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108 『異界撹拌』



 採掘師さんに掘っていい場所を示して貰ったんで、がっこん、がっこん、掘ってきた。

 『採掘』の他にも『岩石形成』とか『金属抽出』とか便利なスキルがあるもんで、掘った先からどんどん岩石ブロックやインゴットに変えていく。

 肝心の石材らのブロック規格は、ヨウル先生が知っていた。

 そういや砦とかも、やたら岩目が揃っていたっけ。これでか。

 やはり規格化は良い文明。

 大物を築くなら、先にそこからやっておきたいものだ。


 ブロックはレゴのように凹と凸があってレンガ積みしたらずれないようになっていた。

 それに鉄骨を通すための丸い穴も空いている。

 うーん。穴があると、地震があったらそこから割れそう。って、また『岩石形成』し直せばいいのか。エコだ。


「鉄はともかく、銅は使い道が限られたりするか?」

 撹拌世界では銅がめっちゃ使いそうな電線はないし。

 …銅鍋?


「西の方じゃ風邪が大流行しているらしいじゃん。不特定多数が触れるようなとこじゃ、銅製のノブとか売れそうじゃね?」

 砂漠を挟んだお隣さんか。

 ロケット打ち上げ、何度も延期してたもんな。


「なるほど、銅には殺菌作用があるのだったな!

 あの風邪は嫌な感じだ。殺傷力は低いかわりに、あっという間に広がって鎮火しないと、砂漠で聞いた」

 …ロケット祭のリザルト的には、病を撒いているやつがいるんだろうな。

 それとも他に謀があって、風邪の流行は打ち上げ延期の言い訳に使われただけだったりして……そっちの方がまだいいな。

 陰謀論ありきで思考を巡らせるのは、あまり健康的ではないか。



「そろそろ日が落ちたから帰るよー」

 テルテル教官が声を掛ける。


 そう。今日のメインとなるのは、夜の森を歩いて砦まで帰ることだ。

 そこそこ体力と気力を消耗させてからってこともミソである。

 少し疲れた状態で、暗い森を歩かせてやろうぜとゆー企画だ。

 オレら基本が箱入り坊っちゃん扱いなんで、貴重な機会だ。安全は配慮されまくっているけど、雰囲気を味わうことも人生経験とゆーことで。






 野良ダンジョンを出ると、昼の名残で、まだふわりと暖かった。

 坑道内は視界がきらきらしていたので、夕闇が一等暗い。

 夜になりかけの森は、どこか禍々しい印象だ。


「アイアンツリーや紫毒蛇が、森の生き物を淘汰しちゃったからかね。不自然に静かだろう?

 虫や動物の気配がない。

 紫毒蛇が何十世代も共食いを繰り返して、手に負えない化け物になる前に森の問題を片付けたいね」

 昼間も虫の鳴き声すらなかったからな。

 夜風に揺らぐ木々のざわめきがなかったら、もっと不気味だっただろう。


 都心の街路樹にさえ鳥は止まる。まして原生林だというのにこの静かさは物悲しかった。この森は半ば死んでいる。

 花に群がる鳥や虫、果実を齧る動物たち。彼らを媒介に花実を付ける植物は、この先、森に生えなくなるかもしれない。

 それにもし、この森特有の固有種がいたら、彼らは絶滅してしまったということになる。

 魔物の跳梁を許すということは、身近な環境を食い荒らされるということだ。


 『ライト』を掲げると、光に反応してアイアンツリーが寄ってくる。


 しかし弱点の『サンダー』一発で倒れてくれる敵だ。今となっては苦労はしない。

 魔石だけくり貫いて、あとはプライベートダンジョンに突っ込んでおく。

 処理は全部後回しだ。

 ゆっくりしてると、どんどん集られてしまう。


 ある程度HPが増えてきてから、教官たちは見守るスタンスも増えてきた。

 手出し不要を告げられたメイドさんらがやきもきしている。



「アイアンツリーより、蛇が厄介じゃないだろうか!

 強くはないが、心臓に悪い!」


「えー?ぴょーんって出てくるの面白いじゃん。もっと狩りたい」


「…猫ってなんで捕まえた獲物を生かしたまま見せにくるんだろうな。食べもしないくせに」

 猫は可愛いよ、可愛いけどさ。

 ヒエッてなるよな。寝ている枕元に鳩やらカエルやら置かれるのは。


「生き物をなぶるのは良くないな!本能だから仕方ないとはいえ」


「オレは仕留めたのはきちんと食べますうー。…いや、ちょい多いかな。

 一番でかいシチュー鍋でも肉しか入らん」


「ワールドウォークのタスクに紫毒蛇の納品あるぞ?」


「これ、お前んちの依頼じゃん。あっちこっちで食材の確保に余念ないのなんで?」


「紫毒蛇、美味しいですけど、それだけじゃ飽きますので。

 地元貢献を兼ねた依頼ですよー」


「代わりにお店には肉や魚を卸してきました!」


「故郷の味をサリアータにお届けするですよ」

 どんなに美味しいウナギでも毎日は嫌か。

 紫毒蛇は鶏肉っぽい味だけどさ。


「紫毒蛇の座布団型カツのビックバーガー、ソースをタルタルに変えたのも食べたい」

 人の顔ほどあるデカイやつ。

 あれ、パンもいいんだよ。米粉でもっちもちに焼き上げてあって。

 うちのベーカリー部門、頑張ってる。


「はーい、リクエスト承りました!明日にはお届けいたしますねっ」


「えっ、なにそれ旨そう」


「ソースのも旨かったぞ。ハニーマスタードとウスターソースのコンボで、中のキャベツがシャキシャキで。

 持つと、ずっしり重いんだけどペロリといける」


「お前のとこ期間限定のがありすぎるのが嫌い。好きなものは年中食べたい」


「アンケートを提出すると、そうなるかもしれない」


「おお!」


「ならないかもしれない」


「どっちだよ?!」


「ジビエは水物ゆえ?

 野菜とか、年間を通してうちで管理しているのなら要望は通りやすいかも」


「あー、そっか、悪い」



「んー。リュアルテくん、エンフィくん。足元見えてる?」


「もっと明かりがあるといいです!」

「いいえ、あまり」


「…だよねえ。ヨウルくんが昼よりも足元しっかりしているのは種族特性だけど、君らも夜間補正かかる種族だから訓練を重ねるとそのうちスキルが出るかもね。

 リュアルテくんなんて昼間はよく躓いてたのに、今は全然だし」

 そう言えば、そうだな。

 夜はウィングブーツを脱いで歩いても、転んでいない。

 普通は逆だ。

 前世は最初から『魔眼』もちだったから、意識の外だった。


 人数が揃っているのに、『ライト』ひとつ縛りしているのは「なんで?」と思ってたのは、なにかの確認だったのか。

 先生ってやること多いな。


「知りませんでした!」


「そうだね。未成年は夜に寝るのも仕事だから、そっちの訓練をするにしてももう少し先かな。

 っと、敵さんのお出ましだ。

 行っておいで」

 教えられてからようやく『探索』に引っ掛かった。アイアンツリーが続々と下草を踏み荒らし、姿を現す。

 アイアンツリーは木に似た姿をしているが、分類的にはゴーレム等の無機物生命体だ。

 関節以外の全身が生体金属で出来ており、彼らはダンジョン建造物では最もポピュラーな素材になる。

 数が多くて魔力さえあれば、無限に増えるそんな魔物だ。


 そう、メインボディが生体金属なんで『サンダー』には滅法弱い。

 物理だと固くて丈夫な魔物だけど、相性差だ。


「『サンダー!』」

 紫電に焼かれた彼らが静かになったところで、魔石をくり貫き収納する。


「よっし、リュアルテくんは問題なさそうなんで、次はエンフィくん行ってみようか」


「数体までなら、剣を使ってもいいですか!」


「いいよー。HPを4割切ったら強制介入するんで、それまでのびのびしてどうぞ」


「はい!」


「…得物を使っても良かったんですか?」


「そりゃ、もちろん。君らの勉強のためだもの」

 光源が足りずよく見えないのに、にっこりと笑われているのがわかる。

 テルテル教官は、腕力や得物で解決するような場合は頼りになるなあ。


「あっ、あー。じゃあ、次の1体はオレにも回して欲しいっす!」


「教官、わたしもいいですか?」





 ヨウルはメイス、オレは脇差しでアイアンツリーに挑んできた。


 『鋭利』は効かないが、『部分破壊』は通じた。

 関節狙いで枝打ちしていき、HPを削りとり、あとは『採取』で魔石をくり貫いた。

 鉄棒に殴られると、HPが飛ぶ飛ぶ。

 『ヒール』で自力回復しながら余力をもって挑んだんで、危なげはないが時間が掛かってしまった。お待たせ。


「リューが魔物に殴られていると、なにやら心が痛いな!」


「妹ちゃんらにそっくりなのが悪いよ、お前。見ていてヒヤヒヤする」

 まあ、確かに妹らがアイアンツリーに殴られるのは許せないから、その言い分はわからんでもない。


「エンフィは置くとしても、わたしよりヨウルの方が殴られてなかったか?」

 エンフィはするする避けていたけど、ヨウルはHPで耐えるタンクスタイル。ボコボコ殴られていたよな。お前。


「オレは丈夫だもん。リューは大きくなるまで近距離挑むのやめようぜ」

 そんなん言われましても。ある程度、痛くなけりゃ覚えなくない?


「ヨウルさまや、エンフィさまのおっしゃる通りです。とても見ていられません」

 サリーの沈鬱な声に、しきりに頷くメイドさんの影。


「そこの君たちは、リュアルテくんの自主性をスポイルしない!

 リュアルテくんはちゃんと相手を見て戦えていたし、油断もせず危なげもなかったでしょーが。

 君らの受けている訓練なんて、メタメタだったじゃん。

 流石にあれは反対するけど、2、3発ボコられたくらいで、騒がない、喚かない!

 出来ないようなら、次に訓練するとき外すよ?」

 わあ、テルテル教官、過去最大に頼りになる。


 やっぱり、サリーやうちの子はオレに甘すぎるよな?


「リュアルテくんはまず力が足りない。避けられると思ったところで、打たれたり、防げる攻撃で弾かれたでしょ。

 それ、体重が足りないせいだからね?

 本来なら、完封できた相手だよ。

 ヨウルくんは、棒術訓練、基本から頑張ろー。折角のスペックが勿体ない。

 足を止めて受けるより、まず避けられるように訓練しよっか」


「教官、私は?」

 オレとヨウルが駄目出しくらっているのをワクワク見守っていたエンフィだったが、そこで話が終わってしまった雰囲気を察して手を挙げる。


「エンフィくんはそのまま頑張れ」


「私だけ雑ではないでしょうか?!」


「だって文句つけるところがないんだもん君。あ、体重増やそう。体重。それくらい?」


 んー。

 やっぱりこれ、夜間訓練っていうより遠足だわ。

 13歳なら、こんなもんか。

 ぬるま湯のように甘やかされるのは心地よいけど、心配になるな。

 全年齢解除の15を過ぎたら、どうなるんだろ。


 来るべき試練に備えて、柔らかな子供時代を楽しんでおいてね。

 そうGMの囁きが聞こえるんだが、気のせいだろうか。

 まさかね。





 ワールドクエスト!



 プレイヤーが目標人数を越えました!

 よってチュートリアルを終了いたします。


 只今、チュートリアルの情報を編纂しています。暫くお待ちください。


 今まで収集したプレイヤーの行動により、世界を変革しています。



 悪魔の誘惑に乗った者。

 人の可能性を見せた者。

 なんでもない日常を愛する者。

 愉悦から悪事に勤しむ者。

 己のため、他人のために、剣を、杖を携える者。


 例え歴史には残らなくても、この世界を変えたのは貴方方です。



 さて、皆さまお立ち会い。

 これより世界の『異界撹拌』。はじまりはじまりと相成ります!




 リュアルテ ノベル サリアータ


 貴方は夜明けを告げる金の小鳥。


 今までのプレイ結果。

 貴方の成した世界の選択は、【希望】、【信頼】、【繁栄】です。


 これまでの実績により貴方には1つの選択肢が与えられます。


 『異界撹拌』中、幾分かのゲーム世界の歳月が消費されますが、その時間、あなたは千切れ掛けた撹拌世界を繕うことを選びますか?


 ※この選択をした場合、功績ポイントは全て消費されます!



 文を読み終えた途端にタイマーが表示される。

 選択時間はたったの5秒。


 相談するなということか!

 ええい、ままよ!


 辛うじてイエスを押す。



 世界は貴方の選択に敬意を払います。


 【ありがとう】



 称号 境界を繕うもの が贈られます!



 貴方が犠牲を払わなくても良かったのかもしれない。

 だが貴方たちの献身は、やがて訪れる未来を少し変えたのかもしれなかった。


 ※称号効果により、貴方の世界の改変数値が+10されます!


 貴方の保有する世界の改変数値は、現時点で127  +105です。

 前者の数字は リュアルテ ノベル サリアータ が死亡した場合世界から失われます。

 後者は既に世界に刻まれた数字です。喪失しません。



 ……うわあ、なんかとんでもないことが起きたりする?





 誤字報告、いいね、評価、コメント、ありがとう誤差います。


 そんなわけで、やっとこさタイトル回収にたどり着きました。

 これも読んでくれる人がいたからこそです。感謝。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっと色々読める感想書ける〜!とウキウキしてたんですが タイトル回収会という最高回まで一気に読み進められてしまって続きを求める衝動が止められない。 チュートリアルが終わることで何が始まるん…
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