↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
110/329

110 空白の2年



 今日は日記的には44日目でいいのかな?

 体感ではそうだけど、いきなり2年も時間を飛ばされると戸惑うわー。


 場所はホテルの小宴会場だ。

 なにせ2年ぶりの帰還なので、ホテル側も対応に追われている。

 部屋の支度が整う間は、食べても食べても腹が減る、虫養いを兼ねての食事の続きだ。


 いや、参った。

 メイドさんや臨時スタッフさん、顔見知りの冒険者のおっちゃんら、ギルドの人ら、ボランティア。皆に泣かれるわ、怒られるわ、抱きつかれるわで、穴から搬出されていくプレイヤーたちは面食らってオロオロしまくっていた。

 オレらのせいじゃなくても、申し訳なくなってしまうな、これは。


 サリーとジャスミンが確保出来たので、プレイヤー救出に忙しい現地の人らは、現場に残っている。

 彼らの今夜は、日を跨いでの作業になるとのこと。

 もう夕方遅くなので、すべてはまた、明日からだ。


 そして弟妹と合流したが、こいつらも背が伸びていた。

 …おおう。アバター的に、弟妹組も思春期突入か。


 うちのは千枝が如才なくて、万里を上手くいなしてくれた。なのでピリピリ成分はマイルドだったけど、こっちじゃどうだろ。

 こいつらに邪険にされたら、リュアルテくんショックだろーな。

 今んとこ無事な顔見て、安心して駆け寄ってくれるくらいは仲良しだけど。

 リュアルテくんは兄馬鹿の気があるんで、まるっきり子供でもなくなったチェルやマリーも凄く愛らしく見える。

 お兄ちゃんは心配だ。


 サリーとジャスミンは年齢据え置きだった。

 だから年齢の時間経過はアバターの成人組と未成年で分けたのかと思いきや、どうもこの判定はプレイ内容やカルマ値によるものだったらしい。


 サリー、案外やんちゃしてたんだな。ジャスミンへの対応を見ていると諍い事には慣れているのかなとは思ってたけど。


「GMの温情ですかね。

 そこそこカルマ値の蓄積があるくせに、功績ポイントも極端に少ないとなるとギルドや役所にマークされてしまいますし」


「はん、冒険者なら、カルマ値はある程度仕方ねえだろうよ。

 いざこざ起こしたくないなら、なにもするなって話だろうさ」

 そうだな、ジャスミン。

 大人は嫌でもやらなくちゃいけないこともある。

 子供だから大人にしっかり守られていたオレたちの、カルマ値が低いのは納得しかない。


「…私も贖罪クエストをしておくべきでした」


「おねえやルートくんや私みたいな初心者ならいいけど、サリーさんやジャスミンさんの功績ポイントっていっぱいなんでしょ。

 勿体無いから、いいんじゃないの?」


「いえ。私は悪いことではなくても少し不埒な真似をしてしまったので、大分功績ポイント差っ引かれていました。全損してもそれほど惜しくはありませんでしたよ」

 え。

 ヤバい。心当たりがある。

 あれか。女王戦前のアレ、サリーにペナルティあったのか?!

 しかもサリーの功績ポイントをそんなに削ったとか!


「すまない、わたしが言い出したアレだろう。サリーに迷惑を掛けてしまった」


「いいえ。運営からきちんと警告はありましたのに、喜び勇んでしたことですから、むしろ結果オーライでしたね」


「なにかありましたの?」


「ふふ、秘密です」

 サリー、そんな色仕掛け…って、反応してないな、チェルもマリーも。

 こいつら大丈夫か。感性死んでやしないか?


「あら、殿方って幾つになっても子供ですのね」


「サリーさん、おにいが悪いこと言い出したら、一緒にのっちゃうタイプなんだ。そっか。

 おにい、自重ね。気を付けよ?」

 あー。こいつらにはサリー、近所の悪餓鬼どもと同類判定受けたのか。

 それは、ときめかない。


 その節はご迷惑をお掛けもうした。オレと友人たちが、すまぬ、すまぬ。

 エネルギーの有り余る小中学生の男子って、心底頭の悪い生き物だよな。

 楽しかった思い出の悉くがろくでもないのは自分でもドン引きだ。

 人を傷つける悪さを覚えなかったことぐらいしか、誉められる余地がないでやんの。ハハッ。これは沈黙は金。


 ここは黙ってモグモグだ。

 滋養強壮効果のある竜肉ジャーキーを噛み締める。

 すると複雑な香辛料に負けない、竜肉の力強い旨味が噛むほど染み出てきた。

 なんか凄く疲れた時に食べるミルクチョコレートみたいに、脳髄を揺さぶってくる味だ。


 この竜肉。身体欠損を『治癒』した時の優れた療養食として有名だ。

 健康な人間が食べると漢方めいた苦さを感じるらしいが、血肉が足りてない者が食べると至上の美味になると聞いたことがある。なるほど、これが。


 この2年の間にサリアータとカザンは大型の転移門が築かれて、正式な交流が始まっていた。これらの竜肉ジャーキーはその結果だそうだ。


 他にも色々変わっている。

 なんでもナノハナから伸びる大陸行路も無事に東と繋がったらしい。

 他所の国でも海峡に橋が架けられたり、トンネルが掘られたり、空港が出来たりと、この2年で世界的に大規模工事ラッシュがあったみたいだ。


 情報を仕入れるのにギルドで発行されていた公報のバックナンバーを買い取ったので、皆で回し読みをしている最中だ。


 これがまた。やたら情報が多いのなんの。

 何度か読み込まないと、頭にきちんと入らなそうだ。


 GM、張り切って準備してたんだな。

 そんなにプレイヤー増えるの、楽しみにしてたの?


「どうしたんでしょう、運営は。

 プレイヤーに道なき道をひたすら歩かせるのが趣味のドSだったのでは?」


「超大型転移装置、まあ、空港だよな。これがあったら、どれだけ大陸同士の移動が楽だったか。

 大陸移動やった奴って半分くらい死んでいたよなプレイヤー」

 …そういう奴が多かったから、運営もなんとかしないとって配慮したんじゃないの?

 プレイヤーちゃん、なんでそんなに無謀にアクティブなのかってGMとしては震えていたり。


 ひょっとして。管理AIの生まれたところは、庶民はあまり人が土地から移動しない文化だったのかもな。

 鎖国は日本もお家芸だけど、そうじゃなくても魔物がこれ程溢れていたら海洋交易って難しそうだし。


 ざっと概要を舐めただけでも空港、これは凄い。

 高レベルの雫石を使っているだけじゃなく、移動距離の補助に竜の魔石やらが贅沢に組み込まれている。

 それなのに破綻していないとかどんなカラクリだ。

 飛竜と地竜の魔石は触ったけど、両者とも個体差も灰汁も強かった。

 あれを纏めて大規模運用するとか、やれてしまうもんなんだな。

 頭がいいやつはいるもんだ。誰が設計したんだろ。ちょっと気が遠くなりそうな作業だ。

 東京タワーはコンピューターを使わずに、人力で計算されて築かれたと聞いたことがある。それくらい大変だったんじゃないか?


 これほど複雑な機構は到底一個人で造れるようなものじゃないよな。

 もちろんメインを手掛けたダンジョンマスターの腕も格段に良いのだろうけど。


「海峡を渡るのは、えげつなかったな!

 しかし、新規プレイヤーがあんな目に合わなくて済むのは良いことだ!」

 ジャスミン、エンフィ、お前ら前世で大陸移動の経験あったの?

 本物の大冒険じゃん。

 海峡ってまさか中央大陸と、西大陸の海峡を渡ったとかないよな?

 この2年で大橋が架けられたという、あの海峡。船で横断チャレンジしている冒険野郎どもがいるとは聞いたことがある。

 魔物なサメがうじゃうじゃ泳いでいるのに、無謀にも。


 そういやサリーは南大陸の出身だって言ってたな。


 話が出たついでにワールドウォークの地図を広げる。

 ………サリアータからカザン方面なら砂漠を跨いで西回りに南下すれば、群島から迂回ルートがとれるから、大回りにはなっても駅で小刻みに移動もイケそうではある。


 人魚のテリトリーの南海と、南大陸の最北端は直線でも日本列島がまるっと入るくらいは離れている。

 しかし迂回ルートだと優にその30倍分は、距離が掛かるな。

 これが空港直結されたのか。ほげー。


 交易したいなって思ったけどさ、たった2年で距離を詰めすぎじゃない?

 一体なにがあったんだ。


「あのさ、今までがチュートリアルってマ?」


「運営が宣言したからには、そうだったんだろうな」

 プレイヤーにとってのそれじゃなくて、GMとしてのチュートリアルなのが草。


 GMはオレたちプレイヤーが局面ごとにどう動くか見定めするため、手を替え品を替え試していたんだな、きっと。

 その証拠に悪名高い【やることリスト】が、消失している。

 代わりに、ワールドウォークのクエスト機能が充実していた。

 冒険者用だけじゃなく、一般人や、職人、ファーマー等の依頼や受注が簡単になるよう仕様変更してあった。


 そうか。道が通って、ギルド間の流通が良くなっているから、遠くの品も手に入れやすいのか。


「おっ。施設の底上げは、ワールドクエストを幾つクリアしたかで決まってるんじゃって、説が出てるぞ」

 一足早く公報の『速読』を終えて、ジャスミンは掲示板を漁っている。


「ソースは?」


「クリアした土地はどんな僻地でも施設なり空港なりが開かれている。

 攻略中や、失敗してんのは大国や都市部でもそのままだ。

 あと、ワールドクエストほどじゃなくても、大陸主催のロケット祭みたいな大きめのイベントも成功していると、報酬らしきものが出ているらしいぜ?

 他にもそれとは別で、セイランと夢魔族が正式に国交を結んでいたりな。

 ……時間薬が必要なものを、纏めてこなした感がある」


「そうか。ワールドウォークによる、滅亡指数は95.3パーセント。少し下がったな!」


「プレイヤーが大陸移動しやすくなったことを考えると、これからって数字っしょ」

 2年間で3パーセントの減少か。

 巻いていかないと厳しそう。これは、焦らせてくれる。

 折角なんだし緊張感を楽しんでね♡って、そんなサービスは、いらんかった。ご新規さんを惑わすのは良くない。

 古参はまあ、運営の無茶振りに慣れているけどさ。悲しいことに。


「あ」

 ワールドウォークのマップをじっくり見ていて気が付いた。

 サリアータの荘園の約半数。

 それらが駅で繋がっている。

 タップして詳細を開けば、ダンジョンの作成者はクロフリャカと、アリアンの連名だ。


 そうか、彼女らは人柱組には入らなかったのか。

 良かった。

 それでなくても人より寝ている時間が多くて、子供でいられる時間の少ない彼女らが、こちら側にならなくて。


 よし、運営にも慈悲があった!


「どしたん?ニコニコして」


「アリアンたち、頑張っていたみたいだ」

 地図を示す。


「あ?……あー!そっか、地図のこれってそういうことか!

 …あいつら、どんなんなってるかな?」


「差を付けられてしまったな!

 私たちも励まねば!」




 【異界撹拌】クエストクリア!



 まだ記憶に新しい2年前のことです。

 未曾有の危機に、数多の英雄たちの献身がありました。


 世界同士の接触による『異界撹拌』。

 それに伴う、大地の崩落。


 天災はいつも唐突に、そして理不尽に訪れるものです。

 しかし、天よ。人の力を照覧あれ。


 世界の声をその耳に聞く英雄たちは、手遅れになるその前にと、先駆けて行動を起こしました。


 人柱。


 サリアータの大崩落の拡大を阻止した手法。

 それを持ってして、彼らは世界の断絶を食い止めることに成功したのです。


 彼らの中には自らの体に蓄えた、英雄としての祝福を、世界の存続に注ぎ込んだ者もおりました。


 いつも世界を救うのは、愛する者への祈りと献身。


 誰に強制されたわけではなく。

 そうしたいから、やったのだと、彼らは莞爾と笑ったでしょう。

 あるいは諦めを覚悟に変えて、怒りに震える手を握りしめ。


 しかしです。

 その選択を決断したのは、彼らが特別に勇敢だったからではありません。

 この世界を彼らが愛しんでくれたから。

 守りたい大切な人がいたからこそ、それに尽きます。


 人よ。それをゆめ、忘れるなかれ!



 congratulation!



 特殊イベント【祈りと献身】 クリア!



 世界に捧げられた功績ポイントが規定を大きく越えました!


 よって、『異界撹拌』に伴う時間経過は本来10年間になるように枠組まれていましたが【祈りと献身】により、プレイヤーたちは8年分を短縮することに成功しました!




 クエスト!



 【新人さんは異邦人?】



 世界の綻びが縫い合わされ、その傷が塞がり馴染むまで2年。

 その時間は長かったのか、短かったのか。


 ようやく功労者たちを次元の狭間から救出することに目処がついて、喜びをあらわにしていた者たちは気が付きます。


 アレ。なんか数が多いぞ?


 次元の狭間から救出されつつあったのは、馴染みの英雄たちだけではなく、他所の界の人も混じっていたのです。

 それもたくさん。


 しかもこのお客さんら、次元の狭間にずいぶん長く漂い過ぎたのか、記憶もどうもあやふやのようで…?


 故郷どころか、自分のことすら分からない。

 そんな状態なのに、まさか帰れなんて言えません。


 この流れ着いた椰子の実たち。

 なにも持たずに来訪せざるを得なかった彼らが私たちの住むこの世界を第二の故郷として根を張ってくれたら良いのですが………そうなる前にはきっと艱難辛苦が待ち受けていることでしょう。


 楽しみですね?



 椰子の実応援プロジェクトより、お兄さま、お姉さまを大募集します。


 身よりのない彼らの身内となり、頼れる先達となり、どうか導いてやって下さいませ。



 報酬 プライスレス


 ※愛に値段をつけるのは不粋です。




 ほほう。つまり先行プレイヤーは家なき子たちの、足長おじさんをやれということか。

 なるほど。


「ふざけるなよ!2年も時間をカツアゲするんなら、せめて出迎える準備ぐらいさせやがれ!」

 ジャスミンが吠える。

 うん。まさか待望の新人さんが難民スタートで始まるとか予測してなかったわー。

 これはのんびり飯食っている場合じゃない。ホームレススタートとか勘弁してやって。

 ここで治安が乱れるとか、洒落にならんぞ。


 これさ、セイランとかの戦乱が大きくなってたら、そこで溢れた孤児たちや、心が傷ついた軍人とかをプレイヤーとして捩じ込むつもりだったのかな運営的には。


 チュートリアルで撹拌世界各国のそーいう不幸を未然に防ぎすぎて、新規プレイヤーが他所からの難民にするしかない事態になったとしたら………あれ、なんだか悪くない気がしてきたぞ?

 オレらグッジョブしたのでは?


 新人さんには申し訳ないが。

 よし、ここはフォローに動こ。


「リュー、ヨウル。『調律』済みの雫石は幾つある?」

 エンフィも同じことを考えたのか、尋ねてくる。


「もし宿舎が足りないようなら、今夜は運動公園に誘導でいいだろう。まだ人数がどれだけ増えるかわからない」

 オレが手掛けたダンジョン内公園等は、緊急時は避難キャンプを張れるように造ってある。


 余談だが、まだダンジョンマスターがどんなものか知らなかった時は、ダンジョンホテルは無限に部屋が増える物だと思い込んでいたっけ。

 今となっては恥ずかしい。そんなわけあるはずがなかった。


 サリアータスパイ天国事件の顛末すらまだ確かめていないのに、新章開幕とか。

 相変わらず、きちんと知ろうと動かない限りその後どうなったか教えてくれないんだな運営。

 ジャスミンじゃないけど時間泥棒したんだから、それぐらいサービスしてくれてもいいのよ?



 滅亡指数の公表がなんで20年なんだろうかと、ちらりと思ったことはあった。

 ……運営としてはこれらの数字を『異界撹拌』後に公表するつもりだったんだろうな。


 本来は10年経過していたわけで、そこからタイムリミットで後10年のつもりだったんじゃないの?

 とか。


 怖っ。


 GM、世界が滅びてからがむしろ本番とかさ、思っていない?





 コメント、誤字報告、いいね、評価、感謝です。

 いつも、ありがとう御座います。



 しかし太陽ちゃん、夏だからってちょっと頑張りすぎてますね。

 すこしくらい怠けてもいいのよ?

 

 皆さまもどうかご自愛くださいませ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
GMちゃん「異界攪拌による世界滅亡なんてザラにあります」 政府ちゃん「ゲームは予習教材だからしゃーない」 ってことですね!修羅!
[一言] GMちゃん、世界が滅びてから反攻作戦取るのを前提にしてない?
[一言] GM「ポストアポカリプスって良くない?(ニチャァ)」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。