩りの合間に、細かく砕いた雫石をちまちまと『加工』していく。
作業の手間は増えたけど、健康には代えられん。
しかし、家亀はでかいな。
ゲームで相手しているのより、やや小ぶりの個体だが、それでも大型トラック並みだ。
オレたちダンジョンマスター組でそれぞれが一基ずつ研究所にプライベートダンジョンを寄付したので、現在、大物の『解体』はそちらでも行われている。
確保してあるプライベートダンジョンでそこまで荷運びしたついでに、キビキビ働く食肉加工部の兄さんらを何人か引き抜けないものかとねっとり見ていたら、手招きされる。
「さっきは断ったけど、興味あるなら参加してみるかい?」
「はい」
「やった!『鋭利』要員が来たぞー!」
おや、大歓迎。
そっか。仕留めた後なら『鋭利』も使えるのか。
撹拌世界では家亀戦の後は医療班に組み込まれてたから、亀の処理は携わらなかったな。
『解体』チームだったサリーなんて、主戦力だ。
サリーのメインウエポンは長槍なのに、迷いなく牛刀を振るっている。
「佐里江さん、余暇は俺らと過ごさないか?」
「これが、才能…!アタイ、嫉妬しちゃう!」
「牛刀が似合うなあ。よっ、大統領!」
女性にウザ絡みするなよ、おっさんら。
…好意全開なんで、邪魔しにくいのは厄介だなあ。
作業をしていると思う。
モツのグロさには慣れたけど、『消臭』マスクが染々とありがたい。
『解体』は臭いがネックだ。マスクのお陰でハードルが下がる。
『消臭』マスクはガスマスクと違って軽いしヒット商品になるぞ、きっと。
「なあ、篠宮くんは『体内倉庫』でこいつを『解体』できる?」
手付かずの一頭を示される。
「どうでしょう。小亀はやったことありますけど」
一頭だけならサイズの大きな家亀でも、MPが増えたんで『体内倉庫』に入る。
ものは試しとチャレンジだ。
「これ、血抜き用の吸血剣ね」
リーダーさんに渡されたのは剣とは名ばかり、鉄パイプっぽいアトモスフィア。
今も『解体』処理中の家亀にプスプスと刺して、剣の柄尻にホースを繋げているやつだ。
吸血剣は、真ん中が空洞で『解体』スキルツリーの『血抜き』が付与された魔剣である。
戦闘用のソレは、HP装甲無視の『鋭利』も追加カスタマイズされたりで凶悪なことになりがちだけど、このシンプルな吸血剣は、きちんと『血抜き』して、美味しいお肉にしてくれる専門の道具だ。
オレは大物相手だとまだ『血抜き』の熟練度が足りないので便利な道具はありがたい。
そういや多分『血抜き』って『水流操作』のスイッチだ。
エンフィは『水流操作』を持っているけど、あいつが『解体』した肉は旨い。
「お借りします」
「いや、篠宮くんは1本持っていて。きっと君の役に立つから」
1本って言ったのに5本セットで渡される。えええ。
「……はい」
デカブツをこなせる『解体』要員は、決して逃がさんとリーダーさんの目は雄弁にモノを言う。
そうね。『解体』大変よね。
『体内倉庫』の熟練度稼ぎに、毎日日替わりで魔鳩やら猪鹿やらピンクちゃんやらを『解体』していたから、目を付け……目を掛けて貰えるのは当然か。
深淵を見ていたら見つめ返されちゃった気分だ。いあいあ。
「甲羅はブロックに刻んでおきますか?」
「フォークリフトのパレットに乗るサイズで頼むよ!」
それならザックリ1メートル幅でいいかな?
『解体』を使うとツリー内容以外にも、『念動』、『鋭利』、『カット』らが『体内倉庫』の中で発動した。
やあ、流石に魔力を使う。
っていっても雫石の『精製』ほどでもないけどさ。
「……このサイズには慣れていないので、時間が掛かりそうです?」
1体につき3時間は掛かるかな。どうだろ?
風信子蜘蛛より家亀の方がデカいし、甲羅が固い。
あの蜘蛛は装甲が生体金属だったんで思えば、『加工』で面倒なところを剥がせて楽だった。
「大物が入るのはいいな。私は『体内倉庫』は習得したが、MP足りなくて狭いんだよなあ。
いや、道具を仕舞えて便利なことは便利だけどな?」
「親父さんは贅沢ですよ。俺なんてランダム生成が女の子だったんで、プレイは自作アバターでしたからスキルが出ないこと出ないこと」
「それ、ランダム生成が80歳越えで、ババアプレイしている俺に喧嘩売ってる?
杖で殴るよ?」
「『解体』が得意なババアとか怖くね?」
「おっ。我、称号【豊穣の女神】持ちぞ?
ババアを称えよ」
「よっ、山神氏、山姥の鑑!」
「貴様も包丁の錆びにしたろか」
血に濡れた肉切り包丁片手のマスクマンに凄まれて、ゲラゲラ笑えるおっさんたちは肝が太いな。
ああ。こういう汚れ仕事を厭わない野郎どもと作業しているのって気楽でいいな。癒される。
実家に帰ったような安心感だ。
サリーは掃き溜めに鶴だけどさ。このお鶴さん、腕っぷしはこの場随一だ。空気に馴染んで違和感ないのは、都会的な美女らしからぬところである。
それと【豊穣の女神】さんが少し気になる。スカウトアタック対象だな。情報集めしておこっと。
コメント、誤字報告、いいね、評価ありがとうございます。
山姥さんだけではなく、語り手の視野の外では近くにリアルチートさんも大勢いらっしゃいます。
主人公がおっさんに興味を抱いてくれないので中々出てきませんが。




