128 クスナシはドクターペッパー風味
「ダンジョンを造るのはいいとして。『解体』の専門家さんの確保が、一番大変な気がしてきた」
大きな獲物を『解体』してみると、やっぱり専門家が欲しくなる。
大勢で力を合わせて1頭を捌くのと、ひとり『体内倉庫』でちまちま作業するのとでは効率が違った。
今も倉庫は絶賛『解体』の稼働中だ。
「そうか。最初は植物系種の魔物を取り扱うのが、やはり無難だろうな」
場所は借りた小会議室。
夜になって仕事終わりに顔を出したとーさんが、銀フレームの眼鏡を外して眉間を揉む。隈が濃くてお疲れだ。
とーさんにはまた、後で『治癒』を掛けておこ。最近は顔を出すたびに、なんかボロっとしている。
退職の引き継ぎだけでも大変そうなのに、民間ダンジョンの根回しのあれこれも全部肩に乗せてしまっている。申し訳ない。
「研究所の魔物植物のことなら、爺さまとも相談したらいいよ。オレはざっと1通り回っただけだけど、爺さまはじっくりと時間を掛けて観察しているから」
研究者さんと仲良くなって、よく話し込んでいる姿を目撃している。
どこを目指しているんだ、爺さまは。
「ああ。お義父さんとお義母さんにも、アドバイスしてもらっている。
生産者として、他の農家にダメージを与えるような野菜は避けたいとお義父さんは言っていたが、流。お前はどう思う?」
「うん。いいんじゃない?
どうせ最初から流通量は増やせないから、うちは【俺らの邪魔にはならない】ってゆー印象を作りたいんでしょ。
無駄に農家のヘイトを買わなくてもいいってことだよね」
「まあ、そうだろうな。なにかお薦めはあるか?」
「認可が降りたやつで、ファンタジー産のフルーツや芋や木の実、野菜なんかもあるよ。
ゲームで舌に馴染んだ味だから、全くの無名ってわけでもないし。
ひとつ、味見してみる?」
他のは加熱調理しないとダメなんで、おやつに取り置きしておいた果物をいくつか取り出した。
一度冷蔵庫に入れてから『体内倉庫』に仕舞ったので冷えている。
「アボカドみたいな外見だな」
うん。新しい物好きさんになら、興味を持ってもらえると思う。
「皮が紫色じゃなかったら、そうかもね」
そういや皮の剥きかたも一緒だ。中に種が入っているので、ナイフをぐるりと1周切り込みを入れてから、捻って2つに割った。
皮はそれだけで、つるりと剥ける。
「食べてみてー」
果肉は濃い緑色で、蒟蒻ゼリーのようにプルプルしている。
その味は。
「癖の強いコーラ?」
ただし炭酸抜きだ。
「クスナシ。面白いでしょ。嫌いなひともいそうだけど、好きな人は堪らなく好きな味じゃないかな。
成分的にはタウリンとかカフェインとかも入っていて、撹拌世界じゃ食べる栄養剤扱いだよ。
ジュース系の栄養ドリンクみたいな、そんなの」
「どうりで薬っぽい味だ。ドリンク剤なら適量はあるのか?」
「ぎゅっと甘い果物だから、これだけ食べ続けるのは無理だよ。飽きる」
「そうだな。皮を剥く手間もあるから、食べ過ぎることもないか」
とーさんの職場の人はカフェイン剤や栄養剤に頼りすぎだ。米食べろ、米。
「クスナシは甘くて栄養豊富だけど、食べ物だから。ドリンク剤を飲み過ぎるより家族としては安心かな」
これは寒いダンジョン産のなんで、凍結を防ぐために魔物は自分の糖度を上げて防御している。だからしっかり目に甘い。
甘葛って聞いたことあるだろうか。
平安時代とかの貴族が氷に掛けてた甘いシロップ。
ああいう感じでクスナシの蔓の樹液からも、クスナシシロップが採れたりする。
薬師スキルのあるサリーは、蔓からシロップを抽出していた。
それでミルクティーを作ってくれたんだけどさ、こっくり甘くてスパイスっぽい風味で、そっちも良かった。
メイプルとシナモンが好きな人なら、堪らなそうだ。
ヘビロテしたいくらいには気に入ったので、研究所を出ても定期的に手にいれられる環境があると嬉しい。
果実とシロップで効能が違うが、いずれも肉体の疲労を取ってくれたり、滋養強壮に効いたりだ。
多様な薬効はあるけれど、成分検査はどちらも巧く通過している。
そんなクスナシは蔓性植物だ。
本来のカテゴリは野菜なのかもだけど昨今はいちごもスイカもしれっと果物の顔をしているので、オレの心のフルーツの棚に分類しておく。
ダンジョンの外では発芽しない、頑張って発芽してもすぐ枯れてしまう魔力食いの魔物なのも個人的にポイント高めだ。
ただ適正レベルが40からなんで、そこはネックか。
クスナシは締め上げ、鞭打、バフ、ヒールを使うテクニカルな武道派モンク。
ダンジョンにお迎えするとしても、2、3番目になりそうだ。
「流。とーさん、これ好きだ。
とっくに不惑は過ぎたのに、知らなかった。炭酸じゃなければコーラは好みの味だったんだな」
「とーさん、しゅわしゅわ苦手だもんね。
クスナシの残りはこのまま『体内倉庫』入れて持って帰って」
とーさんはザルなのに【とりあえずビール】はやれないタイプ。
「いいのか?」
「配達料かわりに、かーさんと食べて」
強制引きこもり中なんで外の品が欲しいなら、通販か身内に頼るかで方法は限られてしまう。
迷惑じゃないって言ってくれるけど、やはり面倒は掛けているからして。
そこでドアがノックされる。
「はい、どうぞ」
とーさんの応えに、ドアのロックが解除される。
ロック解除は【ノック】と【どうぞ】がキーワードだ。
研究所で働いているAI氏は、無口だが礼儀を重視しているお方である。
「おとーさん、お仕事お疲れさま。荷物、届けてくれてありがとー」
「お帰りなさい!っていうのも変だけど」
サリーに連れられて、生乾きの髪のままの妹らが部屋に入ってくる。
こいつらの合流が遅れたのは、風呂に入っていたからだ。
「千枝、万里。不便はないか?
それと、かあさんから服の差し入れを預かっているぞ。
一足早いクリスマスプレゼントだ」
集団生活なら、新しい服が欲しいか。
清潔ならずっとジャージで構わない、野郎とは違う。女の子だもんな。
と思ってたら、オレの分も渡される。親とはありがたいものだ。
「ありがとう」
「いいの?今年はもうゲーム機を貰っちゃったからナシだと思った」
「やった、ありがと!」
「そっちは流のコネでタダだったからな」
とーさんは苦笑している。
「違うよ、月額使用料のほう!」
「そっちは教育費換算だな、この時勢なら。
ゲームでは流になまじ立場があるから、急いで合流は目指していないが……あまり羽目は外すなよ?」
「はあい。お天道さまに顔向け出来ない真似はしません。カルマ値は大事にします」
「はーい。ニュース見ると酷いこと起きているもんね」
あのさ。とーさんはお前たちが事件を起こすほうじゃなくて巻き込まれる方を心配しているんだぞ、妹らよ。
つまり、お前ら自分たちは騒動は起こす側だって、その自覚があるんだな?
まあ、TRPGのノリで邪教撲滅のためビルに四駆で襲撃をかけたり、ダイナマイト腹に巻いたガン決まりテロリストになったり、シナリオだからって愉しそうに都市を水底に沈めたりとかは、しないだろうけどさ。……しないだろうけどさ?
「日本サーバーの治安が保たれたままで、本当に良かった。
女の子にあまり人の悪いところを赤裸々に見せるのはなぁ。
特に千枝と万里は未成年だから」
安全に危険を学べるのはVRならでは。
だから止めはしないが、とーさんは心配で堪らないという風だ。
いや、こいつら結構したたかだぞ。
保護者付きで動くのも嫌がらんし、周りの好意を邪険にしないしで。
サーバーが乱世突入しなくて良かったのは同意しかないけど、オレらが気を揉むほどこいつらが困ることはないだろう。
とーさんは、どうも娘に夢を見ているフシがある。
それとも世の中の男親は皆、こんな感じなのかな。
………最低限、レベル100までは傍にいて欲しいオレもとーさんのことは言えないか。ブーメランだ。
「では、お疲れさまでした」
妹たちを送り届け、宿舎の玄関に入るまで、サリーにしっかりガードされる。
「そうだ、サリー。明日の予定表は届いているか?
変更になると聞いたきりになっているが」
「確かめてみます。………ああ、まだ届いてません」
サリーは手早く端末を操作してくれるが、空振りか。
「オレらが造る白玉ダンジョンが減ったのは、新しいダンジョンマスターが増えたからなんだよな?」
日本中エンジンがフルスロットルの現状だ。予定がコロコロ変わるのは、諦めている。
【お役人ちゃん系ではない新しいダンジョンマスターがでたよ】
しかし本日朝にその朗報を小耳に挟んでそれっきりだ。
続報が出てこないのは、気になる。
「はい。探りを入れたところ、新しいダンジョンマスター候補は人品いやしからぬ御仁だそうですが、極度の人見知りでもあるそうで。
こちらに合流することはないでしょう」
それは残念。
レイも立場が王女じゃなければ、海の底に潜って隠れていたい人だったし。
彼女も責任感だけで頑張っているフシがあった。そっちの人も似たような感じなのかな。
…うーん、でも1人なのか。もっと増えてもいいのにな。いやいや、これからだ。
「連絡は取れる?」
「あちらの秘書に、聞いてみます」
「オレたちが集めた資料を纏めて送れるかな?
お互いに頑張ろうっていうエールを込めて」
もう送っているかも知れないけど、仲良くしたい意思表示だ。
「いいですね。ダンジョン製作関連技術は重要ですので、集めた情報はしっかり精査されます。なので下がってくるのに時間が掛かりがちで。
検証中のデータは個人的な友誼で先に渡された方が、都合が良いです」
おっと、誤った情報流したくなくて、自縄自縛になっているのか政府ちゃんは。
「よし、この情報は政府ちゃんが現在調査中です。って但し書きを大きくつけよう。
メールやライン。その人の負担にならない手段で連絡を取りたいな」
恥ずかしがり屋さんはグイグイ行くと引かれそうだ。
でも情報交換はしときたい。
向こうの人、ダンジョンマスターのお弟子さんとかだったらいいなあ。
「では、根回しをしておきます。…あちらの負担になるようでしたら、無理かも知れませんが」
世の中には繊細な人もいるもんな。
「ん。わかった。その時はその時で、ゆっくり時候の挨拶から始めるよ」
よっぽど性格が合わないんじゃなければ、数少ないダンジョンマスター同士。交流を諦めることはないんだよなあ。
あっちの人には悪いけど。
「流士さん」
ちゅ。
「それでは、お休みなさいませ」
玄関のドアがパタリと閉められる。
えっ、そんな雰囲気なかったよな?
コメント、いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。
新しいダンマスさんは陰キャ過去傷持ちハーレム構築男の娘だったりしたりしなかったり。




