124 ブラックカード
「白玉狩り、やっぱり楽しー!」
「位階が上がるとスタミナがつくね。たった5レベルで世界が変わる」
食休み後。
妹らはビリビリ棒。オレは剣に『鋭利』を付与し、白玉を狩る。戦闘スキルの練習だ。
リアルでも白玉道場には隔日くらいで通っている。なにせ研究所の低レベルダンジョンは食糧系がメインだ。食べ物を台無しにすると悲しいので、そっちは訓練に使わない。
「千枝、万里。『サンダー』がつくまでは、白玉以外はオレと一緒な」
多分こいつらもそのうち『サンダー』は出る。ゲームでのヘビロテ具合と体質的に。
「ついたら?」
「休憩中の事務員さん、調理師さんらを捕まえて、初心者ダンジョンで熟練度上げ。
もしくはアイアンツリーとかの特効が乗る相手に、姫プで武闘派メンバーに混ぜて貰うかだな。
『サンダー』持ちなら即戦力だから邪魔にはならん、っと」
『鋭利』を這わせた刀剣で、白玉を切り裂く。
すると、くす玉のように割れて崩れた。
白玉は物理は効きにくい。
しかしエンフィ級の剣士はスキルを乗せずとも、するりと白玉を平らげるんでオレはまだ未熟だ。
この場で意識して使うのは『探索』と『鋭利』。
視野にない獲物を捉える訓練でもある。
「なんか、ちょっと見ない間におにいがゲーム世界の住人になってる…」
「見るだけなら楽しそうなんだけどなあ」
妹らは遠い目だ。
いや、オレ程度なら、やれるものだぞ。
オレの基礎は剣道だからさ。
そりゃ撹拌世界に人形の魔物なんていないから、動きは大分崩しているけど、アクロバティックな人外ムーブはしてないもん。
『体幹』が鍛えられてきたから剣の軌道が安定して、素早く踏み込めるようになったくらい?
剣道って武道という名のスポーツだから、一対一の対人向けなんだよなー。狩りにはあんまり向いてない。
オレの場合、剣はいざという時の護身用だ。メインウエポンとしてはいささか心許ないので基礎を下積み中だ。
わかっている。
スキルを出して配布すること。それがダンジョンマスターとして期待されていることだ。
魔法スキルに特化したほうが潰しが効くし、完成された剣士としては求められちゃいない。
わかっちゃいるが、オレも男だ。ファンタジーがやってきた現代、それだけじゃ詰まらない。
いつか、将来。いっぱしの魔法剣士になりたいものだ。
スキルの恩恵を幾重にも重ね、剣も最強の一角に鎮座するのが撹拌世界だ。
ロマン回路に火が入るというもの。
剣ってリアルじゃそんな強くないけど、単純に格好いいよな?
西洋剣のゴツゴツぶりも、日本刀の艶麗さも両方とてもよろしいものだ。
「オレはこの後合唱部に顔出しするけど、お前らは武術サークルに行ってみるか?」
「うーん。今夜は寮で女子会があるって聞いたから、そっちが先かな」
「でもそのうち、参加したい!」
そうなのか。入場案内してくれた受付のお姉さんにでも聞いたのかな?
「わかった。そういや部屋に荷物は運んで置いた。これが鍵な。
研究所の扉同様、自室もオートロックだから、起きている時は着けっぱなしにしとく習慣をつけると閉め出しの失敗はしないかもな」
トントンと配布されている時計を指す。
妹らは急遽の避難だったので、家具付きの女子寮に入ることになった。
男子寮は満員御礼だが、男より女性の数が少ないんで女子寮には空きがある。
「お前らが過ごす女子寮だが、一応オレはお前らの部屋に入る許可を得ている。
それと従業員パス。この時計でも買い物が出来る。
いきなり予定が早まったからな。なんか足りない物があったら売店で買えるようにあらかじめチャージしておいた。
礼は食べ物の差し入れがいい」
「それでいいの?
おにいは美味しいもの、周りからお裾分けされているんでしょ。
お歳暮のハムやチョコレートの横流し品、美味しかった……!」
「『加工』のツリーはMPバカ喰いするスキルだぞ。部活してた時の2倍は食べて、まだ足りない」
「それでそのスタイルとか、おにいは今、全女子を敵にまわした」
それはどうだろ。万里なんて、聞こえているだろうに知らん顔してるぞ。
こいつも走りたがりで、痩せやすくて困るタイプだ。太るのを危惧した発言なんてゲーム中でしか聞いたことない。
今もはしっこく動いて白玉をベシベシしている。
虫取ラケットではなくビリビリ棒を選んでスカらないあたり、ゲームでの成果が出ているようだ。
「おねえ、おねえ。今日から夜食解禁してもよくないかなあ。MP消費するならカロリー補給は義務だよ?」
「そうかな……そうかも。
おにい、売店で食材売ってる?」
万里の入れ知恵に、一理あると千枝は頷く。
目先の誘惑に弱いなお前も。
いや、千枝も魔力は多くなるだろうから、食べられるだけ食べておいた方がいいからなにも言わんが。
「売っているけど、量を買うならどうだろう」
「んー。そっか、夜の女子会で聞いてみるね」
千枝が使うのは薙刀タイプのビリビリ棒だ。丁寧な動きで白玉を処理をしている。
視野が広いのか、立ち回りに余裕があった。千枝はおっとりしているから、意外だ。
こいつら、真面目に訓練してきたんだなあ。
ゲーム初日はへっぴり腰だったのに。
これはうかうかとしてられない。
位階を上げると体力も、男女の性差が少なくなる。
練習をサボると追い抜かれてしまうぞ。
危機感の胸騒ぎだ。兄の威厳は保つべき。
ゲームとリアル両方で、毎朝のランを増やしておくか。
次に目指すスキルは『持久』だな。体力作り頑張ろう。
夜の9時。
研究所では冒険者免許の配布が始まった。
「こちらが冒険者免許となります。住所やお名前が間違っていないか、確認をお願いします……はい、それでは。
これで貴方も冒険者です。
良い冒険を!」
パソコンの認証画面をタップして、最終項目を埋め終わる。すると事務員さんがカードを手渡して祝ってくれた。
書類は先に提出したので、受け取りはスムーズだ。
研究施設は希望職員一括で政府ちゃんに冒険者カードを申請したので、サリーの出張はその為だった。
『体内倉庫』持ちはあちこち便利に使われてしまう。オレの子守りに専任にするには、才人すぎるんだよなサリーは。
「免許の更新は冒険者アプリを使用していれば自動更新されますが、依頼を受けないと1年で失効します。今はいいですけど、将来は気をつけて下さいね」
臨時の配布所に陣取る事務員さんは、続けて冒険者アプリのインストールをしてくれる。
備品の水晶玉のように大きな魔石は、オレらが『融合』して作ったものだ。
頑丈な爪に嵌め込まれて、テーブルに固定されている。
手を乗せると魔力が吸われた。球体がチカチカまたたいてインストールが終了する。
これは『ステータス』持ち用のサービスだ。
オレは『ステータス』が出ているんで、これでそっちと端末の両方から冒険者アプリが見れるようになった。
試しに操作してみるが、特に変わった所はギルド口座から各種銀行の決済を選べるようになったぐらいだ。
ワールドウォークはざっと見た感じ冒険者アプリの基幹プログラム扱いで、あまり変わりないようだ。
マップが日本地図になっていたり、滅亡指数が消えていたり、そーいう細々とした仕様変更はもちろんあるけど特に悩まず使えそう。
「アプリの使用時、『ステータス』の起動にはご注意が。
研究所の外で依頼を受ける場合は、端末から操作した方がいいかもしれません」
……悪目立ちすることもないですよって配慮かな?
「篠宮さんはMPが多いですから、平気かもしれませんが『ステータス』を操作するのにも常時魔力が必要です。
ダンジョン外でじっくり文章を読み込んでいると、MP切れを起こす者もいました。気をつけてください。
撹拌世界より日本は魔力濃度が低いので、余計に消費が重く乗ります」
ああ、そういうことか。
「はい、わかりました」
「それと、篠宮さんは政府ちゃんからの指名依頼が多く入っていますが、無理なものは受けなくて結構です。
でも、緊急マークが付いているのは考慮していただけると助かります。依頼料も少しだけ割高ですし、功績ポイントも貯まるので」
リアルバージョンの功績ポイントではゲームと違って、奇跡は起こせないけど武器防具や発動体は優先で買えたりはする。
それと冒険者の格付けチェックにも使われる。
このシステムはスポンサーをやりたい企業とか向けなんで、冒険者は公開と非公開を選べるそうだ。
オレらダンジョンマスターや公務員は非公開だな。
公務員もダンジョン活動で金銭を稼ぐことは許されているけど、スポンサーによる活動資金の提供は激しくアウトだ。
「篠宮さんは撹拌世界での活動も活発ですし、注意することはないでしょうけど付属の小冊子は読んでおいてくださいね。
困った時のQ&Aが付いてますので、冒険者カードと合わせて『体内倉庫』に仕舞っておくといいですよ。
以上です。お疲れさまでした」
「ありがとう御座います」
頭を下げて、席を立つ。
これが冒険者カードか。
スタイリッシュなブラックカードだけど、これは下っ端の証だ。
花押みたく崩された【小智】の文字が刻印されている。
これは12階級の一番下だ。
免許形式なので自分で申請しないと、この階級は上げられなかったりする。
冒険者ギルドのおねーさんもそこまで面倒は見てくれないので要注意だ。
最初は自衛隊のにーさんも、ヒョロガリの高校生も一律同じカード。若葉なのに黒い。ぶっちゃけ冠位十二階だ。
このカードには顔写真は付いているけど、住所や名前は専用の器具がないと読み込めないようになっている。
色は、黒、白、黄色、赤、青、紫、の順にランクが高くなる設定だ。
赤ランクの冒険者からプロ扱いで、なにかしら災害が起こった時は協力を求められるようになる。
ゲームでの昇殿試験がここだ。
どこのサーバーのGMも、ご当地の文化に興味津々だ。
その趣味が高じてゲームに導入してしまった冠位十二階を、政府ちゃんが逆輸入した形だ。
いや、これは冗談ではなく本当だ。
日本政府が運営する公式サイトには、【1日1答、GMに質問!】のコーナーがある。
【日本の冒険者ギルド、なんで冠位十二階?】
その問いに、【趣味です!】って断言してたよGMは。
「おー。カードは使わんかもだけど、嬉しいもんだな」
要はゲーム時間が足りてないんで、資格は仮免だときいたが、カードの見た目はオレらと同じものだった。
時間が満了したら自動で本免許に切り替わるシステムらしい。
ちなみに研究所の外では、仮免だと白玉ダンジョン以外は入れないそう。
ゲームがチュートリアル終了した余波で免許が取りやすくなった事例のひとつだ。
「依頼終了に限るが、『体内倉庫』に仕舞っておけば端末を操作するよりも手軽なのでは!」
うん、確かに依頼は『ステータス』からでも受けられるけど、ギルドに品を提出する時の手続きはカードも便利そうだ。
カードリーダーに読み込ませるだけで済む。
「なる。依頼を受ける時は冒険者アプリからで、証明はカードで使い分けてもいいな」
明日の朝まで待ちきれなくて、夜間の受け付けが始まると同時にいつメンが集まってしまった。
性急で物見高いのは、オレらの共通項だ。
「今まではサリーが依頼品の采配してくれていたけど、これからは自分で受け付けしたらいいのか?」
「そうですね。ですがダンジョン製造はこちらから要望を出しますし、魔石や発動体の取り扱いも転売防止のため、しばらくは政府ちゃんに責任を持たせてください。
他の魔物素材は依頼を受けてもオーケーです。
ただ研究所にいるうちは、必要以外の素材はここで売ってしまった方が功績ポイントは高いですよ。
もちろん、お金が欲しいなら企業依頼を試してみるのもいいかもしれませんね。
ギルド口座に支払い能力がないと、依頼は受けられませんので安心ですよ」
ギルドを通せば、お金のトラブルがないのはいいな。オレみたいな情弱さんも詐欺やカモられなくて済む。
「佐里江さーん。ちょっといいですかー?」
サリーはまだ仕事中だ。カウンターから呼ばれてしまう。
今日は殆んど入れ違いだったから、業務相談に託つけてもう少し喋りたかったのに。残念だ。
「んじゃ、今んとこ受けられるのはマッドスライムと水玉素材かー。
いや、違う。オレは白玉だけじゃん。んー。素材の買い取り依頼はまだ、やらなくてもいいか」
依頼表をチェックしていたヨウルは画面を閉じる。
それな。民間に解放しているダンジョンって、今のところ白玉、水玉、マッドスライムの3種だもんな。当然、依頼もそれに準じたものになる。
このラインナップなら研究所で一括取り扱いの方が楽だ。
「明日のお前らの予定は?
オレは雫石の造り溜めに入る」
「オレは都心に白玉ダンジョンを撒いてくる。それと練馬にアイアンツリーのダンジョンを一基造る予定」
「練馬?」
「駐屯地があるんだってさ」
へえ、知らんかった。
今日日の自衛官は、樵も業務に含まれてしまうのか。
駐屯地とかが近くて、塔の側の立地って条件が縛られてきそうなものなのに、そうでもないんだな。
マップを見れば、塔は世界各地にニョッキニョキと乱立しつつある。
警戒しなくちゃいけないところがこんなに多いとか困るんですけど。
塔の数は面積のだだっ広い国がやはり多かった。
だけど国土面積からすると日本は過密だ。と、いうか自然災害でよくニュースになる地域に塔は多く建てられている。…手付かずの建設予定地もまだ多いな。
うーん。デンジャラス。世界は危機に満ちているようだ。ソワソワする。
いや、地震や台風と違って人の努力で防災できなくなくもないだけマシか?
国産エネルギー産業としては間違いなく福音だし。
「私も雫石の造り溜めだな!」
「そういやエンフィん所の白玉ダンジョン、満員御礼キャンセル待ちで24時間営業なんだろ?
増やさなくていいのか?」
白玉ダンジョンは24時間営業で、その客足が見込めるところしかまだ許可が降りていない。
夜は寝たほうがいいんじゃないの日本人よ。
いっしょに『異界撹拌』やろうぜ?
「そのうち道場にレイスのダンジョンを造る予定だ。
皆にはその前の体作りをさせてやりたい。なのでどうせ施設を増やすならワンランク上の魔物がいいな!」
ああ、レイスは魔力の汲み出しが捗るからいいよな。後処理も楽だし、魔石の使い勝手もいいしで。
研究施設が建てられてしまうくらいなこの場所とラインが繋がっているオレの家周りよかマシったっても、幸の地元も地脈太めだからなあ。効率は考えるか。
「そっか。動植物系の魔物を置くなら、水玉工場は最初から併設しとけよ」
これを怠ると生ゴミを放置しなくてはいけなくなるんで、ダンジョンを肥やすことになる。要注意だ。
「うん、それが悩ましくてな。親戚とも相談中だ!」
「お話し中ですけど、皆さん。もう9時半を回りましたよ?」
カウンターで仕事中のサリーが、心配して声を掛けてくれる。
時計を見る。
くっちゃべっていたら、もうそんな時間か。
はい、解散。また、明日な!
最近、時間が経つのが速すぎる。
いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。
それと読んでくださる皆さまに感謝です。




