123 血糖値は40下がりました
巨大サフランの後はセクシー大根のダンジョンを梯子して、妹らをレベル5まで上げてきた。
余談だが大根はそのまま出荷だが、サフランは乾燥させてからの出荷になる。
もちろん食べることも出来る。しかし残念ながら、味は従来のサフランに劣るとのこと。
主にこのサフランは、魔力染めの素材だ。
『採取』はオレが持っているので、研究所用に発動体の提供をしていた。
リアルで発動体を使って、どれだけの効果があるか、その実証実験の一貫だ。
データを取るために申請して、妹たちにも貸し出しておく。
『採取』のなにが便利かって、腰を曲げずに収穫できることだ。
うちの爺さま、婆さまがめっちゃ感動していた。
オレとしても缶詰生活終了の暁には使い倒すスキルになるので、野菜魔物は積極的に相手をしている。
大根の収穫はいつものように、休憩中の事務員さんらにも声を掛けてご一緒した。
経験値を撒きがてら、妹らを紹介しておく。
研究施設は男性の方が多いので、女性職員さんは早めに顔通しさせてやりたい。
今この施設にいる十代半ばの女の子なんて妹らしかいないし通達も出ている。だけど直接紹介があったっていう1ステップは入れておくべき。
後はしっかり者の千枝がいる。そう困ることはないだろう。
「なんか、思ってたよりスキルいっぱい出たよ」
千枝は鑑定機を前に首を傾げる。
「私も。ランダム作成じゃなくて用意してくれたアバターなのに」
ダンジョンの情報が公開されてから、政府ちゃんは特にランダム生成を勧めている。こいつらはそうじゃないから戸惑うか。
「運営で用意したアバターだから、お前たち専用に調整してくれたんだろ」
GMはゲームの準備に関しては、キメ細やかな対応をしてくれる。
アバター制作なんて、好きな人は幾らでも拘りたいところだ。
オレはほぼスルーしてしまったが、その辺りの評判はいい。
ただしシナリオバレを警戒してか、ゲーム内情報は後出し上等なところはある。そういうとこだぞGM。
管理AIはヒトにはありえない膨大な業務はサクサクこなしているくせに、ここら辺は機械らしからぬ小狡い人間臭いところがある。
いいロールプレイをした時なんてさ、杓子定規の決まりを破って忖度されたと気が付く時もあるから。なんか時々人間のGMに相手をしてもらっているんじゃないかと疑ってしまう。そんなわけないのに。
「そっか、ありがたいねえ。
あ。おにい、出たよ『エンチャント』」
「私もー!でも『サンダー』は出なかった!やっとゲームで出たのに!」
おー。出たのか『エンチャント』。
とーさんも早く出てたし、そっちの血かな。
「そこは運だ諦めろ。オレのスキルと被らないのは、アクセ制作の内職がやれるから、冒険者アプリを確認な。
星がつくと値段が上がるから、申請は自分でするように。
研究所にいるうちは審査も簡単だからお勧めだ。
それで、仕事終わりの待ち合わせは食堂でいいな?
厨房のバイトが終わる頃には迎えに行く」
「りょ」
「うん。ふふ、期待はしていたけど『カット』とか『洗浄』が出たの嬉しいな。楽しみ」
「私は『器用な指先』を熟練させる!」
万里は『器用な指先』が出たのか。
羨ましい。
そういやマリーは想像してたよりずっと手仕事を巧くこなしていた。
なんだ、兄妹で不器用者はやっぱりオレだけか。
「星がついたら、おにいにも配るね!」
「よろしく頼む」
体育系のパッシブスキルはあるだけ積みたい。
経験値の分散とか育てる問題もあるけどさ、『加工』なんてカロリーバカ食いするスキルに比べりゃ軽いもんよ。
「お忙しいところすみません、篠宮です。予定どおり、初日分の位階上げは終わりました。
それでは、うちの妹たちをよろしくお願いします」
厨房の手前まで顔を出して、お世話になる調理師さんたちにもきっかり頭を下げておく。
妹らの指導を請け負ってくれる女性スタッフさんや、作業の区切りのいい人たちが手を止めて歓迎してくれた。
「やあ、嬉しいな。人手は幾らあっても足りないくらいだ。皆よく食べてくれるから」
「篠宮くんがお裾分けしてくれたアイシングクッキーを、作ってくれたお嬢さんでしょう?
製菓に興味はあるかしら」
「まあ、待て。スキル磨きをするなら下処理からだ」
「初めまして、篠宮千枝です。よろしくお願いします。
趣味ですけど、製菓も料理も好きです。それとスキルを使うのも楽しみです」
「篠宮万里です!私は簡単なものからお願いします!」
「じゃ、後で」
厨房は昼の仕込みの時間だ。忙しいところを邪魔に出来ないので、オレは撤収する。
「可愛らしいお嬢さんたちですね」
からかいを口に乗せるのは本日護衛の本田さん。物腰穏やかなお巡りさんだ。
この人は位階上げによるアンチエイジング効果を証明するための被験者だ。
以前は高血圧で薬を飲んでいたが、現在は服用を止めているそうだ。
血圧はレベル20あたりから下がり始めて、40を越えたあたりから健康診断のチェックに引っ掛からなくなったとか。
あと2年ほどで定年退職すると聞いたので、再就職にうちのダンジョンに来て貰えないか画策している。
しかし機密も多い研究所に斡旋されるだけの人望があり、ダンジョンで鍛えてきた人材だ。スカウトのライバルも多そうだ。
せっかくの最前線。オレから見て良さそうなのは片っ端から口説けと、とーさんには指示されている。
位階を上げれば誰だって強くなるが、信頼のおける人柄なんてその人だけの財産だ。
是非とも唾をつけておきたい。
「ありがとう御座います。
兄の欲目か、そう可愛く思ってしまうので心配で。
ご存知の通り、自宅が塔の側ですから。ことが起きてからでは遅いですし」
オレは護衛対象なんで、ある程度の個人情報は拡散されている。
それを気持ち悪いと取るか、研究所の誰もが自分たちのことを知っているのは、コネの形成には好都合と取るか。
オレの場合は後者だ。
「ええ。塔周りの住民には、なるべく冒険者免許を取っていただきたいものですね。
ダンジョンの管理を公務員だけで賄うのは、いささか夢物語が過ぎました」
本田さんの口ぶりは苦い。
どんなに篩にかけても、例外は出る。
この先力を手にした冒険者が起こす犯罪は多様化するだろう。
警察としては複雑だろうな。
民間人に頼らなくてはならない忸怩が、口許の皺を曲げている。
今のところリアルでの野良ダンジョンの発生指数は、撹拌世界よりずっと低い。ただ、10、50、100年後はわからない。
いや、このままなら増えることはあっても減ることはないのは確かだ。
その道筋が見えてしまうと冒険者制度を反対するのは、誰に対しても不幸しか呼ばないとわかってしまう。
「塔が自宅の側にあるのはもう仕方ないので、どんどんダンジョンを詰めていこうかと。
ダンジョンを造り次第、お巡りさんや地元の消防団が訓練に使ってくれるそうで助かります」
ダンジョンはガワの工事が終わったら、速攻で造りに行く予定だ。
「ああ、確か…崩落時には、あの塔がバルーンのように膨らんで栓になるのでしたか。
対策しているとはいえ、あの大陸分断を見てしまうと、どこまで役立つか不安になりますね。
やはり管理ダンジョンの埋め込みは、補強材として必須でしょう」
塔は崩落を感知したら、自らその接触した界に落ちながら膨らむ。
その素材になるのは、運営AIに使われている巨大複合魔石だ。
オレらが片っ端から『精製』している魔石はこれらの組み立てにも使われていた。
その莫大なエネルギーで栓を造る。
崩落すれば、結局、風穴は空いてしまう。しかしあえて塔を落とすことで、その穴の途中で結界を張る。そうやって被害を抑えるように、設計されているとのことだ。
その緊急装置が発動しないことを切に祈る。
ゲームをしていると時々本気で憎たらしくなるGMだが、プレイヤーは運営が紡ぐ世界を愛している。
それが欠けるようなことはあって欲しくない。
「その為にも、野良ダンジョン潰しと位階上げですよね。
それと発動体を作るためにも、そろそろ『パリィ』の訓練もしたいんですけど、いいですか?
冒険者としての活動は風信子蜘蛛を相手に、生体金属を集めていますが」
オレのリアル冒険者の活動は蜘蛛を乱獲する日々だ。
そしてダンジョンマスターとしては、高位階用のダンジョンで寄生をしている。
プレイヤーはスキルなしだと位階を上げても弱い。荒事と無縁の生活をしていた人が、暴力の使い方を熟知しているはずがないだろう。
走る習慣のない人がマラソンランナーのような洗練されたフォームで、走れたりはしない。そういうことだ。
しかし自衛官さんらは違う。
スキルありきで動く現地民より、系統立った武術の積み重ねがあるだけに、ぐっと洗練されている。
きちんと訓練を受けてきた人たちは、足捌き、体捌きからして別物だ。
それを強く実感したので、なるべくスキル外の訓練も参加させて貰っている。
全員オレより腕っぷしが立つんだぜ?
格闘漫画の雑魚モブの気分になる。
つまりだ。悪いことしたら、そーいう鉄人に追いかけられる羽目になるんだよな。
頼もしいような、おっかないような。
「そうですね。『パリィ』は元より対魔物用のスキルですから。
篠宮さんのレベルなら問題はないでしょう。
篠宮さんは、今、発動体はなにをお使いで?」
「『HP強化』と『HP回復』です」
「ああー…。それはあるとありがたいのですね」
「上手く出てくれるといいんですけど、こればかりは運なので」
この2つの発動体は、常時付けっぱなしにしていて、なにかあると取り替えている。
ちなみに今のところ、対人訓練をする時にしか役に立つことがないのが草だ。
朝早くに出ていった茶髪カツラのサリーが外回りから帰ってきた。なので夕食の席で妹たちと引き合わせる。
ヨウルとエンフィは残念ながら、戻っていないのでまた後だ。
「えっ、サリーさん?ええっ?!」
まあ、万里の反応は、順当だろう。千枝は口許に手を当てて動揺を堪えている。
「お前たち、挨拶」
「あ、ごめんなさい、サリーさん。驚いてしまって。篠宮千枝です」
「万里です!ゴメンなさい、私、サリーさんはずっと男の人だって思ってました!………って、その。女性でいいんですよね?」
「佐里江伽凛と申します。はい、生まれは女です。
こちらこそ紛らわしくてすみません。
いつもご馳走になっています」
「こちらこそ、おにい、いえ。兄がお世話になっています。
あの、位階を上げるとアバターに寄るって聞きましたが、結構変わるものなんですか?」
「はい。私は10センチは背が伸びました。
特に私は身長とウェイトを増やしたかったので、より意識してあちらに寄せた頃がありました。
私は千枝さんと万里さんのお兄さまの護衛や身の回りのフォローをこちらでもしていますので、お目にかかることも多くなると思います。
どうか、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「お願いします!」
「…その、誤解をされたくないので先に話してしまいますが、私は触られることだけが駄目な接触嫌悪を患っていまして」
あ、言ってもいいんだ。
「オレとサリーはかなり仲良しさんだけど、それでもダメなやつだからな。
いくらリアルのサリーが綺麗なお姉さんでテンションが上がっても、抱きついたりして困らせんように」
「はい」
「うん。それは知ってる。
サリーさんスキンシップが好きっていうか、おにいの手入れはイキイキしてたじゃん。なのに、おにいの方は触らないよう気を使ってるからさ。おねえとそうじゃないかって話はしてた。
女の人だって全く気づけなかったし。
触られるの苦手かもしれないから、私たちも気をつけようって」
「まーちゃん」
話の途中で、千枝が万里に圧を掛ける。
「え、言っちゃいけないヤツだった?」
「……それは…ご配慮、ありがとう御座います」
こういう恥じらうサリーもいいなあ。
新鮮だ。
子供だって大人に優しくしちゃいけないわけはないだろうに。
「お互いに心地よい距離があるだけですもん。椅子ひとつ離れれば、楽しくお喋りできるならそれでいいですよね。
でも大人の男性だーって、思ってたから良かったのかもです。
女の人って知っていて、体質を知らなかったらつい、纏わりついちゃったかなあって」
「ああ、うん。リアルのサリーはお前ら好きそうだなって思った」
強くて格好いい年上の同性とか、普通に憧憬の対象だ。
「おにいは、そーいうこと言わない!
大丈夫だからね、サリーさん。教えてくれたから、きちんと気をつけられるよ!」
「いいえ。その、偶然腕とか当たって鳥肌を立てても、気にしないでいただけたらと。
例外なく誰でもこうなるだけなので、誤解をされたくありません」
ゲームでお互いに信頼を稼いだお陰で、初対面のぎこちなさはあっても、上手くやれそうな予感がするな。
妹らは人懐こいぶん、サリーは苦手なんじゃないかなと心配していたこともあるから、うん。良かった。
「ちょっとオレは、料理を取ってくるけど、お前らはどうする?」
「選びたいから一緒に行きたい!」
「私も」
サリーに視線を合わせると頷いた。
「わかりました。席取りしてます」
「ん。オレと一緒のでいいか。今日は魚の気分だが」
今日の魚は鉄火丼。例によってダンジョン産だ。
「はい、それで」
「オーケー」
「………おにい、あんな美人さんと一緒にいて緊張しないの?」
カウンターに並んだところで、脇腹をつつかれる。
くすぐったいから腹はやめい。
「オレも最初は驚いたけど、サリーが佐里江さんだって知ったのはリアルで会ってからだったから。
その時にはもう親しかったからなあ。
それにお前らだってサリーが絶世の美男でも、ヨロめかなかったじゃん?」
「だって、さあ」
「ねえ?」
「なんだよ」
「サリーさんは最初から私たちには特別に親切で優しかったけど、それはおにいの妹だからってわかりやすかったし」
「少し慣れてからは、普通になってくれたけど。まだ近寄ると緊張させちゃうのかなーって。お家の中で寛げないとか辛いじゃん」
これはもしや。サリー、人に慣れない野性動物よろしくそっと見守られていたのか。
女って若くても鋭いな。
差し出される気配りの柔らかさは、野郎には存在しないものだ。
いつも大事にしているつもりで、その実、大事にされているのはこちらだと気がつくその面映ゆさ。
男が女に勝てないわけだ。
コメント、いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。
そんなわけで妹ちゃんらがやってきました。




