114 ロマンスはなくても
丁度夕飯時だったので、小宴会場を借りることにした。
大宴会場は結婚式があったらしくバタバタしていたが、こちらが空いていて良かった。
ホテルに聞いたらオードブルは注文OKだったので、それと料理を数点頼む。
足りない分は『体内倉庫』からの持ち出しだ。
任せろ、在庫はたっぷりある。
ノベル本館に顔を出したらなにせ、会う人の悉くがあれも食べろこれも食べろ、新商品だ、これは定番になったものだと倉庫スペースを埋める勢いで、料理を渡してきたりするものだから。
しかもオレだけじゃなくて、サリーやジャスミン、弟妹を含めた人柱組全員が全員にだ。
いや、ありがたいけどさ。
なんか、うちの子たち、若くても田舎のおばちゃん味がある。エネルギッシュだ。
近況報告として。
女子2人の婚約にも驚いたが、アスターク教官が双子のパパさんになっていたことも驚いた。
2年間のブラックボックス。この間にどれだけ個人イベントを進めたの、運営ったら。
ああ、奥さんの妊娠、出産に狼狽える教官を、弄り、つつき倒したかった…!
とりまチェルに熊族の赤ちゃん用のスタイを縫って貰うように頼む。
出産祝いぐらいは参加したい。
中学の友達のねーちゃんが、赤ちゃんを産んだ時も千枝にスタイを作って貰って好評だった。
なんでもよだれ掛けは何枚あってもいいものらしい。
そのねーちゃんは、部活の合宿の時も車を出してくれたり、差し入れをしてくれたりで、結婚する時は先輩の幾らかは本気で彼氏を呪っていた。
その子は産まれて、もう1才。でれでれの叔父さん曰く、名前を呼ぶと反応するようになってきたとか。
翻って、まだ生まれて4ヶ月目の子熊ちゃんたちは、そろそろ四つ足を卒業しそうなのだと。
獣人系の乳幼児って成長早いんだな。震える。
重要な時間を見逃したー!
「悪いな。うちのガキども、顎や爪が鋭いんで、他種のやつらにはもう危険なんだ。
小怪獣そのもんでよ」
「教官の赤ちゃん、抱き上げてみたかった!」
これは嘆くしかない。
「可愛かったわよー、ふくふくのむくむくで」
アリアンはうふふと小さく笑う。
落ち着きを取り戻すと、すっかりお姉さんになってしまって。
ちょっとした仕草や、姿勢の良さが上品だ。
「ベビールームが鉄檻仕立てなのはビックリだけど、木の玩具を噛み砕く赤ちゃんだとそーなるのよね。
皆、気さくな熊さんたちが熊人町を造る必要がわかっちゃった。
同じ年頃でも、生まれもったパワーが違うもの」
クロは朗らかな人柄はそのままに、キリリとした美貌に磨きが掛かっている。
人気が出そうな麗しの悪役顔とは裏腹に、気立ての良さは折り紙つき。
物言いこそ幼さが抜けたが、この辺りは変わってなさそうで嬉しい。
「自分は他人より強いから自重が必要だって理解するまでは、もう他の種族には会わせられんなあ。
リュアルテくらい位階が育てば平気だろうが、あいつらが【この人たちも大丈夫】と学習するとかなりヤバい」
うぐぐ。それなら仕方ない。
この子たちの将来のためなら我慢せねば。
アリアンとクロに送って貰った子どもたちのスクショを専用のアルバムフォルダに移動させる。
縫いぐるみみたいで愛らしいが、教官の子供だから余計に可愛いく思えるんだろうな。
「教官、テルテル教官とトト教官って仲は進展してたりします?」
ヨウルがポテトフライを摘まみながら口を挟む。
パン粉とスパイスをまぶして揚げられたポテトフライは、冷めても美味しいオードブル仕様だ。
1人が手を出すと、皆の手が伸びる。
「トトは教師に向いていたらしくて、仕事が今一番楽しいらしい。
テルの奴があと10年、辛抱強く待つことが出来たらあるいは上手くいくかもしれんなあ。
同僚としては、仲良くなったぞ」
安心と納得のテルテル教官。変わらないものがあるとホッとするな。
オレらのトト教官がもしお嫁に行っていたら、テルテル教官とはいえど一発ぶちかまさなくてはいけなかったかもしれん。
「でもさー。アリアンとクロが婚約って何があったん?
前から仲は良かったケド」
「うーん。特にロマンスはなかったんだけど、クロと一生添い遂げるなら、私は幸せになれると確信したから。
ちょっと思いきっちゃった」
「あーちゃんをよく知らないうらなり瓢箪より、クロの方が幸せに出来ると思わない?」
「お、おう。そうだな?」
「それに、私にできる精一杯でクロを守りたいと思ったからかしら。
皆がいなくなって2人ぼっちになって淋しかったからっていうのもあるのかしらね?」
アリアンは冗談めかして、微笑んだ。
苦労を見せないためには冗談にするか、笑ってみせるか。
まだ若造のオレたちは、それぐらいしか手段を知らない。
だから、読めてしまうこともある。
………5人がいきなり2人になって。大変だったんだろうな。
「悲しーことや、辛いことを協力して乗り越えた結果に、芽生えたものがありまして?」
芽生えちゃったかー。
ダンジョンマスターなら、支えてくれる手はあればあるほどいいものだ。
友情から芽生えたものでも、お互いに必要ならわかりやすいもんな家族って括りは。
しかしアリアンとクロが。
……ちょっとドキドキするような?
「良かった。虫除けや、偽装婚約しないといけないほど求婚者がうっとおしいとか、そんな理由じゃなくて。
婚約するにしても少し早いから心配した」
「あー」
「ねぇ?」
女の子たちは顔を見合わせる。
「背は伸びても内面は変わらないって聞いたから、気持ち悪く感じるかも知れないけど、貴方たちも覚悟はしていたほうがいいわ。
外見だけは成人なのだし」
「皆それぞれ美人さんになって、大変かなって思うのよ。
開き直って毎日女の子の服を着て、恋人いらないって主張するとか、そこまでやるなら話は別だけど。……まだ、ギリギリ似合うかな?ビミョウ?」
「なるほど。ここは【思う方がいますので】一択だな」
「ああ、淋しげに微笑むと効果的かもね。リュアルテの場合」
アリアン、アリアン。幸せでラブラブしてますとかじゃ、オレはダメなん?
「オレは嫌だからな?!」
失敬だな、ヨウル。
「なんでそうなる。わたしが恋人になって欲しいと頼むとしたらサリーしかないだろう。
なあ、サリー」
「はい」
話を振れば、当たり前のように頷いてくれる。嬉しい。
「可哀相だからやめてやれ。
サリーはまんま適齢期だぞ。お前さんと噂が経つとだな、この先、嫁のきてが完全になくなっちまう。
それどころかちょっと夜遊びしたもんなら、闇討ち案件だ」
「それくらい構いませんが」
「……お前さんが婚約者や恋人になったと公言すると、守られる立場になっちまうぞ。
こいつの従者を新しく補充することになるが」
「それは厳選したいですね。わかりました。恋人宣言をするにしても、そちらが見つかってからにしましょう」
「ったく、お前さんたちときたら。その主大事ぶりは筋金入りだな。
これだから犬族混じりのアルファは」
「こればかりは、犬族に生まれた喜びというか、他種の方には説明しづらいですね。
自らが認めた上位者の頼みや命令を受けて、自身がそれを叶えられる時の嬉しさは筆舌に尽くしがたいものがあります」
部屋にいるメイドさんらが頷いている。
「マスターはあまり命令やお願いをしてくれないのでー」
「サリーさんが羨ましいです」
「マスターと大手を振って恋人ごっこが出来るとか、どれだけ徳を積めばいいんでしょう?」
「これを断れというのは酷です、教官さま」
「お前さんらが途方もなくリュアルテに甘いから、こいつがしっかり自律しちまってるだけだろーが。
まあ、リュアルテに格負けしない条件だと、お前さんらの中じゃサリーが一番適任か。
グッドマンの一党は実質リュアルテの配下だが、いくら大勢いるっつーても他に条件が合いそうなのはオルレアぐらいなもんだ。……流石に年頃の別嬪さんを、巻き込むのはありえんからな」
「そうなんです?」
そりゃ従業員はうちの子扱いしているけどさ、グッドマン郎党は軍警や冒険者や他にも色んな所に散らばっているじゃん。それも?
「【ご恩と奉公】的に、あれだけ実利を与えられたら、後の三世に仕えたいだろうよ。
お前さんはそろそろ自覚しろ。
それに、エンフィ、ヨウル。
お前さんらと仲良くしていた軍人やギルドの冒険者らをそろそろ手駒に引き取ってくれやしないか?
この2年、随分しょんぼりしてたぜあいつら」
「そうね。ご領主さま的にはヨウルとエンフィの相性を見つつ、彼らを用意していたのだものね。
貴方たちが帰ってくるのを待ちながら、腐らずせっせと位階上げに励んでいる姿を見てたから、出来れば全員引き取ってくれると嬉しいわ」
「クロたち、皆の代わりにたくさん親切にして貰ったから胸が痛い」
「ふむ。戦力の拡充を推奨されるとなると、やはり階層エレベーター建造を期待されているのだろうか!」
おや、確約を避けたな。即断即決のこいつにしては珍しい。
多分オレらの中じゃ一番に、人の采配が上手いのはエンフィだ。それでも迷うものなんだな。
海千山千の軍人や冒険者を引き取れって言われたのだから、当然か?
「そうね。私たちも階層エレベーターを手掛けたけど、サリアータは野良ダンジョンが多すぎるわ。
……悔しいけど、今の私たちじゃ深層への道を拓くことは難しいもの」
「私たち二人三脚で一人前に届くかなー?そんなとこ!
位階だけは積んだけど、冒険者としては大成しないタイプみたい。
その代わりに駅を造るのは頑張ったよ!
あと、リューくんには悪いけど、いっぱい牧場増やしちゃった。
ノベルの牧場が画期的すぎて、真似っこしたの。ごめん!」
「御免なさい、唆したの私よ。乳製品が美味しくて、自由に沢山食べたいなあって…!」
「それは良いことでは?
豆乳を使う料理は大抵、牛乳を使っても良いものだ。
それにミルク欲しさに、牛飼いの技術提供して貰ったのはこちらのほうだろう?
クロのところで大量に作ってくれるなら、うちのは喜んだんじゃないか?」
えっ、普通に嬉しいぞ、それは。
ピザやグラタンにはチーズをたっぷり乗せたいし、洋菓子にはミルクやバターが欠かせない。
乳製品が手に入り易くなったら、チェルなんて大喜びだ。
ちなみにその妹らは、パーティをよく組んでいた現地のグループに、捕まったのでノベルに置いてきた。
ニュースを聞いてから、そわそわウロウロ。ノベルでまんじりもせず待っていてくれたらしくて、それを邪魔するのは不粋だ。
ただ、帰りはホテルまで送ってくれるように、周りに頼んできた。
「うん、乳牛を増やしすぎて、ミルクが余るんじゃないかってどうしようってなった時も、纏めて買ってくれた上に余剰分はどんどん買いとる専属契約もしてくれて。
ダンジョンでの牧畜が、どれだけ効率を生むのか、手伝いに行っていた人以外きちんと理解してなくて。村中わーわー大騒ぎ。
ノベルさんにはもう、うちの村の人たち足を向けて寝れないの」
「あと。オルレアさんにはね、私たちも陰日向にお世話になっちゃったわ。
2年前の段階でヨウルやエンフィはギルド連や軍部に顔が効いたし、リュアルテは一家を構えてたでしょ?
男子がいる時は、背中で守ってくれていたんだなって後になって実感したもの。
困った時は皆が作ってくれた伝手に、随分助けられちゃった」
こっちも助けられたって聞いたし、お互いさまだ。良い交流になってたなら、一番だ。それよりも。
「まだ成人前のお前らに困ることを押し付けた方が問題じゃん?
助けに入った奴らはグッジョブだけど、他はなにをしてたわけさ」
うん、そっちが気になる。
「地元の人たちは、そんな無茶を言ったりしないわ。
でも道が繋がって南からの交易品が流れ込むと、サリアータにも色々な人がやってくるようになったの。
…その中にはビックリしちゃうような人もいて。
東方諸国の貴族子弟だったんだけどね。
その方曰く、ありがたくも庶民の私に貴族家の産み腹になる栄誉を与えてくださるのですって。
ご領主さまを始め、地元の面々がそりゃあもう怒り狂ってくれたから無事にご破算になったけど。
それまで貴族と言えば立派な人しかお会いしたことなかったから、あんな人もいるんだなってシミジミしちゃった。
どんな層にも問題児っているものなのね」
「あの時の貴族さんに仕えていた従者さんの、絶望顔が忘れられないの」
「…普通に駄目だろうそれは!」
「ええ、駄目よね。でもお陰で危機感は覚えたわ。
ああいうのに、うっかり攫われたら大惨事よ。
リュアルテはいいにしても、ヨウルとエンフィは注意した方がいいわ」
「私ね。付け入る隙を減らすのに、これは叙爵を受けた上でプロポーズするしかないって、なったの。
婚約さえしておけば、他の人に強引に籍を入れられる危険はなくなるのよ」
「そういうわけで、本日付けでお前さんら3人とも叙爵の連絡を受けてる。
ダンジョン爵家初代当主なら、貰うのは嫁、婿で他家には入れん。
これだけでも貴族に対する牽制にはなる。
アリアンやクロフリャカは当主同士の婚姻で、最低でも2人は後継者を育てなくちゃならんが、それはまた追々だな。
式典やりたいなら申請するがどうする?」
「忙しいので、オレ、パース!」
「今はダンジョンマスターとして仕事を優先したいので!」
「……とのことなので、ご配慮のほどお願いします」
「結局お前さんら5人とも、揃って叙爵イベントスルーするか。
そうだろうとは思ったが、なあ。
普通は晴れの舞台なんだぞ?」
楽しみにしてたんだけどなあ。
最後の呟きは胸が痛いから、聞かなかったことにしてもいいだろうか。
だって昇殿資格もないのに、式典の主役になるとか笑い者じゃん。
これで周りの教育が悪いとか言われたら、キレずに済ませる自信がない。
「前に聞きましたケド、ダンジョン爵は宮中行事、ぶっちしてもいいんですよね?」
ヨウルが改めて確認をとる。
「そうだが、サリアータは少ないぞ。常に非常時だからって言い訳で、ご領主さまからして他所には出んしな。
うちらしいっちゃ、うちらしい反応だが、上の良くないところを真似せんでも良かろうに」
「教官!ダンジョン爵になるとなにか変わりますか?!」
「強引に話を変えたな。まあ、いい。
そうだな。年金がつくようになる。
税率も高くなったり安くなったりするもんがあるが、そいつは領から派遣される専門家に任せちまえ。
ダンジョン爵に経理の計算を任せるほど、お前さんらは暇にはなれん。
基本は学生証……叙爵された今になっちゃダンジョン爵身分証か、そいつで売り買いしてれば問題はおきんだろうよ。
後は1人最低でも18人は家人を抱えろ。
300人までは領から基礎手当てが付くからな。
ったく、リュアルテのとこだけだぞ、この制度を有効活用しているのは。見習え、お前さんら」
うちの子、いつの間にか増えてるからなあ。
2年前の段階で余裕で500人を越えていたから………ああ、水麗人を含めるともっとか。
「300人って、意外と少ない?」
「それはリューのとこだけだ!」
「バーカ!人さまを預かるのに、そんなに簡単にいくわけないだろ?!」
非難を轟々と浴びせられる。
八つ当たりは良くないぞ?
誤字報告、いいね、評価、コメントありがとう御座います。
少女2人がくっついたのは予定調和。
百合に挟まる男が弾き出されたのは、力量不足です。ごめん、ヨウル。




