119 小人の灯り
「そりゃ、外観は育っても中身はまだまだおチビさんのままなんだなーって思われたんだろ。
サリーさんは佐里江さんなんだから、手を繋げるとあっちゃ、お前がヒャッホイってなるのは分かるけどさ」
「そうだな。佐里江さんは魅力的だ。
わたしなんて凛々しい男のサリーすら、可愛いらしくてときめいている。
こんなにも下心満載なのに、解せぬ」
サリーは最初から頼りにはしていたけどさ。あの頃は疑問の欠片もなく、男だって思ってたから。
中の人を知ってしまうとサリーがいくら腕っぷしの立つイケメンでも、フィルターが掛かってしまうよな!
「サリーさんは、もっと自分を大切にした方がいいな!」
………まあ、エンフィにはむしろオレのほうがサリーの周りに牽制掛けてるって、バレているか。
サリーの友人関係まではオレもちょっかいかけるの自重しているから、苦言するほどじゃないって目溢しされてるけどさ。オレがエンフィの基準を越えて、あかんことしたら拳で説教してくると見た。
…だってサリー、無闇にモテるからさ。
言い寄られてストレス溜めるくらいなら、オレのだって主張しとくほうがいいかなって。
恋愛とは別にしても、女の子はイケメンが好きだし、男は強いものに惹かれがちだ。
そういった小さな好意の取っ掛かりがあると、経験値は覿面に悪さをする。
経験値は可能性を形にするエネルギーだ。
それを蓄えると、理性によって鈍らされている本能のアンテナが立つのかも知れない。
より良い遺伝子を残したいという情動は、はしたなくとも恋と似ている。
ただしそれら切っ掛けで育ててしまうのは、自分次第だとしても。0と1の差は大きい。
それは自分の心と体で実証済みだ。
冒険者になるのは男の方がハードル低いし、女性でも位階が高い方がモテモテな、危険が身近な撹拌世界だ。
命懸けの冒険を共にした、ただの同僚。それから一歩踏み出してしまう者のなんて多いことか。
トト教官みたいにガッチリ身持ちが硬い人なんて一握りだ。
悪意なき肉食系の多さはリアルの比ではないので、サリーの盾は用意したい。
好意だけならともかく、ペタペタ触られるとてきめんに総毛立って我慢しているの見てしまうともう駄目だ。泉のように庇護欲が湧く。
ぶっちゃけオレ自身のことは心配してない。
鈍感とか、意識が低いとかそんな問題じゃなくてさ。オレはがっちり護衛に囲まれて移動するのが基本なんで、ハニトラは無理なんじゃないかなって話だ。
膝の上に、桃の花弁がひらひらと落ちる。
桃子の中庭に絨毯とちゃぶ台を置いて、オレらは足を崩した状態だ。
2年間。彼女をプライベートダンジョンに閉じ込める形となったが、人待ち種の植物はダンジョン暮らしに適応している。
花の色もあでやかに、桃子はきちんと待っていてくれた。
マットと別れた後は南海を視察して、サリアータに帰ってからはオレの位階上げもしてきたところ。現在は夜の寝る前の時間だ。
空港は旅券も取ってないし、駅直通のスタイルだったのでそっちの見学は後日に回した。
プールや海の家、海浜公園といった、うちの主要施設だけはさらりと見て、職員に顔を売ってきた。
前は工事中だった海浜公園は造園が終了し、規模の大きなものになっていた。
特に冒険者が体を動かすことが出来る運動スペースは大きく取られていた。
それと初心者用のアスレチック広場。ここは家族づれも多い。
そういった施設の拡充もあって、2年前よりも南海で働く水麗人も増えていた。顔を出すのもオーナーの仕事なんだと。
南海スタッフの制服は男性はボタニカルなアロハ甚平の上衣に白いスラックスで、女性は改造浴衣だった。
薄い紗の浴衣が潮風に羽衣のよう、靡く姿が目に艶やか。
中にも1枚ノースリーブのワンピースを着て、それを覗かせるように衿と裾は伊達に開けていた。
彼女らは帯のかわりに玉虫色のエナメル飾りや、ガラスのチャームを着けた華やかなベルトを巻き。それに合わせるのは真珠のネックレスや螺鈿の髪留め。
水麗人は元より煌びやかな鱗を生やしているので、二本足に『変化』していても光を弾く飾りが似合った。
あいつらも順調に文化侵略されていた。
聞けばもともと水麗人の服飾史は、隣接する陸地の文化の形式に影響されやすいそうだ。
海の中では水の抵抗が少なくなるようなピチッとした服しか着れないから、陸地に上がるとここぞとばかりに着道楽の気が出るらしい。
浴衣に甚平なのは、ノベルの温泉や海水浴場が原因だったりするのかな?
それとも流行りの踊りの影響か。
深夜スタッフはまた違う顔を見せるのだろうが、昼の南海で働く水麗人たちは弾ける笑顔だった。
彼らにちらついていた憂いの影は泡と消えて、本来のものと思われる陽気さが戻っていた。
誰か1人歌い出すと、手隙のものが次々と釣られて合唱に加わる。
歌うは、底抜けに明るく、夢見勝ちな恋愛ソング。
恋はなにに例えよう。
雨の後に掛かる虹。
美しく儚いものばかり例に上げていった恋は、それら思い出を束ねたことで愛に変わって結ばれる。そんな歌詞だった。
水麗人に音痴なし。誰もがプロの腕前だ。
なにより、その楽しげな歌声を聞けただけでも南海に赴いた価値があった。
彼らの歌は『テラー』を帯びた戦場歌の印象ばかり強かったのが、ようやく払拭された。
夕食後の只今は、エンフィの部屋で教官を司会に従者会議中だ。
服がコスメが、護衛スケジュールがどったらこったらで相談ごとに余念がない。
なのでオレらは景観のいいプライベートダンジョンに入っている。
いつもの如く魔石をじゃらじゃらだ。
「でもさ、美人局ってそんなに警戒しなくちゃいけないもんなの?
ふへへ、綺麗なおねーちゃんに言い寄られちゃったぜ、困ったなあってなんてこと、オレは1度もないんだけど?
可笑しくない?」
ヨウルはなー。
ハニトラどころか、普通に好意を持たれてるのすらスルーするから。単に気づいてないだけじゃん?
まあ、いきなりベタベタしてくるような危険人物は排除されていることもある。要人警護な意味合いで。
「サリアータにいる時は、地元の皆に守られているからまだ安全だが、外国に行くなら特に用心して欲しいそうだ。
ただ今回のカザンには国賓として招かれるので、国の威信を掛けて警備されるだろうとかで比較的危険は低いらしいぞ」
世間的にはダンジョンマスターは種馬にして増やしたい派閥と、ハニトラ仕掛けてくる妲己ちゃんみたいな美女とダンジョンマスターって相性良すぎて傾国しかなくない?って心配する派閥があるっぽい。
サリアータは概ね後者だ。
上のグループが隙を突かれてハニトラ被害に離散したから余計にハリネズミになっている。
作業の合間。
カリウムたっぷりの果物をお供に、竜肉のジャーキーをがじがじ噛る。
相変わらず竜肉が旨いので、まだまだ体に栄養が足りていないらしい。
竜肉はそのままニトロを貪るようなハイカロリー食なんで、こうムッシャムッシャ食べるものでもないだろうに。
「竜の国かあ。そういや地竜の杖さ、お前らのはどうなってた?
オレのはヘンリエッタに預けてたらしくて、ダムを築くのに使われてたけど。なんかスゲー育ってた」
「私の杖は上下水道の刷新に使われていたな。私も親しくしていたギルドの者に預けていた。ヨウルの言う通りに、育っていたな!それどころか新しいスキルもついていた!」
それぞれ取り出した杖を見比べると、全く同じデザインだった杖の形が変化している。
ヨウルのは一回り大きくなっているし、エンフィのは角が伸びている。
オレのは生体金属が、なんとも艶を帯びていて今にも動き出しそうだ。
…ってゆうかさ?
前は上品に香箱座りしていたよな?
なんでそれぞれポーズが違うの?
ひょっとしてお前ら、人の寝静まった真夜中に動いてたりしやしないか。
「わたしの彼は【愉快な小人街道】で辣腕を振るってくれたらしい。
杖に自我が芽生えることなんてあるんだな。
吃驚したが、魔道AIには質のいい魔石が使われているから腑に落ちた。
だから試しに貝系の魔石を、『精製』と『洗浄』の『エンチャント』してから与えてみた。
そうしたら、まだ『融合』を掛けてもなかったのに、石を近づけただけで呑み込んだぞ?」
「その心は?」
「杖に『教導』が付いてたので、他にスキルを覚えたら面白いことになるな、と」
「リューの杖は面倒見がいいんだな!
私の杖は『エンチャント』と『水流操作』を覚えてきた!」
「オレのところは『造形』だった。石になっても個性が出るとか、竜って特別なんだな。
でもさ。強い杖って人を選ぶっていうけど、そんなことはなかったよな?
持ち逃げしようとしたやつは、その場に埋めたらしーけど。そいつの魔力を使って」
自衛も自動か。それは頼もしい。
「靴屋の小人の称号が贈られた時に使っていた杖ならではだろう!
きっと彼らも愉快な小人の一員だ。
土木工事以外には、使えなかったと聞く!」
うん。そーいうところはゲームらしくていいよな。とってもファンタジックで夢がある。
付喪神とか式神とか、その辺はオレも中二ソウルのおもむくままに履修済みだ。よきかな。
「しばらくはメンテナンスがてら、魔石を喰わせながら養生させて。落ち着いたらボランティアで土木工事に行こうと思う。
わたしは愉快な小人街道に街灯をつけたい。
あの道は、ダンジョンの生成ラインにあるから醸成魔力が強いだろう?
それこそ魔力消費なしで街灯が引けてしまうぐらいだ。
土地に滲む余剰魔力は、なるべく自動で減らしておきたい」
もともと『ライト』の消費が軽いこともある。魔力濃度の濃い土地なら、ダンジョン外でも常用しやすい道具のひとつだ。
「その時は誘ってー!」
「いいな!私も!」
約束されし無賃仕事なのにノリがいいな、お前ら。
ま。土木とか、街造りが好きでないなら、ダンジョンマスターをやるのは億劫か。
「どうせなら小人デザイン街灯の公募コンテストやろうぜ!
仕様書はオレが出すからさ!」
それは楽しそう。
ヨウルは書類を埋めていく。街灯の高さ、配置の距離、最大、最小サイズ、光量、使う素材。その項目は多岐に渡る。テンプレートを見ないでよく書けるものだ。慣れを感じる。
「よし、任せた。すると、わたしとエンフィは『ライト』の『エンチャント』だな」
「愉快な小人街道沿いなら、アイアンツリー等の生体金属の劣化もなくていいな!
それと資材の納品はボランティア枠があると嬉しい。
日々の生活に追われ、ナノハナまで行くのは難しい人たちでも作業に貢献出来れば、称号がつくやもしれん!
そのような相談を受けた!」
あー…。マッドスライムや硝子瓢箪くらいなら一般人でも収穫できるか。
「称号目当てはいいけどさ、つかないかもよ?」
んだんだ。
「構わない!むしろ位階上げのモチベーションのひとつにしたいそうだ!
【靴屋の小人】は家事に忙しい主婦や、休日に家の手入れをする一家の主にも羨望の称号だそうだぞ?
それに皆が参加している祭りを横目で見るだけなのは寂しかったらしい!
大規模工事があるならよろしくと頼まれている!」
サリアータの人たちお祭り好きだよなあ。
「いいのではないか。
ボランティア枠が埋まらなかったら、わたしたちの分担がもとに戻るだけだ。
そうだ。アリアンやクロも誘って記念樹の植林よろしくクラス同期で街灯を建てよう」
彼女らなら多分、気持ち良く乗ってくれる自信がある。
コメント、いいね、評価、誤字報告ありがとう御座います。
なんかワタクシ、同じ漢字の誤字が多いのです。
幼少期に覚え間違いをすると糸が引きますね。
ウッカリものにも程があります。
誤字を教えて下さる方、感謝です。




