122 朝のニュース
【それでは、問題のマップを見て頂きましょう。右が撹拌前、左がその後になります】
アナウンサーが隠してあったパネルをサッと捲る。
スタジオのどよめき。
【ああ、大陸が裂けている】
切なそうな悲鳴が籠る。今朝のゲストは『異界撹拌』プレイヤーだ。
地図の片方は見知った形だ。
なにせ撹拌世界の地図は、サーバー共有のもの。他所のサーバーは、オレらが通るかも知れなかったIFの世界だ。
その地図の片方が。
パンゲアの惨劇よろしく、大陸が粘土のように千切れている。なんてこと。
他も変形が酷いが、特に中央大陸なんて真っ二つだ。サリアータどころかセイランすら影も形もなくなっていた。
……オレがいたところ、2つとも全滅じゃん。
ちょっと、いや、結構、かなり。ショックだ。
崩落していく世界は、衝突した世界同士がじわりじわりと撹拌されつつあるようだ。
その証拠に新しい大陸や島々が、片方の地図に乗る。
流されたムービー。恐竜の魔物に町を襲撃されて逃げ惑う人々の姿。
町は既に安全地帯ではなくなっているのだと、それは雄弁に物語る。
【こちらは比較的、被害が少ないサーバーの例ですが、これだけでも天変地異の激しさを物語りますよね。
未曾有の大災害です。当地が荒れるのは無理もないかもしれません】
【でも、人同士で争うなんて、そんな。成人未満の子どもも遊べるよう、規制緩和したばかりですのに】
【ゲームの世界。他所のサーバーとはいえ、胸が痛みます。世界が繋がってさえいれば、支援をできたのかもしれませんが】
【ヤバイっしょ!ウチらは今回、なんとかなったけど、運営はいつ無茶振りするかわかんねーってことだし!】
【それ、いつものことなんですよねえ…】
【マジでか?!】
さあ、今日も1日が始まる。
そんな爽やかな朝食の席だというのに、ゲームの話題とは思えない重苦しいニュースが食堂に流れている。
国営放送では毎朝この時間、特設コーナーが設けられ『異界撹拌』が扱われていた。
1日経つと生々しい情報も入ってくる。
世界縫製に成功したサーバーは約3割。7割ほどは失敗しているらしい。
その7割の中でも成功しかけた所と、大失敗した所では天と地ほど被害程度が違うそうだ。
まあ、我らがサリアータはどのマップも元から大穴が空いているんで?
失敗したら、もれなく、そこから大陸は分裂しますよねえ?
つまり7割がた、サリアータは滅びているわけだ。
そんなお約束いらなかった。
何億もの人口を抱えている国はサーバーが幾つかに別れている。なので結果もバラバラだ。
これから始める新人は、好きな世界を選べるらしい。勿論、同国内のことだ。
案の定、末法の世は人気を博しているようだ。人間ちゃんったら業が深いな。
しかし今まで善良だったプレイヤーが法治の庭からはみ出たとたん、鬼ヶ島のおにーさんら並みの所業をしでかすのはドン引きだ。
現地民への暴行略奪とかさ、格好悪いと思わんのか。
古参プレイヤーなら、食うだけなら困りはしないのに、なんでそんなことをする必要がある?
絶対GMのねっとりとした観察対象になってるから、止めた方がいいのに。運営はきっと、因果応報モノも愛好してるぞ?
つらたん。
ニュースによるとそういう世紀末プレイしている人はさ、ゲームはするけどリアルのダンジョンに入るのは嫌なんだって。
だからカルマが溜まっても平気だし、あくまでゲームはレジャー。
リアルでそんな野蛮なことをするなんてとんでもないそう。
うーん。オレがリアルダンジョンひゃっほい勢なんで、そーいう考えは頭になかったわ。目から鱗だ。世の中、色んな人がいる。
それにしても。
「おのれ、ポスアポ。プレイヤー同士で戦争とか嫌なんだが」
頭を抱えてしまいたい。正直、こーいう世界とは撹拌されたくないなあ。
リアルダンジョンに潜りたい人らはヒーロープレイを頑張っているが、どうもそちらは劣勢の様子。
どうしてこうなった。
いや、理由はわかる。ただ、嘆きたくなっただけだ。
指導者層の壊滅。右往左往する民草。安全地帯は少なく、焦げ付く物資。
縫製が失敗したところでは、世界の経過時間は10年から数百年。
治安の低下は深刻だ。
被害が軽いところでも、その間に現地民が減って、ギルドが運営出来なくなり、流通が止まり。
塩はともかく、香辛料や砂糖はもはや貴重品だそう。
まだニュースには出てないけど、スキル石どころか発動体さえ手に入らなくなっているんじゃないか?
被害がそこそこ大きかった中間層は、暗黒の中世世界観を構築している。
こちらの時代経過は200年ほどまで。
横暴な支配者層。略奪も反乱も、日常茶飯事。
一部の都市を除いて、人の住み処は小さな村落に別れてしまっている。
求む英雄。新時代の旗手。
ここが分岐の最大手だ。
被害が重いところなんて、通貨の概念が消失した原始時代スタートだ。
人類の栄光は過去のものとされ、すっかり神話になった、数百年経過タイプ。
スキルが多彩なプレイヤーは、伝説の古代神人扱いだ。
ここのメインシナリオは、文明復興となる。
争え、争えと囁くようなGMの影がちらつきますねえ?
……一代を築くカリスマでも排出したいのかな運営は。
それはレア泥だから、狙って出すのは修羅の道だ。やめとけって。
オレは軟弱ものよと馬鹿にされても、アマちゃんで優しい今のままの世界が好きだな。
そーいうとこで暮らしたい。
「ポス、なに?」
肉そぼろとカブの葉の浅漬けを乗せた目玉焼き丼を、スプーンで掻き込んでいたヨウルが聞き返す。
「ポストアポカリプス。人類に終末が起きた後の世界観で紡ぐ物語のことだな!」
んだんだ。古典だと北斗の星を持つ男とかそのあたり。
マンガを読んだことなくても、ヒャッハーなモヒカン男とかはすごく有名だよな。モブなのにすごい。
「ああー…。ゲームでよくあるやつ」
「『異界撹拌』にも導入されたな!」
「なんでVRでそれをやろうと思ったんだろう。『異界撹拌』は教導用ゲームじゃなかったのか」
「だから教導しているんだろう!世界が滅びたらこうなりますと生々しくな!」
エンフィはほんとバッサリだな!
オレも薄々そうじゃないかと思っていたよコンチクショウ。
「そっかあ、運営親切だな。……リアルでは絶対、崩落は防ごうな……」
「おう。オレは今日も白玉ダンジョン製造行脚してくるぜ。帰りは遅くなるかもだ」
0.1まで雫石を砕けば量産しやすくなったので白玉用のダンジョンは今や扉の製作待ちだ。
むしろ全国の警察や自衛官、消防とかの体を鍛えていて、白玉ダンジョンをスキップしてもいいと許可されている層を対象とした低レベルダンジョンを用意するべきかという話も出ている。ポスアポのせいで。
被害を押さえ込んだ日本でも急遽、冒険者免許の交付が早まって、今日から受け付け開始と相成った。
政府は仕事が遅いと普段はケンツクする人たちも、心配するくらいの挙動の早さだ。
お他所の政府ちゃんたちも寝耳に水で、はわわって浮き足だってたから、アレってGMがごり押したんだよな?
政府ちゃん、運営に振り回されて可哀想。
GMの権限をゲーム内だけにすべくガチガチに縛り上げたAI製作者さん、貴方たちは慧眼だ。
「白玉ダンジョンは私もだ!それと水玉工場の試作が1件入っている」
「オレは今日から妹が来るから出迎え待機。雫石を『調律』しとく」
「え、妹ちゃんたちここにくるの?」
「うちの周り、大きめの工事が始まったからマスコミが大勢来ているらしい。こんな田舎なのにやたらガタイのいい外国のプレスが混じっているのが不穏だと上の判断だ。
冬休みまであとちょいだから、避難がてらな」
「そっか、大きめの工事=崩落対策が必要な危険地帯ってなことだもんな。
数年後にありし日の姿として報道するつもりなのかね」
「ははは、嫌だなヨウル。オレがいるのにそれを許すわけないだろ?」
いけない。カレースプーンが曲がってしまった。
普段は困ることがないが、エキサイトすると力加減を誤るな。
「リューはそういうところあるよな」
「オレら若い奴が、フットワーク軽くなくてどうするよ。ましてケツ持ちしてくれる周りがいるのに」
守秘義務のルールは守っているけど、中学生時代の先輩後輩には片っ端からゲームを勧めているし、高校のコネも動員している。
それと研究所で知り合った地元の警察の人に頼み込んで、うちの水玉工場に合力するようお偉いさんにラブコールを飛ばし済みだ。
その話が上手くいきすぎて、他の低レベル私設ダンジョンを造る予定が舞い込んできた。熱烈歓迎。
とーさんの仕事を増やしてしまったけど、苦笑で許して貰えたから良しとする。
なにせ地元なら不具合が出ても直ぐに修正出来る強味がある。
民間ダンジョンの試験運用にうってつけでは、と研究員さんに囁いたりとかな?
なにしろオレは、今この時だけはまだ、貴重なダンジョンマスターだ。
後続が出てきてくれて、価値が下がる前にスタートダッシュで地元の防衛はキメておきたい。
「リューは縄張り意識が強いからな!」
「えっ。強いやつに吠えかかったり、喧嘩吹っ掛けたりはしたことないぞ?」
「強いよ。ビビるわ。その強いやつを含めてまるっとお前の保護対象じゃん。
エンフィといい、お前らあっちの貴族味が素であるのなんで?」
「なんでって。まあ、エンフィは地元に愛される若さまっぽいとは思った」
オレはフツーよ。こいつに比べたら。
「リュアルテの中の人はどんなのが出てくるか、会う時はドキドキしたな!
なにしろ彼は籠の中でしか生きられない鳥のように繊細だったが、愛くるしいのは外見だけだ。
現地の人たちを巧みに転がしていた辣腕ぶりには感嘆した!」
失敬な。
そりゃ少しはロープレしてたかもだけどさ。リュアルテくんのボディで変なことはやれんし。
しかし縄張り意識強いなんて言われたことないぞ?
優秀なオスは他のオスを、縄張りから排除するもんじゃないの。動物学的には。
オレはそーゆーのないのにな。不思議だ。
「やっほー!おにい、来たよー!」
転がしたスーツケースも軽やかに、ゲートを潜ってやってきた妹らは変わりなく元気そうだ。
ブンブン振るその手首には、認証パス付きの時計が嵌められている。
「荷物をあずかるぞ」
『体内倉庫』を使うと、あー。という顔で納得される。
「おにいが喜んで隔離されている理由がわかった」
「免許取る前にダンジョンに入れるなら、そうなるよね。
塔の管理人さん、みんなムキムキだし。私たちも研修受けたらゲーム塔の管理手伝うの?」
「学生のうちはどうだろうな。将来は委託されるかもしれん。
書類に署名してきたと思うが、基本、この中のことは親しい友人でも話すのはやめとけ。
規則だからと言って置けば、追及から逃げる口実にもなる。
それにそうすれば友達も困らせることがないからな。横から有象無象に聞かれても、聞いてないから知らないって答えられる」
「はあい」
「ねえねえ、おにい。調理のバイトにしては学校公休なのは可笑しいってわかるよ。
いくらなんでも」
千枝は期待にキラキラと目を輝かせている。
そうだな。ここまできたら勿体ぶることもないか。
「ゲームと同じくオレはダンジョンマスターのスキルが出た。
ここでは新規のダンジョンを造るのに協力している」
「やっぱりそうかー」
「バスもあるのに帰ってこないわけだよねえ」
「まあ、ゲームで一緒だしわかるよな。そういうことだ。
外のダンジョンは資格がないと入れないが、多種のデータを取る必要がある研究施設は特例が認められている。
お前たちも情報の蓄積に協力するか?」
「うん!」
「もちろん!」
そんなわけで巨大サフラン再びだ。妹たちの経験値になって貰おう。
コメント、いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。
毎回のことながら、恥ずかしい誤字に悶絶です。怖くて前の文章が読み返せません。ガクガクブルブル。




